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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
王都ミラーノ編
108/181

105. 魔法士ミクリーナ


 セージちゃんは昨日は、ミラーニアン公爵様に連れられてどこかに行っちゃたかと思ったら、国立魔法研究所に行ってたんだって。


 そして今日はセージちゃんの叙勲式。


 朝早くから、またいなくなっちゃた。

 それもお母さんと一緒に、お母さんは直ぐに帰ってきたんだけど。


 お母さんはいるから一緒にミラーノ市の散策か、邸内でくつろいで過ごすしかないなと思っていたら、お昼にミラーニアン公爵様との会食があって、午後には王様主催の小さなパーティーに招待されましたって言われました。


 公爵様との会食も気が重いけれど、小さいパーティーとはいえ王様が主催するパーティーが小さいはずがありません。

 出かける気が一気に無くなってしまいました。


 私の家はオーラン市では裕福な家庭だってことは分かっていますけど、このような華やかな場所だと緊張もするし気も引けてしまう。

 今から緊張で、ドキドキしています。


 こんな時に、どうしてセージちゃんがいないのかしら。

 顔を見る見るだけでも、できれば手を握ってもらえると落ち着くと思うんだけど。

 セージちゃんは本当にすごくて、なんでも出来ちゃうし、なんで平気なんだろう。

 結婚披露パーティーのダンスでも大人気だったし、誰とでも、そう、お姫様でも全然平気なんです。

 いつも誰とでも平気で話をしてノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所の副所長で、頼りにされているんです。

 私もお手伝いをしているけど、いいえ、私はお手伝いもままならない単なる人数合わせでしかない。

 一所懸命追いかけてはいるんだけど、どこかに行っちゃいそうです。


 読書も飽きたというか、頭に入らなくて、お母さんに内緒で部屋を出ました。


 フラフラと歩いてると、どこかわからなくなっちゃた。

 邸内が思っていたよりというより、意識してなかったこともあるけれど、複雑な構造になっていたためだ。


 小さなパーティーということなので、お客様はいないのかしら?


 でも、その内に警備の人に会えば、聞けるから焦る必要は無いのよね、と思うと心にゆとりが出てきた。


 どうせお昼まで暇だからとこの際だからと、邸内を見て回ることにした。


 グラグラと、とても大きな地震が発生した。

 狩りでレベルアップした体は丈夫になっていて、この程度の揺れなど、どうってことありません。


 あれ、魔力眼に何かが見えた。

 魔法力の漏れ?

 そっちに歩いていくと、なんだか魔素や魔法力がわずかだけど濃厚です。


 それをたどっていくと、あ、お城に行った時の金属の扉? それともよく似た別の扉かも。

 手で触れてみると、金属の扉が簡単に開いた。

 この先にセージちゃんがいるんだ、と思ったら、思わず足が出ていた。


 緑の通路を通ってお城の扉が。

 そこを通って、お城に来てしまいました。

 いけないと思ってもセージちゃんがいると思えば足が止まりません。


 警備の人が団体で向かってきます。思わず柱の陰に隠れて『隠形』まで使って隠れてしまった。


「全警備機構の総点検だ。一つのミスで城が危うくなることがある、シッカリと目を見開いて確認しろ」


 なんだか大変そうです。

 数人が分かれて、別の方向に走っていきました。

 時々小さな地震があるから警備の兵隊さんも大変だ。


 午後のパーティーの出席者でしょうか、廊下に出て確認してる人たちがチラチラ見える。

 当然その人たちからも『隠形』を使って隠れてしまう。

 魔法やスキルは便利です。


 セージちゃん何処かな?

 警備の兵隊さんに見つかったら、迎賓館に泊っていて、ミラーニアン公爵様にお昼に呼ばれています、と伝えることに決めている。ウソじゃないもんね。


 またもや警備兵が走ってきます。


 思わず外? 中庭みたい、かな?

