101. 結婚披露パーティーと襲撃
お腹がいっぱいになると、中庭を散歩した。
ステージが昨日のままで、ピアノ(?)演奏が行なわれている。
なんとなくピアノに似ているような似てないようなそんな楽器だ。
大勢いるから散歩してても落ち着かない。
大ホールに戻ると、ゾワリと背筋を上がるいやな感覚がした。
ナンだこの感じ。
レーダーを強化して感覚を研ぎ澄ます。
いた、あいつらだ。
数人が固まってあちらこちらと挨拶をしていた。
「ドラボーン侯爵だ」
いつの間にかプコチカさんが隣にいて、囁いてきた。
真ん中で偉そうにふんぞり返っているのがドラボーン侯爵なんだろう。
「貴族至上主義の筆頭だな。セージスタは知ってたのか」
知るわけないでしょう。
ううん、と首を左右に振る。
「あいつらには近づくな」
「うん」
挨拶して来いっていわれても、ご遠慮申し上げたい。
「ホンタース殿下の側近て噂があった御仁じゃ」
ノコージさんも小声でささやいてくれた。
「そりゃー、やばい人じゃないですか」
「そうじゃな」
あらら、ロナーさんとニルナールさんがつかまっちゃたよ。
ドラボーン侯爵が下品に笑いながら何か話しかけている。
困った顔をしながらも、相槌を打っている。
ディンドン侯爵、ニルナールさんのパパさんが駆けつけたようだ。
それに伯爵であるシュナー伯父様もだ。
変な威圧感のせめぎあい、緊張感があってやな雰囲気が高まっていく。
突然のガハハハとの大笑いに会場が静まり返る。
ドラボーン侯爵が移動するとその雰囲気が弛緩する。
今度は渋い表情のジルバトゥーン皇太子殿下とプラティーナ皇太子妃殿下に話しかける。
普通に会話をしているみたいだけど、目つきが蛇のようなねっとりと陰湿さを帯びている。
「ドラボーン侯爵領はヴェネチアン国の北西で、北はギランダー帝国に隣接しておるんじゃ。
ホンタース殿下が、ギランダー帝国に逃げ込んだのもドラボーン侯爵が手引きしたという噂もあるんじゃ」
噂を信じるのもなんだけど、とんでもない奴じゃないか。
なんだかもう引き上げるみたいだ。
何しに来たんだ。冷やかしか。早く帰れよって思わず陰から睨んでしまった。そう陰からです。だって不気味で怖いもん。
「皆さん、もう一度ダンスを踊りましょう。
バンドの皆さんお願いします」
ロナーさんの声に音楽が演奏され、ロナーさんはニルナールさんと踊りだす。
「セージちゃん、お願いします」
ミクちゃんがカーテシーでお辞儀をする。
積極的すぎませんか。
「はい、こちらこそ」
ミクちゃんの手を取って、ダンスフロアに移動して、向き合ってホールド。
アン・ドゥ・トロワ・アン・ドゥ・トロワ……。
ナチュラルターン八回、今度はナチュラルターン七回でチェンジステップ、リバースターン七回でチェンジステップまたナチュラルターンに戻ってと。
たまにリバースターンからコントラチェックで切り替えて、ナチュラルフレッカールとクルクル回転する。
現在できるのはこれが精いっぱいだっていっても、やってるのはほとんど僕だけだ。
でも定型化して覚えたリズムと動きは代えがたいものがある。
それも楽しい。僕って体を動かすことが基本は好きみたいだ。この世界に来てから、いや、魔法が上手く使えるようになってからか。
ことによったら身体魔法を覚えてからかもしれない。
一曲が終わる。
さっきより楽に、そしてうまく踊れたような気がする。
なんだか注目されているような気がするのは、気のせいだろう。
「踊っていただけますか」
また君ですか。
これで一緒にダンスをするのは五曲、あれ、六曲目かな?
