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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
エルドリッジ再び編
102/181

99. 魔法研究所

誤字訂正しました。


 八月一六日緑曜日。

 大人たちは忙しいけど、僕たち子どもは暇だ。

 だって結婚式は三日後の八月一九日赤曜日なんだもの。

 ヴェネチアン国では地域によっては闇魔法の日、魔獣の日の“黒曜日”は不吉だって嫌われるってことで、貴族では“黒曜日”を避ける風習があるんだって。


 そうはいったって“黒曜日”は安息日だ。

 そんなんで“黒曜日”は前夜祭みたいに、緩い歓談のティーパーティー、園遊会を開いて親交を深め、翌日の赤曜日に結婚式を行うようになってきたんだって。


 両方ともマリオン国には無い習慣なんだって。


 そして今日はザーザーとあいにくの雨。


 暇だ。


 何かと忙しいフォアノルン伯爵邸を探検するのは、はばかれる。

 ミリア姉と同い年のガルド君と、僕と同い年のニルナちゃんは、前回の訪問の時のこともあって、僕を嫌ってはいないと思うけど、警戒? 否、苦手意識があるみたいで、気楽に会話ができたり友達になれそうにない雰囲気だ。


 エルガさんが出かけちゃってると頼れる人は限られる。

 頼るのはしゃくにさわるが、致し方ない。

「ゴラーさん、雨でも面白そうなところはないですかね」

「それじゃあ、魔法研究所にでも行ってみる?

 昨日マジカルボルテックスを興味深く見てたよね」


「え、いいんですか」

 国家機密じゃないのかな?

