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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
王都ミラーノ編
107/181

104. 叙勲式


 九月三日黄曜日。


 王様が納得したからって直ぐに叙勲式が行えるわけじゃない、昨日の時点で三日後ですね、とのことだった。

 要は九月五日白曜日が叙勲式だ。

 時間は追って知らせてくれるそうだ。

 きっとお礼や挨拶もあるだろうから、王都を立つのが七日の赤曜日だとしても、二週間あればオーラン市にはユトリとはいえないけど、学校が始まるまでに帰れるだろう。

 伯父様のへの挨拶――行き違いもあるけど――も、出航待ちで行えそうだ。


 だから今日は終日、暇だと思ってたら、襲撃があった。

 それも立て続けというか、ほぼ同時に。


 ガイアディアさんが僕の部屋に駆け込んできて、「稽古をつけてくだされ」と土下座。


「あのー、立っていただけませんか」

「それでは早速」

「イヤイヤ」

「そこを曲げて、是非にとも」

 鬼気迫る土下座が脅迫になるって始めて知ったよ。


「警護はいいんですか」

「本日は、願い出てお暇を頂いた」

 そりゃー、そうか。


 バタンと扉が開くと、

「セージ、買い物に付き合ってあげるわ」

「キフィアーナ! セージスタ君にもご都合がありましてよ。

 セージスタ君、ご機嫌よう」


「ハイ、オハヨウゴザイマス」


「兄上たちも、キフィアーナを甘やかしすぎです。

 何とか言ってください」


「そうはいってもなー」

「…僕には無理だ」

 引っ張ってこられたのかズーディアインさんとザーホッサンさんも困惑&迷惑気味だ。


 騒ぎを聞きつけたのか、ミクちゃんにマールさんもやってきた。当然レイベさんもだ。


 結局、僕の都合は完全無視で、まずは昨日の地下の練習闘技場でガイアディアさんと模擬戦をこなすことになった。

 ガイアディアさんは昨日と違って、模擬戦用の厚みのある長剣にヒーターシールドに、防具は完全武装だ。

 しかたないので、僕もフル装備で相手をする。木刀の予備くらいは何本かはあるしね。


 木刀には魔法力をマシマシで流して強化しておく。昨日みたいに折りたくないしね。


 ギンガンバンゴン……。

 昨日と一緒で攻撃魔法は無しだ。

 魔法まで使うと危ないからね。


 何度も休憩を入れながら二時間が経過した。

 これだけ稽古ができるのも、レベルアップの恩恵で体の細胞自体から強化されているからだ。


 ズーディアインさんとザーホッサンさんの二人が、稽古を食い入るように見つめる中、

「はい、それまでよ!

