111. クラス委員長の仕事と破壊されたホイポイ・マスターⅡ
“セーフティボックス”に関しては『55. テレポート』で、ホイポイ・マスターの機能強化で話し合ったことによってできた機能です。
“セーフティボックス”の名称は出てきていませんが、ホイポイ・マスターが破壊された時に、“できれば破壊するほどの魔獣のデータだけでも残したい”とセージが提案しています。
誤字訂正しました。
話は少々戻るが、九月末にルイーズ先生からクラス学習の時に魔法学校文化祭の説明を受けた。
魔法学校では一一月一一日白曜日と一二日黒曜日に行われる魔法学校文化祭の準備が開始された。
魔法学校だと、何かと魔法優先と思われがちだが、図画工作や音楽の授業もある。
魔法に偏った考えを待たないようにとの教育方針から、芸術的な発表会が行われる。
ちなみに一一月九日緑曜日は準備日で、描いた絵画などの飾りつけが行われる。
そして一一月一〇日赤曜日は学校清掃となってから、実質四日間だ。
なぜ一一月に行われるかというと、一三月にはマリオン上級魔法学校の入試や、その後にオーラン上魔法学校の入試があって、ミリア姉達五年生が受験や就職で何かと忙しくなるからだ。
一年生の時のクラス発表は基本的に歌だから、特別に準備することもなかったけど。……と、思っていたら、二年生になるとクラスの飾りつけコンテストというものがあって、みんなで相談して物づくりを行うんだそうだ。
絵画の張り出しもあるから、その制限の中でということだ。
ルイーズ先生に大まかな説明では教室にパネルが何枚も立てて、廊下も利用して、そこに絵画を張って、そのパネルやら、壁やら、廊下を飾るんだそうだ。
とはいえ、二年生のできることは限られている。
先生曰く、毎年クラスに支給されるのは色紙や折り紙・ヒモ・竹ひご・針金程度だ。
それと家からの持ち寄りだけど、高価なものはダメだ。
それに関しては一年生も一緒だ。
ただし一年生の時には先生主導で、似たような飾りつけとなっていた。
説明の最後に、
「クラスの皆さんも素敵な飾り付けができるように頑張りましょう。
クラス委員長のセージスタ君の腕の見せ所です。クラスをまとめて頑張ってください」
どうやら生徒主導で頑張るよだ。
「ha、はい⁉」
思わず声が裏返っちゃったよ。
「セージスタ君、皆さんの意見をまずは聞いてくれますか」
「え、えー、…はい、ミクちゃんとルードちゃん、サポートよろしくお願いします」
突然のお仕事に、一人無理と思って、教壇の前に三人で立った。
「あのー、クラスのみんな頑張ろうね。
それでどんなものを飾りたいですか。意見のある人は手を上げてください」
なかなか意見が出ません。
そりゃそうでしょう。
先生の説明を聞いても、どんな感じなのかイメージができなんだから。
そうしたらミクちゃんがまとめてくれてパネルを設置する図面をいくつか黒板に書いてくれた。
パネルを教室に縦と横にするだけでも随分と違う。
「人の導線、歩く流れを考えよう」
僕もイメージがしやすくなった。
具体的な図面があるとイメージがしやすくなった。ミクちゃんGJなのだが。
「セージちゃん、すごい」
逆に褒められちゃったよ。
僕のなんとなく思ったイメージだと、折り紙で花やチェーンを作って、華やかにする程度しか思いつかない。一年生の時の飾りつけだ。
幸いにも、日本の折り紙のような文化もあるから、ごく普通の飾りつけはできそうだ。
でも特別なことは思いつきそうにない。
あ、一つ思いついた。ってことで先生に訊いてみた。
「ルイーズ先生、錬金マホ……」
「ダメです」
速攻でダメだしを食らいました。
キラキラプテランなんてものが、あるんですけど。
まあ、結果は僕の最初に思った内容とほぼ一緒だったけど、切り絵って意見も出たし、ティッシュペーパーのような薄い紙を束ねて花を作るって意見も出た。
そして、できるだけ豪華にすること。
今から切り絵や折り紙は作っておかないと間に合わないので、順次作っていくことで話し合いは終わった。
ミクちゃんが折り紙チェーンを受け持ってくれることになりました。
切り絵や折り紙の数があれば、前日の準備で豪華にできそうだもんね。
それと、ルイーズ先生の参考意見も取り入れて、針金で折り紙をぶら下げたモービルをクラス全体で作ってみることになった。
他の提案には以下の通りだ。
―― 大きなちぎり絵の作成。(原画を決めてデザインを描くのが大変で、却下)
―― 花を持ち寄っての飾りつけ。(魔法学校文化祭直前で、もう一回話し合って決めましょう)
中講堂で歌の発表があるが、それは音楽の先生と相談するそうなので打ち合わせから除外だった。
三年生や四年生になると、大講堂で演劇や楽器演奏などになる。
「爆発魔人が他のクラスを爆発してくれば、俺たちのクラスの勝ちだな」
「それはいいや。爆発魔人よろしく」
「ギャハハハ…、爆発魔人って、そういった役立ち方があるんだねー」
まあ、休憩時間中の三バカの、絡みはスルーで決定だな。
というか、オマエらも手伝えよ!
