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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
ギランダー帝国潜入編
125/181

121. カオスフィールド


 五月三日黄曜日。

 ベースⅠとなる、大きな広場に設置したポインティングディバイスに飛ぶ。


 感覚を鋭くして魔素や魔法力の強まる方向に向けて進んでいった。

 昨日より進み具合が早くなったが蛇に蜘蛛にスケルトントとの遭遇は相変わらずだ。

 ただスケルトンがホッグスケルトンや、ウルフスケルトンなどの魔獣系のスケルトン(強さ“40”程度)に変化してきている。

 蛇に蜘蛛も同様の強さのマダラニシキヘビにポイズンパフアダー、デスタランチュラなどになってきている。


 ベースⅠから出発して、ベースⅡ(三キロ地点)、そして夕方にはベースⅢ(五キロ地点)を作った。

 周囲の負の魔素と魔法力が濃厚になった。

「この方向だよね」

「うん、いやな感じがすごくする」

「間違いないわね」

 僕、ミクちゃん、ルードちゃんが確信する。


「いったん休んで明日朝から挑みましょう」


 リエッタさんの助言に、森の外に出てキャンプ。

 はやる気を押さえて夕食を摂る。

 ミクちゃんとルードちゃんも興奮気味だ。


  ◇ ◇ ◇


 五月四日緑曜日。

 ベースⅢに飛ぶ。

 距離三〇〇メルほど先に濃厚な負の魔素と魔法力の塊り、強力な霧のような魔獣が存在する。

 僕の感覚的には上位魔獣とでもいうべき存在だ。


 僕、ミクちゃん、ルードちゃんがお互い無言でうなずき、リエッタさんを見ると、リエッタさんもうなずく。


「<ソーラーレイⅢ><ソーラーレイⅢ>」

「<ソーラーレイⅡ>」

「<ソーラーレイⅡ>」

 僕に続いて、ミクちゃん、ルードちゃんがマシマシで光線を発射した。


 それを五度繰り返し、地面を焼いて、三五メルまで接近した。

 今まで味わったことのない、異様な波動だ。


 浮遊眼で見ると淀んだグレーの塊りだ。

 なんとなくだが魔獣を取り込んでいるような気がする。

 間違いない。


 ベースⅢまで戻って一旦休憩。


 再度全員でうなずき、

「<ソーラーレイⅢ><ソーラーレイⅢ>」

「<ソーラーレイⅡ>」

「<ソーラーレイⅡ>」

「<ソーラーレイⅢ><ソーラーレイⅢ>」

 確実に相手を捉えた。


 ブワリ……。

 黒い霧の塊り、精神体のような上位魔獣が空に広がり、天をおおう。

 看破で見ると、先ほどは不確かな情報しか見られなかったが“黒霧獣(こくむじゅう)”となっている。

 体感的にはとてつもなく濃厚な負の波動だ。


「<テレポート>」

 ……が、うまく飛べない。頭が重い。


 黒霧獣が僕たちを含む、周囲一帯を濃厚な負の波動で包み込む。


 どうやら閉じ込められたみたいだ。

 精神的にも圧力がかかってくる。

 七沢滝ダンジョンに取り込まれた時を思い出してメチャクチャ焦る。

「<ホーリーフラッシュ><ホーリーフラッシュ>」

 先制攻撃と思って魔法を撃ったが、手ごたえが無い。


 もう一度。

「<ホーリーフラッシュ><ホーリーフラッシュ>」

「<ソーラーレイⅢ><ソーラーレイⅢ>」

 短針魔導ガンも撃ってみた。


 手ごたえもないけど、反撃もないみたいだ。

『セージスタ、落ち着いて。

 それと体内の魔法力をあげて』

「あ、ありがとう。

 わ、わかった」

 え、体内の魔法力が落ちて、活性化も弱くなっている。


「みんな気を付けて、活性化が落ちてるよ」

 みんなに声を掛けながら、一気に魔法力を上げ、身体強化を最高にする。


「「「……」」」

 みんなから、反応が無い。


 ミクちゃんの手を握って、強制的に活性化を行う。

「ミクちゃん!」

「…え、…あ、セージちゃん…」

 朦朧としていた意識が覚醒したみたいだ。

「体内の魔法力を上げて、身体強化を最高にして」

「うん、わかった」


 ルードちゃんとリエッタさんも同様に強制的に魔法力を上げ、朦朧とした意識を覚醒させる。


