102. 王都へGO
八月二一日黄曜日、皇太子殿下に呼ばれたので、しかたなくパパに同伴をお願いして迎賓館の特別室におもむいた。
「公式な場ではないのでかしこまらなくてよろしい」
ジルバトゥーン皇太子殿下に、どうぞ、と着席を勧められた。
隣にはプラティーナ皇太子妃殿下に、ご子息とご息女と、
「キフィアーナちゃん⁉」
思わず叫んでしまった。唖然である。
「セージ、こんにちは」
あっけらかんと、キフィアーナちゃん。
一番上にお兄様がいるそうで、キフィアーナちゃんは次女で四番目の子供なんだって。
王族はめんどくさいことに、一家そろっての旅行はないんだって。誰か一人は王都に残ってもしもの時でも血脈は残るようにするんだって。
うわー、めんどくさい。
それにカレリーナさん、確か三番目? 確かキフィアーナちゃんの次に踊らなかったっけ。
長女なんですか。
あとでミクちゃんから聞いたことだが、ホワイトホールで飛ばされた後、僕とよく踊っていた子が皇太子殿下を“父上”と呼んでいてびっくりしたんだって。
その子がまたしてもダンスのパートナーとして僕のところにきた時には、対応できずにパニクっちゃったんだそうだ。
道理で“ギョッ”としてたわけだ。
改まって、
「セージスタ殿には助けられた。感謝する。ご尊父もさぞや自慢の子供だろう」
「恐れ入ります」
「は、はい」
「緊張せずともよい。普通に話して構わん。
それでだな、セージスタには“銀鷹章”と太刀一振りを贈りたいと思っておる」
「感謝の至りと存じます」
「あのー、ギンワシショウってなんですか」
パパはかしこまってお辞儀をするけど、僕は意味不明だ。
「ああ、ノルンバック殿は元ヴェネチアン国の貴族だったが、セージスタはヴェネチアン国については何も存じ上げないか」
「勲章よ」
「これ、キフィアーナ」
「申し訳ありません」
やーい、ママさんの怒られてやんの。
「武功に優れた活躍をした者に贈られる勲章だ。
アダマンタイト竜章、金鷲章、銀鷹章と武勲としては一番下になるが、それでもヴェネチアン国では下級名誉貴族として序される」
めんどくさい奴だ。
「僕、マリオン国が好きなんですが」
「ハハハ…。すまない勘違いさせてしまったか。
ヴェネチアン国王民であれば、順男爵に序されるが、セージスタ殿に何も国民になれということではなく、ヴェネチアン国王への謁見の資格得られるという程度だと考えてくれればよい。
爵位も順男爵相当で、他国の商人などにも取引のために、たまにだが振るまうもので、何かを強制するものではない。
旅行で王都に寄ったら、顔を出してくれると嬉しいといった代物だ」
パパに顔を向けると、うなずくのだ。
「わかりました、お受けいたします」
◇ ◇ ◇
今回の襲撃は。ワンダースリーの警備までが筒抜けになっていて、用意周到だったっていう伯父様の見解だ。
ファントムスフォーの四人のうちの三人がワンダースリーを引き付け、けん制し、皇太子殿下から引き離す。
残った一人が、ってことだったってことだ。
主目標は皇太子殿下だと思われるけど、伯父様やロナーさんも標的だったみたいだ。
天井から落下したテロリストたちは精神操作が行われているようで、詳し情報は知らないのか忘れ去られたのかってことだそうだ。
それでも数名がホンタース王子の関係者だってことだから、ギランダー帝国の差し向けた暗殺者だってことは、ほぼ判明したんだって。
もうしばらく時間を掛ければ情報が得られる可能性も無きにしも非ずだけど、可能性は半々ってところだそうだ。
その後の調査でドラボーン侯爵は重装備の船で乗り込んできていた。
結婚披露パーティーの騒動が発生した後、その船は出航の許可も取らずに出ていったんだって。
ファントムスフォーは気配さえないので、その船に乗って引き上げたんじゃないかってことだ。