◇ ◇ ◇
一〇月一〇日黄曜日と翌一一日緑曜日に、僕は学校を休んで久しぶりにメモリーパッケージの交換に付き合うことになった。
「ニュート久しぶり、元気だった」
『やあ、元気だったよ』
相談の結果、ママから正式に許可をもらって七沢滝ダンジョンに行けるようになったってことだ。まあ、ママの心境は複雑だってわかるから、申し訳ないってのもあるんだけど。
一応、許可は出てたんだけど、ヤッパリ直接話してからにしようと思ってたんだ。
それに魔石の作成に拘束されていて、忙しかったってのもあたんだけどね。
久しぶりの狩り――ララ草原は僕にとってはあれだしね――もできるし、ルルドの泉に水汲みとハチミツルルド水の製造に、七沢滝ダンジョンにも行ってみたかったんだ。
ミクちゃんが私も強くなって今度は一緒に行くと、言い出して困ってしまった。
でも冒険者ギルドの規制で、総合が“40”以上じゃないとボティス密林には入れないままなんだよ。
◇ ◇ ◇
ボティス密林に来たのはヴェネチアン国に行く前だから、ほぼ二か月ぶりだ。
ララ草原に魔導車を止めて、徒歩でワニ池へ。
マッドアリゲーターを倒した時は何となく、マッドアリゲーターに愛着を感じてしまったのは内緒だ。
メモリーパッケージの交換を行う。
オーラン市の意向で、調査は続行しているが、現在は七沢滝ダンジョンの影響調査という意味合いが強いそうだ。
それも大体が四層までで、時たま五層に踏み込む程度だ。
「相変わらず、あまり変化はないんですね」
「そりゃーそうだろう」
ガーランドさんは、そうそう変化があってたまるか、といったところみたいだ。
「ただな、あいつらが増えたな」
ガーランドさん空を指す。
そう、鳥魔獣が増えていて、上空を飛ぶ姿をよく見かける。
危険は増したってことだ。
周辺の調査を軽く行いララ草原に戻る。
昼休憩をはさんで、ルルドの泉に移動。
ここもほぼ変化無し。
無事、メモリーパッケージの交換に、ルルド水の水汲みと、ハチミツルルド水の回収と設置も手慣れたものだ。
こちらも周辺調査を行い帰宅。
本日の狩りはマッドアリゲーターにダッシュホッグにマダラニシキヘビといったところだ。
その他に弱い魔獣も狩った。
何か物足りないけど、こういった時もあるさ。
自宅では、ミクちゃんに根掘り葉掘り尋問、もとい、こと細かく聞かれて丁寧に答えた。
あとはいつもの特訓(実技と勉学)だ。
◇ ◇ ◇
一一日緑曜日は、七沢滝の底壺と七沢滝ダンジョンのメモリーパッケージの交換で、距離が近いから楽だ。
七沢滝に到着。
その間にゴブリンの群れやブッシュキャットに遭遇した程度で特に変わったことはなかった。
底壺のメモリーパッケージの交換を早々に終え、はやる気持ちで八〇〇メル程度ほど離れた七沢滝ダンジョンへ向かう。
七沢滝ダンジョン。
それは柵とセイントアミュレットで囲まれていた。
そして少し離れてホイポイ・マスターⅡが地面から生えて(?)いる。
「ねえ、あれは何?」
コンビニ風の七沢滝ダンジョンの入り口に、台が設置されていた。
「ギルドカードで触れて入った時と、出た時に記録を取るんだ。
入場料の徴収もあるし、オーラン市がシッカリと管理していることを示す意味もあるな」
「入場料取ってるんだ」
「一回、五SHだ。
狩りの後にギルドで支払いをすればいいから、記録忘れでも申告すれば問題はない」
日本円で二五〇〇円って高いのか、安いのか?