「ミクちゃんまたあとでね」
「うん」
「はい、お嬢様、よろしくお願いします」
「キフィアーナよ」
「キフィアーナちゃんね。僕はセージスタ、セージでいいよ」
さすがにこのパターンの自己紹介は来るものがあるけどずいぶん慣れてきた気がする。
「セージね。よろしく」
「こちらこそ」
クルクル、クルクルとスムーズに踊る。
「セージはダンスを専門に習ってるの」
「今日のために、数か月前からチョットだけ」
「それにしてはうまいのね」
「誰だってできるんじゃないのかな」
「そんなことないわね。同い年の子と何人も踊ったけど、キッチリとリードしてくれる人っていなかったもの」
「そう言われてもな」
「ステップはチョットあやしいところは有るけど、体がぶれないから、踊りやすいのよ」
ふーん、そんなものなのか。
「プコチカさん!」
<ビッグフィフススフィア><身体強化>『並列思考』『加速』『レーダー』『浮遊眼』『思念同調』
ザワリとしたいやな感覚に、踊りをやめて思わず叫んでいた。
そして一瞬で防御態勢を整える。
五重障壁は現在張れる最強のシールドで無属性魔法のレベル10だ。
ビッグフィフススフィアはその巨大バージョンでレベル13だ。
ダンスをやめ、周囲の人をまとめてシールドで包み込む。
ロナーさんはニルナールさん、それにシュナー伯父様に第一婦人のアルー伯母様、あれ、この人ってヴェネチアン皇太子殿下と皇太子妃殿下のなんとかさんじゃなかったっけ。
「殿下たちをお守りしろー!」
プコチカさんの声が響く。
それとは別に来賓が、雪崩を打ったように、いっせいに大ホールから退避していく。
強烈な三つの敵意が一気に爆発して二ッつの人型があらわになる。
すぐさまボコシラさん、プコチカさん、ノコージさんが戦闘を開始する。
相手の爆発系の魔法に、ワンダースリーが相殺魔法を放つ。
それでも相殺しきれなかった魔法力が床に、壁に、焼け焦げを付ける。
真っ先にボコシラさんとテロリストの一人が大ホールを後にする。
中庭での戦闘となったみたいだ。
コージさんも大ホールの外にテロリストを追い払いはじめ、外での戦闘となっている。
強敵みたいだ。
相手は総合が“100”以上が三人はいるってことだ。
いやな感覚が再度発生。
来る方向からキフィアーナちゃんを背中に隠す。
いやな感覚が強烈になるが、場所が漠然としていてはっきりしない。
僕の側に駆け込んできたミクちゃんはシッカリとビッグフィフススフィアの中に入れて保護をけど、駆けつける警備兵たちは入れるわけにはいかない。
また出る人もだ。
「陛下!」「殿!」「殿下!」とわめく警備兵は無視だ。無視だ。
そんなに細かくはビッグフィフススフィアをコントローするのは無理だし、敵がどこに混じっているかもわからない。
視界の何か所がぼやけている。
そこからいやな感覚が流れてきているが、なんだかよく見えない。
<大粘着弾><大粘着弾>…<大粘着弾><大粘着弾>
キンキンキン…と僕のビッグフィフススフィアに刃物が当たってはじき返される。
キャー、と保護した人たちから悲鳴が上がる。
大粘着弾は相手のシールドに付着したけど、シールドを張り直されてしまった。
キンキンキン…と刃物の攻撃は継続中だ。
そう簡単にマシマシで張ったビッグフィフススフィアが破れるもんか。
「セージ坊、雑魚は任せてもいいか」
「了解しました」
隠れていたテロリストを確認して、プコチカさんも手練れのテロリストを追い払うように、大ホールを後にする。
アイテムボックスから小太刀の銀蒼輝を腰に差し、鉄菱の腰袋を取り出して手早く腰に下げる。
人が多いから長手の武器、ショートスピアの黒銀槍は危ないと思ったからだ。
隠形で天井に隠れている奴らは完全に認識した。
かなり巧妙に“隠形”をしている。
それに全員が同様のスキルを使っているってことは、何らかのアイテムかもしれない。
