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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
エルドリッジ再び編
101/181

98. エルドリッジ再び


 二年生になったからといって生活が変化するわけでもない。

 変化があったのかなかったのかよくわからない変化が、生徒会長がミリア姉で、ロビンちゃんが副会長になったことだ。

 そして僕がどういう訳か生徒会補佐として働くことになった。

 決してミリア姉とロビンちゃんに脅されたわけじゃない。

 まあ、ミクちゃんも一緒だから頑張るしかないよね。


 魔法展覧武会では、七位のモラーナちゃんから、二位のミクちゃんまでの模擬戦と。

 僕がレベル12の見栄えの良いイリュージョン付きの特大魔法を何発も放って、喝采を浴びた程度だ。

 個人発表は又もミクちゃんとライカちゃんとモラーナちゃんと組んで、

 ちなみにミリア姉(三位)とロビンちゃん(四位)がミクちゃんに負けたって、相当悔しがっていた。


 魔法核と魔法回路は全員がレベル3でストップしている。

 狩りで、スカイウォークなどの僕のサポートがないと、獣系の俊敏な魔獣を一人で倒せないからじゃないかと思うんだけど。

 身体魔法もレベル2までアップしたが、停滞している。

 魔法核と魔法回路のレベル4には何らかの壁があるのかもしれない。

 それとは別に魔法は、発動速度、正確など上手くなった。


  ◇ ◇ ◇


 春休み。

 ヴェネチアン国のエルドリッジ市のシュナイゲール・ノルン・フォアノルン伯爵(シュナー伯父様)の長子のロナルディア(ロナーさん)からの結婚式の招待状が届いた。

 丁度、夏季休暇の時に結婚式を挙げるそうだ。

 テロによってはめられたエレメントデフレクター――睡眠首輪――を外すために、僕が協力したこともあって僕にはどうしても結婚式に出席してほしいんだって。


 エルガさんには出頭命令みたいな出席要請となっていた。


 あと政変でオーラン市に避難した時の恩もあって、ウインダムス議員や家族にも招待状が届いたそうだ。


 どうやら一緒に伯父さんの家に行くことになりそうだ。


 それとパパとママに言われて、ダンスを練習することになってしまった。

 結婚披露パーティーで踊るんだそうだ。

 ミクちゃんにミリア姉とロビンちゃんもその練習には強制参加だ。

 いいのか付け焼刃で。


  ◇ ◇ ◇


 オケアノス祭の初めてのパレードは、魔法を放ちまくった前代未聞のきれいなパレードと言われた。

 ミクちゃん、ライカちゃん、ルードちゃんもルルドキャンディーを食べながら頑張ったし。

 オケアノス神のお出迎えとお見送りも滞りなく終えた。


 二学期の期末試験も無事終了して、八月六日黒曜日から六週間の夏休みとなった。

 三学期の始業は九月一九日の赤曜日だ。


 ホイポイ・マスターⅡを二台作成して、テストとして七沢滝ダンジョンに設置した。

 稼働状況は順調だそうだ。

 ちなみに僕はママとの約束で、七沢滝ダンジョンには行ってない。


 八月一一日白曜日の正午、マーリン号でエルドリッジ市に向かう。

 もちろん従兄弟のロナルディア(ロナー)さんの結婚式のためだ。

 パパ、ママ、ブルン兄にオルジ兄、ミリア姉と僕、エルガさん、メイドのモルガさんとナナラさん、それにホーホリー夫妻にヒーナ先生が家族一行だ。

 リンドバーグ叔父さんは一月前にフォアノルンの実家に帰省していて、友人たちとも旧交を温めたそうだ。

 そして今回も家を守ってくれている。

 ちなみに元テロリストのリエッタさんはさすがに、結婚式には同行させられず、リンドバーグ叔父さんと一緒にN・W魔研の留守番ということになっている。


 今回は同行者がいて、ウインダムス家だ。

 お爺さんのウインダムス議員に、パパさんのカレルッドさんにママさんのマールグリット(マール)さん、それにお姉さんのターニャさんにお兄さんのディニーさん、ロビナータ(ロビン)ちゃんにミクリーナ(ミク)ちゃんで、あとは教育係兼メイドのレイベさんとカフナさん、それと男性警護が二人付いてだ。