 エルドリッジ市のお城でもそうだったから、きっと中庭でしょう。


 綺麗に手入れがされたお庭です。

 夏の花が咲き乱れています。

 マリーゴールドにペチュニア、ブーゲンビリア、ケイトウ、サルビア、ヒマワリと歩いていると気分が良くなってくる。


 でもセージちゃんはここにはいないよね。

 なんだかモヤモヤしていた気持ちが少しだけ落ち着いた気がする。

 そろそろ迎賓館に帰りましょうか。

 警備の兵隊さんにお願いすれば、連れて行ってもらえるでしょう。


 あれ、……泣き声?


 声を頼りに歩いていくと、私より少し小さな女の子が地べたに座り込んで泣いています。

「どうしたの」

 そーっと声を掛けてみました。


「こわれちゃったアアァ~ン」

 見ると手に持っていたと思われるものが、地面に転がっています。

 それを拾うと、あれ、何かが足りません。

 アンティークなオモチャでしょうか、明らかに、先端に何かが付いていた跡があります。


「何か無くなっちゃたの」

「…ウェ~ン…赤い球…エ~ン…」

 だそうです。


「お姉ちゃんと一緒に探しましょうよ。ね」

「デモ~…グッスン…」

「だいじょうぶ。見つけられるよ」

「…デモ~…グッスン…」


「直るか直らなないかはそれから。ね、探しましょう」

「ぐすん…うん」


 女の子を立ち上がらせると、膝部分のスカートが破れて膝をすりむいていた。服も砂やほこりで汚れている。

 泣いているときには夢中で気がそれていたけど、気づくとたった今痛み出したみたいに、膝を抱えてまたも、ビエ~ェ~ン、と盛大に泣き出してしまった。


「お姉さんがきれいにして、傷も治してあげるから」

「ビエ~ン……、ほ、ほんとう。…グスン」


「本当です。さあ、ちゃんと立って、ね」

「グスン。はい」


「じゃあ、いい、やりますね。……<ホーリークリーン>……<ハイヒーリング>……<リライブセル>」


 女の子が服から体まで魔浮力に包まれてキレイになる。

 膝が直ることはないが、血が止まってかさぶたになる。幾分だけど傷が小さくなる。


「もう痛くない」

「……うーん、チョット、チクチクするけどだいじょうぶみたい。

 お姉ちゃんありがとうございます」

 丁寧なお辞儀は、躾の良さを感じる。

 両家のお嬢様なんでしょう。あれ、またもやお姫様だったりして。……タラリと流れる冷や汗。


「さあ、無くなった赤い球を探しましょう」

「でもー……」

 女の子がオモチャの先端を悲しそうに見つめる。


「大丈夫。お姉ちゃん、魔法使いだから」

「ホント」

「うん、本当よ」

 ポシェットの中の水色の髪飾りを握りしめる。

 とはいってもファイクバッグを握っても髪飾りの感触はないんだけど。それはそれ、気分の問題です。


 二人で一生懸命に探したら赤い球がありました。

「ありましたよ」

 花壇の中、マンデビラの根元に転がっていました。


 拾い上げると女の子が嬉しそうに駆け寄ってきました。

 私の手の赤い球を目にすると、パーッて満面の笑顔になった。

 そして手に持った壊れたオモチャを「これ」と渡してきました。


 女の子と一緒にしゃがみ花壇の石に腰掛ける。


 青い豪華な髪飾りを外して、ポシェットの中の水色の髪飾りに交換する……と、何処からか甲高い女性の声が聞こえてきた。


「……ミク…様…」

 え、私、あ、お母さんのこと忘れてた。


「ミクティーヌ様ー」

 あ、私じゃないんだ。でもお母さん心配してないかな。


「それじゃあ、直すね」

 先端の赤い球を付けるのは“接着”だけで何とかなりそうです。


 意識を髪飾りに集中して……。


「ミクティーヌ様、ここにいらっしゃったんですね」

 え、え、このお嬢様がミクティーヌ様。


「モレアはチョットだまってって!」

「ミクティーヌ様、また一人で居なくなられて、お母様が心配されてましたよ。

 恐れ入りますが、ご迷惑をおかけいたしたのではないでしょうか」


 専属メイド? と思われるモレアさんに頭を下げられてしまった。


「いいえ、そのような事は有りません。一緒にいて楽しかったですよ」


「あ、ミクティーヌ様、また転ばれて、スカートに穴まであけてレディーがだいなしですよ。

 申し訳ありません。そのおもちゃはお借りしたオ・モ・チャ……では…」


 モレアさんが途中からチョットおかしくなりました。

 意味は充分に理解できましたが。


「お姉ちゃんがみんな直してくれるんだもん」

「そ、そうなんですか…」

「はい、約束しました」


「えー、こう申し上げては何ですが……あのー、私どもに専属の錬金術士がおりまして」

「そうですか。それでは」

 おもちゃをモレアさんに渡そうとしたら。


「お姉ちゃんに直してもらうんだもの。お膝だって魔法で直しちゃったんだから」

 スカートをたくし上げて、治療済みの膝をモレアさんに自慢気に見せる。


「治癒魔法をそのお年で、ですか」

「はい、そうですね」

「お嬢様は人族ですよね」

「ええそうですが」


「恐れ入りますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「ミクリーナ・ウインダムスです。迎賓館に母と友人と泊まっています」

