109. ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所は大忙し
章タイトルはただ単に「新章」とさせていただきました。
ネタバレを多大に含むためです。
数話たった後、タイトルを付けなおします。
ご容赦のほど、お願いします。
九月一九日赤曜日、今日から三学期だ。
「おはよう。ミクちゃん」
「おはよう。…セ・ー・ジ・ちゃ・ん」
今日から一緒に学校に行く約束をしたんだけど。
「なんだかツカレてない」
「チョットいろいろあってガンバッチャッタからね」
さすがに徹夜まではしなかったけど、いくら簡単でも、六週間分の宿題を一晩でやり遂げるには根性が必要だった。
うれしいことにみんなとおそろいの青い髪飾り(色違い)を付けてくれています。
バッグにはお互い、色違いの二つの月をぶら下げています。
「私がんばるから、これ以上置いてかないでね」
「うん」
「でも何でミリアさんが一緒なの」
「そっちもロビンちゃんが一緒だよね」
「どうしても一緒がいいって……」
「僕もなんだ」
ミリア姉の場合はチョット違って、出かけに「アンタ護衛もなしにどこ行くのよ」が事の起こりだ。
ちゃんとパパとママには、キッチリと説明済みの許可済みだ。
まあ、ママの許可は微妙だけど。
王都ミラーノ市の騒動は逐一マールさんが時空電話で報告済みだったから、報告は確認程度で済んだけど。
ママもさすがに危険なマネをするなと言っても、これからは向こうからやってくる可能性がある。
迎え撃てるのが僕だけってのがあって、いくらママが反対しても、まあ、そこまでじゃなかったけど、パパがやりたいようにやりなさいって許可を下したってのがいきさつだ。
まあ、それらはママがマリオン市にホイポイ・マスターⅡの納品で出立する前にパパとママで打ち合わせたことだけど。
ちなみにエルガさん・リエッタさん・マルナさんと一緒に出立したのが九月一〇日緑曜日。僕が切られて回復した翌日と、予定より二日遅れての出立だったそうだ。
ママには申し訳ないけど、ミクちゃんの決意に押されたってのがあるけど、まずは僕とミクちゃんが強くなっていくしかないって事で、できるだけ一緒ってことに決めたんだ。
ママが帰ってきたら、シッカリと話し合わなくっちゃ。
テレポートでミリア姉を撒ことはできたけど、行先の目星は付くだろうし、さすがに大人気な…、もとい、子供気ない? 子供らしくない? まあ、そんなんで付いてきちゃったんだ。
「弟の癖に、姉より先に彼女を作るなんてなんて。
あ、ミクちゃんに文句言ってるわけじゃないからね」
じゃあ、何が言いたいんだよまったく。
それに彼女じゃないから……まだ……、彼女いない歴=年齢舐めんなよ。ほっぺにチュッてしただけだけ、ハズクッて死ぬかと思ったほどだ。
まだ、コクッてねーっての。
「ミリア姉の彼女ならそこにいるだろう」
思わずロビンちゃんを指さした。
って、ミクちゃん真っ赤だ。ゴメン。
売り言葉に買い言葉、僕もテンパッテって多分真っ赤だ。
「セージ、ワタシにケンカ売ってんの!」
「ゴメン、先行くね。ミクちゃん、手」
「は、はい」
「<テレポート>」
「「セージ(ちゃん)待ちなさい!」」
ちなみにミリア姉とロビンちゃんの王都のお土産は、僕とミクちゃんで買ったチョット奮発した髪飾りだ。
ちゃんと付けていてくれました。
◇ ◇ ◇
テレポートで飛んだ先は大講堂の横。
デミワイバーンに破壊された壁は修復が終わって新品で真っ白だ。
「ミクちゃん、五日間の絵日記だけど何を書(描)いたの?」
「えー、教えないとダメ?」
「え、何かまずいの?」
「まずくはないけど…」
何か聞いてはいけないことだったみたい。