 もちろんこれからの商取引もあるし、新たな得意先の開拓もあるからノルンバック家もウインダムス家も一家総出だ。


 お祝いの品と、挨拶用のお土産品と、若干の貿易品を積んで出航した。

 今回は海流に乗らずに直行だ。

 エルドリッジ市からオーラン市へは海流に乗って二日半の航海だが、逆だと海流に乗らないため三日の航海だ。

 直線距離で八六〇キロメルだがこうも違うものだ。


「セージ坊ちゃん、元気してましたか」

 ごつい男船員が気安く話しかけてきた。

 初めての航海でおぼれた僕を助けてくれた人だ。

 僕はテロリストから船を守ったってことで、船員のみんなから何かと感謝され、声を掛けられるから気分は船乗り気分だ。

 マーリン号の船員たちも航海の合間にオーラン・ノルンバック船運社に顔を出すから、あまり久しぶりってほどでもない。


「こんにちは。元気だったよ。今回もよろしくね」

「ああ、ドーンと、まかしとくんなせー。」

「そのお嬢ちゃんがセージ坊ちゃんの彼女ですかい」

 そう、ミクちゃんを連れて、船内を案内してるんだ。

 ロビンちゃんの案内役はミリア姉で、どこに行ったのやら。


「え、えー……」

 まだ七才だよ。僕。

 真っ赤に火照る顔に、モジモジしてしまう。

 見るとミクちゃんも真っ赤だ。


「はっはっはーっ、仲がいいこって」

 笑わないでよ。


  ◇ ◇ ◇


 何度か海魔獣と遭遇、撃退しながらの順調の航海で、その間ミクちゃんと遊びながら、ポチットムービーで映像を撮りながら、予定通りの三日目、八月一四日青曜日の早朝にノーフォーク湾を望み、正午前にノーフォーク湾に侵入して、ちょうど正午にエルドリッジ市に到着した。