手早く左右の手に片鉄菱を持って、魔法力を流す。
三個ずつ投げつけながら、魔法力マシマシの、
<ハイパーストリーム><ハイパーストリーム>
体術スキルが“7”でも手が小っちゃいし、両手でいっぺんに投げるのは三個ずつが限界だ。
もう一度<ハイパーストリーム><ハイパーストリーム>、もう一度<ハイパーストリーム><ハイパーストリーム>…<ハイパーストリーム><ハイパーストリーム>
次々に黒いマントのテロリストが天井から人が落下してくる。
ビッグフィフススフィアへの刃物の投てきが減っていき、警備兵が捕縛していく。
ワンダースリーが相手をしている手練れ中の手練れっていう連中じゃないが、総合が“40”~“60”程度とそれなりの手練れだ。
片鉄菱の攻撃も頭や首は避けたから、こんなもんじゃ死にはしないだろう。
黒いマントを鑑定すると、気配遮断の機能付きだ。
一枚ほしいな。
ゾワリ。
強い奴がもう一人いる。
<ハイパーストリーム>
それとは別に天井の最後の一人を倒す。
ダンスフロアの一人がナイフを取り出した瞬間、加速で駆けつけ銀蒼輝の柄尻で思いっきり鳩尾を殴りつける。
崩れ落ちるテロリストがナイフを落とし、床にうずくまって嘔吐する。
「誰か縛ってください」
僕はアイテムボックスからロープを取り出し床に放りだす。
警戒は強敵に向けている。
「ほう、これだけの手練れが子供だとは」
空間から出現したのは戦士というより、黒髪をキッチリと分けて、古風で頑固な学者風って雰囲気だ。
羽織ったマントを跳ね上げている。
仕立ての良さそうな洋服を着こなしている。戦闘なのにオシャレに気を使っている?
これといった防具は身につけていない。
手にはフェンシングのような鋭い剣を持っている。
研ぎ澄まされた感覚を放射でもしているのか、見ているだけで痛みを感じる。
体内の魔法力を更に活性化して身体強化は最強のレベル12までアップすると、痛みは止まった。
強さは……、あれ? 見えない。
特殊スキルがあるみたいだ。
「おじさん。ドラボーン侯爵と一緒に入ってきたよね」
「そこまで見ていたか」
え、ひっかけたんだねど、よくしゃべてくれたな。
「仲間なんでしょ」
「ハハハ、あんなクズは、暗示を掛けて利用しただけだ」
これで罪に問えるのか?
「…バカめ!」
テロリストに飛び掛かっていった警備兵三人が、火魔法で焼かれた。
「バカがまだいるとは」
それを助けようとした、警備兵もまた焼かれてしまった。
巨大火球が飛んでくる。
<マジッククラッシャー>
それを対消滅させる。
「ほう」
テロリストが不敵にほほ笑む。なんだか楽しそうだ。
今度は巨大火球が二個。
一つは巨大な炎の塊りで、もう一つはプラズマ化した火球だ。
<マジッククラッシャー><マジッククラッシャー>
二つとも対消滅させる。
こいつ完全に皆殺しにする気だ。
明らかにフリだ。
守るものがあって動けない上に、使用魔法量も多めにしなくっちゃいけない。
魔法の見極めや相手の動きにも注意しなくっちゃいけない。
<ハイパーストリーム><ハイパーストリーム>
両手に持った片鉄菱を投げつけるが、ヒョイッと避けられてしまった。
パパにママにウインダムス議員とカレルッドさんにマールグリットさん、それにホーホリー夫妻…じゃなくって夫のガーランドさん。
<ホワイトホール>
ターニャさんとブルン兄はウインダムス家の男性護衛が退避させている。
オルジ兄にミリア姉とロビンちゃんはヒーナ先生とカフナさんが退避させている。
ビッグフィフススフィアの中の人を
<ホワイトホール><ホワイトホール>
一気に魔法研究所のロビーに。
そこなら警備兵もいるし、伯父様ならなんとでもできるでしょう。
一瞬、マーリン号の甲板も考えたんだけど、周囲から見える場所は危ないし、テロリストの侵入経路が港だとも考えられるからやめにしたんだ。
これで戦える。