「ゴメン、ちょっと気になったものだから」
まさか、テロリストに絡んだこととか、僕のケガとかは書いてないと思うけど。
僕が叙勲されたこととか、ミクちゃんが感謝状をもらったとかだと、誰もれもが何故って疑問を持つしね。
できれば王都の話もやめた方がいいかもしれない。
そう思って訊いたんだけど。
「いいよ、何か気になるんでしょ。
見せてあげる」
な、なんと、書(描)かれていたのは、八月一九日赤曜日と八月二〇日青曜日はロナーさんとニルナールさんの結婚披露パーティーと、九月五日白曜日はズーディアイン殿下とマキリューヌ様の婚約披露パーティーでのできごとの三件が連続で書(描)かれていた。
セージちゃんの親戚のパーティーに、ウインダムス家も招かれ、セージちゃんと一緒にダンスした。
セージちゃんは始めから上手くって素敵だったけど、私も日を追うごとにダンスが面白くって、上手くなろうと頑張りましたって内容なんだけど。
僕がダンスが上手くて素敵だって……。ハ、ハズイでしょう。
その上、僕とミクちゃんの鞄にぶら下がった、ミクちゃんお手製のストラップ人形のような二人がが抱き合って(多分踊ってるんだと思う)いる絵が三枚だ。
ハ、ハズ過ぎでしょう、ガツンと食らいました。
あとの二つは『素敵なお茶会で……』て内容で、アマルトゥド侯爵家のお茶会と、ディンドン侯爵家のお茶会の事だ。
家名も書かずに美味しいケーキや飲み物がメインの内容だ。
多分マールさんが確認したんだろうな。
「ありがとう」
「心配してくれたんだよね。お母さんにも注意されたもん」
ヤッパリ。
「ううん、違うよ。僕のとあんまりのも違ってたらやだなって思って」
「じゃあ、セージちゃんのも見せてよ」
八月一五日黄曜日、お土産いっぱい。(エルドリッジでお土産のお菓子をいっぱい買ったこと)
八月一六日緑曜日、魔法研究所見学。(大きな研究所でいっぱい働く人がいたこと)
八月一八日黒曜日、園遊会の衣装。(いろんな着物や洋服を見たこと)
八月二〇日青曜日、楽しい結婚式。(ダンスがあって食べ物もいっぱいで豪華だったこと)
九月一七日緑曜日、きれいな夕日。(旅の終わりに船のデッキで見た夕日が真っ赤できれいだったこと)
「タイトル付けたんだ」
「うん、その方がいいかなって思って」
「ヤッパリ、セージちゃんはすごいなー」
「そんなことなよ。ミクちゃんのは絵が丁寧できれいだもの」
ただ、あの絵は止めてほしかった。
「ううん、セージちゃんが…」
「ミクちゃんが…」
……(はたから見れば無意味な千日手)……
「あ、急がないと」
もうすぐ始業時間だ。
「そうだね。それと夕日きれいだったね」
「うん」
◇ ◇ ◇
「爆発魔人が遅刻するって楽しみだったのに」
は、無視してっと。
◇ ◇ ◇
お昼休みの食堂はどこのテーブルもお土産や、お菓子だらけだった。
「セーチャンとミクチャンはいいニャ」
「それはセージちゃんですから」
半猫人のパルマちゃんの言葉に、ライカちゃんが同意をすると、エルフのルードちゃんは「そうね」と、半兎人のビットちゃんも「うん、すごいね」とうなずく。
「でもこんなに良いものもらっちゃっていいのかニャ」
「そうですよ。おこづかいなくならないの」
「そうニャ、いったいいくらもらってたらこんな高いものかえるニャ」
今度はパルマちゃんとビットちゃんだ。
事情をある程度知っているライカちゃんと、ルードちゃんはだんまりだ。
「お小遣い、去年からもらってないよ」
「…私もです」
「……どういうことかニャ?」
「あ、狩りですか」
「働かせてもらってて、言うのもなんだけどさ。セージとミクは働いてるから」
「N・W魔研、もうかってますものね」