 さすがに真夏、暑い。オーラン市も暑いけど、エルドリッジ市も暑い。


 前回と同様に迎えに来た魔導車で伯父様のお城を訪問する。

 さすがにお城の中は魔法が聞いていて涼しい。


 公務を行う表の二階建てのビルディングみたいなお城――高さは三階以上――の謁見の間で、大声で名前を呼ばれるセレモニーを終える。

「はずかしかった」ってミクちゃんははにかんでたけど、ウインダムス議員はマリオン国代表の役目も担っていて、正式な公務でもあるから、省けないセレモニーだ。

 後方の居住区に移動する。

 僕たち家族だけでなく、ウインダムス家も家族として扱ってくれるってことだ。


 フォアノルン家の跡取りの結婚ということもあって、伯父様と叔母さんにロナーさんは挨拶に飛び回っている。


 ちなみにエルドリッジ市(ここ)でも地震が起きていた。


  ◇ ◇ ◇


「ウインダムス議員、久しぶりです。ご壮健で何よりです。ご家族ともどもくつろいでくだされ」

「は、閣下のご活躍はマリオン国にもよく届いております」

「ベッケンハイム、娘が世話になっておる。

 我が家も久しぶりに全員がそろえてうれしく思う」

「兄上もこれで肩の荷を半分、ロナーに担がせることができるな」

「何を言っておる。まだまだ鼻たれじゃ。ワハハハ…」


「皆の繁栄と親睦を祈念して、乾杯」

 開始され夕食でやっと落ち着いてシュナー伯父様と|アルーボリア第一婦人(アルー伯母様)、従兄弟のロナルディア(ロナー)さんと、やっと落ち着いて挨拶できた。

 第二婦人のナーダハルナ(ナーダ)伯母さんや、ナーダ伯母さんの子供のガルド君に会うのもニルナちゃんは久しぶりだ。

 ノルンバック家とウインダムス家と大勢だ。

 もちろん真っ赤なメガネにそばかす顔のエルガさんも、定例のピンクのツナギで参加してる。


「セージスタ。エルガが頼りにしてると申しておったが、魔法はどれほど上達したのか」

「えー、はい。それなりには」

「お父様。セージ君はとんでもなくなってますよ。ホントにもうってほど」

「ハハハ、そんなに上達したか」

「は、はい」

「お父様は全然セージ君のすごさがわかってないね」

「わかった、わかった。お前がそれ程言うとは、さぞやすごいんだろうな」

「一度、セージ君に魔法を見せてもらうといいよ。納得するから」

「そりゃー、是非に、拝見したいものじゃな。セージスタ、その時はよしなにな」

「はい」


「君が影の英雄のセージスタ君か。僕はゴラーダルンだ」

 三年前はヴェネチアン高等魔法学院の四年生として在学中だった次男のゴラーダルン(ゴラー)さんに会うのは初めだ。

 エルガさん情報だとエルドリッジ市の行政府に務めているそうだ。


「影の英雄ってなんですか」

「五才にしてテロリストを捕縛した魔法の天才って、エルガ姉さんが追っかけてった人は、どんな人かなって、ずーっと思ってたんだ」


 その言葉に驚いたのは、ウインダムス家の四人の子供たちだ。


「セージ…君、今のテロリストって何?」

「ロビン。はしたないですよ」

「はーい」

 情報通のウインダムス議員やパパさんにママさんはおおよそは知っているはずだけど、子供たちには話して無いってことだ。


「三年前にテロリストが暴れた時があってな、その時にセージスタは一〇人ほどをつかまえたのじゃ」

 伯父様の大雑把な説明に、目を見張るウインダムス家の四人の子供たち。


「これは内緒の話じゃ。よいな」

 みんながコクコクとうなずく。


 なんだかんだと話題は飛んで、エルガさんの結婚話には、エルガさんが聞く耳を待たなくって、うやむやになった。エルガさんの結婚相手は当分の間、魔石と技術、否、魔電装置(マジカルボルテックス)のようだ。


 ロナーさんは現在二三才と、政変の影響もあるけど継嗣(けいし)の結婚としては遅い方なんだって。

 お嫁さんはディンドン侯爵の長女のニルナールさんという方だそうだ。

 ゴラーさん曰く、兄上には勿体なほどの美人だそうだ。

 楽しい夕食だった。


  ◇ ◇ ◇


 八月一五日黄曜日に、案内を買って出てくれたのはゴラーさんに引き連れられて僕とミクちゃんはエルドリッジ市に繰り出した。

 もちろん護衛にはゴラーさんの警護一人に、レイベさんが付いてだ。

 ノルンバック家の護衛が僕には付かないけど、まあいいかってことだ。


 お忍びだから馬車や魔導車は止めてもらって、「歩いてよく見てみたい」ってお願いした。

「いいけど、ミクリーナちゃんは大丈夫なの?」

「はい、平気です」

「本当に?」

「ミクちゃんも強いんで、大丈夫です」

 気にするゴラーさんに、僕がアピールすると、セージちゃんみたいに強くないもん、と怒られてしまった。

 最終的にはレイベさんに確認して、トボトボ、否、スタスタと出かけた。


 ちなみにミリア姉にロビンちゃんはウインダムス家のターニャさんに引き連れられてエルドリッジ市に繰り出すことになった。ターニャさんはウインダムス総合商社マリオン支店勤務だけど何度もエルドリッジ市に来たことがあるそうだ。

