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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
エルドリッジ再び編
100/181

97. セージの日常4とオケアノス祭


 五月七日赤曜日、二学期開始。

「おはよー」

「「…「おはよう」…」」

 クラスメイトに会うと、さすがに“何もかもが懐かしい”気がする。


「爆発魔人、休み中にどこか爆破しなかったかー」

「ドッカン、バッカン、迷惑だもんなー」

「七沢滝ダンジョンでも爆発させてこいよー」

 三バカは、なーんにも懐かしくもない。


 授業は一学期の基礎のおさらいから、二時限目の国語は短い文章による授業と文字の練習から一ランク上の授業となる。

 その他の授業も同様にワンランク上の授業になるはずだ。


 変化しないのが午後の五時限目と六時限目の魔法練習だ。

 僕の別格は変わらないけど、ミクちゃん、ライカちゃん、ルードちゃんはオーラン魔法学校での特別練習に移行していて、魔法の腕も上がっている。


  ◇ ◇ ◇


 二学期に入って“個人情報”の『秘匿』と『常時秘匿』などの、個人情報の操作も教えてもらた。

 まあ、『秘匿』と『常時秘匿』は総合が“10”前後にならないと使いないスキルだから、使える人は限られるけど。

 それにしても、個人情報の個別スキルが、数の制限があるとはいえ、スキルごとに見えなくするって便利だよね。

 僕には“情報操作”のスキルに、情報操作の偽装パネルがあるから必要ないけどね。


  ◇ ◇ ◇


 真のルルドキャンディーの力はすごかった。

 一粒で魔法が“165”まで回復した。

 三粒で“342”となったけど、感覚的に四粒目でも回復しそうなんだけど実験は止めた。

 五〇粒ほどしかできなかったんだ。

 ルルドキャンディーの有効期間が概ね一〇か月ほどで、それからは徐々に劣化していく。

 イメージ力の込め方で、劣化しないようにとの一項目を入れるようになって、ここまで伸びたんだ。


  ◇ ◇ ◇


 五月初旬に選挙があった。

 自由共和国マリオンの議員の任期は二年で、毎年半数の改選が行われる。

 今年はパパの二期目の四年間の任期が終わり、選挙に出馬した。

 なんちゃって共和制ということもあって、投票できるのはある一定上の税金を払っている国民にかぎる。

 産業を育成し、貿易で稼いでいるマリオン国とオーラン市にとって、産業や貿易に有益であるものが優先されるのは致し方ないことだ。

 パパは貿易で、そしてN・W魔研でと、モンスタースタンピードの対策に貢献したことも大きく、三選目の当選を果たした。

 議会では相変わらずオーラン市の復興と発展について、そして雨天でも有効な魔導砲の開発に力を注いでいる。


 一般議員だったパパは技術促進担当の役職も拝命したんだって。


 ウインダムス議員も同じ選挙で再選して、今度は副議長――オーラン市議会では議長――になったんだって。


  ◇ ◇ ◇


 オーラン魔法学校の二学期の主なイベントはオケアノス祭への参加だ。

 A・Bクラスの基本は二年生と四年生がパレードで、三年生が浜辺のステージとなっている。そして、C・Dクラスは逆で二年生と四年生が浜辺のステージで、三年生がパレードとなっているが、数の制限はあるが、ある程度の変更は可能だ。