ドラボーン侯爵の船で来たんなら、潜伏場所の手配も難しいだろうからそんなものだろう。
◇ ◇ ◇
何でこうなった。
八月二三日白曜日、皇太子殿下の控えの魔導車に乗っている。
それもミクちゃんと、ママさんのマールさんと、キフィアーナちゃんに長女のカレリーナさんも一緒に乗り込んできた。
あ、あとは護衛のレイベさんもいる。
もちろん運転手と助手席には護衛が乗っているので六人だけということはない。
荷物は僕はアイテムボックスがあるし、フェイクバックもある。
マールさんもビジネス用ソロボックスにフェイクバッグもあってミクちゃんの着替えも入っている。
レイベさんもN・W魔研の社員になってから僕からのプレゼントのフェイクバッグがあるから四人の荷物は極端に少ない。
それを知ってキフィアーナちゃんとカレリーナさんが乗り込んできたんだ。
◇ ◇ ◇
昨日の話し合いでは王都で叙勲式が執り行われるからと、招待されたんだ。
勲章ともなると本人でないと都合が悪いっていうんだ。
パパは議会に緊急案件があって帰還しなくっちゃいけない。それはウインダムス議員も同様だ。
ママが同伴するってことも考えられたが、ホイポイ・マスターの納品が九月の中旬だ。
パパがマリオン市に行けないのでN・W魔研の役職上もママが望ましいが、それだけならマールさんにお願いしてもいい。
問題なのが、エルガさんにリエッタさんが同行するから技術的には何も問題はないが、そのエルガさんの天才っぷりに付き合うとなると、常に同じ家で住んでいるママの方が対応可能だ。
あとは小型近距離電話の営業という意味合いも強い。マールさんよりママの方がメカに強いんだ。
エルガさんとリエッタさんに営業を望むのは、まず無理だからね。
それらのことを僕とエルガさんを比較――何を比較したんだか本当に失礼しちゃうんだけど――した結果、顧客優先でってことでママがマリオン市に、そしてマールさんが僕に同行してくれることになったんだ。
「セージ君も、おばさんと二人では寂しいでしょう」
そんなこんなでミクちゃんが付きあってくれることになった。
たった数分、ははー、ってかしこまるだけなのに。…あー気が重い。
ちなみに伯父様も今回の騒動の報告で王都に行かなくっちゃいけないそうなんだけど、伯父様の都合、エルドリッジ市の後始末などの報告をまとめを待っていると一、二週間は過ぎてしまう。
学校を新学期早々、長期休暇をするのもダメだろうってんでこうなったんだ。
ミリア姉とロビンちゃんも来たがってたけど、許可されず、
「せっかくの王都がー」
「社交界デビューがー」
不満たらたらだった。
二人は漫才コンビが似合ってるよ、っていつか言ってやりたい今日この頃だ。
◇ ◇ ◇
ヴェネチアン国の魔導車は、マリオン国の魔導車より性能が良い。
マリオン国の魔導車が一日四〇キロ、充魔電石を増設しても一日六○キロ程度しか走行できないが、ヴェネチアン国の魔導車は通常で六〇キロ、増設で八五キロほども走行できるんだって。
王族用の特別車両だともう一〇キロほど伸びる。
通常速度も二割ほど早いみたいだ。
それはキレイな舗装道路にもよることだろう。
ヴェネチアン国は、マリオン国よりインフラ整備は進んでいるみたい。
王都のミラーノまで道のりで一八〇キロ。
ノーフォーク湾から伸びる、ヴェネット河沿いに遡上してたどり着くのが王都だ。
それを三日で走破する。
帰りは都市間交通を利用するから五日間ほど掛かってしまうし、王都からヴェネット河の河下りならばうまくいけば二日ほどでエルドリッジ市に到着するそうだ。
ちなみに河の夜間航行は座礁の可能性が高く、停泊するから二日以上に早くなることはない。
エルドリッジ市からオーラン市までの船旅も一般客として船を探して契約する必要がある。
それでも三学期の始業の九月一九日赤曜日には充分間に合う予定だ。