<トリプルスフィア>を張って、ビッグフィフススフィアを『解除』する。
大きすぎるシールドは動きを制限するし、フィフススフィアは攻撃しながらはまだ扱いきれない。自分の攻撃まで阻害してしまうんだ。
「オマエ、何をした」
「チョットお散歩に行ってもらっただけだよ。
さあ、やろうか」
「キサマやってくれたな」
「いいえ、やるのはこれからですよ」
ゆとりが無くなると突然げびたことばづかいに変化した。
ゴーとうなりを上げて先ほどより巨大火球二個が迫ってくる。
<マジッククラッシャー><マジッククラッシャー>
二つともマシマシで対消滅させる。
<大粘着弾>…<大粘着弾>を放ちながら、突貫する。
踏み込んで銀蒼輝で切りつけるけど、難なくかわされ、フェンシングの剣での切り裂きからの突きで反撃される。
<フラッシュ><ポイント>
目つぶしをかましながら、ポイントを踏んで大きく跳び退る。
「おい、セージスタ。大丈夫だったか」
プコチカさんが戻ってきてくれた。
「やっつけたの?」
「いや逃げられた。手傷は負わせたがな」
「冗談はよせ。あいつがやられるもんか」
「そう思いたいってことだろう」
「ぬかせ!」
「あ、チョット待ってね。
小隊長ーさーん」
数日前に訓練場で一緒に訓練した小隊長さんがいた。
「なんだ」
「チョット王様、じゃなかった王子様たちのところに行ってくれませんか」
「どこなんだ」
「言えるわけないでしょう」
「そりゃーそうだな。やってくれ」
「小隊の人たちとまとまってもらえます」
「おら、集合!」
ってことでまとまってもらった。
全部で一〇人か。
こりゃーマシマシだな。
<ホワイトホール>
「これで憂いなし、あいつをとっつかまえられるよ」
「ガハハハハッ。セージスタは余裕だな」
「あいつ子供と大人をいじめる悪い奴だもの」
「そりゃー、極刑に値するな」
極大火球が発射された。
させるかー。
<マジッククラッシャー>
その時にはプコチカさんが飛び掛かっていた。
ギーン。
金属のぶつかる響きが発生して、右にプコチカさんが、左にテロリストが着地する。
<ハイパーストリーム><ハイパーストリーム>
両手に持った片鉄菱を投げつけながら、銀蒼輝を抜いて駆け出す。
片鉄菱が左右から弧を描いて、テロリストに襲い掛かる。
避けようとした瞬間、プコチカさんGJ、フェイントで切りかかってけん制をしてくれた。
意識が三か所にも向けば隙ができる。
巨大な火球でみんなを殺そうとしたやつだ。…って思うも殺すってのには敷居が高い。
<サーチライト>
フラッシュは周囲に影響を与えてしまう。
サーチライトなら特定の一人の気が引ける。
オリャーーッ、気合を入れると思わず叫んでいた。
プコチカさんが、踏み込んで鞭を振るう。
シールドを切り裂いてビシッと左腕を打つがガントレットで弾かれる。
大きく弧を描いていた片鉄菱が連続でテロリストに向かって飛んでいく。
ギンギンギン、ギンギンギンとフェンシング剣ではじき返す。
銀蒼輝で胴を切り裂く軌道で切りつける。
テロリストの殺人犯だとしても、さすがに人を切るのには抵抗がある。
魔法力を思いっきり流しての峰打ちだ。
ただ、刀は峰打ちようにはできていない。下手をすれば折れる恐れがある。
それで魔法力による強化だ。
高周波ブレードの峰打ちってどうなんだろうって考えるゆとりなど何にもなかった。
ステップで軽やかに回避されてしまう。
<ポイント>『隠形』『情報操作』
踏みつけて三角跳びで後方からもう一度。
ここだ。
と思ったがフェンシング剣の突きが来た。
その突きはやや高い。
大火球を飛ばしやがってと思いながら、そして<マジッククラッシャー>を放ちながら、ビシュッと、伸びた右腕を峰打ちで、切り飛ばしていた。
テロリストが大きく後退。
左手で右腕を抑える。
プコチカさんが飛びかかる。
もう一太刀を浴びせたところで、