 セージ、買い物に行くわよ。ミクも一緒ですからね」

「セージスタ君、ミクリーナさん、謝罪しておく」


 ミクちゃんだけでなく、マールさんもあきらめているようだ。


「稽古ありがとうございました。また明日もよろしくお願い申す」

「は、はい、こちらこそ」

 疲労感より、明日のことを思うとガックリと肩が落ちる。

 まあ、面白いんだけど、ガイアディアさんの生真面目さとひたむきさにチョットね。


 更衣室で<ドライ><ホーリークリーン>で、綺麗サッパリと汗を落として、着替えも済ませる。


 ズーディアインさんとザーホッサンさんが、ガイアディアさんと一緒に戻っていった。

 雰囲気からするとズーディアインさんとザーホッサンさんは付き合いきれんといったところだ。


「昼前に出かけてレストランへ」

 僕とミクちゃんとキフィアーナちゃんに、

「貴方に振り回されたらかわいそうです」

 カレリーナさんが付き合ってくれての総勢四人だ。

 もちろん護衛付きだ。


「姉上、護衛いりますか」

「必要に決まってますわ」

「だってセージより強い人っていないんじゃないの」

「そうかもしれませんが、女子供が四人でフラフラと散策するところを、ごろつきが目にしたらどうなります」

「セージにコテンパンにされる」

 自分のこととはいえ、思わず笑ってしまった。

 ミクちゃんも吹き……、こらえて出さないか。

「飛躍し過ぎです。抑止効果にも護衛は必要ですわ」


 子供だけで出かけるんだから、と言い張るキフィアーナちゃんに根負けして、マールさんは昼食を食べた後に、レイベさんと一緒に買い物に行くそうだ。

 僕もそっちの方がいいんだけど。


 料亭みたいなところで食事。

 魚の照り焼きに、蟹に、筑前煮などの純和風っていう食事だった。

 魚と蟹は海のもの。海の無い王都では、海産物は高級だってわかるけど、僕は肉の方が良かったんだけど。

 さすがにお刺身はなかった。

 蟹って食べるときにどうしても無口になっちゃうよね。

 一人だけ例外はいたけど。


 ショッピングに繰り出した。

 午後だから市場を見たけどかなりの数のお店が引き上げちゃったみたいだ。

 お、小豆じゃなかった、あんこ発見。

 粒あんにこしあんの団子、みたらし団子に胡麻団子。

 なつかしさに買って食べた。粒あんにみたらしだ。

 ミクちゃんも美味しそうに、キフィアーナちゃんはやや豪快に、カレリーナさんはみんなが食べるのをしばらく眺めてから恥ずかしいそうに食べた。


 ここでもお土産や食べ物を物色したんだ。


 渡す先は家族とN・W魔研の従業員だ。

 学校の友達に同じ国の物を二つもねってことでそうなった。

 

 ポチットムービーも活躍中だ。

 キフィアーナちゃんやカレリーナさんが多少は映り込むけど、本人がいいっていうし、キフィアーナなんかよく写り込んでくるし、僕からポチットムービーを奪っては撮りまくるしだ。


 そしてなんとポチットムービーの予備があることを漏らしたら一台奪われました。

 普通の映像機より小さいから扱いやすいんだ。

 次いでだから画像記録魔石(ピクチャーコア)も一杯あげました。

 汎用のピクチャーコアで録画するから、汎用の映像機で見られることも教えた。


「私のは無いのですか」

 ってカレリーナさんに言われててもなー。

「今度贈ります」

 それしかないよね。伯父様に送って、それから渡してもらおう。


 夜マールさんに相談したら、礼状を付けて二〇台贈りましょう、とのことだった。

 これが商人の逞しさか。早速、量産を、ってうきうきしてた。


 途中から僕らのショッピングが、キフィアーナちゃんのショッピングに変化して散々連れまわされたのは想定済みだとはいえ、疲れました。


  ◇ ◇ ◇


 夕食はお城の皇太子一家の晩餐に招待されて、緊張しながらの食事だった。

 気を使われると、逆に気を使っちゃうよね。


  ◇ ◇ ◇


 九月三日黄曜日。

 ガイアディアさんとの朝練が終わらない。

 結局お昼で終わった。


 お昼を食べ終えると、ミラーニアン公爵が迎えに来た。

「今日はわしが仰せつかってな」

 キフィアーナちゃんは?


 訳も分からず僕だけ連れていかれた場所は、国立魔法研究所だった。


「好きなだけ見るが良い。感謝の一環じゃよ」

 そう言って解放してくれたのは、国立魔法研究所の資料室だった。


「いいんですか」

「ああ、ただしここはお試しで作った魔法陣やその資料の保管庫だ。

 そのままでは利用価値の低いものばかりだ。

 気にせず存分に見るが良い」

「ありがとうございます」

「わしは帰るが、何かあれば、この者に申し伝えよ」

 そのための警備兵と、年齢からすると学者見習い? 研修生? が僕に付くんだ。

 資料の閲覧や困ったことに手を貸してくれるんだろうけど、他の部屋に僕が立ち入らないようにの監視でもあるんだろうな。


 遊びなのか“水鉄砲”って思って資料を読んでたら、初めて見る“高圧”の魔法陣との複合魔法、“高圧水流”の魔法になっていって、水流切断で木や金属の切断の考察で締めくくられていた。