 きっと女子会のようになるから、ミクちゃんにもターニャさんと一緒の方がいいんじゃないのって勧めたけど僕と一緒に出掛けるってんで僕と一緒になった。


 そうなるとブルン兄・オルジ兄にウインダムス家のディニーさんの男三人で固まってしまって、地図を借り受けて同様にエルドリッジ市に繰り出していった。


 もちろん二組とも護衛が付いてだ。


 エルガさんはエルドリッジ市の魔法研究所に「挨拶してくる」とサッサと出かけていっちゃったし。


  ◇ ◇ ◇


 市内は城主の継嗣(けいし)の結婚式ということもあって、飾り付けが行なわれていて、ヴェネチアン国旗とフォアノルン家の旗が至るところでひるがえっている。


 しばらく歩いていると、あれっ?

 あやしい奴が付いてくると思ったら、ゴラーさんの内緒の護衛のようだ。そりゃそうか。


 市場を見ると温帯のエルドリッジ市とはいえ真夏なので、オーラン市の果物と差異はない。

 ただし葉物野菜は似ているようで、チョット違っていて興味深かった。

 親切なおばちゃんに、ブドウをもらっちゃた。

 甘かった。ごちそうさま。


「ミクちゃんは行きたいとこないの?」

「うん、セージちゃんの行きたいところに行っていいよ」


 ということで、魔電装置(マジカルボルテックス)の製造所は無理で、販売店に来た。

 ヴェネチアン国はマジカルボルテックスの先進国だ。


 簡単なものだとタイマー装置からライトにコンロ。

 複数台制御の有線電話はボタンを押すと指定された通話機と話ができる。

 洗濯機に冷蔵庫と日本でおなじみの白物家電が並んでいる。

 それらは全て一つの魔電装置(マジカルボルテックス)で制御される。

 もちろん吸魔アンテナと魔充電装置(ボルテックスチャージ)の容量によって扱える装置に限界がある。


 通常の魔石だとライトやコンロなど、一つの装置につき一つの魔石が組み込まれていて、魔法力が切れると交換という手間がかかる。

 まあ、それでも便利なんだが。


 マジカルボルテックスも経年劣化による交換は必要だが、通常の魔石が一週間から一か月に対して、自動で充魔電を行うので交換は年単位、それも基本はメインのいくつかの魔石を交換するだけで済むといったところだ。


「セージスタ君は、エルガ姉上みたいだね」

「え、そんなことはな・い・で・しょー」

 あんなオタクと一緒のはずがない。うん、断じてない!


「ミクリーナちゃんもそう思うでしょう」

「え、えー、…はい」

 ショック。

 問いかけられたミクちゃんが僕をチラ見しながら、申し訳なさそうにゴラーさんにうなずいたんだ。


 打ちひしがれながらレストランで昼食を摂った。

 美味しい気はしたけど、味気ない昼食だった。

 断じて僕はヲタじゃない。


 午後はミクちゃんと相談して、ゴラーさんに案内をお願いした。

「友達にお土産を買いたいんだけど」

「学校の友達かい」

「うん。僕とミクちゃんの友達」


「男の子と女の子のお土産でいいんだね」

 ライカちゃん・モラーナちゃん・ルードちゃん・パルマちゃん・ビットちゃんへのお土産だから、あれ?

「えー、全部女の子です」

 どうしてこうなった? 男性の知り合いは大人ばっかりだ。

 思い浮かぶ男子クラスメイトは、……三バカは無いな。

 ガックリと肩を落とす僕に。

「セージちゃんは人気者だよ」

 ミクちゃんの言葉に、ハハハ…とゴラーさんに笑われてしまった。


 ゴラーさんに連れられ、ウインドウショッピングをしながら、小物を売っているお店に到着。

 さすが女の子。瞳がキラキラしている。


「セージちゃん、これがいいかな。ヤッパリこっちかな」

 散々選んだあげく、二つの候補を差し出してきた。

 女の子ってどっちってなった時には、すでに決めてあるってよく聞くことだ。

 雰囲気的には本当に迷ってそうだけど。

 ……あ、でも、友達のものを選ぶ時にもそうなのか?