 一年生と最上級生の五年生はお手伝い参加だから、セージたちは特にやることはないはずだったんだけど…。


 週末にセージ()は職員室に呼ばれて、ルイーズ先生からお話があった。

「セージスタ君。魔法展覧武会の特別選抜者の一位は船に乗って神主(かんぬし)と一緒にお迎えとお見送りの名誉職を拝命することになっています。

 不都合なことはありますか?」


「僕が不都合だとどうなりますか」

「二位のミリアーナさんになりますね」


「ミリア……、えー、姉のミリアーナに譲るってのはいいんでしょうか」

 正直めんどくさい。


「普通に考えれば五年間セージスタ君の役目になりますから、その気持ちはわかりますけど、ミリアーナさんは喜びますかね」

「チョット、家で話し合ってもいいですか」

「かまいませんが、学校としてはセージスタ君にお願いしたいというのが本音です。こちらからもご家族の方にご連絡を入れておきますね」

「はい、わかりました」

 チェッ、余計なことを。


「それと漁船に乗って近場とはいえ海に出ます。

 警備艇に守られているので、魔獣に襲われることはほとんどありませんが、危険な事には変わりがありません。

 そのために学校としては、ご両親と相談を必ず行っています」


「いいですよ。僕乗ります」

「ご両親に相談する前に決めてしまって、いいのですか」

「大丈夫です。乗りますよ」

 せっかく船に乗れて海魔獣と会えるかもしれないのに。

「とにかくご両親とは一度話し合いを持ちます」


 なんでもオケアノス神は子供好きなんだそうだ。

 そんなわけで、お迎えとお見送りに毎年子供が立ち会うんだって。


  ◇ ◇ ◇


 同じ週末、オケアノス祭まで丁度二か月といったところだ。

 二年生から四年生はオケアノス祭の参加に向けて打ち合わせをして練習に入っていく。

 基本はAクラスとDクラスの二年生が海岸通りのパレードで、三年生が浜辺のステージへの参加となる。

 逆にBクラスとCクラスの二年生が浜辺のステージで、三年生が海岸通りのパレードへの参加となる。

 ある程度の融通は効かせることになっているが基本はこれだ。

 学年が上がってA・B・Cの入れ替えが行なわれて、片方にしか出なかったって生徒もいるがそれは致し方ないことだ。

 そして四年生は希望側への参加となる。


 なんだかんだで五月の四週目頃からパレードや発表の練習が始まった。


 その間にみんなと狩りに行ったのは一回だけだ。

 そしてほとんどレベルが上がらない。

 ララ草原じゃあ、限界なんだろう。

 活性化もしてないしね。


 ちなみに狩りは許可されているけど、七沢滝ダンジョンは禁止されたままだ。

 ママがまた僕が取り込まれはしないかと恐怖症気味なのは相変わらずだ。


 七沢滝以外は禁止されてはいないけど、ホイポイ・マスターのメモリーパッケージの交換に参加するのも回数を減らしている。

 ルルド(マジック)キャンディーの製造のために時たま、ボティス密林のルルドの泉に水を汲みに行って、ミズアメルルド水も継続して作っている程度だ。


 ルードちゃんのママさんのリーデューラさんも無事完治して、現在は自宅療養中ってことだ。

 ルードちゃんからは改めて感謝されちゃった。

 あとパパさんのラーダルットさんがノルンバック・ウインダムス魔獣対策魔道具研究所(N・W魔研)に務めることになった。


 なんでもワンダースリーを雇ったお金をパパが立て替えたんだって。

 その返却もあるけど、感謝として役に立ちたいといってのことなんだってさ。

 それと治ったといっても奥さんが心配で、無理をして狩りをすることより安定した生活を望んだってこともあるみたい。


  ◇ ◇ ◇


 五月二三日は僕の誕生日でみんなにお祝いしてもらったよ。

 ミクちゃんからは特別に手作りケーキをもらって感激しちゃった。人生初、いや、二人生初のお手製キーキだぞ。


  ◇ ◇ ◇


 六月になるとパレードや、ステージ発表の練習が盛んになってくる。

 体育の授業では週に一度、海に行って水泳訓練も行われる。

 さすがにオーラン市の子供たち。泳げない子はほとんどいない。


 そんな中、六月六日の黒曜日に、エルガさんとリエッタさんの三人でモモガン森林に狩りに行く。

 エルガさんが、前回のレベルアップで味をしめ、要は錬金魔法が楽になって精度が上がったってっことだ。それでもう少しレベルアップをしたいってことが今回の狩りの主目的だ。

 とはいっても魔法核や魔法回路を1ランク上げるのは無理がある。

 前回促成栽培的にアップしたスキルを身につけて、錬金魔法の精度を更にアップしようということだ。


 エルガさんも身体魔法のレベル0を、魔素と魔法力の活性化と体を鍛えることでレベル1までアップしている。できることは細胞活性(アクティブセル)だけど、それでも今までよりも断然狩りがやりやすいはずだ。

