123. スカポランダー宰相
「ルードちゃん大丈夫?」
「気にしなくていいわ」
ミクリーナとリエッタさんは闇魔法持ちだから、この負の魔素と魔法力に波動の漂うカオスフィールドに耐性があるけど、闇魔法を持たないルードちゃんはきつそうだ。
それとブラックカメレオンマントを完全にかぶって『隠形』までしてまうと、お互い認識できないのでブラックカメレオンマントははだけている。
「それより索敵はミク頼りだからしっかりやりなさいよ」
「わかった」
カオスフィールド内だとエルフの特別スキルがあまり役に立たないみたい。
そうなると負の塊りを探すのは私の“思念同調”となる。
でも、さっきから、体調不良の人たちが、ノイズのように感覚に引っかかるからうまくいってない。
見つからないように『隠形』もしているけど、騒々しい城内は私たちどころではなさそうです。
「お城の偉い人って、こんな時にどこにいますか」
城内を走りながら、リエッタさんに訊ねてみた。
セージちゃんみたいに遠くの黒霧獣の欠片なんて見つけられそうにありません。
「安全な場所。強固な場所ですね。
エルドリッジ城だと、執務室の奥に書斎として強固な部屋がありましたね」
「ここだと何処だと思いますか」
「お城のど真ん中、謁見の間の裏側あたりですかね。
あとは強固な建物……(うーん)、それに地下ですかね」
「それじゃあ、まずはど謁見の間に行ってみましょう」
私の索敵や思念同調はセージちゃんより、距離は短いし、精度が低いから、まずは近づかないと。
私もお城に入ったことは、ほんの数回ですがありますが、ここは作りがあまりにも違います。
リエッタさんの感と、経験が頼りです。
ルードちゃんに至っては、この旅がお城初体験だから、ここでもキョロキョロしているから頼りになりそうにないし。先ほどから体内魔法力をめいっぱい上げてカオスフィールドに対抗しているから頼りになりそうにないし。
何度か兵隊さんをやり過ごして、謁見の間の扉の前まできました。
相手に見えないとはいえ、やはり気になるので、隠れてやり過ぎしたことが数回ありました。
「認識阻害ですね」
さすがに外の認識阻害魔石を破壊しただけじゃ、すべての認識阻害を解除できなかったようです。
それでも精神を集中すると、薄っすらと中の様子がわかります。
「ほぼ空のようですね」
「はい」
注意しながら、念のための扉を開ける。
感じていた通り、うずくまって、もしくは倒れ込んでいる人がいるだけです。
それと椅子に座り込んで気絶している。
「王様と王妃様、それと第一王子ですね」
だそうです。
「こちらに」
迷いもなく、謁見の間の裏側に入っていくリエッタさんに招かれ、付いていく。
リエッタさんが索敵などのスキルも使って周囲を調査する。
執務室や、廊下など、人の気配が感じられません。
「居住棟の方にはいなそうですね」
「私もそう思います」
索敵が得意なわけじゃないけど、不穏な気配が見当たらないのです。
一緒に調べてみたけど、壁などが特別に強固なのは別にして、変わったところはなさそうです。
「この下に階段があるわね」
ルードちゃんが何か見つけたようです。
駆けつけると隠し扉がありました。
「動かないわね」
何やらしきりに操作してますが、あきらめたようです。
ルードちゃんが腰の短針魔導ガンを抜いて、灼熱のカートリッジを取り付けて、発射!