「ことによりましたら海外のお方ですか」

「はい、自由共和国マリオンです」


「ミクリーナ・ウインダムス様、あらためてお礼に伺います。

 こちらはアマルトゥド侯爵令嬢のミクティーヌ様で、私はミクティーヌ様の専属メイドのモレアです」

 モレアさんが慇懃に礼をする。

 これでいいのかな。でもいいよね。


「さあ、ミクティーヌ様戻りますよ」

「いやー、お姉ちゃんに直してもらうの。約束したもん」

 スカートをつかまれてしまった。


「どういたしましょう」


 私は迎賓館に戻って、母と友人と一緒に一緒にミラーニアン公爵様の昼食に呼ばれている事、そして私は母に断りをしないままお城に来てしまった事を告げた。


 モレアさんからは、このオモチャはミクティーヌ様の母の友人から借りたもので、大切なものなのだそうだ。

 修理するにも気を使うと思われるものなので、申し訳あるマセンガお任せはできないということだ。


 それで相談した結果、ミクリーナ()の母とミラーニアン公爵様には使いを出し、ミクリーナ()がアマルトゥド侯爵家族の専用の休憩部屋にいる旨を伝えていただきました。

 これで一安心です。


 そしてどうやらセージちゃんの式典に出席していると思われるアマルトゥド侯爵夫妻を、ミクティーヌ様と待つことになった。


 アマルトゥド侯爵家族の休憩部屋でミクティーヌ様とお話をしながらくつろいでいると、またも大きな地震があった。

 ミクティーヌ様が怖がって、私にしがみついてきたので、

「怖くないよ」

 ギューッて抱きしめてあげました。


  ◇ ◇ ◇


 しばらくするとアマルトゥド侯爵夫妻が笑いながら戻ってきた。

 モレアさんが説明を終えたあと、紹介され、挨拶を交わした。


 ミクティーヌ様のご両親とはいえ、侯爵夫妻と聞いて緊張していましたが、かなり砕けた方のご様子。

 年齢も自分の両親をそれほど変わらないみたいです。

 胸をなでおろし、緊張を少しだけ、そう、ほんの少しだけ緩めて、会話ができそうです。


「ミクリーナ殿は、セージスタ殿と同い年で、ご友人だと」

「はい」

「お若いのに、治癒魔法を使い、娘の傷を治され、尚且つ妻の友人のオモチャまで魔法で直せると」

「はい。

 ですがモレナさんからお話を伺って、自分が直すべきではないと思いまして、ミクティーヌ様を説得していただいて、引き上げるつもりでお待ちしていました」


「ロキシーヌよ。いかがいたす」

 侯爵様が奥様に訊ねた。

「あのセージスタ殿のご友人が直せるとおっしゃっているのよ。

 わたくしは、ミクリーナさんに直していただけたら、いい話題になると思い、お願いいたしたいですわ」

「では、さっそく」

「あなた、お待ちください」

 そう言って、何やらモレナさんに何かささやいて、待つこと約一〇分。


 やってきたのはエルドリッジ市のフォアノルン家のロナルディア様の奥様になられた、ニルナール様のご両親のディンドン侯爵ご夫妻です。