「大丈夫。秘密事項に絡むようなところじゃなければ見学できると思うよ」

「じゃあ、お願いします」


「ミクリーナちゃんも一緒に行く」

「はい」


「アンタたちどこ行くのよ」

「え、どこどこ」

「魔法研究所」

「「いってっらっしゃい」」

 ミリア姉とロビンちゃんが食いついてきたけど、速攻で手を振られた。


  ◇ ◇ ◇


 早めの昼食を食べて、魔法研究所到着。

 ちなみにミクちゃんの姉のターニャさんと、ブルン兄も面白そうだねと、同行してきた。

 ヤッパ商売人の社会人ともなると気になるようだ。

 もちろんここでは撮影禁止だ。ポチットムービーはお休みだ。


 ゴラーさんが近距離電話(マジカルフォン)で連絡してからの訪問だからすんなりと魔法研究所に入ることができた。


 大きなロビー――見学会があるそうで大人数収容可能――を経て、応接室で所長と秘書と歓談して、注意点を聞いてからの所内の見学だ。

 あ、そういえばエルガさんが言っていた、ケチな時空魔法持ちの所長ってこの人か。


「まずは魔石の研究だったな」

 何処を見学したいかって訊かれたんで、魔石の研究と魔法の研究についてってお願いしたんだ。


 所長がノックをして手近な研究室のドアを開く。

 覗くとN・W魔研の部屋と一緒だった。

 そう、雑然とした、エルガさんのおもちゃ箱。

「……あ、失敬」

 所長が慌てて、ドアを閉める。


「エルガさんの部屋みたいだったね」

 くすくすと笑いながらミクちゃんが小声で僕に漏らす。

 エルガさんの部屋とはN・W魔研の開発ルームのことだ。最近は誰もそう呼ばないが。

 エルガさんvsリエッタさんの攻防は、エルガさんが優勢ってことだ。

 ちなみにここ最近、第二開発ルームを作ろうかって話もある。


「ミクちゃん、ナニナニ。面白いことでもあった」

 ミクちゃんが笑ってた。

「あーのー、エルガさんみたいな人がいっぱいここにもいるのかと思うと、N・W魔研みたいだなって、ちょっと思ちゃった」

「うん、そうだね」

「エルガ姉上みたいな人ばっかりだと、ここが崩壊しちゃうよ」

 思わず笑いをこらえてしまった。あー、ミクちゃんにターニャさんとブルン兄までも。


「ああ、こちらです」

 ノックした所長が中を覗いてから、ドアを大きく開放する。


「ここがマジカルボルテックスの中核魔石の研究をしている部署ですね」

 え、いいの、こんなとこ見せて。


「何の魔石ですか」


「君に魔電発生装置ボルテックスジェネレーターって言ってわかるかね」

「はい。熱魔法で高温を発生させ、錬金魔法の変性でその高熱を電気に変換する魔石です」

「よく知ってるね。さすが見学に来るだけはあるね。感心感心」


「所長さん。ボルテックスの魔法陣や、変性の魔法陣は一般の魔法陣とは違うんですか」

「微妙に違うな」

「どこが違うんですか」

「精霊文字は変えられんが、精霊記号は魔石の特性に特化させるんだよ」

「所長!」

「ああ、すまない」

 所長さんは迂闊(うかつ)な人のようだ。秘書さんに怒鳴られてしまった。

 ラーダルットさんに教えてもらった緑魔宝石の製造魔法陣も風の魔獣石からだから、ボルテックスジェネレーターは火の魔獣石で作れるってことなのかな?

 それ専用の精霊記号か。いいことを聞いた。


「そうはいっても精霊記号は具体的には判らんだろうし、何処の国でもその程度は知ってることじゃないか。

 そんなに目くじらは立てないでくれるかな」

「そうですが」


「すごいことをやってるんですね」

「ああ、そうだとも」

「もっと近くで見ていいですか」

「ああ、かまわん」

「所長! 

 あ、申し訳ありませんがお二人はここまででお願いします」

 秘書さんがターニャさんとブルン兄を制止する。

 そしてこれ以上変な事を漏らさないように、所長の腕を拘束する。


 秘書とすれば、頭が良く勘の鋭い子供が多少歩き回ってもっていう気のゆるみはあるが、それはセージ()が関知しないことだ。


 歩き回っても面白そうなものは無い。


「精霊記号ってどうやれば変形できるんですか?」


 紅茶を飲んで寛いでいる年配の男性研究員にチョット声を掛けてみた。

 僕と手をつないでうろつくミクちゃんに一瞬目を向け、二コリと笑う。

 そして後ろを歩くゴラーさんを、いぶかしく見る。


「ボクたちどうしたのかな。それと君は」

「僕はゴラーダルン・フォアノルンです。彼らは僕の友人で見学者です」

「フォアノルン家の人か」

 さすが元とはいえエルガさんが勤めていた魔法研究所の所員ってことだけはある。

 伯爵の子息を前にしてもかしこまることもない。


 どうやら納得したようだ。


「精霊記号をどうやって変形させるかって。

 一番簡単なのは自動魔法設計(オートサーキット)っているレアスキルだな」

「オートサーキット?」

「魔法陣の自動取得スキルだけど、思い通りに魔法陣が手に入るわけじゃないから厄介だな。それでも新たな魔法陣は新たな魔法文字や魔法記号を含むことがあるから貴重だな」


 へー、そんなスキルがあるんだ。

 でもそんなスキルをここの人が全員持ってるの?