ババン、と破壊音で鍵が壊れたみたいです。
ルードちゃんは、あれね、と認識阻害魔石をも破壊して。
行くわよ、と扉を開けて階段を降りていきます。
索敵は任せたと言っておきながら、これですよ。
薄っすらとですけど、不穏な感じがします。
「ルードちゃんは、無理はしないでね」
「今無理しないで、いつするんだ」
それはそうですが…。ヤッパリルードちゃんはルードちゃんのようです。
三人で階段を駆け下ります。
「あっ! ……」
「ミク、どうした」
「セージちゃんが……」
思わず立ち止まってしまいました。
何だかセージちゃんが怪我をしたみたいです。
「無事か」
「うん、それは大丈夫みたいだけど、辛そう」
「セージ君のことですし、ワンダースリーのみんなもいるのですから。
それとも戻りますか」
「ううん、行きます」
セージちゃんも戦ってるんだもの、信じて行かなくっちゃ。
不穏な感じが、かすかな負の塊りの感覚ですが、確実に黒霧獣の欠片の感覚に触れました。
ルードちゃんではありませんが、ここでやらなくっちゃです。
「下にいます!」
降りかけの階段を一気に駆け下りました。
地下。
目の前にはホールがあって、左手に大きな階段、右手には重厚な扉があって、その中にいるのは確実です。
それも接近すると黒霧獣の欠片とも呼べない、濃厚な負の塊り。黒霧獣として復活してるんじゃないかって程の濃厚さです。
「ここにいます」
「チョット待って」
ルードちゃんが、またも認識阻害魔石を撃ち抜きました。
三人で重い扉を開けると、教会⁉
どうやら地下教会のヨ・ウ・デ・ス……。
床には百人以上の人が横たわっています。それも魔法力の枯渇状態で。
どうやら息はあるようですが……、うっ……。
こみあげてくる、嘔吐感を飲み下す。
視界から横たわる人たちを外すように奥を見る…けど…。
「ミクさん、目の前のことに集中です。ルードさんもです」
「はい」
「わかってるわ!」
奥から、教会の祭壇には異様な人が立っています。
「話はできますか」
「ソレガナンニナル」
リエッタさんが話しかけると、祭壇に立つ魔獣と化したスカポランダーさんが答えました。
索敵で種族が“人魔獣”となって、名称が“スカポランダー”となっているので間違いありません。
黒霧獣に取り込まれたのか、取り込んだのか、融合したのかわかりませんが、固有名詞か種属名かは不明ですが“スカポランダー”と読めるから、ギランダー帝国の宰相だった人でしょう。
強さは見えませんが、私たち以上でしょう。
ディラック樹林で見た時よりも黒霧獣、ではなくって、人魔獣となって強力になって、負の魔素と魔法力を、そして波動を生み出しています。
どうなってるのでしょうというか、……目の前の倒れている人の群れが物語っているのは分かるのですが…あまりのむごさに、思考が拒否をしているみたいです。
「なぜ、このようなむごいことをされるのですか」
私の停止した思考をリエッタさんが代弁してくれました。
「ムゴイコトトハナンダ」
「生物の命を奪うことです」
「オマエタチモ、ワシノイノチヲウバオウトシタデハナイカ」
「貴方が、スカポランダー宰相そ、そしてこの方たちを支配して操っていたのではないですか。
それで多くの人たちが亡くなりました。
違うのですか」
「ヨワイカラ、シハイサレルノダ。
アタリマエダロウ」
「むごいことを」
「オマエタチモ、ワシノカテトナレ」
ブワリ、とカオスフィールドが濃厚な波になって襲ってくる。
全身に鳥肌が立つ。
「<ソーラーレイⅡ>」「<ソーラーレイⅡ>」
それを私とルードちゃんがカオスフィールドの濃厚な波を吹き飛ばす。
リエッタさんが短針魔導ガンで魔獣スカポランダーを撃ち抜く。…が、直ぐに体が再生されていく。
カートリッジを交換して、もう一発撃ち抜くけど結果は同じです。
魔獣スカポランダーの体から黒いヒモが何本も伸びていく。
そのヒモが横たわる人に触れると、人が立ち上がった。
「イヤーッ!」
<ソーラーレイⅡ>
あまりのおぞましさに、黒いヒモを何本も撃ち抜いていた。
それはルードちゃんも一緒でした。
<ソーラーレイⅡ>
いくら異形の者になったとはいえ、人を撃つのは気が引けましたが、覚悟を決めて魔獣スカポランダーを撃ちましたが、穴が開いたんですが、直ぐに埋まってしまいます。
本当に人ではないようです。
もう一度。
<ソーラーレイⅡ>
もう一度。
<ソーラーレイⅡ>
<ソーラーレイⅡ>
このままでは魔法力の枯渇です。
「どきなされー、<極大光>」
え、振り向くと、大階段からワンダースリー皆さんが駆け下りてきます。
羽の生えた人、プコチカさんの背中にセージちゃんも見えました。