それだけ稼げないやつは入るなってことだよね。
「記録しないとどうなるの?」
「罰金で、入場料一〇倍の支払いだ。
それとダンジョン内での事故やケガは、ギルドの保証外だな」
「でも、ダンジョン内でケガしたってわからないじゃない」
「まあ、現在は建前だな」
これじゃあ、みんなに頼んでダンジョンを覗いてみるのは無しだな。
ちなみにその装置は通常の機材で、冒険者ギルドが管理していて、運用直後ということもあってチョクチョク冒険者ギルドが確認しているんだそうだ。
周囲を確認して帰宅した。
◇ ◇ ◇
クラスのみんなは初めての魔法学校文化祭ということもあって、気合を入れて折り紙や切り絵が出来上がっていった。
多いんじゃないかってことで、教室や廊下の壁に並べてみたら、クラスメイト唖然、思ったよりも少なかった。
もっとがんばって作らなくっちゃ。
こういったとりまとめは、僕よりミクちゃんとルードちゃんのコンビが上手いみたいだ。
学級委員長、どっちかが代わってくれないかな。
◇ ◇ ◇
一〇月二〇日青曜日の午後にボランドリーさんが、
「七沢滝ダンジョンのホイポイ・マスターⅡが破壊された」
と、N・W魔研に駆け込んできた。
僕が学校から帰宅すると、待ってましたとばかりにエルガさんが、
「セージ君、セーフティボックスの回収よ」
と、訳が分からなかった。
七沢滝ダンジョンのホイポイ・マスターⅡが破壊されたことをリエッタさんから説明され始めって理解できた。
「誰か、回収に行ったの」
「行くのよ。待ってたんだから」
「えーー!」
エルガさんが僕とリエッタさんを指さしていた。
ということで「<テレポート>」で、リエッタさんを連れて七沢滝ダンジョンに飛んだ。
樹木に偽装した二台のホイポイ・マスターⅡがメチャクチャに破壊されていた。
「あれ?」
「これは、内部機材の強奪でしょうか」
「みたいですね」
破壊された筐体の内部が空っぽだった。
僕はホイポイ・マスターⅡを掘り起こして、残った筐体にその下の吸魔アンテナと、その下に隠されたセーフティボックスを回収した。
セーフティボックス。
ホイポイ・マスターが魔獣に破壊された時のために、せめてもの情報に、ホイポイ・マスターを破壊した魔獣を記録するためのメモリー装置で、常時録画して最新情報を上書きしていくメモリーだ。
ホイポイ・マスターの開発時に、日本でのセキュリティ部門の経験を思い出して提案したことだ。
まさか泥棒を確認するために使われるとは思わなかった。
ホイポイ・マスターⅡだとその機能もアップして、音声も記録している。
パパにウインダムス議員に市長、ボランドリーさんとニガッテさんと、冒険者ギルドの受付職員(女性)が二名立ち会っての上映会だ。
魔石カメラの六方向を同時に映しているので、一気に六つの映像を表示する。音声データは一つだ。
映像と音声は約一〇分間で、映像はコマドリのカクカクだ。
しばらくは何も変化のない風景が続く。
三分程度経ったら、一つの映像に目つきや人相の悪そうな三人組が現れ、何やら話しているようだが、音声の拾いが良くなく聞き取れない。
キョロキョロと探して、ホイポイ・マスターⅡを見る。
ホイポイ・マスターⅡを見つけた人が何か話しながら、手招きしながら近づいてきた。
「頼まれたのはこいつだよな」
近づくと音声が聞こえてきた。
三人でしばらく観察する。
「そうだな」
「やるぞ」
剣を振るわれ、映像が一つ、一つと消え終わった。
もう一台はもっと手早かった。
確認すると、あっという間に壊された。
「今の奴らはわかるか」
ボランドリーさんが、受付職員の二名の女性に問いかける。
「三日前ほどにオーラン市に来た冒険者ですね」
「確かブラックバルバトスというパーティーだと思います」
「冒険者ギルドに帰って三人を指名手配だ。
市長、それでいいな」
「ウインダムス議員、ノルンバック議員立会いの下、了解した」
「セージスタ、三人が映っている映像だけでいいから、複写してくれ」