 高圧水流はほんの数十センチメルしか保てないから、攻撃魔法にはなりえないし、手間暇かけてカットするのなら錬金魔法に頼った方が簡単だ。あくまでも魔法科学の考察のために作られた魔法陣だった。


 初めて見る“砂塵”の魔法陣だけど、その“砂塵”に“高速振動”で電気を発生させる実験。


“高圧”の魔法で熱の発生の実験報告。


 中には錬金魔法の“硬化”と“軟化”の二つの魔法の相殺効果の観察、なんて報告書もあった。


 面白そうなものから、役に立たなそうなものまで、種々雑多だ。

 ここから必要なものを見つけるのは大変そうだってことで、片っ端から読み始めた。


 いくつもの魔法陣を発見した。

 さすがマジカルボルテックスの先進国だけあって、一番多かったのは電気魔法の“ボルテックス”の亜種で、形状が違っていたり魔法記号が違っていたりとだ。

 その前段階の火魔法の亜種もかなりあったし、水・土・風魔法の亜種は少なかった。


 あとは“高圧”と“高圧縮”の似たような魔法と、それを利用した“水鉄砲”や“高圧水”。

 前出した“砂塵”。

“集光”は“サーチライト”にどこか似通った魔法陣だ。

 振動を低減させる“振動減衰”。

“レビュテーション”によく似た魔法陣の“浮力”に“ホバー”。

“イリュージョン”に固有・固定機能を持たせた“残像”。


 非常に有意義な午後だった。

 いつか個人魔法だけじゃなく、精霊文字と精霊記号を整理して、新しい魔法陣を作ってみよう。


「ミラーニアン公爵、ありがとうございました」

 多分、こっちがお城だろう。深々と頭を下げた。


 あ、当たらいい魔法思いついた……けどできるかな?


 夜さっそく、今まで得た知識を総動員して魔法陣を作成してみたけど、魔法は流れるんだけど、うまく発動しなかった。

 何度も何度も繰り返すうち、ほんのちょっぴりだけ発動したけど、魔法って呼べるものじゃない。

 それでも満足して眠りについた。


  ◇ ◇ ◇


 九月五日白曜日、叙勲式だ。あー、気が重い。

 朝早くからお城に連れてこられた。

 和服の着替えに付き合ってくれた、マールさんも先ほど迎賓館に戻っていった。


 ボーッとしていたら震度四かと思える大きな地震があった。

 その所為で、急に場内がバタついている。


 その騒動も収まったようだ。

 案内の執事に連れられ、謁見室の扉の前に来た。


「自由国家マリオン国、技術促進担当議員ベッケンハイム・ノルンバック様ご令息、セージスタ・ノルンバック様ご入場ー!」

 正装のエキゾチックな柄の着物、亜熱帯なためか軽く薄い素材の家紋付きの着物に袴。


 言われていた通りに直進して止まる。

 そして立礼をする。

 頭を下げたまま待つと、


「セージスタ・ノルンバック殿、(おもて)を上げよ」

 ミラーニアン公爵の言葉が謁見の間に響く。

 言われたとおりに頭を上げる。


「自由国家マリオン国、セージスタ・ノルンバック殿。

 さる八月一九日赤曜日のフォアノルン伯爵家嫡子ロナルディア・フォアノルンとディンドン侯爵家長女ニルナール・ディンドンの婚儀披露パーティーの際、あまたの賊の襲撃から王家ジルバトゥーン・ヴェネチアン皇太子殿下家族並びにパーティー列席者を守り、賊を返り討ちにした武功は称賛に値する。