 二つの髪飾りを見比べる振りをして、ミクちゃんをチラ見。

 どうやら真剣に悩んでそうだ。


「別におそろいじゃなくてもいいんじゃない。

 似たようなものを五つ買って帰ってみんなで選んでもらえば」

「そうかなー、それじゃあ気持ちが伝わらなくないかなー」

「そっか、それと僕が選んでいいの?」

「だって、二人からのお土産でしょ」

 あ、そういうこと。納得。

「それじゃー、こっちで。ライカちゃんの色は…」

 ってことで色違いだったり、チョットした違いの物を五つを選んで買いました。


「セージスタ君。ミクリーナちゃんには買ってあげないの。

 僕がコッソリと買っといてあげるよ」

 僕がお金を払っていると、悪魔のささやき。ゴラーさんがコッソリと耳元でささやいてくる。

 そ、そんなことにも気を使うの?


「それじゃあ、同じもので濃い青い奴を覚えてますか」

「ああ、あれね。でも、おなじ物でいいの?」

「はい」

 女の子の物なんて選べないもんね。

「まあ、協調性は大事だからそれもいいか。わかったよ」


 ゴラーさん、コッソリと渡してくれました。

 それも三つも、二つはチョット高くきれいな物だった。

 これができる男の行動なのか?


 知らない街は、あちらこちら回って歩くだけでも楽しい。

 漁船用の港を見て、客船や商船などのみなとを回った後に、海軍の詰め所にも寄ってみた。


「ここが海軍の練習場だよ」

 二〇人チョットか、二人の司令官からすると二つの小隊が訓練をしていた。


 ゴラーさんが、小隊長らしき人と軽く話をすると。

「セージスタ君、一緒に訓練しよう」

 グッと腕をつかまれ、有無を言わせない雰囲気だ。


「テロリストをつかまえられなかった我らは情けないったらありゃしないが、子供に出し抜かれて面目丸つぶれだよ」

 ハメられた、と思った時には遅かった。

 まだ、小隊長さんの目が笑ってるのが救いだ。

 ゴラーさんはもっと笑ってるけど。


 更衣室には練習着もあったけど、自前の練習着に着替えて木刀を手にして、ゴラーさんと一緒に練習場にむかう。

 ちなみにミクリーナちゃんも「私も参加していいですか」ってことで一緒の参加だ。


「まずは僕からでいいよね」

「はい」

 どうせいやだといっても無駄なんでしょう。


 小隊長の「はじめ!」の声に、ゴラーさんが、どこからでもいいよ、って手招きする。

 それじゃあ遠慮なく。

<身体強化>『レーダー』『並列思考』『加速』

 五メルの距離を一気に詰めて、右手をつかんで、軽くひねるとゴラーさんが、アワーッ、と無様に悲鳴をぶちまけて地面に寝転がる。


 ガハハハ…ッと愉快な笑いが巻き起こる。


「ここまでとは」

「ゴラーダルン殿じゃあ相手になりませんな」

 二人の小隊長が呆れている。


 今度は三〇才程の大柄な隊員だ。まあ、どっちの隊かはわからないけど。

「ケガをさせるなよ」

「負けたら夕飯抜きの便所掃除だ」

 周囲はいい気なもんだ。


 一般的な練習用武器の片手剣に盾を持つ大柄な隊員が、盾を前面に出して突貫してくる。

 ワンダースリーのボコシラさんと戦ったことのある僕としては遅すぎる。

 フェイントも無く、身を屈めて盾の内側に入り込んで、突貫の勢いを利用して大柄な隊員を持ち上げて放り投げた。


 ドサッと背中から地面に落下したけどこの程度じゃ大丈夫だろう。

 看破をしなくても大雑把な強さは認識できる。強さ的には“45”程度といったところだ。


 さすがに今度は全員から笑いも起きずに、唖然とされてしまった。

 ただ一人ミクちゃんだけがパチパチと手を叩いてはしゃいでいる。


「もう一度だ」

 憤怒の形相で構える。

<身体強化>を使っているから本気のようだ。