そして、大きな光の球が私の横を通り過ぎていきます。…ま、まぶしい。
「目をふさげー!」
「セージちゃーん!」
掛け声遅すぎです。目が良く見えません。
だけど、プコチカさんの背中におぶわれてぐったりしていたはずです。
教会の中でまばゆい光が炸裂しました。
ギャワーッ。
苦痛にうめく声を聞きながら、目をしばたいて、プコチカさんに駆け寄る。
「セージちゃんを」
プコチカさんから、セージちゃんをもらい受けます。
「セージちゃん、またムチャをしてー」
「ご、ごめんよ。
それより、まずはアイツだ」
教会内はノコージさんがメインとなって、光魔法を駆使した戦闘になっています。
光と闇の戦闘です。
「ミクちゃん、肩かして」
「ほんとにもー、しかたないですね」
セージちゃんに肩を貸すと、
「セージ、シッカリしなさい」
反対側はルードちゃんが支えてくれました。
「プラーナ、やるよ」
「いつでもいいぞ」
セージちゃんが魔法を練り上げだしました。
濃厚な力強い魔法力、それに魔素が溶け込んで、とんでもないパワーを凝縮しています。
「<ハイパー収束浄化光><ソーラーレイⅢ>」
まばゆい光。
プラーナちゃんの聖なるパワーが合成されて、力強くも綺麗な光となって発射されます。
ギャォワァーーッ。
魔獣スカポランダーがのたうち回ります。
やったか……。と思ったら。
周囲の壁を通り抜けて黒い負の塊りが集まってきます。
それも幾つも、幾つもです。
あ、振りまいていた負の魔素と魔法力に波動までをも取り込んでいるんだ。
ワンダースリーの攻撃が効かなくなっていってるような。
黒いヒモが鞭のようになって、ワンダースリーに襲い掛かります。
「セージちゃん、まだ大丈夫。もう一回行ける」
「ミク何言ってるのよ。やらせるのよ。セージもう一回」
「ああ、わかってる」
またも魔法力を練りだします。
でも、それより魔獣スカポランダーの方が強力に…、いいえ、セージちゃんが負けるはずはありません。
そう思うだけで、セージちゃんの魔法力が私の中に流れ込んで、また私の魔法力がセージちゃんの中に流れ込んでいくような気がします。
「<ハイパー収束浄化光><ソーラーレイⅢ>」
光が発射されます。
「<ハイパー収束浄化光><ソーラーレイⅢ>」
もう一度、まばゆい光が発射されます。
ワッハッハハハハーッ。
「キカヌゾ」
「<ハイパー収束浄化光><ソーラーレイⅢ>」
もっと、もっと強く、もっと清浄に。
「ワッハッハ。ムダジャ」
黒い鞭の手数も増えて、ワンダースリーがかなり押されています。
光の魔法もきいていません。
キャーッ。
ルードちゃんが、ナイフを抜いて黒い鞭を切り放ちました。
リエッタさんも一本切ったところで跳ね飛ばされました。
鞭の数は多く、三人が一緒にからめとられてしまって、教会の中に引きずり込まれてしまいます。
踏ん張ろうとしたら、ひょいと持ち上げられていしまいました。
<フライ>
でも無駄です。
『セージスタ何とかしなさい』
プラーナにそう言われても、両手もからめとられて動けそうにありません。
絶体絶命です。
「ウゴクナ、イマトリコンデヤル」
持ち上げられて、目の前に女神像が。
『女神様、私はかまいませんからどうかセージちゃんだけでも』
え、女神像がほほ笑んだ。
そして、ニュートちゃん……が出現しました。
『ほらセージスタやるよ』
ニュートちゃんが、セージちゃんにキスをしました。
まあ、この際だから許します。
「ああ、わかった」
セージちゃんが急に元気になりました。
『はじめまして、プラーナでいいんだよね』
『ええ、そうね。話はあとね』
セージちゃんの魔法力が跳ね上がりました。
そして黒い鞭を、ニュートちゃんが放つ聖なる光で切って、床に降り立ちました。
私たちも、一緒に降りられました。
「やるよ」
『ええ』『いいよ』
跳ね上がった魔法力を練り上げます。それも一瞬で。
私の体の中の魔法力もセージちゃんに流れ込んでいきます。
セージちゃん全部使ていいから。思わず駆け寄って、セージちゃんに抱き着いちゃいました。
「<ハイパー収束浄化光><ソーラーレイⅢ>」
光の応戦がどんどん膨らんでいきます。
すさまじい光量です。それに優しさと暖かさが溢れています。
でも不思議と、まあ、まぶしいのですが、我慢して見られるといったところです。
それと音が何も聞こえません。
白い世界…。
教会中が浄化されていきます。
魔獣スカポランダーの体が崩壊していきます……。
体中がダルくて、意識がもうろうとしてきました。
この感じは魔法力の枯渇だと思います。
気持ち悪い……意識が途切れました…。
◇ ◇ ◇