「それがなにか…」
「セージはN・W魔研の副所長で、研究開発をしてるのよ。ミクはその補助でいろいろと魔石やマジックキャンディーを作ってるのよ」
「え、えーだニャ!」
「びっくりです。ということは……」
「給料をもらってるのよ」
その後はヴェネチアン国の話や貴族のパーティーの話に、パルマちゃんとビットちゃんだけでなく、ライカちゃんの瞳もキラキラと輝いていた。
パルマちゃんとビットちゃんは家族そろって遠くの親戚の家に泊りがけで遊びに行ったんだって。
ライカちゃんの家、ホーホリー家では久しぶりにマリオン市に旅行に行って、パパさんやママさんの知り合いの魔石開発会社に状況報告がてら、挨拶に行ったんだって。
何処にも出かけなかったルードちゃんだけは、ママさんとの平和な生活に満足していたみたいだ。
◇ ◇ ◇
三学期になると、一年生合同の魔法練習は完全に無くなっていて、クラス単位となってより細かで個人的な訓練に移行していく。
午後のAクラスの合同魔法練習では。
「ミクリーナさんは、魔法の腕を上げましたね」
それはそうだろう。魔法核や魔法回路を“3”を目指すのが魔法学校で、ミクちゃんはそれが“4”となってしまっている。
属性魔法が低いから、まだ練習の範疇なんだけど。
「私なんてまだまだです」
「誰を目標にしているかはわかりますが、昨年までであればミクリーナさんが最優秀生徒よ」
「セージは特別だって思ってたけど、ミクも相当なものね。でも負けないわよ」
「勝ち負けではないけど、私は強くなるって決めたの」
「そう、ウチも魔大陸に行くって目標があるんだから。当然強くなるわよ」
熱い戦い? も発生していたりもした。
◇ ◇ ◇
学校から帰宅すると僕とミクちゃんは、パパとマールさんに呼ばれた。
「ポチットムービーがことのほか好評なのと、ヴェネチアン王家と、シュナー伯父様のところのフォアノルン家にお礼でポチットムービーを贈ることを決めたのだが、魔石レンズと画像記録魔石が全然足りてない」
「幸いにもエルガさんとリエッタさんが本体と内部構造は造り上げてあるから、セージ君にはその二つを早急に、しかも大量に作ってほしいのよ」
そうですか。
「わかりました」
ポチットムービーが人気なのは、小型軽量ってだけでなく、映像が綺麗ってのもある。
魔石レンズが透明で歪みが無いってのが一番の原因で、それを作れるのは僕とエルガさんだけなんだ。まあ、僕の方が高品質みたいなんだけど。
「組み立てはラーダルットさんにアランさんがキッチリと習得してるから、心配はしないで。
ミクはできるだけでいいから、セージ君のサポートとテストね」
ラーダルットさんはルードちゃんのパパさんでエルフだ。錬金魔法はお手のものだ。
優男で髭にこだわりある魅力的なおじさんアランさんは、もう一人の相棒で女性のハーフドワーフのデトナーさんと、ワニ池の騒動崩壊したブルーゲイルの元メンバーだ。
そして苦労の末、N・W魔研の社員になったんだ。
そんなアランさんとデトナーさんは、錬金魔法の腕を上げている。
アランさんとラーダルットさんは電増魔石を作れるほどだ。
ちなみにドワーフだからって、まあ正確にはハーフドワーフだけど、誰しもが錬金魔法のプロフェッショナルじゃない。現にデトナーさんは頑張ってはいるけど、細かな錬金はいまだに苦手だし。
その後の打ち合わせで確認したら、ポチットムービーの営業戦略ってのもあるそうだ。
結局それならばとミラーニアン公爵家、ディンドン侯爵家、アマルトゥド侯爵家にも贈ることになた。
ディンドン侯爵家とアマルトゥド侯爵家にはミクちゃんの令状も一緒にしたためるそうだ。
ミクちゃんも重責に緊張した面持ちだ。