 王様のお城ですから貴族だらけなのはわかりますが、とにかく驚いています。


 例のおもちゃを見せて謝罪の後、私を紹介してくださり、何とか挨拶を交わすと。


「セージスタ殿のご友人なら、安心してお任せいたします。

 よろしくお願いしますね」


 ディンドン侯爵夫人のネーザンス様から頼まれてしまいました。


「あのー、セージちゃん、あ、セージスタ君…」


「(クスクス)、セージちゃんね」

「はい。セージちゃんとは比べられるよな魔法はできません。このオモチャも壊れた個所をつなぐことはできますが、お気に召すようなできにはならないかと」


「それでもよろしくってよ。

 ミクリーナさんがミクティーヌちゃんのために直してくださるんでしょ。

 その気持ちに勝るものなんてありません。

 ぜひお願いします」


「そうですか…」


「まだ何かお困りなようね。いかがいたしました」


 ここまで来たら白状しましょう。そう決心しました。

「私は魔法のレベルは“3”です」


「すごいのね」

 本当にみんな――ミクティーヌ様以外――驚いていた。


「治癒魔法は全て私が習得したものですが、錬金魔法はセージちゃんに付与してもらった魔録霊石の六つの魔法しか使えません」


「ほう。セージスタ殿は錬金魔法も使えるのか」

 あ、失敗。

「あのー、申し訳ありません内緒にしていただけますか」

「おお、そうだな。ここにいる全員。許可なく公言しないと誓う。皆さんもそれでよろしいか」

 ディンドン侯爵の申し出に、全員がうなずく。

 私はホッと胸をなでおろす。

 でも、そういえば、魔法展覧武会で保護者の前で錬金魔法に光魔法、時空魔法とレア魔法を使いまくっていたセージちゃんに秘密って意識があるのかな?


「あのー、魔録霊石を使用した魔法でもよろしいでしょうか」


「ミクリーナさんはその魔法を使いこなせますか。使ったことはありますか」

「使いこなせるかと言われれば全然まだまだだと思います。

 使たことがあるかといえばあります。練習もしました」


 セージちゃんとの楽しかったことを思い浮かびます。


「練習は楽しかった」

「それはもう。セージちゃんと一緒に、魔法展覧武会に出るためにと頑張りました」

 ネーザンス様の優しい笑顔と声に頭の中のことを話してしまいました。


 ネーザンス様、笑わないでください。恥ずかしいです。


「魔法展覧武会? 興味をそそるお名前の会ね」

 あ、またもやしくじっちゃたみたいです。


 結局、魔法展覧武会でのキラキラプテランに、上位六人の特別選抜者の模擬戦と洗いざらいしゃべらされました。

 しゃべらなかったのはセージちゃんがワンダースリーのみなさんとダンジョンにテレポートしたことくらいです。


「これで心置きなくお願いできますわね」

「そうですね」

 公爵夫人の二人がやけに楽しそうです。

「それではよろしくお願いします」


「はい、わかりました」

 脱力感です。


 バレないように小さなため息を吐いて、自分自身に活を入れる。

 よしと!