「逃げろ。毒だ」
どこから取り出したのか、テロリストが黒い霧を振りまきだした。
それも魔法の毒と混合してだ。
「今日は引き上げます。セージスタ、ワンダースリー、次は我らファントムスフォーが後悔させてあげますよ。
特にセージスタ、私の右手は高く付くことを覚えておいてください」
自分の右腕を拾い上げ、テロリストの気配が消えた。
気付くと、うわー、全身汗まみれ。
どっと疲れが出たのか、精神疲労か、床に座り込んでしまった。
峰打ちでも切れちゃうんだ。手に残る生々しい感触。
思えば“身体強化”に“加速”に“高周波ブレード”に魔法力の強化と、高速で振られる鉄棒と腕とじゃ、そうなるのかな。
◇ ◇ ◇
それからが大変だった。
大ホールの毒の中和に、お城の中の探索に、後片づけ。
それと王子様や伯父様たちのお迎えは、警備兵の人たちにお願いした。
夕方にやっと落ち着いた。
すぐさま詫び状と一緒に、披露宴を明日再度行う旨の通知と、招待状を送った。
とはいえほとんどの人が城や迎賓館に、市内のホテルに泊まっているから手紙を手渡しするのは簡単だった。
例外はどこに宿泊しているかも不明なドラボーン侯爵の一行だが、皇太子殿下の判断で、書状の送付は行わずとも良いとなった。
明日の披露宴も皇太子殿下一行が参加するとのこともあって、ほとんど人がその場で参加を返信してくれた。
さすが政変にもまれた国民は、ちょっとやそっとのことでは動じないみたいだ。
もちろん体調不良で帰還を選択する貴族や大商人もいるけど、そういった人たちも代表者や代理人が出席するそうだ。
会場は焼け焦げが残る大ホールじゃなく、中ホールと中庭となった。
◇ ◇ ◇
「で、セージはそのファントムスフォーに恨みを持たれたと」
「うん、そうみたい…です。ごめんなさい」
「…なんてことでしょう」
パパとママに、頭を抱え込ませ、嘆かれてしまった。
「終わったことは仕方ないとはいえ、周囲を注意することだ」
「終わってませんよ!」
「はい、ごめんなさい」
手に残る感触を思い出すだけでも恐怖が湧き上がるけど、僕はもっとがんばって強くならなくちゃいけなくなってしまった。
八才の子供には過酷すぎるよ。
ただし、パパと、特にママはそうは思っていないことは確実だ。
とういうお小言がお終わったと思ったんだけど……。
「セージちゃん!」
ミクちゃんがプンスカ怒っていた。
「はい」
「私を何で飛ばしたんですか!」
「だって一緒にいると危ないし」
さすがにジャマとは言えない。
「心配したんですからね!」
「うん、ごめん」
こういった感情的になった女の子には、理論は通じないってのは結婚した友人によく聞かされた。
そんなときどうするんだ?
嵐が収まるまで謝るしかないだろう、というウンチク、嘆きとも言うが、を散々聞かされた覚えがある。
まさに現状のミクちゃんがそれだ。本当にこんなに風になるんだという驚き。絶対に逆らっちゃいけないやつだと身をもって味わっていた。
まさかのダブルヘッダーのサンドバッグ状態はキツかった。
◇ ◇ ◇
その後に“ホワイトホール”で転送された人たちがお礼に来たそうなんだけど、それはパパとママが全て受け持ってくれた。
そりゃー、“ホワイトホール”の発動を自分の目で見て、味わったんだから、正体バレバレだよね。
◇ ◇ ◇
夜遅くなったけどワンダースリーから連絡が届いた。
ファントムスフォーに付いてだ。
火魔法に特殊スキル攻撃が得意なファンティアス、怪力で武器を自由自在に使いこなすトムソイダ、時空魔法と闇魔法が得意なムスティアス、光魔法を自在に操り高速戦闘が得意なフォードラーラだ。
ファンティアスとムスティアスは兄弟で、タスケントが熊人族、フォードラーラは女性だそうだ。
主にギランダー帝国で活動しているってことで、情報はあまりないそうだ。
そうなるとボクが右手を切り飛ばしたのはファンティアスってことになりそうだ。
