118. エルドリッジ市、そしてミラーノ王都へ
四月一日赤曜日。
予定通りエルドリッジ市へ船で旅立った。
今回はウインダムス家で手配した大型船でだ。
◇ ◇ ◇
僕とミクちゃんとルードちゃんは出発前に、連名でプレゼントしたものがある。
自宅とウインダムス家、それにポラッタ家、魔法学校、冒険者ギルド、市役所(上級魔法学校への寄贈を考えて)にレベル8(闇魔法はレベル6)までの魔法陣の設計図のほぼ全てと、火・水・土・風魔法の主だった複合魔法陣、要は一般に言われる攻撃き魔法もだ。
三つ以上を合成した合成魔法は除外した。
ただし、魔石付きで作成したものじゃないから『複写』しても、直ぐには使用できない。
自分で魔法陣として使えるように魔法陣核・魔法経路・魔法陣を作る必要がある。
それでも数は少ないけど、新しい精霊記号が入った効果アップだったり、効率の良い魔法陣のはずだ。
ちなみに、僕の現在は、光魔法や闇魔法の上位魔法陣の作成、今までのイメージ文字による個人魔法だった魔法陣の一般化も行い始めているところだ。
時間が足りないから、よく使う魔法に興味のある魔法が優先なのは当然のことだ。
話は元に戻ってプレゼントには、七沢滝ダンジョンの映像付き魔獣の一覧と攻略方法も一緒に付けてだ。
僕たちの映っているところはカットしたのは当然のことだ。
カットしきれない戦闘部分は、ぼかしている。
出発前にリンドバーグ叔父さんから、
「この人を訪ねてみろ」
二人の住所と紹介状を渡された。
旅好きで、ふらりと出歩く叔父さんだけど、ギランダー帝国にまで頼れる友人がいるなんて。
他に特筆すべきことは、ミクちゃんにルードちゃん、そしてリエッタさんが、僕と一緒のランクC冒険者となった。
活動するにはランクを上げていた方がいい場面もあるかもしれないってのことでだ。
◇ ◇ ◇
船には僕にミクちゃんにルードちゃんにリエッタさんだけでなく、保護者としてマールさんと、それにエルガさんが同乗してきた。
多分だけどエルガさんは、奴隷のリエッタさんの立場を考慮してだと思う。
ママはヤッパリ僕を戦場に送り出すのは嫌なのは相変わらずだけど、神様のお告げには逆らえないとの板挟み状態で、かなりまいっちゃてる。
マールさんに丸投げなのもその所為だ。マールさんは何故平気なんだろう。
ルードちゃんのパパさんのラーダルットさんは、元気に見送ってくれた。
ちなみにエルガさんは灼熱針魔導砲に、電撃針魔導砲までをも完成させたんだ。
まだ雨には弱いが、今までの魔導砲に比べると、雨の影響はずいぶんと軽減されたんだって。
エルガさんネーミングのアッチッチンとバチバッチンは当然のごとく却下された。
「セージ君もボクの方がいいと思うでしょう」
なんだかショックを受けたみたいで涙目だ。
「……」
沈黙を是と取るか、非と取るか。答えられないよね。
「セージ君も悔しいでしょう」
ガバッと抱き着かれた。もとい、抱きしめられた。
「……ふぁい(はい)…」…言葉で出ない。
「ねえ、そう思うよね」
「……ふるひい(苦しい)…」…否定は不可、…パンパンパン…声がこもる、苦しいから。
「何か言ってよ」
「……ひぬ……」
苦痛と、天国のはざまを漂った。
船に乗ってから、エルガさんに僕たちは武器をプレゼントされた。
「セージ君、これを持っていってね」
渡されたのは、短針魔導ガン。
信号弾を発射する信号拳銃のように太くて長い銃身の銃だ。
細く短い一〇本の針を挿入したカートリッジ自体が銃身になって、短い銃にカートリッジを装着することで、灼熱と電撃の二種類の攻撃ができる。
ハイヒートニードルとボルテックスニード魔導砲とい一緒だ。
もちろんガンは一発撃つごとにカートリッジごと交換する単発ガンだ。
針には別の魔法を付与することが可能だけど、それにはカートリッジも一緒に魔法付与をシンクロさせる必要があって、セットで新規で作成する必要がある。
それを僕にたち四人に一丁づつくれた。
ちなみにカートリッジは一〇個づつ(灼熱と電撃が五個づつ)と弾は倍の一〇発づつもらった。
◇ ◇ ◇
四月五日白曜日。
シュナイゲール・ノルン・フォアノルン伯爵(シュナー伯父様)と、アルーボリア第一婦人(アルー伯母様)にコッソリと面会。