 改めて、グレーフィールドをあらゆるスキルで確認する。

 黒く霧のような強力な上位魔獣の黒霧獣が振りまく、濃厚な負の魔素と魔法力による波動で形成された高濃度の負の世界(カオスフィールド)だ。


 あと、なんとなくだけど感情のようなもの、曖昧な意識のようなものを感じる。それも濃厚な悪意を持ってだ。


「ものすごく不快な波動だけど、樹木のような単調でのんびりした意識の波動に似てるわね」

 エルフのルードちゃんの感性は別の捉え方をしている。

「へー、そうなんだ」


 ブワリ……。

 またもいよな感覚が襲ってくる。

 うわー、頭が痛い。

 痛ッ痛ッ………。


 ……え、海…。

 僕何やってたんだろう。

 あれ、ミクちゃんと一緒に、お散歩…。

 ここは何処?

 ああ、マーリン号の甲板か。

「ミクちゃん、ベンチにでも座ろうか」

「うん」

 クッションの効いたベンチ。

 外なのに…⁈

 ……固い。木製のベンチだよね。

 僕って何を勘違い? あれ、ミクちゃんと仲良く座った。

 夕日がきれいだ。

 思わずミクちゃんのほっぺにキスをしちゃった。

 ミクちゃんがはにかんで可愛い。

 ミクちゃんも僕にキスをしてくれた。


 …ジスタ、セージスタ…。

 誰だよ、うるさいな。


『…セージスタ…』

 だからうるさいって。


『セージスタ!』

「え、えー! プ、プラーナ…だよね」

 あ、頭が痛い。

『気がついたか』

「僕って……」

 痛たたたた…。

『精神攻撃だな。魔法力を高めろ』

 プラーナの波動が体に流れてくると、頭の痛みが弱まった。

 それとは別に、うわー、メッチャ、ハズイ。

『精神を集中しろ』

「うん、わかった」

 一気に体内の魔法力を上げる。

「<ホーリーフラッシュ>」

 随分と気持ちがスッキリした。


『セージスタ、最大の魔法攻撃だ!』

「え、え、え…」


『最大魔法だ!』

「え、ああ」

 そういえばよくもやってくれたな。許すまじ。


「<ギガンティックビッグバン>」

 魔法レベル12のスーパービッグバンを元に威力を上げた、レベル15の魔法だ。


 マシマシで巨大なプラズマ火球が右手の先に生まれる。

 それにプラーナが波動を乗せてくる。


 プラズマ火球がプラーナに誘導されるように、不可解な方向に飛んでいく。


 プラズマの爆破に、浄化の光の爆破が発生する。


 ギャワーーーーッ!


 通常の生物と違うノイズのような悲鳴が上がる。


『もう一度だ』

「うん」

 マシマシで魔法力を込める。

 プラーナが波動を乗せてくる。


「<ギガンティックビッグバン>」


 プラーナの波動が一気に膨らむ。

 手から離れた白い光を帯びたプラズマ火球が、またも不思議な方向に飛んでいく。


 そして大爆発。


 グレーの高濃度の負の世界(カオスフィールド)が薄らいでいき、やがて消滅する。


「ミクちゃん!」

 活性化を行う。

「…あ、セージちゃん…」

 ぼんやりとミクちゃんが覚醒する。

 そして、二コリと笑ったかと思ったら、ギュッと抱きついてきた。


 アワワワ……。

 そしてほっぺにキスを…。


「ミ、ミクちゃん。し、シッカリして」

「え、え、ナニ?」

「大丈夫?」

 再度の活性化。

「私って……」

 僕に抱き着いたまま、ほほに口がくっ付きそうなままで真っ赤になって固まるミクちゃん。

「……」

 まあ、僕も真っ赤だけど。


「…ご、ごめんね…、何か変な事シ・ナ・カッ・タ…」

「…ううん、変なことはシナカッタと思うよ…」

 そう、変な事はね…。


『何戦闘中に、チューしてんだ。サッサと二人も起こせ!』


 アワワワワ…、と動揺激しく、跳び離れる。


「ルードちゃんにリエッタさん!」

 こちらも活性化を行い、覚醒させる。

 まあ、起きた時の話は置いといてっと。


『セージスタ、もう一回だ』

「え、でも火事が」

 目の前で森が燃えていた。


『いいから、もう一回だ』

「わかったよ…」

 魔法力を練り始めると、

『最高の魔法だ』

「わかったよ」

 