温帯の森は日本を思い出す。
何となく懐かしい気がするけど、日本にいたときに森林浴やウォーキングで自然を愛でる趣味はなかった。
だけど、眺めている本当に“何もかもが懐かしい”って気になってくるんだ。
「セージはダンスが得意なわけじゃなく、魔法が得意だったってわけね」
「キフィアーナ、殿方を呼び捨てなんてはしたないわよ」
「いいじゃない。お友達なんだから。ね、セージそうでしょ。ミクもそうよね」
「ええ、そうだね…です」
「はい、でもよろしいのでしょうか」
「親しい中にも礼儀ありですわよね。セージスタ君も困ってらっしゃるわよ」
「ええ、そう……ですが困っては、…はい」
感謝しきりの皇太子殿下に計らいで、本来なら四人で魔導車に揺られての予定が、キフィアーナちゃんとカレリーナさんが乗り込んできたんだ。
殿下や姫殿下、姫などの敬称はすべて却下されている。
強制的にお友達なんだそうだけど、その気安さで、お姫様たちが言い争っている。
対処不能だ。
マールさんもアルカイックスマイルで、表情筋が疲れないかな。
途中、村の場所にもよるが一時間ごとに、一〇分ほどの休憩を入れながらの移動は順調だ。
わかったことはキフィアーナちゃんが僕やミクちゃんと同い年で、カレリーナさんは想像通りの一三才でヴェネチアン高等魔法学院――ヴェネチアン国では上級魔法学校ではなく高等魔法学院となる――の二年生だ。
二人とも魔法は得意なんだそうでけど、魔法がもっとうまくなりたいんじゃないだろうか。話があっちこっちに飛ぶけど、結局は魔法の話になるんだ。
出発時に用意されたお弁当で昼休憩。
「セージが一番得意な魔法って何なの」
「えー……」
「バカね。魔法士にとって魔法スキルは命に係わることなの、そんなに簡単に教えられるわけありませんわ。そうですよね」
「ええ、まあそうですね」
「ほら、姉様。セージが返答に困ってるじゃない」
「それはキフィアーナ、貴方の質問に答えられなかったのに、私の質問に答えたら貴方の面目が丸つぶれじゃありませんか」
「セージとは、ダンスを踊っているときからもっと仲良く会話をしていました」
ミクちゃんもマールさんに習ってアルカイックスマイルもどきをしているけど、表情が硬い。
いつもの調子は出ないみたいだ。
「ねえ、私を飛ばしたテレポートってレベル幾つなの」
「テレポートといったら時空魔法のレベル7というのは有名な話ですが、人は運べないんですよね。
本当にそんなに大勢をテレポートで運んだのですか?」
ホワイトホールで飛ばしたキフィアーナちゃんと違って、カレリーナさんは護衛に守られて大ホールを早々に脱出したから、戦闘シーンをほとんど見てないんだ。
「あれは“ホワイトホール”といって、人や物を運ぶための魔法を使いました」
その後は魔法の講義を行っているみたいだった。
この拷問はいつ終わるんだろうか。
時たまポチットムービーで風景を撮影もしてるよ。
いいお土産になることだろう。
◇ ◇ ◇
カワイジェン市。
炎の魔獣がうごめくカワイジェン火山が近くにあって、硫黄の流通拠点となる市だ。
おおよそ六五キロほどを走ったんだそうだ。
とにかく精神疲労で疲れた。
そうはいっても初めての街。
ミクちゃんやマールさんと見学&ショッピング。
当然レイベさんの護衛が付く。
王族はカワイジェン市の貴族との交流があって、キフィアーナちゃんとカレリーナさんから解放された。
錬金魔法で使用することもあるかもしれないと思って、数キロ硫黄にリンなどの鉱物を購入する。
街で聞いたところによると、他国にはニュースとして流出してないそうだが、カワイジェン市でも小規模のモンスタースタンピードが発生したそうだ。
ちなみに運転手や護衛とも話して魔導車のことを聞いたけど、知ってることは僕以下だった。