 よって、ヴェネチアン国はセージスタ・ノルンバック殿の武功をたたえ、感謝と友好にしるしに銀鷲章の授与と、太刀一振りを贈るものとする」


「有難きお言葉、感謝いたします。

 謹んでお受けいたします」


 一礼をする。


「セージスタ・ノルンバック殿、前へ」


 頭を下げ気味にしながら前進。

 余震かな。小さな地震がまた在った。さっきからチョコチョコと小さな余震が続いている。

 階段の手前で停止。

 勲章を付けてもらって、双頭の竜の紋章が入った太刀一振りを受け取ればおしまいだ。


 あとで教えてもらったことだが、双頭の竜の紋章には基本三つの形がある。

 王族の付ける紋章は双頭の竜の顔が外側の上向きとなっている。

 国家や近衛兵などが持つ旗の紋章は竜の顔が外側を向いているが真横を向いている。もちろん王が居れば上向きとなる。

 そして下賜品は竜の顔が内側を向いている。

 だから下賜品を振りかざしても、権力が震える訳じゃない。


 伯父様からもらった小太刀の銀蒼輝の女神の紋章も、顔の向きが違うんだってさ。


 ヴェネチアン王が立ち上がろうとしたとき。


「陛下、お待ちくだされ」

「クラーベン卿、何かな」


「おかしくはありませんか」

「何がじゃ」


「このような子供が賊から王太子殿下の家族を守ったなどの世迷言を誰が信じられましょうか」

「陛下、わたくしもクラーベン卿と同じように思えてなりません」


「イーリガル卿もですか。それにディストール卿にアルドルフ卿もですか」


「陛下、いかがいたしましょう」


 王様とミラーニアン公爵、なんだか困ったようには見えないんだけど。


「そうじゃな。ちょうどよかった、わしも困っておったんじゃ。

 いくら証人がいる。せがれ夫婦や家族も救ったからといって、八才の子供が信じられんでな」


 な、なんですTOー!