 それと<スフィアシールド>も練習して体得してきている。

 エルガさんの最終目標は魔法核と魔法回路のレベルアップだろうけど、僕からしたら、目指せ身体強化だと思っているんだけど。


 ランクD冒険者だったエルガさんは、総合が“55”と押しも押されぬ中堅冒険者だ。

 ボランドリーさんの計らいで最近ランクC冒険者になっている。


 今回の狩りは、マリオン市からの注文でホイポイ・マスターを二台納品することになったこともその要因だ。

 ちなみにホイポイ・マスターの性能をアップして、索敵範囲を半径一七~八メルにする予定で、“ホイポイ・マスターⅡ”だって早くも命名したエルガさんも張り切っている。

 以前あった、モモガン森林に設置するって話は、オーラン市のモンスタースタンピードの被害が思いのほか大きかったので、予算の都合がつかずに現在は保留中だ。


<テレポート>二回でモモガン森林の入り口に到着する。

 総合が“44”となったエルガさんも、チョットだけ積極的に狩りをしてもらうことになっている。得意な攻撃魔法は土と風の複合魔法なのは変わらない。


 モモガン森林の奥に入らないのは前回と同様だ。

 最初に敵はランスダークウルフだ。

 衝撃波を発生させながらの一本角による突進攻撃が定番だ。

 俊敏さもあるから、生半可な回避だと突きや、角の振り回しで切り裂かれる。

 ただし強さは“41”で、僕には弱すぎる。

 かといってアクティブセルのエルガさんだと回避が心もとないし、覚えたてのスフィアシールドも以下同様。


<粘着散弾>

 これでランスダークウルフの動きをかなり制限できた。


 エルガさんが横からランスダークウルフの首をショートスピアで突き刺した。

 リエッタさんが振り回す角を受け止め、エルガさんが追加の魔法力を込めて息の根を止めた。


 レッドキャットやクラッシュホッグと強さ“40”前後の強さの魔獣を三匹狩った。

 随分エルガさんの動きも良くなってくる。

 もちろんもっと弱い魔獣も狩っている。


 昼食休憩とした。

「セージ君と一緒だと狩りがラクチンだよね」

「エルガさん!」

「はーい、気を抜かないように、気を付けてますよ。それでもこうもラクチンだとね」

「それはわかりますが、その気持ちのゆるみがケガを招くんですよ」

「わかってるって、気を抜かないって。

 セージ君ありがとうね」

「どういたしまして」


 ギュッとされても防具で何にも柔らかくない。

 それでもヤッパこの三人だと、違った意味で楽しい。

 兎肉の柔らかい焼肉を口に放り込む。香辛料のピリッとした足が縁の中に広がる。


 午後一番はメガホッグで、僕が足止めをして、リエッタさんもユトリで狩った。


「いた。チョット二人で待っててね。<テレポート>」

 少々離れた空中に飛んで、落下。

<フライ>

 黒銀槍で背中を突き刺し、プテランを狩った。


 この日は僕もいい気晴らしができた。

 翌日エルガさんとリエッタさんは少しだけ強くなって、エルガさんは「魔素と魔法力の活性化や運用がうまくなった」って喜んでいた。


 ちなみにエルガさんが張り切るってことは魔石の作成が忙しくなるってことだ。

 僕も頑張らなくっちゃ。


  ◇ ◇ ◇


 六月末にもなるとオケアノス祭参加の衣装が出来上がってきたりと、衣装合わせで本番さながらの練習もあって、放課後は雑然さは増すが華やかになる。


 そして七月になるとオーラン市も祭りに向けて飾り付けが行われ、華やかになる。

 観光客もちらほら見受けられるようになる。


 相変わらず一日に一回か二回、小さな地震が続いている。

 住民全員、慣れてしまっている。

 ニュースだと海外も含め、バルハライド全体がそんなような状態だそうだ。


 それとホイポイ・マスターの注文がマリオン市から追加で二台きた。

 九月中旬に四台まとめての納品となった。


 ダンスの練習に身が入らない日々が続いている。

 戦闘とまるっきし違う体の動きに、どうもしっくりとこないんだ。

 ミクちゃんと組んで踊るのもハズイし。


  ◇ ◇ ◇


 七月初め、小型近距離電話(ミニミニフォン)がとうとう完成した。

 小型のボルテックスチャージが何とか組込めたといったところだ。

 ただし問題があって、出力が想定より小さく、ミニミニフォンの通信距離が一五キロあったが、小型のボルテックスチャージのために、通信距離が一三キロとなってしまった事だ。

 いよいよ小型近距離電話(ミニミニフォン)の販売が始まる予定だが、一か月ほどのテストと、電増魔石の生産をしておくことになった。


 それとは別に、お試し版をオーラン市と、マリオン市でも使用してもらえるように、営業も掛けるそうだ。


  ◇ ◇ ◇


 七月一二日黒曜日。

 今日から三日間がオケアノス祭だ。

 今日はオケアノス神社で舞が行われ、華やかに飾り付けが行なわれたオケアノス大通りや海岸通りが見どころで、明日のパレードに向けて自主的に浮かれて踊っている程度しかイベントがない。