 僕が周囲を見回して首を傾げると、男性研究員がニヤリと笑って突然しゃべり始めた。


「普通は、イメージを込めて魔法の発動を行うと変形していくってのは知ってるか」

「はい」

 どうやらこれからが本当のこと? いや、一般的な開発方法みたいだ。


 ママの生活魔法のホットブリーズに火魔法が組み込まれたものね。

 あとは、『複写』した魔法陣が定着するまでが一番変化が大きく、個人に最適化されるってことだ。

 同じ魔法陣でも、各人の魔法陣は微妙に違っているのは常識だ。


 あ、ミクちゃんがキョトンとしてる。

 そりゃー知らないか。


「ほう、よく勉強してるな。

 それを色々なイメージを込めながら魔法陣の変化を確認して魔石に合わせて最適化していくんだ」

「気が遠くなりそうですね。でも何で精霊記号なんですか?」

「精霊文字は基本機能の宣言のようなものだから、新たに生み出されることはあるかもしれないが基本は変化しない。

 その点精霊記号は微妙に変化して、最適化していくからな」


 へー、精霊文字は宣言ってことは、精霊記号は機能や特性の詳細が記述されているってことか。


「それじゃあ『複写』したての魔法陣を使って、イメージで強制変化させて、定着させるってことですか」

「ほう、そこまでわかるのか」


 セージはチョットした賭けに出てみた。

「ボルテックスジェネレーター用の魔石ってことは、ファイアーフォックスかレッドキャップベアの魔獣石を使うんですか」

「な、なんでそんなことまで知っている」


「魔導車に使用するボルテックスジェネレーター用の魔石だとどの程度の魔獣なんでしょう」

「ちょ、ちょっと待て。

 えー、ゴラーダ何とか君、様でいいんだっけ」


「ゴラーダルン。君でいいですよ」

「あっそ、それでゴラーダルン君、この子は何者なんだい」


「セージスタ君は僕の従弟(いとこ)ですね。それも剣と魔法の才能に頭抜けた自慢の従弟(いとこ)ですね」


 おい、いつから僕が自慢になった。

 ここでもリベンジか?