「それで目の前で試したいと、ミラーニアン卿に相談したのじゃが、他に疑念が出るようでしたらその者たちの協力で確認するのが良いと助言されたのじゃ。

 疑問を持ったその方らなら、不正を働くこともなかろう。

 どうじゃ、協力してくれんかの」


 こりゃー断れないよね。

 あ、でも相手をするのって、僕だよね。


「喜んで」「おおせのままに」「御意」「謹んでお受けいたします」


「ミラーニアン卿、やはり疑念を持つ者がおったじゃろう」

「ご慧眼恐れ入ります」


「ところでどのように確認するのじゃ」

「用意したものをこれに」


 な、何をやるの…かな。ゴクリ。


 え、ええー。なんでそんなに。


 侍女たちが、紙風船の山を、台車に乗せて運んできた。


「セージスタ殿と卿たちにご用意を」


「失礼いたします」

 成すがままにしていると、頭と左右の肩にクッションと紙風船が取り付けられた。

 見ると四人の卿たちもだ。


 そして「こちらを」と紙を丸めた長さ一メルほどの剣だよね。


 ガックリと脱力感。


「陛下のご前、しかも謁見の間で刃物は抜けません。

 何かないかと考えた末、紙風船割がよろしいかと進言いたします」

「ほう、どうやるのじゃ」

「手にした紙の棒を剣に見立て、相手の紙風船を割れば切ったとみなします」

「先に三つを割れば勝ちか、いや切ったことを考えると一か所を割れば終わりか」

「ご賢察恐れ入ります」

「うむ、卿たちもそれでよろしいか。

 セージスタ殿の紙風船を割れば卿たちの勝ちとして、今回の叙勲は考え直そう」


「普通の紙風船は柔らかく、素早く動くとしぼんでしまいます。

 この紙風船は多少頑丈に作っておりますので素早く動いてもしぼむようなことはございません。

 そのため強く、強くたたく必要がございます。

 クッションがあるとはいえ、叩かれれば衝撃があるかと思われますので、ご容赦ください」


「セージスタ殿、目にも見えないほどの最速で紙風船を割ってくだされ」

 ミラーニアン公爵が耳元でささやいた。

「いいんですか」

「ああ、かまわん。高速戦闘が得意なんじゃろ」

「いえ、そんなことは」

「謙遜せんでもよい」

 にらんだら。

「よろしく頼む」

 肩を叩かれ、ウインクが返ってきた。

 どうなっても知りませんよ。


<身体強化>『並列思考』『加速』『レーダー』

 身体強化は現在のMAXのレベル11――身体魔法のレベル12――のマシマシだ。いいのかこれで。


「最初に異議を唱えたクラーベン卿からどうぞ」

 クラーベン卿も覚悟を決めたようだ。


 三メルほどの距離を取って対当する。

 盾がないから半身の構えで紙の棒を突き出してくる。

 こちらは正眼の構えだ。


「それでははじめー!」

 パーン。

 肩の紙風船がつぶれたクラーベン卿が、ドサリと尻もちをつく。


 一瞬で踏み出して突きで割った。

 そして元の正眼に戻っている。

 痛みも何も感じないはずだけど、本当にこれでいいのか?


「クラーベン卿、一人で紙風船を割って倒れるとは陛下のご前で何たる失態。

 紙風船を付けなおして、もう一度お願いいたす。

 クラーベン卿が付けなおすまでにイーリガル卿。お願いいたす」


 イリーガル卿が前に出る。顔は蒼白、体が震えている。

 僕の動い見えてたのかな?