「もうしてあるよ」
予めフルコピーした、画像記録魔石と音声記録魔石をボランドリーさんと市長さんに渡す。
映像と音声を同期して映し出すにはちょっとしたコツがいるけど、その辺は何とでもなるだろう。
僕って立ち会わなくてよかったんじゃないかと思うんだけど。
◇ ◇ ◇
三日後の一〇月二三日白曜日にブラックバルバトスは、ゴルオン市で逮捕された。
逮捕されたその日の夜にN・W魔研は連絡をうけた。
セキュリティ機構を備えていて本当に良かった。
「セージ君が提案したおかげだね」
ムギューー、…パンパンパン。
本当に提案した甲斐があったってもんだ。
ブラックバルバトスの自白、ゴルオン市の魔法具の製造会社に頼まれたということで、二日後にその魔法具製造会社が家宅捜査をうけ、社長と数人が逮捕された。
ちなみに社長は逃亡していて、捕まったのは更に二日後だった。
マリオン市で稼働しているホイポイ・マスターⅡの噂を聞いて、ホイポイ・マスターⅡを自分のところで製造できないかってことで計画したそうだ。
レーダー魔石をどうにか作れないかと、興味津々に解析していたんだそうだ。
少なくとも空間認識に看破が無くっちゃ無理だけどね。
罪に問われた魔法具製造会社とブラックバルバトスはそれ相応の罪に問われ、マリオン市と冒険者ギルドへ賠償金を支払うことになる。
N・W魔研は再度、マリオン市からのホイポイ・マスターⅡの発注ということになって、三台の注文を受けた。
七沢滝ダンジョンの無人警備を強化するんだそうだ。
三台分の魔石を作るのかな? それとも早めに魔石って返却されて一台分の魔石でいいのかな?
とにかくまたもホイポイ・マスターⅡの作成開始です。
ポチットムービーも売れているから、大忙しです。
ちなみにマジックキャンディーは定常的に売れているといったところだ。
◇ ◇ ◇
一一月一〇日緑曜日。
魔法学校のいち二A一組では、魔法学校文化祭の準備で一生懸命に飾り付けが行なわれていた。
大活躍したのはセージの<フライ>(風魔法のレベル6)、とミクちゃんの<レビュテーション>(風魔法のレベル4)だった。
ミクちゃんは風魔法のレベルは3だけれども、魔法回路が4ということもあって、チョット無理した魔法力と精神集中多めの空中浮遊だった。
とにかく頑張り屋さんだ。
僕もみんなを取りまとめるより、体を動かした方が性に合っている。
ちなみに飾りつけの配置決めや色のバランスを取るのは、絵心がある所為かライカちゃんが仕切って、見栄えがして綺麗な配色に仕上げてくれた。
やっぱり僕は、人の上に立って引っ張るってのは苦手だな。
ちなみにライカちゃんも加わって、折り紙や切り絵などに、キラキラ(イリュージョン)を付与したのはやり過ぎだった。
魔法力が乗りにくい紙への付与なのもだから、あっという間にキラキラガ消えてしまい、何度も魔法力を込めないといけなかった。
そしてそれだけの魔法力を込められる人となると、数の関係で基本僕しかいない、もしくはミクちゃんだ。
結局、キラキラさせたのは、本番の五日と六日のほんのひと時だけだった。
家族が聴きに来てくれた中講堂での歌の発表は、ライカちゃんの指揮で、クラスメイトにピアノが弾ける子がいたので、その二人がメインで、無事歌い終えたとだけ伝えておこう。
コンテストの結果も、可もなく不可もなくといったところだ。
みんなで頑張れたからいいよね。
ちなみに、審査員は数人の先生と、ミリア姉生徒会長に、ロビンちゃんの副会長、会計のモラーナちゃんなどの生徒会だ。
生徒会補佐の僕やミクちゃんも審査を行うことになっていて、三年生(自分の学年)以外を審査する。
そして広報委員はマロン先輩の妹で四年生のローマン先輩だ。
「セージスタ君、何か面白い話題なーい」
最近はそのローマン先輩が良く話しかけてくるんだ。
何はともあれ魔法学校文化祭も無事に片付けも終わった。
壁新聞が掲示されたのは言うまでもない。