同行者というか、面会の主役は伯父様夫妻の娘のエルガさんだ。
リエッタさんがギランダー帝国とヴェネチアン国のホンタース元王子の手先として送り出され、家庭教師として潜入して、テロ行為をしたのが四年ほど前だ。
テロリストとして実刑で一〇年間の奴隷落ちとされ、エルガさんの護衛となってほぼ魔法研究所で生活していて、エルガさんに連れられて僕のところに来たんだ。
崩れたポニーテールのような朱色のぼさぼさの髪の長身のエルガさんは、相変わらずのダブダブのツナギで、真っ赤なメガネだ。
色気の無さに、シュナー伯父様とアルー伯母様も、あきらめているようだ。
さすがにリエッタさんを自宅というか、お城には入れられない。
そりゃそうだ。養育を受けていたガルドハラン君(一二才)とニルナルマルナちゃん(僕と同い年)がいるんだから、いくら見た目を変化させていたってトラウマだろう。
そういうことでマールさんとリエッタさん、ミクちゃんとルードちゃんは街のホテルに泊まることになって、現在はホテルだ。
「お父さん、お願いがあるんだけど」
「なんじゃ」
「奴隷のリエッタさんを解放してほしんだ」
伯父様もさすがに子供部隊に一人の保護者が奴隷だと不都合なことは重々承知している。が、いくら報告を聞いているとはいえ、奴隷となってからのリエッタさんを見ているわけじゃない。
それでも粘り強く説得して、了承をもらった。
リエッタさんのサーバントリングが外されたのは翌日のことだ。
エルガさんが作成したリボン型のサーバントリングの見た目をごまかす装置は必要なくなったが、髪の色を黒から茶色の変化させる、リボンやカチューシャ、髪飾りをエルガさんはすでに用意していて、それをリエッタさんにプレゼントしていた。
◇ ◇ ◇
四月六日黒曜日。
僕たち全員は、シュナー伯父様からギランダー帝国の調査報告を聞いた。
ギランダー帝国が軍拡に大きく舵を切ったのが数年前。
ギラリック帝王から、宰相のスカポランダーが権力を握った直後からそうなったんだそうだ。
現在はヴェネチアン国側に向けて、武装魔導車・装甲魔導車が集結しているそうだ。
「想像だが、スカポランダーが神託を無視して、高スキル持ちの子供を兵士として強制徴用していることはほぼ間違いがない。
セージが神様から聞いたという、洗脳に関しては分かっておらん。
神託を信じる神官などが反対しているそうだ。噂では王族や貴族の中にも強制徴用に反対をするものがいるそうだ。
止められる可能性があるとすれば、そのような王族を探し出すことだろうがな。
それと強力な負の塊りはわかっておらん」
もちろん警備は厳重で接近することも困難だろう。
ヴェネチアン国にとってはそちらの方が気がかりなのは当然のことだ。
マールさんとエルガさんとはここでお別れだ。
「ミクは無理をしないこと。
セージ君、ミクをよろしくね」
僕は、マールさんから船上で聞かされたことを思い出し、かみしめていた。
オケアさんから夢のお告げをあるとき教えられたんだって。
ミクちゃんはとんでもない才能があって、大災厄を止めるために大冒険を友人とする運命だって。
「「はい!」」
エルガさんは、笑いながら泣いていた。
「セージ君、おうちで待ってるからね」
ミュギュッ、と抱きしめてくれた。
「はい」
「ルードちゃんも無理をしないこと」
「はい」
「リエッタさん、みんなをよろしくね」
「命に代えても」
「そんなのダメだよ。リエッタさんも帰ってくるの」
「はい」
シュナー伯父様が王都まで送ってくれるそうだ。
◇ ◇ ◇
僕たちは短針魔導ガンの練習も行い、僕とリエッタさんは、エルガさんから特別に製造方法までもみっちりと教えられた。
そして、ミクちゃんも自分で短針への付与が行える程度にはなった。
僕やリエッタさんにほぼお任せなのが火魔法を持たないルードちゃんだけけだ。
◇ ◇ ◇
四月八日青曜日にフォアノルン伯爵家の御用船でヴェネット河を遡上して王都に向かう。
途中カワイジェン市、マンチェスター市に停泊して、四月一一日白曜日に王都ミラーノに到着。
魔導車と違って、船旅は景色を楽しみながらのんびりとした雰囲気があって、僕は好きだ。