ルルドキャンディーも含めこの日から僕は製造マシンと化して頑張った。
ミクちゃんは隣で、錬金魔法の特訓だ。
数日経って、予定量の三分の一程度をこなし、まずは急ぎのところに出荷や販売をしたころ。
ちなみにミリア姉とロビンちゃんは、僕とミクちゃんが訓練に参加しないとブータレているけど、どうしようもない。忙しいんだもん。
ちなみにアラフォーのベテランメイドのナナラさんは、N・W魔研の所員になったかと思えるほど頑張ってくれている。
メイドよりも正社員(正所員)を目指すんじゃないかって程だ。
「ねえ、セージちゃん」
「何?」
「私ね、魔法の残量が“1”まで魔法が使えるの」
「へえ、そりゃーすごい」
「ねえ、以前セージちゃんも“1”まで使えるって言ってたよね」
あ、そんなこといたことあったな。
「うん」
「これで、チョットだけセージちゃんに追いつけたかな」
「…そ、そうだね」
ミクちゃんが僕の顔を覗き込んで、って近いって。…それで首を傾げる。
「セージちゃん何かあるの?」
「うーん、もう一つ、二人だけの秘密いい?」
「セージちゃんが内緒って言うんなら、言わないよ」
「じゃあ、言うね。……僕“0”まで使えるんだ」
「“0”って、“0”よね」
「うん」
「まだまだか、もっとがんばるね」
頑張るって、僕のモットーだよ。
「うん、応援してるね」
◇ ◇ ◇
週末には、ヴェネチアン国にお礼のポチットムービーも送(贈)れた。
ルルドキャンディーも入れてだ。
◇ ◇ ◇
ママたちが帰宅したのは更に翌週の末の一〇月五日白曜日だった。
僕たちは魔石レンズやピクチャーコアも造り終え、みんなでポチットムービーの組み立てもして、全て出荷が完了した後、それにミクちゃんの錬金魔法が“1”になった後だった。
久しぶりにいるべき人がそろうと家の中が落ち着く。
「セージ君久しぶりー」
く、苦しいー、パンパンパン…。
エルガさんやリエッタさん、それにマルナさんもかけがえのない家族だって改めて、そう改めて体感した。
就業時間中だけど、お疲れ様会を開催して慰労した。
珍しう相談役のウインダムス議員も参加だ。
まあ、ただ単に飲み食いして、マリオン市のお話を聞いただけなんだけど。
「みんな、ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所も新たな発展の時が来た」
パパからお疲れ様会で発表があった。
「そしてオーラン市の課題、魔導砲の開発をオーラン市と共同で行うことが決まった。
これからも忙しくなると思うが、所員に一同一致団結していこう」
小型近距離電話の販売は順調だ。
ポチットムービーとマジックキャンディーとともに主力製品だ。
魔導砲の最終目標は、ヴェネチアン国で見た“無数の鉄針”だ。
マールさんが報告をしたところ、遅々として進まなかった魔導砲の開発にオーラン市が乗り気になたってことだ。
これからも忙しのは続きそうだ。
ミリア姉とロビンちゃんは関係ないでしょう。
何で一緒に飲み食いしてるのさ。
二人とも多分だけど、特待生でマリオン上級魔法学校生になることだろう。
おろそかにしているつもりはないが、強くなりたいと願うミクちゃんの訓練が結果おろそかになてしまっている。
それと魔法陣、新魔法の作成も進捗がほとんどない。
エメラルダスの中でも頑張ってけど、もう一歩だと思うんだけど。
ちなみに現在お試しに頑張って作成したのが粘着弾だ。
今まではイメージ文字化した魔法陣でいろいろ組み合わせて個人魔法として使用していたけど、それを正式な複合魔法陣として作成したんだ。
工夫していろんなバリエーションも作成できたからそれは満足だ。
イメージを込めて更なる粘着弾の強化に励むつもりだ。