 はじめ、の掛け声に再度の突貫。

 さっきとは速度が違う。それでも遅いんだけど。

 僕も身体強化のレベルを上げて、再度の踏み込み。

 ただし今度は盾を剣ではじいてから懐にもぐりこんで、大柄な隊員を放り投げた。


 さっきよりチョット高めからドサッと背中から地面に落下した。

 とっさに起き上がるが、それまで、となった。


 大柄な半熊人属は副隊長だ。先ほどの人より二回りほど大きい。

 両手剣を片手で振り回すほど力が溢れている。ビューンと風がこっちに届くほどだ。

 それを両手に一本づつ持っている。

 強さは“60”弱ってところだろう。

 周囲の空気がピリピリとしている。


 はじめ。

 ビューン、と右手の両手剣が振られる。

 一歩後退。

 ビューン。今度は左手だ。

 かいくぐって右に回り込む。

 ビューン、左手の振り抜きの力を利用して、体を回転させて、右手の剣を背中に向けて切りつけてくる。

 更なる『加速』で、背中を向けた小隊長の膝裏を蹴る。

 ガクリと膝をつく小隊長の首筋に木刀を置いてから距離を取る。


 止めがかからない。見えなかったのか? これからどうしよう。

 僕が木刀で切ったら終わってくれるんだろうか。

 小隊長を倒すとなると投げるには重すぎるし、切りつけるにもケガをさせかねない。

 まあ、なるようになるか。


 ビューン、ビューンが再開された。

 今度は警戒しているようで必要以上に踏み込んでこない。


 あ、あれにしよう。


<マジッククラッシャー><マジッククラッシャー>

 両手から魔法力の塊りを発射する。

 小隊長もさすがにそれを両手で別々にはじくが、僕はその隙に、真正面、体を屈めて、もう一度マシマシで『加速』して飛び上がってフライングキッーク。


 見事に決まって、ズドーン、とひっくり返る小隊長。

 首筋に木刀を当てると、それまで、となった。


「いやー、セージスタ君強いね。

 ゴラーダルン殿、うちらの隊じゃ相手になりませんよ」

「そ、そんなのおかしいでしょう」

「そうはいってもこれですからね」


 その後は僕とミクちゃんにゴラーさんが入ってしばしの合同練習となった。


「マリオン国の子供はこんなに強いのか」

 ミクちゃんの戦闘力に、再度の騒動になったのは、僕にとっては笑い話だ。

 ミクちゃん無いム…(ウホン)胸を張って、チョット誇らしそうです。


  ◇ ◇ ◇


 シャワーを浴びて夕食前のホンワカした時間に「これミクちゃんの」って髪飾りを唐突に渡したんだ。

 三つの内で一番いいやつを。色は僕の指定した濃い青だ。

 雰囲気もへったくれもないけど、そんな気の利いたスキルは個人情報にも無いから無理だ。

「ありがとう」

 喜んでくれて、嬉しかった。


 そうしたら「これ使って」ってストラップ付の二つの月のアクセサリーをもらっちゃった。

 ミクちゃんも同じものを持っていて、僕が青でミクちゃんのは赤だった。

「またバッグにぶら下げるね」

「私もそうするね」


 夕食でミクちゃんの髪飾りを見たゴラーさんから、よくやったといわんばかりのウインクに、どっと疲れが出た気がしたのだが……。


「いやー、コテンパンでさー」

「海軍の第二と第四小隊が、てんで相手にならなかったし、僕じゃセージスタ君の動きが見えなかったしね」

 ゴラーさんがこれでもかってほど、僕を持ち上げるんだ。

 こんなリベンジがあるのかって、もーやめて。まいりましたから。


 ミクちゃんの強さもひとしきり褒めて、ミクちゃんも真っ赤になちゃったし。

 だからやめってってばー。


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