それとミクちゃんと一緒に景色を味わえるしね。
王都は緊張感が漂い、武装魔導車と装甲魔導車が集結していて戦争色が濃厚だ。
ギランダー帝国が国境付近に戦力を集めているんだそうだ。
戦争となったら、シュナー伯父様も一つの軍を率いることになるんだそうだ。
ギランダー帝国と裏でつながってるとの噂があるドラボーン侯爵は、ゴラーさんの結婚式にファントムスフォーを手引きしたとの疑いで、領地で謹慎の身となっている。
そしてギランダー帝国との戦闘では最前線だが、いつひるがえるはわからない獅子身中の虫かもしれない。
現在ドラボーン侯爵の継嗣は家族と一緒に、王都で体のいい軟禁状態だそうだ。
◇ ◇ ◇
その日の夜に密かに模擬戦が行われた。
第一試合、ガタイの大きな近衛第一隊副隊長と、凛としたリエッタさんの試合。
バスターソードとショートスピアのガチバトル。
ガンガンガンと武器と武器、武器と防具が激しくぶつかる。
リエッタさんは重戦士じゃないけど、真正面からのガチバトルだ。
お互い決定打が無いまま、疲弊したリエッタが一撃をくらい試合が終わった。
第二試合、長身二枚目の近衛第五隊隊長とミクちゃんの試合。
お互い堅実な守りを固めた戦闘から、高速戦闘へと移行していく。
剣(槍)のぶつかり合う音がほとんどしない。
第五隊隊長が武器を手放してミクちゃんがあっけに取られた隙に、腕をつかまれたミクちゃんが放り投げられ地面に叩きつけられた。
第三試合、ドワーフの近衛第五隊副隊長とルードちゃんの試合。
幻影・幻覚・トリックの乱れ飛ぶ戦闘。
ルードちゃんの弓矢の遠距離攻撃も数多く射られる。接近してはレイピアだ。
ただ一日の長、第五隊副隊長の多彩な戦闘に決定打を叩きこまれた。
第四試合、精悍な近衛第一隊隊長とセージの試合。
ショートスピアに盾と正統派の王道戦闘を行う第一隊隊長の攻撃を、身体強化・加速・並列思考で軽くいなしながら戦った。
とうぜんセージは刀の二刀流だ。
独創的なフェイントを入れてくる第一隊隊長との戦いを堪能した後に、ショートスピアを跳ね上げ、踏み込んで胴を切り払った。
「セージスタはともかくも、他のみんなもここまで強いとは」
王様の、呆れ交じりの感嘆といったところだ。
近衛隊の隊長や副隊長は総合が概ね“100”程度で、第一隊隊長だけが“110”程度だ。
ギランダー帝国への潜入の協力を得られることになった。
王様というかミラーニアン公爵にギランダー帝国の情報を教えてもらったけど、シュナー伯父様から聞いたことと大差なかった。
◇ ◇ ◇
潜入に関してはワンダースリーの戻るのを待ってということになった。
僕としても、またみんなにしても、レベル上げで四か月もかかったんだ。今更、もう数日か一、二週間を待とうがたかが知れている。
その他にわかったことは、このごたごたでかわいそうなことに、ズーディアイン殿下と婚約者のマキリューヌ・アマルトゥド様の結婚式の日取りが決まっていないということだ。
戦争に発展する恐れがあるから、仕方ないっていえば仕方ないけどね。
僕は王女様のキフィアーナちゃん(同い年)に、「セージ、ダンスの練習に付き合いなさいよ」とミクちゃんと一緒にダンスの練習に何度か付き合わされた。
なんでも貴族どうしの情報交換的なことで、小さな身内的なパーティーは時々行われているそうだ。
「セージ、ちゃんと練習してた。下手になったんじゃない?」
「元からこんなものだったんじゃないかな」
そりゃー練習なんてしてなかったもの、当然そうなるよね。
当然のごとくカレリーナさん(四才上)も出てきて、ステップは同じだけど、新たなヴァリエーションを無理やり覚え込まされてしまった。
もちろんミクちゃんとも踊ったよ。
何で僕一人で、三人は休憩付きなんだ。って文句の二つや三つもいいたくなったんだけどね……。
それだけじゃなくショッピングにも付き合わされた。
あー疲れた。
ミクちゃんはアマルトゥド侯爵家のロキシーヌ奥様や、ディンドン侯爵家のネーザンス奥様に誘われて、ミクティーヌちゃんに会ってお茶会を楽しんだりと、ひと時の憩いの時間を楽しんだ。
まあ、僕とルードちゃんもお茶会に呼ばれて、ルードちゃんがメチャクチャ緊張したりとチョット面白かったのは内緒の話だ。