セージちゃんと一緒だ。
夢? フワフワした変な気分です。
でも魔獣スカポランダーを退治したのは何となく理解しています。
「よくやり遂げてくれました」
魂魄管理者の声が響いた。
とてもきれいで、神々しいです。
癒された気分です。
「おかげで、子供たちは救えそうです。
できればもう少々お手伝いくださいね」
他にも何か聞いたよな気がしますが、女神様がぼんやりとしてしまって、最初に見た神々しい光りの球になられてしまいました。
◇ ◇ ◇
「おい、大丈夫か」
「はい」
声に、反射的に飛び上がってしまいました。
あれ、女神様は……⁉
「寝ぼけてるのか、ここは教会だ」
プコチカさんだ。
キョロキョロと周囲を見回してしまいました。
あ、教会。それも祭壇の前。
「魔獣スカポランダーは?」
「光に飲み込まれて消滅した」
やはりそうでしたか。
ようやく眠っていたらしいことを理解しました。
「どのくらい眠ってました?」
「たぶんだが、三時間ほどだ」
そんなに寝てたんだ。
「え、あ、それじゃあ」
再度、キョロキョロと周囲を見回してしまいました。
「ミクも起きたんだ」
床に座るルードちゃんも元気なようです。
ルードちゃんに指さされて気づきました。
ルードちゃんと私に挟まれているセージちゃん…。
どうやら隣で隣に寝ていたみたいです。
それをシッカリとルードちゃんたちには見られていたみたいです。
恥ずかしいやら、ホッとしたやら。
しゃがんで、スヤスヤと気持ちよさそうに眠るセージちゃんに触れると、プコチカさんが、大丈夫だ、と教えてくれました。
「どうなってるんですか?」
状況を訊ねると、プコチカさんが答えてくれました。
「エルフのルードが妖精の防護結界だといっていたが、城がその防護結界に囲まれてすべてが眠っている」
「ニュートちゃんと、プラーナちゃんがってことですか?」
「よくは分からん。リエッタさんが帰ってきたら訊いてくれ」
「リエッタさんにですか」
「ああ、ここを動くなって言い張っている」
プコチカさんも、首をひねっています。
「リエッタさんは?」
「それが、わからん」
「どういうことですか」
「それが、わからんのだよ。
もう少しすればノコージも帰ってくるはずだ」
意味不明、待つしかなさそうです。
教会の中で眠っていた人たちは、ロビーの床に布を敷いてその上に寝せているそうです。
亡くなった人も同じですが、そちらは端の方に固めて寝かせているそうです。
リエッタさんが一度帰ってきて、報告して、また出ていきました。
護衛にはノコージさんが一緒だから問題はないでしょう。
お城の人たち全員が眠っていて、お城の外とは、特殊な防護結界によって遮断されているそうです。
ルードちゃん曰く、ニュートちゃんとプラーナちゃんが妖精の防護結界を張っているそうです。
ただ、ルードちゃんも本来の妖精の防護結界なのか、特別な防護結界なのか判別はできないそうです。
セージちゃんが起きたのが、私が起きてから約四〇分後でした。
「おはよう。……大丈夫」
「うん、何ともないよ。またミクちゃんが直してくれたの」
「ううん、私じゃない」
多分女神様か、ニュートちゃんだよね。それともプラーナちゃんかも。
「あ、ニュートとプラーナは?」
「このお城に妖精の防護結界を張っているんだって」
「ああ、そうみたいだ」
「わかるの?」
「なんとなく近くにいるのがわかる程度。それとこの波動がなんとなくプラーナの波動だし、チョットだけニュートの波動も感じるからね」
わたしは変な感じの波動というか不思議な波動を、なんとなく感じる程度ですが、セージちゃんはシッカリと感じ取っているみたいです。
私と感覚が違うのか、何か特別な契約でもしているのでしょうか。
「ねえ、セージちゃん、女神様に合った?」
周囲を見回してから、セージちゃんの耳元でささやきました。
「ああ、そういえば……そうだね」
「なんて言ってた」
「…うーん、…ありがとうって……」
「…あのー、セージちゃん、つらくない」
「つらいって?」
「…あのー、スカポランダーさんを…そのー…」
思わず言いよどんでしまいました。
魔獣化したとはいえ、人を殺めたのですから。
「あ、うーん。…大丈夫みたい。女神様効果なのかな⁉ 見た感じ化け物だったし」
「そう、それならばいいんだけど」
思ったよりあっけらかんとしています。
本当に女神様効果があるみたいです。
今回もまた、セージちゃんにばかり負担をかけてしまいました。
「あ、そうだ。リエッタさん。…リエッタさーん!」
突然、思い立ったようにセージちゃんが騒ぎ出した。
「いま、いないけど」
「あ、そうなんだ」
「何があるの?」