「はじめー!」

 パーン。……ドサリ。

 これって虐めじゃないよね。


「イリーガル卿も悪ふざけか。もう一度お願いいたす。

 ディストール卿」


「おう」

 大柄なディストール卿は敵意むき出しだ。

 こんな人の方がやりやすい。


「はじめー!」

 パーン。

 倒れることはなかったけど、何があったかわからなかったみたいだ。


 警護の近衛兵の中には僕の動きが見えた人がいるみたい。

 目が見開いているんだもん。


「卿たちは全員ふざけておられてるのか。次はふざけないようにお願い申す。

 アルドルフ卿」


 恐る恐る前にでる。構えも何もあったものじゃない。

 しきりに紙風船を気にしている。


「ただの紙、先ほども申し上げたが、紙風船にしてはやや厚手の紙で作った紙風船だが」

 それはアルドルフ卿もわかっていることだろう。


「よろしいか」

 アルドルフ卿が、仕方なさそうにガクガクとうなずく。


「はじめー!」

 パーン。……ドサリ。


 周囲を見回し、割れた風船を見るけど、何もおかしいところは見当たらない。


「アルドルフ卿もか」


 もう一巡するも同じなのは当たり前。

 居並ぶ貴族の中にはセージのことがある程度見えている人がいたとしても、発現するものは皆無。

 近衛兵の中にはもっといるけどもちろん声を出すものはいない。


「その方ら陛下のご前をたばかるか」


「「「「滅相もございません」」」」

「セージスタ殿の腕前は充分堪能いたしました。なあそうだろう」

「た、確かに、英雄に値する強さだな」


「戦ってもいないのに、何を申しておる」


「ミラーニアン卿、そう攻めるな。四人の卿たちは、戦場にも立ったこともない者たちだ。

 紙の剣でも恐ろしいのであろう。

 卿らよ全員でセージスタ殿に掛かるのはいかがじゃ。

 セージスタ殿、スマンが相手をしてやってくれ」


「かしこまりました」


 四人とも泣きそうだ。

 大丈夫か。


 四人が整列する。


「はじめー!」


 四人が僕を周ってユックリと取り囲む。


 スパパパ…(ぐらり)…パン。

 丁度、地震が発生。


 飛び散る風船の残骸、固まる四人。

 口をポカンと開けて、目を見開いて僕を凝視してくる。


 グラグラと続いていた地震が止まる。

 朝の揺れ戻しか、震度三程度と大きな地震だ。


 さすがにここまでやるとバレるよね。地震を気にして止まっちゃたし。


「卿たちまたもですか」

 よくもまー、シレーッと。


「イヤイヤ、ミラーニアン公爵、今のをご覧になられたでしょう」

「そ、そうです。陛下我らの思い違い、勘違いだったことがよくわかりました」

「クラーベン卿やイーリガル卿の奏上する通り、我らの間違いをお思い知りました」

「陛下、誠に申し訳ないことでした」


「何? 思い違いと? セージスタ殿はそれほどに強いか」


「「「「はい」」」」


「余はよくわからぬのだが。卿たち申しわけないがもう一度たのむ」


「滅相もございません」

「はい、もう充分、いえ十二分にも堪能いたしました」

「魔法力切れで動くこと叶いません。ご容赦のほどを」

「平に、平に、ご容赦をお願いいたします」


「そうか、それほどにセージスタ殿は強いか。相分かった。

 ミラーニアン卿、セージスタ殿の銀鷲章の奏上書に卿らの記名も願い出るがよろしいか」


「「「「は、よろしくお願いいたします」」」」


 茶番は終わって、僕の胸には銀鷲章と、手にはハイパータイト――アダマンタイトとミスリルの合金――製の刃渡り八五センチメルの太刀が握られていた。

 今は使いこなせないけど、将来は使いこなして見せる。

 ハイパータイトは赤味を帯びた銀、“赤銀輝”として将来活躍する太刀だ。


「陛下、セージスタ殿は、ダンスもまたたしなまれるとのこと、お誘いしてはいかがかと」


「それは良いな。

 セージスタ殿、午後に内々のパーティーがあるのじゃ、王都に一緒に参った者ともども出席せぬか」


 まだ茶番続くの? 断っちゃダメだよね。

 まあ、きっとマールさんたちには連絡が行ってるんだよね。


「有難き幸せ、お受けいたします」


  ◇ ◇ ◇


 昼食をミラーニアン公爵に誘われた。

 マールさんとミクちゃんも一緒だ。

 ただその前に僕とマールさんとに話があって三人で会話となった。


 パーティーの件の再確認は早々に終わる。

 内々のパーティーとは、お孫様であるズーディアイン殿下の仮の婚約披露パーティーだそうだ。

 親しい貴族に披露してから正式発表、正式な婚約披露パーティーを虚構という手順だそうだ。

 セージにとっては、貴族めんどくさい、だ。


 叙勲式の茶番を説明されたマールさんは呆れ果て目が厳しくなる。


「セージ君が恨まれることや、ノルンバック家に恨みが向かうことはございませんか」

「そのようなことが無いように計らうから心配しないように」


 四人は手を結び、何かにつけて金に汚く、国政にいちゃもんを付けては、税金をくすねようとするこものだ。

 脱税の証拠もあって、これから厳罰に問うそうだ。

 その前の陛下の意趣返しなんだそうだ。

 ミラーニアン公爵は言及しなかったけど、なんとなくだけどギランダー帝国の匂いがしたような気がした。

 厳罰に問えるってことは今回のエルドリッジ市の騒動で何か証拠が出たってことじゃないかな。雰囲気としては脱税にしては四人もそろって罪が重いような気がする。

 伯父様、早く王都のミラーノ市に来ないかな。


「今後のことだが、あくまでもこのヴェネチアン国民でのことだが、銀鷲章を叙勲されたものは、陛下と狩りに行って魔獣を献上することになっておる」


「それはセージ君もですか?」


「いいや、他国の者は除外されるのだが、陛下がいたく、そのな…」


「セージ君を気に入ったと」

 

「そういうことだ。ぜひ説得してほしいと頼まれてな」


 狩りは三日後。

 僕の都合もわかってくれていて、エルドリッジ市へは王家の魔導車で移動、船も商船でオーラン市に向かう船があるから、それを調整して乗せてくれるんだそうだ。

 ことわれないよね。


「セージ君いいですか」

「はい」

「よろしくお願いいたします」


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