 魔法力をマシマシで練り上げる。

 それにプラーナの波動が重ね合わされる。

「<ギガンティックビッグバン>」


 今度は目標がはっきりしている。

 四五メル先の精神寄生植物のドラクラ・バンピラだ。

 しかも巨大な樹魔獣のエルダーエントに寄生している。

 それをおおうようにグレーの塊り、濃厚な負の魔素と魔法力の塊りがしみ込め、まとわりついている。

 それが不安定な存在、強力な上位魔獣のようだ。


 そこに向けて込められるだけの魔法力を込めたギガンティックビッグバンを撃ち込む。


 光とプラズマの大爆発。


 ギャゥワァァーーーーッ!

 ノイズの悲鳴が上がる。


『いったん退避だ』

「…えっ…、いいの⁉」

 上位魔獣に憑依されていたドラクラ・バンピラとエルダーエントに浮遊眼が釘付けとなていた。

 ドラクラ・バンピラとエルダーエントが融合し始めていていたんだ。

 それらが焼かれ苦しんでいた。

 知らないうちに、周囲でも燃え出していて、囲まれていた。


『かまわないでいいから、退避だ!』

「うん、わかったよ。<テレポート>」

 森の外に退避する。


  ◇ ◇ ◇


「<フライ>」

 周囲の安全を確認して、森の外で上空に飛んだ。

 通常の鳥魔獣なども気になるけど、それより黒霧獣と、それの振りまく濃厚な負の魔素と魔法力が気になった。


 黒霧獣が周囲の魔素や魔法力取り込んだ濃度を上げ膨張していく。

 五キロの距離があってもよく見えるし、良くわかる。


「セージちゃん、すごいね」

 ミクちゃん、ルードちゃんにリエッタさんも飛んで、横に並んでいる。


『セージスタ、光魔法の最高魔法だ』

「わかった」


 フライで一キロ程度まで接近する。

 周囲の警護は三人にお任せする。


「<ハイパー収束浄化光><ソーラーレイⅢ>」


 ハイパー収束浄化光。

 レベル9の収束浄化光を個人魔法化して、浄化作用をアップしたレベル11の魔法だ。

 まだまだ工夫の余地があるけど、レベル11までの魔法陣しか作れていない。


 そのハイパー収束浄化光をソーラーレイに織り交ぜて射程距離を伸ばす。

 もちろんマシマシだ。

 それにルルドキャンディーを四つも食べたプラーナが波動を重ね合わせる。


 いっけー!