 しかたないから「セージスタ・ノルンバックです」と頭をペコリと下げる。

 セージやセージスタって呼ばれるのは慣れたけど、自分で名乗るのには相変わらず抵抗がある。ハズイ。


「知ってます? 僕より先にミクリーナちゃんっていう彼女までいるんですよ」


 え、え、ええー。か、彼女じゃありませんよ。……まだ…まだ? って慌てふためく僕の隣で、ミクちゃんも頭を下げる。


「ミクリーナ・ウインダムスです」


 ミクちゃんがニコニコです。

 営業スマイル……じゃないよね。


「一ついいことを教えてあげよう。

 イメージ化で定着させるときに、効率化を込めてできたのが一般の複合魔法や、合成魔法とされるものだ。

 1+1の魔法力が2じゃないってことだ」


 それじゃあ、魔法陣もイメージを込めれば小さくできるってことか。

 それに本に書かれている複合魔法の効率のいいことに不思議に思ってったんだ。納得だ。

 複合魔法陣にしては同じ魔法記号が見つからないはずだ。


「移動しますよー!」

 秘書さんが何か気づいたのか、慌てて移動を促してきた。

 もっと聞きたかったんだけど。


  ◇ ◇ ◇


 ドアのノックしようとした所長に、秘書さんが「隣です」と誘導していた。


「こちらが魔法陣の研究()ですね」

「研究()です」

「そう()だな」


 ヤッパ天然か? こんな人じゃなきゃ所長ってできないんじゃないか。


 大きめの机にホワイトボードに魔法の試し場所か、頑丈そうな部屋がある。


「新しい魔法ってどうやって作るんですか?」

「君はイメージ文字や個人魔法は知っているかね」

 所長の問いかけると答えてくれた。


「はい」

「難しいことをよく知ってるね。

 そのくらいのレベルになると精霊文字や精霊記号の理解が必須になってくる。

 まずはイメージ文字を幾つか作っていくことから始まるんだ」

「はい」

 それは知ってるし、いっぱい作ってる。


「それを色々作っていくと、時たま天啓ともいうひらめきがあって、精霊文字や精霊記号が思い浮かぶことがあるんだよ」

「それはすごいですね」

 まだ一度もそんな経験をしたことはない。


「もう一つは、属性の基本魔法陣を複写して、こうありたいって強く念じながら魔法を発動させて定着させるんだ。

 それを延々と繰り返すんだ」

「魔法陣に新たな精霊文字や精霊記号が現れるんですね」

「そうだね。

 そうはいっても新たな精霊文字や精霊記号が出現するのはごくまれだ。

 通常は性質が変化したり、威力が変化したりする程度。精霊記号は変形するんだ。

 時には魔法陣が崩壊することもある」


「あちゃー、大変ですね。

 それでもちょっとでも変形すれば新しい魔法ですよね」

「そうだともいうけど、毎回変形するわけじゃないし、わずかな変形だと同一魔法とされるからね」


「先ほどオートサーキットってスキルを教えてもらったんですけど」

「おお、それを忘れていたな。

 ただし自動魔法設計(オートサーキット)は扱いにくいスキルで、自分の希望する魔法陣を手に入れるのは難しいんだよ」

「そうなんですか」

「知らないうちに、勝手に魔法陣が追加されるからね。中には何か月も気付かなかったんじゃないかって笑い話になるほどだよ」


 あれ? ちょっと疑問が。

「すいません。新たに発生した精霊文字や精霊記号はどうやって理解とか確認をするんですか」

「精霊文字や精霊記号に直接触って意識を集中する。

 そうすると魔素や魔法力に敏感な人だと意味が読み取れるんだ。

 わしは読み取りは苦手だがそれでもなんとなくわかるな」


 後で触ってやってみよう。


「あとは学術的に精霊文字や精霊記号を魔法陣に配置していく方法だね。

 これをやるのは威力アップなどで魔法陣の拡張などで、上位レベルの魔法を作成するときによく用いる方法だね」


「付与魔法や補助魔法なんかがそうですよね」


「君は本当によく知っとるね。

 あとは置換法といって、ウォーターとファイアーの魔法の形状はよく似てるんだ。

 比べたことある」

「いいえ」


「今度比べてみるといいよ。

 ほぼ同じ配置で精霊文字と精霊記号が並んでるから。

 そういったことから既存の魔法陣を置き換えて新たな魔法陣を作ることができるんだ。

 ただし、属性によって微妙に配置に差異が発生するから、魔素や魔法力に敏感で、魔法のセンスが必要だね」


「それだけですか」

「大まかなところだと、こんなものかな」


「それじゃあ、精霊文字と精霊記号って幾つあるんですか」

「それはわからないな」


「あ、ごめんなさい。見つかったものってことじゃなく、この研究所で確認されたって意味ですけど」


「それを答えられる人はいるけど、わからないね」

「秘密ってことですか」

「それもあるけど、見解が分かれるからね」

「どういうことでしょう」

「似たような精霊文字と精霊記号がたくさんあって、それを亜種として一つとする考え方があるからだよ」

「そんなにいっぱいあるんですか」

「そうだね。それに人によって同一文字や記号だとする範囲に食い違いがあるしね」


 ラーダルットさんから複写させてもらった魔法陣がそうか。

 同じ魔法でも違う魔法陣があったもんね。

 ということは同じ精霊文字と同じ精霊記号ってこと? それにしては違いが大きすぎるものもあった気がする。


「それじゃあ、整理が付けづらいですね」

「そんなところだよ」


 魔法陣の研究室も話は面白かったけど見るものは無かった。


  ◇ ◇ ◇


「エルガさんは何処にいるんですか?」

「エルガさん?」

「エルガリータ・フォアノルン様のことです」

「かなり前に、やめたんじゃなかったっけ」

「昨日からこちらにきています。場所は品質管理室ですね」

「じゃあ、そこに連れてってあげてくれる。わし疲れちゃったよ」

「かしこまりました」


 急に所長が小声になった。

「で、どっちに帰ればいいんだっけ」

「あの角を曲がって……(ウホン)…」

 聞こえてるから。


 秘書さんに書きもの、多分地図を描いてもらって、歩きだしたところで「あちらです」と秘書さんに指差されて、どこかに行きました。

 朝、出社した時どうするんだろう。


「エルガさんってどうだったんですか」

「エルガリータ様はお若かったですからね」

「レベルが足りなかったってこと?」


「(ウホン)。ここで本当の研究・開発を行うには魔法核や魔法回路がレベル6は必要です。

 エルガリータ様は才能はお有りでしたので、研究・開発を行ってはおりましたが、勉強のために品質管理室、要は出来上がった魔石や魔法陣のテスト部門もお手伝いいただいておりました」