「ミクティーヌ様、お姉ちゃん直すね」

「うん、お願い」


 簡単に“接着”だけじゃダメだ。

 エルガさんやリエッタさん、セージちゃんは…うーん…あんまり参考にならないか。

 あとはポラッタ夫妻にライカちゃんとモーラナさんの錬金を思い出して。


 よし。

 両手の手のひらの上のオモチャに、

「<ホーリークリーン>」

 まずは汚れ落としからだ。


 オモチャの本体を右手に持って、赤い球を左手に持って、位置と角度を調整して、意識を集中して結果を頭に思いっきり描いて、

「<接着>」


 結果を見て満足だ。

 まだ仮の接着だけど、ほぼ思った通りだ。


「<成型Ⅱ>」

 微調整をして、いろんな角度で見たけど、あれ。

「<成型Ⅱ>」

 もう一度微調整。

 うん、これで微調整が完了しました。


「<接着>」

 よし。

 完全に接着した。


「<結合強化>」

 再確認と、接着具合の確認よし。


「<研磨>」

 ざらついた箇所を滑らかにして本当の完成だ。


「申し訳ありません。私のできることはここまでです。セージちゃんなら色まで直せると思うんですけど」

 どちらに渡そうかと思ったけど、持ち主だよねと思って、ディンドン侯爵夫人に渡した。


 じっくりと観察するディンドン侯爵夫人の視線に、私の心臓の音がドクン、ドクンと大きい音で鳴り響きました。


「これはわたくしが亡き母からもらったオモチャで、大切にしまっていたものなの」

 亡き母⁉

 そんな大切なものを…。今更ながらビックリです。


「まあ、忘れてしまってたのですが。

 それをミクティーヌちゃんに見つけられちゃたのよね。

 赤い球はグラグラしていて随分と痛んでいたんだけど、新品のようね。

 素晴らしい魔法技能ね。本職の錬金魔法士と見間違えるほどよ」


「そんなことありません。セージちゃんならほんの一瞬で綺麗に直しちゃいますから」

「そ、そうなの」

「はい、本当です!」

「セージちゃんはきっと神様に愛された魔法士ね」

「はい」

 本当のそうだと思います。


「でも、ミクリーナさんも素敵な魔法士よ」

「ありがとうございます」

 褒められて思わずお礼を言ったけど、お世辞だよね。


 ディンドン侯爵夫人が私にオモチャを返してきて、視線でミクティーヌ様に渡しなさいと伝えてきた。


「ミクティーヌ様、直りましたよ」

「わーい、ありがとう」


「ミクリーナさん、ちょっと気になることがありますが、答えられたら答えて下さいね」

「は、はい」


「どこに魔録霊石をお持ちなの?」


 言っていいものかチョットだけ迷ったけど。

「ここです」

 髪飾りを指さしました。


「この髪飾りをセージスタ殿がか」

「いいえ、元はタダの髪飾りだったんですけど、魔録霊石を隠すためにセージちゃんが豪華にしちゃったんです」


「六つの魔録霊石が隠されているのよね」

「はい」

「ミクリーナさんは、魔録霊石を手に持たずに髪飾りの六つの魔録霊石を使い分けたのよね」

「…はい、それが何か⁉」


「マリオン国の子供はみんなこのレベルまで魔法を習うのか」

「たまたま、いや必然的に二人が呼びあったのではないのか」

「いや、姉や友人もだぞ」

「有能な者は有能な友を呼ぶ、ということか」

「そういうことだろう」


 ディンドン侯爵様とディンドン侯爵様がひそひそとお話ししだして胡散臭いです。

 聞き耳を立てるのも、公爵様に失礼ん当たるし…。


「そのような顔をしないの。

 ミクリーナさんは可愛い素敵な魔法士だってお話しをしてるのよ」

「そうなんですか」

「そうです。おじ様たちのくだらないお話はどうでもいいのよ」


 なんだかだまされたような気がするんだけど。


「ところでセージちゃんの叙勲式はいかがだったんでしょか。

 セージちゃんのことだから変なことはしなかったでしょうか」


「あれは傑作、失礼、前代未聞、まれにみる素敵な叙勲式だったわ」

「そうでしたわね」

 公爵夫人の二人の瞳が泳いで、公爵様二人が吹き出した。