車両管理のメンテナンスマンがいないかと思ってキフィアーナちゃんに紹介してもらって訊ねてみたけど、「機密事項ですから」とやんわりと断られてしまったのは移動中の休憩の時のことだ。
◇ ◇ ◇
キュベレー山脈のローガン町での泊まりに、野営を含めると泊まることには慣れている。
心配するマールさんだったが、一人部屋で泊った。
もちろん寝る前まではマールさんとミクちゃんの部屋に行って、一緒に読書をしたり、ゲームをしたり遊んだ。
いつもの日課をこなしてぐっすり眠りました。
◇ ◇ ◇
八月二四日黒曜日。
街道を走り始めると、鳥魔獣と遭遇した。
雷炎鳥のつがいなのか、二羽だ。
強さは“85”前後だ。
魔導砲で迎え撃つ。
弾はオーラン市では見たこともない、巨大な鉄の針の束だ。
灼熱した十数本の針の一本一本が回転しながら雷炎鳥に向かって射出される。
針の半分以上は雷をまとった振動防御で叩き落され、防御をかいくぐった鉄針も威力が弱い。
それでも一〇両の魔導車から発射された鉄針の束は膨大で、数本が雷炎鳥に刺さる。
刺さるといっても浅く、翼をはためかせると抜け落ちる程度だ。
雷炎鳥は、キュワーン、と怒りの咆哮に、雷を帯びた大きな炎で攻撃を放つ。
魔導車も負けじと更なる鉄針攻撃を放つ。
雷炎鳥は鉄針を嫌ったのか、カワイジェン火山に向かって飛んでいった。
特にマールさんが鋭い視線で魔導砲を観察していた。
「セージは雷炎鳥をやっつけられる」
「…えー…と…」
「貴方はバカですか。強力な鳥魔獣をやっつけられる人などいる訳ありませんわ」
「ワンダースリーならできるんじゃないの」
「あの方たちは特別です。人の範疇を逸脱しております。
セージスタ君も答えにお困りですわよ」
「えー、そ、そうですね」
っていうことは、僕も人じゃないってこと。ヘコむんだけど。
「あのー、雷炎鳥とデミワイバーンではどちらが強いのですか?」
ミクちゃんが、申し訳なさそうに訊ねた。
「それはデミワイバーンに決まってますわ」
「姉様、どうしてわかるんですか」
「高等魔法学院の授業を聞いていれば、当然のことです」
ミクちゃん、あ、マールさんまで、そんな目で見ないでよ。
「カレリーナ様、高等魔法学院がどのようなところか、セージ君とミクに話してくださいませんか」
マールさんの気遣いで、話が変化してホッとした。マールさん、ありがとうございます。
それからはお互いの学校の話になった。
そうなるとお互い学生。
いろいろな話題で盛り上がった。
ミクちゃんもようやく硬さが取れてきた……んだけど。
僕がオーラン魔法学校の魔法展覧武会でワンダースリーのボコシラさんと戦った話をしてしまうと、
「セージって、ヤッパリ雷炎鳥をやっつけられるヨネ」
「そのようなバカげた……、本当ですの……?」
タハハハ……、と僕の空笑いに、二人の目が点になってしまった。
僕も人間ですから。
その後も魔法の話に、学校の話と、ようやく普通(?)に会話ができるようになった。
ミクちゃんも緊張が随分とほぐれたようだ。
魔法をせがまれ、しかたなく錬金で金属を曲げて花や蝶を作ってみたり、イリューシンでそれれを輝かせてみたりと。
ミクちゃんもイリュージョンで応援してくれて、キフィアーナちゃんやカレリーナさんに驚かれた。
その日は工業都市のマンチェスターに宿泊。
ここが魔導車の製造工場とされる市だ。
歩き回ってみたけど、工場の警備は厳重で、販売店を覗くだけだった。ガッカリ。
そしてミクちゃんの呟きが気になった。
「私も錬金魔法ができればよかったなー」
◇ ◇ ◇
九月一日赤曜日。
天候が一気に悪くなってきた。
台風接近とも思える豪雨に強風だ。
そういうことでマンチェスターに連泊が決まった。
でもやることが無い。
王都と連絡で、気象予報士からの情報だとヤッパリ台風なんだって。