「なんでも、つかまっている子供たちを解放してって」
「解放…⁉ 牢屋か何かに入ってるの?」
「いや、何か違う。とにかくリエッタさんだ」
セージちゃんは、女神様から何か頼まれたようです。
しかもリエッタさんまでも……です。
訳が分かりません。
◇ ◇ ◇
夕方の五時。
城の敷地内の近衛兵の兵舎横の隣に新たに建てられた宿舎、それが捕らわれていた子供たちの宿舎だ。
セージは、みんなと一緒にその宿舎に来た。
ワンダースリーのプコチカさんとノコージさんは王城を調査中だ。
ボコシラさんはそんなことよりも、セージちゃんに興味があるようでついてきました。
「この魔法陣のようですので、作ってもらえますか」
僕はリエッタさんから魔法陣の設計図を渡された。
手慣れた方法で魔法陣を作ると、それをリエッタさんに言われるように『複写』した。
「サーバントリングは鍵となる魔法を同じ波動、同じ威力で発動することで外すことができます。
普通はそのようなことができないので、同じ波動、同じ性質、同じ容量を持つ魔霊石や魔法石に魔法陣を描き込み、魔法力の通りの良いミスリルに組み込んで解除装置を作ります。
しかし探しても解除装置がありませんでした」
「それって」
「はい、解放するつもりがないということです」
「それで僕」
「はい、同一の魔法を同じ威力、同じ波動で放てるのは私の知る限りセージ君しかいませんから」
それから僕は魔法装置と化し、延々とサーバントリング外しを行った。
最初は同じ威力で魔法を発動するのが上手くいかなかった。
それは魔法陣が定着するまで不安定だったからだ。
幸いにも魔法陣は簡単なものだったおかげで、何枚も『複写』しなおして定着作業からやり直した。
同じように定着した魔法陣を選択し、精神集中をして、威力をそろえてやっと一つ目を外せると、次々に外すことができた。
もちろんルルドキャンディーを何度も食べ、休憩をしてだ。
全四三六人のサーバントリングを外し終えたのは、翌日の夕方だった。
特殊なサーバントリングだったようで、そのサーバントリングは全て破壊して、製造装置も破壊した。
ちなみに四三六人だけでなく、今後も子供を集める予定だったそうで、最終的には五千人を目指していたそうだ。
それでやっと使命を終え、ギランダー帝国の人々は眠りから覚めた。
ギランダー帝国の行く末を心配しながらも、僕たちはヴェネチアン国に帰ることにした。
まあ、その前にやり残したことがあるんだけどね。
魂魄管理者の意向を勝手に忖度したんだと思うけど、政治には干渉しちゃいけないと思ったから、その他のことは何もしてはいない。
まあ、宰相を倒してなんだって思うかもしれないけど、それはそれ、これはこれってことだと思う。
ただ漠然と、そう思ったことに従っただけだ。
だからワンダースリーが何を調べていたのかも知らない。
それより僕がショックだったのは、ミニミニフォンより、メモの方が役に立ったことだ。
オーラン市に帰ってから、エルガさんになんて報告しよう⁉
留守電機能って、付けられるのかな?
でもそうなると、常時受信状態だから、電源的に無理だしな…。
大きいし、アイテムボックスに入れてると、そもそも通信できないしな……。
やっぱ、短針魔導ガンで褒め倒して、無かったことにしちゃうしかないかな。
「私たちは白からだた方がいいみたいです」
リエッタさんが神託を受けているのか、そのようなことを言い出した。
「ニュートとプラーナは?」
「それはわかりませんが、とにかく白から出るようにということが聞こえてきます」
全員でその指示に従った。
城から出ると、周辺には眠っている兵士や市民がいた。
それ以外の市民は、恐れて近づいてこないみたいだ。
僕らは防護結界を出てしばらく観察していると、防護結界が消失した。
そしてニュートとプラーナだ。
「ニュートは七沢滝ダンジョンに、プラーナはキュベレー山脈に帰ったんだ」
僕はそんなことをつぶやいていた。
◇ ◇ ◇
リエッタさんは神の声が聞こえなくなったそうだ。
リエッタさん曰く、初めての経験で、今まで一度も感じたことが無い感覚だったそうだ。
リエッタさんのママさんと一緒で、巫女としての力があるのだろうか。
今回の戦闘で僕とミクちゃんはずいぶん強くなった。
ルードちゃんとリエッタさんもそれなりに強くなった。
それよりも、驚いたのがルードちゃんに“負魔:2”という、初お目見えの耐性スキルが発現したんだ。
「これで何処にだって行ってやるわ!」
ルードちゃん、かなり鼻息荒かった。
ちなみにミクちゃんに発現したのは“精神攻撃:1”の耐性スキルだ。
そして僕は“白い力:3”となった。