さすがにリエッタさんは一緒ってわけにはいかなかったのは致し方によね。
あとは狩りの感覚、戦闘の感覚が鈍らないように、時々狩りにも行った。
例の王様と狩りをした曰く付きの森だ。
少しぐらい奥に入っても、特に面白い魔獣がいる訳ではなく、まあ、色が薄いのは気になったけど、ただ単に狩りを楽しんだってところだ。
それと、ソーラーレイⅢのできも順調だし、短針魔導ガンの試し打ちは入念に行ったのは言うまでもない。
「ガンとカートリッジに均等に魔法力を込めないといけないし、魔法力を込める量が半端じゃない」
「一点に魔法力を集中させることも難しいよね」
「そうだね、ただ魔法力を込めれば込めるだけのコントロールが難しから。もっと練習しなくっちゃね」
「セージちゃんみたいに上手く撃てるようになれるかな」
「なるのよ。あたりまえでしょう。リエッタさんはずいぶんと使いこなしてるじゃない」
「ミクちゃんもう少し」
「うん、頑張る」
ミクちゃんは、コントロールに手こずっている。
それだけではなく、覚えたての多彩な魔法も使って狩りを楽しんだ。
ちなみに短針魔導ガンは、特殊な加工が施されてるようで、マシマシで一点に集中させると射程が伸びるし威力も上がる、というかマシマシで一点集中して威力アップをしないと弱い魔獣程度しか倒せない。
それと短針魔導ガンとカートリッジに均等で、しかもマシマシに魔法力を込めないといけないのでコントロールが非常に難しい。
もちろんマシマシにすればするほどだ。
僕たち用に作ったからだろうが、魔法力の扱いに長け、それに総合の高さゆえの魔法力で扱えるガンだ。
扱いの難しさはあるけど、予想以上の出来と威力に驚いたってのは本当だ。
◇ ◇ ◇
四月一六日緑曜日にワンダースリーがテレポートで戻ってきた。
もちろんポインティングディバイスによる連続移動だ。
ポインティングディバイス――自分の魔法力を込めてテレポートの座標とする――があれば遠くまで飛ぶことができるし、テレポートの恩恵を完全に受けることが可能だ。
時空魔法のレベル13のテレポートⅦで二五キロメル程度、テレポートⅧで四〇キロメルレベル12の、テレポートⅨで六〇キロメル程度だ。
一人を運ぶのに同量の魔法量がかかる。
ワンダースリーなら三人で三倍となる。
運搬限界はのテレポートⅦから五人から六人で増えてない。
もちろん距離には個人差があるし体調でも変化する。数値は僕が特別な精神集中にマシマシ無しの、通常で無理せず飛べる限界値だ。
時空魔法のレベル11、テレポートⅤでミクちゃんが飛べるのは五~六キロほどだ。
プコチカさんからの情報だと戦争の準備は着々と進められており、それとは別に闇魔法で有能な子供たちを支配して、戦力の底上げを開始しているようだ。
それと、ギランダー帝国の首都のギーランディアの雰囲気、大気の肌感覚が気持ち悪いんだって。
僕のポインティングディバイスをヴェネチアン国が二〇個ほど用意してくれた。
それとは別にワンダースリーのノコージさんが、僕が魔法力を流しこんだポインティングディバイスを、王都ミラーノからギランダー帝国の首都のギーランディアまで設置してくれた。
そうして僕たちは小さなオケアノス神社に行った。
魂魄管理者と会った時に、準備ができたらどこでもいいから神に祈れと言われていたからだ。
二礼二拍手一礼をする。
『準備ができました。よろしくお願いします』
『やあ、こんにちは』
背中の四枚の羽根に、手のひらサイズより一回り大きく、肌の色も褐色のニュートより白い、キュベレー山脈で出会ったフェアリーのプラーナが出現した。
『プラーナが魔獣の成りかけを倒すの?』
『いいや、ボクとセージスタで倒すんだよ。頑張ろうね』
『うん、よろしく』
その後に、実際の倒し方を聞いたけど、実際にやってみなくちゃわからない。
練習あるのみ、みたいなんだけど、よくわからなかった。
実戦あるのみ見たいみたいだ。
リエッタさんはオーブのようなものとして認識ができるけど、見て、話ができるのは僕とミクちゃんとルードちゃんだけだ。
みんなには準備OKと伝え、ワンダースリーのみんなと一緒にギランダー帝国に飛んだ。