オーラン市は、北側がオケアノス海(大きな湾)に面し、南側はアーノルド大陸の大地だ。
西側の中央洋――巨大な大洋――で台風が発生しても、進路的にほとんど影響がない場所でもある。
モンスタースタンピード時の大雨や大風は、季節外れの台風みたいなものだった。
本当にとんでもない時に、ピンポイントでよく来やがったもんだよ。
それで僕の持っている魔録霊石ステッキの魔録霊石を取り外して、錬金魔法のレベル2、“接着”、“成型Ⅱ”、“溶融”、“硬化”、“結合強化”、“研磨”を付与してみた。
「チョット遊び道具にどうかな。明日キフィアーナちゃんやカレリーナさんを驚かせてみようよ」
こんな時って、読書してても、ゲームしてても飽きちゃうもんね。
「ありがとう」
ミクちゃんが嬉しそうだ。
ただ、リストバンドに加工してみたんだけど、小さな魔録霊石とはいえ目立つんだ。
ネックレスはすでに僕のプレゼントした緑魔霊石のネックレスをしているから却下した。
あ、腕の付け根に…もダメか。
それで手持ちの革尾チョチョイと加工して小さな小さなポシェットを作成。
それにアイテムボックスを付与してマジックバッグにしてみた。
魔録霊石をいれてベルトにつけてみた……ダメだ。
アイテムボックスの中だと魔録霊石は発動できないんだ。
あ、髪飾り。
予備というか、あげる予定のない髪飾りが二つあった。
一班のみんなとおそろいじゃない方の水色の髪飾りに穴をあけて埋め込んで、折れないように強化してうまく隠した。
それでも隠すときに太くなった部分を隠すために、飾りをいじってたらチョット豪華になったみたい。
「これでどうかな」
並んだ魔録霊石の一個に意識を集中するのは難しそうだったけど、何度も練習をするとうまく魔法が使えるようになった。
ミクちゃんも魔法力のコントロールが上手になったもんだ。
「これで明日キフィアーナちゃんやカレリーナさんを驚かせられるね」
「うん、ありがとう」
なんだかミクちゃんの雰囲気が変です。
「どうしたの?」
「ねえ、この髪飾りって大事なものじゃないの」
え、そんなことないよ。
「えー、じつは……」
てーことで、お土産の髪飾りを狩った時のゴラーさんとのことを正直に話してしたら、ニコニコと笑われちゃった。
改めて、みんなに贈る予定の髪飾りと同じデザインの色違い、青い髪飾りも一緒にあげたんだけど。
「こんなにもらえないよ」
最初は遠慮していたミクちゃんも誰にもあげる相手がいないし、僕じゃあ付けられないしってことで受け取ってもらえたんだ。
旅が終わるまでは魔録霊石はミクちゃんの新たな水色の髪飾りに入れて預けておくことにした。
暇つぶしにはちょうどいいオモチャだろう。
フェイクポシェットもミクちゃんにあげた。もちろん針金にハチミツルルドキャンディーも入れてだ。
またまた遠慮されちゃったけど、僕持ってても仕方ないしいくらでも作れるもんね。
旅の途中でもキフィアーナちゃんやカレリーナさんは、このような突然の空き時間には遅れた習い事が行われるんだって。大変だね。
僕は平和だったけど。
◇ ◇ ◇
九月二日青曜日。
台風一過の晴天だ。
順調に走って、午後三時には王都のミラーノ市に城壁が見えた。
当然オーラン市よりもエルドリッジ市よりも長い城壁だ。
ただセイントアミュレットに守られた農村が取り囲んでいるのは一緒だ。
王家の客とはいえ、城門で身分確認が行われる。
エルドリッジ市で入館手続きや税金を払っているから、確認のみで城門を潜る。
王都ミラーノ市。
オケアノス海周辺諸国で一番文明が進んだ都市に到着した。
ちなみに予定とは違って、移動中の会話は、習い事の愚痴から始まって、何処からか神話の話に夢中になって錬金魔法の出番はなかった。
準備したあの時間はどうしてくれる。
まあ、楽しかったからいいんだけど。