 秘書さんシレーッと答えているけど、随分と言葉を選んでいるみたい。


 これだけの建物で多くの魔法の専門家が働いている。

 エルガさんの言うように、時空魔法持ちが所長ともう一人だけってきっと、付き合いの発生した同じ部署の中で見つけた時空魔法持ちが一人だったってことじゃないだろうか。


 そりゃー、領主の令嬢ってだけでうざいのに、才能はありそうだけどレベル不足、その上張り切って働いちゃうって、エルガさんの扱いが目に見えるようだ。

 ゴラーさんも苦笑いしてるから想像はビンゴだろう。


「こちらですね」


 品質管理室保証課。


 なんだか特別な部屋のような気がする。


 ドアを開けるとひっくり返ったおもちゃ箱、ヤッパ、エルガさんの部屋だった。って、三年近く前に辞めたよね。どうやったら二日間でこうなるのやら。

 それと甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。


「「こんにちは」」

「やあ、セージ君とゴラーダルンに…ブルン君だっけ?」

「こんにちは、そうです」

「こんにちは、ターニャ・ウインダムスです」

「ああ、おじちゃんとこの人か」

 エルガさんにとっては、ウインダムス議員はマジカルボルテックスのおじちゃんだ。

「はい。祖父だけでなく家族全員、お世話になっております」

「そんなことないよ」


 甘酸っぱい香りは、ハチミツ&レモンか。

 エルガさんのカップから漂ってきているみたいだ。


「姉上、なんで本格的に仕事をしてるんですか」

「えー、だって、ボクが魔法核と回路がレベル6になったって課長に教えたら、チョットこれを見てくれないかって頼まれちゃてさ」

「ちゃってさーじゃないでしょう。…え、姉上、今なんて…」

「だからチョットこれを見てって頼まれたから」


 エルガさんが小さく切り取られた魔石を摘まんで見せてくれる。

 よく見えないんだけど。


「そっちじゃなくて、レベル6って言いましたよね」

「うん、そうだけど」

「どうやってそうなったんですか」

「どうやったって、セージ君たちと狩りに行ってだよね」

「え、セージスタ君も狩りをしてるんですか」

「たまに一緒に行くよ。ねぇ」

「う、うん」


「こんなに小さな子が狩りをしてるってお二人も知ってるんですか」

「ええ」

「僕は一緒に狩りをしたことがあるけど」

「マリオン国とは、そのような国なのですか」

「いいえ、それは違うわね。ただ単にセージスタ君が特殊だってことよ。

 それはセージスタ君と戦ってみたゴラーダルン様もわかってらっしゃることじゃないかしら」

「そ、それはそうですが」


「エルガさん、持ってるそれは何なの?」

 重い雰囲気。気分転換に訊ねてみた。

「小型の電増魔石なんだけど、動作が今一歩安定しないんだ」

「それを解析しているところなんですね」

「そんなところだけど、このサイズの電増魔石が実用化されればもっと小さな魔電装置(マジカルボルテックス)が作れるんだよ」

 エルガさんの瞳がキラキラです。


「セージ君、カットした魔石の原石があるからチョット錬金で作ってみてくれない」

 エルガさんがちっちゃなカット済みの魔石を突き出してくる。


「え、ここでやるの?」

 メチャクチャ集中しないと無理なんだけど。

「うん、チョチョットやってもらえると助かるんだけど」

 イヤイヤ、無理だから。


「姉上、幼い子供に何を頼んでるんですか!」

 ゴラーさんGJ。ナイスです。これでうやむやになってくれないかな。

「え、何をって⁉」


「だから魔石の付与ですか、錬金ですか、それですよ」

「だっていつも(・・・)やってもらってるよ。ボクがやるより上手いし」

「えっ……いつも…、そうなんですか」

 ゴラーさんが混乱に頭を抱えだした。


「ねえ、セージ君、本当にいつも魔石から電増魔石を作り出してるの?」

 今度はターニャさんの参戦だ。

「そういつもいつもってわけじゃないですが、ノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所で今度販売される魔電装置(マジカルボルテックス)の電増魔石は僕が作ってますけど」