◇ ◇ ◇
八月二〇日青曜日、結婚披露パーティーの仕切り直しだ。
お城の出入り口や主要な場所には、魔道具の感知用の魔石を持った警備兵が配置されている。
昨日以上に厳重な警備態勢だ。
茶番化というほど同じセレモニーが行われていく。
でも挨拶する人は昨日よりかなり少ないからスムーズに進行していく。
パパにママもそうだけど、疲労感漂う人たちもいる。
パパとママ、本当にありがとう、そしてごめんなさい。
ファーストダンスが開始される。
そして伯父様夫妻に、ディンドン侯爵夫妻も踊り出す。
ヴェネチアン皇太子殿下夫妻も一緒だ。
そうするとダンスに加わる人たちが増えていく。
一曲目が終わると、
「ミクちゃん僕と踊ってください」
「うん、お願いします」
ミクちゃんの手を持って、ダンスフロアに出て、曲が奏でられると、踊り(回り)だす。
ナチュラルターンにチェンジステップにリバースターンと滑らかとまではいかないけど、うまく踊れている。
ナチュラルフレッカールでクルクルと回れた。
それの繰り返しだ。
「ありがとうございました」
「楽しかったね」
「セージ、今度は私よ」
また君ね。はいはい。
「キフィアーナちゃん、よろしく」
カーテシーでお辞儀をするキフィアーナちゃん。
僕が気楽に挨拶をすると、ミクちゃんがギョッとしていた。
僕、何かしたかな。
ミクちゃんが丁寧にカーテシーでお辞儀して離れていった。
貴族? ってかなりの人が貴族か。ま、いいや。
赤みを帯びた銀髪のキフィアーナちゃんの笑顔には愛嬌があって、印象的だ。
二曲目ともなると気持ちにユトリも出てくる。
「なんだか、僕たち注目されてない?」
「そうみたいね」
認めたくはないけど、僕のダンスの所為なのかな?
「気にならないの」
「いつものことだもの」
「キフィアーナちゃんって有名人なの」
「それはあるとは思うけど、今はセージが注目されてるみたいよ」
「僕がリバースターンや、ナチュラルフレッカールを入れて踊っているから」
「貴方には頭が付いていますか」
キフィアーナちゃんに、めいっぱいの蔑みの視線でにらまれてしまった。
「やっぱ、昨日のことだよね」
「当たり前でしょう」
これからのしんどさが目に浮かぶ。ナゼだか頑張ろうという気力が起きない。
曲が終わって挨拶が済むと、次の女の子が待っていた。
年上。ミリア姉やロビンちゃんよりも上、一三才、いや、一四才程度か。
この子も赤みを帯びた銀髪で、キフィアーナちゃんをおとなしくしたような雰囲気だ。気品でいったらこの子の方が上だ。
「セージスタ様、カレリーナと申しますよろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしく」
何で僕の名前を知ってるの。昨日は誰も僕の名前なんて知らなかったのに。
しかも自分の名前まで名乗って。昨日の対応と随分と違うし、チョットおかしいでしょう。
踊っては、違う女の子が待っていた。
マリアージュ・ルージュラ、リリブランシュ・ノーゼス、パーライル・ライザッシュ……etc.
理由は分かるけど、女の子ってここまで逞しい生き物なのか。
お友達なのか、まとまってくるから、一人踊ると踊らないといけない。
昨日より多く踊ったと思う。
とにかく精神的に、そう、精神的に疲弊した。
夜までにあと何曲踊ることになるんだろう。
その後は想像以上でキフィアーナちゃんもそうだけど、僕にチークダンスまで踊ってって人がいるんだ。
まあ、ミクちゃんとは何曲も踊ったし、エルガさんとの死の舞踊、もとい、チークダンスは踊れなかったんだ。
音楽の合間にたくさん食べて、ジャグリングや歌やピアノを聞く気もあまり起こらなかった。
◇ ◇ ◇
疲労困憊のセージは、夢の中でもクルクルと回っていた。
翌朝、耐性スキルに“精神攻撃”が発現して、毒耐性もアップしていた。