 魔法力を込めたまま、合成光線を撃ち続ける。

 多分こんなことができるのは、プラーナのおかげだ。


 広がっていた黒い霧、負の霧が塊りとなって凝集していく。

 その上位魔獣とでもいうべき黒霧獣に光線が吸い込まれていく。

 もちろんドラクラ・バンピラとエルダーエントの融合体と一緒だ。


 長い数十秒が過ぎる。

 いつもより魔法力の減りが早い。

 黒霧獣がまがまがしい紫の稲光をまといだした。


 さらに長い数十秒。

 黒霧獣がドラクラ・バンピラとエルダーエントと一緒に、膨張してはじけ飛んだ。


「ヤッター!」

 そしてかなりの魔法力を消費した。

 その時に、ドーンと大きな地震が発生した。


『まだだ。続けろ!』


 え、と思ったけど、切れた魔法を再起動するには時間が必要だ。

 第一、魔法力がかなり減っている。


 見ると飛び散った黒霧獣の欠片、負の黒い霧のような塊があちらこちらで集まりだしていた。


「チョット、待って」

 ルルドキャンディーを四つ頬張る。


 魔法力が復活するまでの長い数十秒が過ぎる。

 もう一個ルルドキャンディーを食べて、回復中にもかかわらず、

「<ハイパー収束浄化光><ソーラーレイⅢ>」


 集合しだした黒霧獣の欠片に、もう一度、浄化の複合光線を放つ。…が、数が多い。

 それを撃ち落そうとするも、小さな黒い塊、黒霧獣の欠片が森に隠れていく。


『下手に動くな、まずはこの場を完全浄化だ』

「わかった」

 僕は再度ルルドキャンディーを四つ食べ――お腹がいっぱいになってきた――て、全員でフライで接近して、<ホーリーフラッシュ>で浄化を行う。

 光魔法が使えないリエッタさんは、周囲の警護、鳥魔獣の対応だ。


『あそこだ』『ここもだ』

 プラーナの指示に従って、あちらこちらを浄化していく。

 プラーナによると、飛び散った黒霧獣の欠片は依り代をみつけて憑依をしないと、何かと活動に支障があるのではないかってことらしい。

 もしくは憑依することによって強い力を得るんじゃないかってことだ。


「セージちゃんは少し休んでて」

「大丈夫だよ」

 まあ、やせ我慢だけど。


 全員でルルドキャンディーを食べながら、水魔法を何度も放ち、消火してから地面に降りた。

 それでも地面はまだ暖かい。

 手当たり次第に<ホーリーフラッシュ><コールド>だ。


  ◇ ◇ ◇


「これで終わりかな」

 休憩に昼食を摂って、周囲を確認した。

「そうみたいね」

「本当に疲れたね」


『セージスタ、まだ終わっちゃいないぞ』

 あ、森に逃げた黒霧獣の欠片を忘れてた。


『探して退治するぞ!』

「うん、わかった」


 結局、休憩しながら黒霧獣の欠片と、その欠片が憑依した魔獣を退治した。

 黒霧獣の欠片になると短針魔導ガンも役に立ち、魔獣に憑依していても退治することができた。


 午後からは小雨が降ってきた。

 一年一六か月の、現在は五月の春だ。暖かくなってきたとはいえ、小雨が降ってくると寒い。

 精神的にもチョット疲れた。


「こんなに簡単に憑依しちゃうんだ」

 ミクちゃんの感想に。

『精神支配でもしてたんじゃないかな』

「どういうこと」

『森をおおっていた負の魔素と魔法力の影響下にあった何匹もの魔獣を精神支配していたんじゃないか。

 そうでなければこれだけ弱った黒霧獣の欠片が憑依できるわけがないよ』


 疲労もピークだし、魔法力も枯渇だ。

「今日はユックリと休んで、明日また欠片と憑依体を退治しましょう」

 リエッタさんの判断し従い、食事を摂ってキャンプした。


 翌日も上位魔獣の欠片に憑依された魔獣を見つけては退治した。

 雨は夜には上がり、星空に、それとミクちゃんとの会話でチョット癒された。


 ちなみに【特殊スキル】に“白い力:1”というスキルが発現していた。

 なんでも負の魔素や魔法力を浄化する力があるんだそうだ。

 これでプラーナとの同調率もあがって、浄化作用もアップするんだそうだ。


 さらに翌日もいくつか退治して。

「もう、この辺でいいんじゃないの」

「そのようですね」

 プラーナによるとあまりにも小さな黒霧獣の欠片は、魔獣に食われてしまうとのことだった。

 ということで、気にはなるけど魔樹の森の中のポインティングディバイスをすべて回収して、首都のギーランディアに戻ったのは 五月七日赤曜日の夕方だった。


 城壁を見ながら、

「うわーっ」

「なにあれ…」

「どうなってるのよ」


 そういえば、首都ギーランディアのお城全体が、濃度は薄いとはいえカオスフィールドに覆われていた。

『城の中にも精神支配を受けていた人がいたってことだろう』

「ことによったら微妙に漂ていた負の魔素と魔法力って、その人の影響ってこと?」

『そうだろうが、精神支配を受けていた人は一人とは限らないよ』

「その人たちも探し出して、退治って……」

 そう、さすがに人をと思うと気が引ける。


「私がやります。セージ君たちはサポートをお願いします」

 僕が迷っていると、リエッタさんが名乗り出た。


「ねえ、黒霧獣の欠片だけをやっつけられないの」

『憑依した人を殺さずにってこと?』

「うん、そう」

『完全にはできないけど、光の魔法で黒霧獣を体から引きはがせばできるかもしれないな』


 ワンダースリーのキャンプ場所に移動して、ワンダースリーを待ちながら、いろいろと打ち合わせをした。


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