 魔電装置(マジカルボルテックス)とは中核部を指す言葉でもあるが、マジカルボルテックスの機材全体を指す言葉でもある。

 僕は小型近距離電話(ミニミニフォン)のことを、ターニャさんじゃなくって、ゴラーさんに伏せておきたくて、あえてマジカルボルテックスと伝えたんだ。


「それって企業秘密だったり、国家機密だったりすることよね」

「え、そこまでなんですか」

 チョットビックリ。


「マジカルボルテックスの先進国のギランダー帝国だと、国家機密になってるわね」

「そうなんですか」


「ことによったら、あくまでも仮定でってことでですが。

 エルガリータ様の能力がどれほどなのか、確認のために出された仕事ではないでしょうか」

「「「「「えー!」」」」」

 全員驚愕。目が点になる。

 もとい、秘書さんだけは、無表情。


  ◇ ◇ ◇


「課長ー!」

 仮定の上とはいえ、ターニャさんの疑念に、ワイワイガヤガヤと妄想が妄想が呼んで、収拾がつかなくなったところでエルガさんが我慢できなくなって、飛び出していった。


 ついて行っていいか迷ったけど「姉上ー!」と、ゴラーさんが追いかけるものだから、一緒に追いかけちゃった。

 秘書さん、そんなことでいいんでしょうか?


  ◇ ◇ ◇


「バレちゃったかー」

 以外にあっけらかんとして、簡単に認める課長さん。

「マリオン国? いや、オーラン市がどの程度の技術を持っているかが知りたくってさ」


「ボクが作ったって言ったよね!」


「仮の研究員だったとはいえ、基本は技術管理のテスト要員だったエルガちゃんが、わずかの間に魔石技術ならともかくも、マジカルボルテックスの中核部分の研究開発を行ったって誰が信じられる」


 魔獣監視装置(ホイポイ・マスター)は基本、マジカルボルテックスは流用しただけだ。

 電増魔石に取り組んだのは一昨年の春ごろ、ギランダー帝国のリュックに収まる超小型の近距離電話(マジカルフォン)の解析から製造を依頼されてからだ。

 曲がりなりにも電増魔石ができたのは夏ごろで、何度かの狩りで強くなっていたからじゃないだろうか。

 それでも不安定なものしかできなくって、僕が泣きつかれたんだっけ。


「ヤッパリ仕事じゃなかったんだ」

 エルガさんお怒りモードです。


「ごめん、ごめん」

 課長がなだめすかして、エルガさんが落ち着いたのは夕方だった。

 最後はグダグダで飛んだ見学になっちゃった。


 そうはいっても、僕は僕でちゃんと情報ゲットできたから満足だった。


 ちなみに秘書さんはわかってたみたいだったヨネ。


  ◇ ◇ ◇


 夕食は大勢の夕食には、ロナーさんとお嫁さんのディンドン侯爵の長女のニルナールさんも一緒だった。

 北欧系の美人って印象だ。

 髪はシルバーでお人形さんみたいだった。


「初めまして。セージスタ・ノルンバックです」

 やっぱ、ハズイ。


「こんばんは。あなたが噂のスーパー坊やね。よろしく」

「…は、はい⁉」

 思いがけない攻撃に、声が裏返っちゃったよ。

 フォアノルン家の人たちって、僕のことどうやって紹介してるんだろう?


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