「あのー、何をやらかしたのでしょ(痛)うか」

 ここは怖くてもきかないわけにはいきません。

 気が動転していて舌を噛んじゃいました。


「それはご本人からじっくりと」

「そうですね。情け容赦なく聞いてさしあげてください」


「あのー、罪になるようなことは」


「それはまったくありませんね」

「痛快無比な叙勲式でしたもの」


 混乱するばかりです。と思ってるとミラーニアン公爵様から昼食のお誘いがきてしまいました。

 何でもできるし、頼りになるし、本当にできないことが無いじゃないかって思うんだけど、時々、あれっ、絶対かな? とにかくとんでもないことをやっちゃうのんだよね。


  ◇ ◇ ◇


 お城にはいくつかの食堂があって、その一つで食べることになった。

 ミラーニアン公爵夫妻と、そのご子息のドラホーナーダさんと奥様に、お孫様たちが同席する。

 右を見ても左を見ても貴族ばかりだ。


 そこで叙勲式の騒動を口ごもるセージちゃんに代わって、ミラーニアン公爵様が教えてくれました。

 唖然では収まらない、愕然状態でしばらく魂が飛んでいたのか、記憶が無くなったほどです。


 セージちゃんたら、もうー!

 想像の遥か彼方です。


 挙句、何やら私のことがミラーニアン公爵に伝わって、魔法士だって改めて紹介されてしまって、恥ずかしかったです。

 魔法を所望されたので<イリュージョン>をお見せする羽目に…。

 ビックリされていましたが、セージちゃんに比べたら、魔法ができるなんて言えません。


  ◇ ◇ ◇


 ズーディアイン殿下の内々の婚約披露パーティーは素敵なパーティーでした。

 婚約者のマキリューヌ・アマルトゥド様もとてもきれいでした。

 兄や姉にミリアさんのいなくなったお城のパーティーでは、セージちゃんやお母さんと離れたら一人ぼっちだと思っていました。


 ところがキフィアーナちゃんやカレリーナさんに引っ張り回されるわ、プラティーナ皇太子妃殿下――キフィアーナちゃんやカレリーナさんのお母様――にも声を掛けられ緊張もしました。

 アマルトゥド侯爵夫人のロキシーヌ様にも気楽にお話をしていただき、ミクティーヌ様にはセージちゃんを紹介したりもしました。もちろんアマルトゥド侯爵ご夫妻もです。

「ミクティーヌもミクちゃん!」って言うんだけど、「ミクティーちゃん」て呼ぶのが精いっぱいだった。なんか自分を呼んでるようで戸惑っちゃうし、恥ずかしいじゃないですか。

 セージちゃんなんか「ミニミクちゃん」なんて面白そうに呼んでるんですよ。どんな神経をしてるんだか。しつれいしちゃうったら。もー、プンプンです。


 さすがにアマルトゥド侯爵ご夫妻は婚約者のご両親ということもあって、忙しそうに挨拶をしていました。

 それでも私のところにわざわざ来てくれて、お母さんとセージちゃんを紹介できました。


 ミラーニアン公爵ご家族の皆さんには常に気を使っていただいてたようです。

 知り合いがいるって心強く、楽しいですね。


 ロキシーヌ様に連れられて、可愛らしい魔法士さんよ、ってご友人に紹介された時には、恥ずかしくて逃げ出したくなりました。


 ダンスもセージちゃんだけでなく、色々な人と踊れました。

 ただ、足を二回踏んじゃいました。

 その内の一回はズーディアイン殿下の弟の、ザーホッサン殿下の足です。

 笑って許してくれましたけど、罪に問われないですよね。


 ちなみにセージちゃんは相変わらずモテモテで、王女様ともワルツもチークも踊ってたし、引っ切り無しに踊って楽しそうでした。

 もっとセージちゃんと踊りたかったな。

 ワルツも素敵だけど、チークダンスもまたセージちゃんと踊ってみたいな。


 あとは、フォアノルン伯爵(シュナー伯父様)の代理として、新婚のロナルディア様ご夫妻が出席されました。

 新婚のご挨拶に王都に来たんだそうです。


  ◇ ◇ ◇


 疲れた体にはベッドは魔法です。

 あっという間に、夢の世界でした。


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