 オケアノス神をお迎えする本番は明日だ。


 セージ()は、朝から久しぶりに訓練と兼ねてミクちゃんたちと海で泳いで遊んだ。

 僕にはヒーナ先生が、ミクちゃんにはレイベさんが付き合ってくれて、一昨年に初めてミクちゃんに出会ったことを思い出す。

 ライカちゃんとルードちゃんも一緒だからちょっと違うけど、それはそれで楽しいし、泳ぐ速度がかなり早い。

 泳いでいると興奮したイクチオドン五匹が、セイントアミュレットを乗り越えて湾に侵入してくることも相変わらずだ。

 ただ、海水浴場まで侵入してくることはない。

『海魔獣の侵入がありました。しばらくの間海から上がって下さい』

 アナウンスとは別に、警備艇がイクチオドンを掃討していくのを、観光客が興奮しながら観戦しているのもいつもの光景だ。

 だから海に入るなって。


 帰りにはオケアノス神社でお参りもしたし、舞を見学したりもした。


 三時から一A一のみんなと一緒に海岸の清掃ボランティアだ。


  ◇ ◇ ◇


 七月一三日赤曜日。

 一A一のボランティア参加となるお手伝いは、班に分かれて海岸の清掃だ。

 今日も昨日に引き続き、おそろいの腕章に海岸の管理の自警団に五年生のリーダー付く。

「セージスタ君にミクリーナさんとライカさんとルードティリアさんだっけ、他の二人もよろしくね」

「「「「「「…よろしくおねがいします(ニャ)」」」」」」

 それがなんと、今日の付き添いが生徒会広報マロンさんだ。

 ヤッパ僕帰ろうかな。


 オーランには一般学校も第一学校から第三学校までの三校あるし、オーラン上級学校からもボランティアが来るので人数はそれなりにいる。

 それらが時間帯を分けて交代で清掃を行う。

 とはいえ海岸は広いから大変だ。

 それと今日は観光客が大ぜいだ。


 僕は参加義務はないけど、一班として参加している。

 癖になっているレーダーで観察しつつ、ゴミ拾いを行う。


「あ、スリ。ミクちゃんチョット行ってくるね」

「あぶないことしないでよ」

「うん、気を付けるよ」


<身体強化>『並列思考』『加速』『浮遊眼』


 掏ったものをまだ持っていることを確認して、

<大粘着弾>

 ギャーっと悲鳴が上がる。

 周囲が一瞬凍り付き、ザッザーッと潮が引くように空間ができる。


「そちらの方、お財布が亡くなっていませんか」

 指差された女性がバッグを開けてみて驚愕する。


「こちらにありますよ」

 もがくスリだが、粘着弾は絡みついたままだ。

 その一部を『解除』してお財布を取り出す。


「あ、それ私のです!」

 女性が叫び、アワアワと慌てふためいている。

 そこに警備兵も到着するし、班のリーダーの自警団員も加わる。


「この人がこの女性から財布を掏り取ったのでとらえました」

「あの、危ないことはしないように」

「ああ、ノルンバックさん所の息子か。よくやった」

 呆れながらも心配する女性自警団員に、警備兵が仕方ないといった顔だ。

 見ると、海岸でよく見かける警備兵だ。僕を知ってるってことだろう。


「そんなことでいいんですか。一年生なんですよ。こんな危険なことをして事故や事件に巻き込まれたらどうするんですか」

「はい、気を付けます」

「セージスタ君なら大丈夫ですよ」

 マロン先輩、シレーッと話しに割り込まないでください。

「上級生のあなたが、あおってどうするんですか」

「だって、セージスタ君がオーラン魔法学校の最優秀生徒で、ランクCの冒険者で活躍してるんですよ」

「ランクC……」

 はい、と仕方ないから緑のギルド証を見せました。

 あれ? でも何でマロン先輩知ってるの?


「まあまあ、今はスリのことです」

「は、はい」

 目を見張る女性自警団員もしぶしぶ了承する。


「このお財布は事務所で確認した後にお返ししますので、ご同行願います」

 はい、と掏られた女性も今は落ち着きを取り戻している。


「それで僕の名前は」

「セージスタ・ノルンバックです」

「ああ、そうだったな。何かあったら呼ぶかもしれんからな」

「はーい」


「いやー、セージスタ君にとってはスリなんてチョロインだねー」

「そんなことなないです。たまたまです」

 と、こんなこともあったのだが…。


「またですか」

「またまたですか…」

 ちなみに全部で五人のスリをつかまえると、清掃で来たのか、警備で来たのかもわからなくなった。

 二人目から――思念同調のおかげか挙動不審者を発見――はポイットムービーで録画も行うことにした。

 女性自警団員には「本当にランクC…」と呆れ果てられてしまった。


  ◇ ◇ ◇


 清掃も終わってパレード見学。

 ミリア姉のクラスはリコーダーを中心にしたパレードだ。

 個人的に楽器を習っている人もいるようで、その楽器での参加者もいるみたいだ。

 赤と紺の衣装も似合っている。

 ちなみにそのリコーダーには僕がイリュージョンの魔法を付与してたので、キラキラと発光している。

 演奏途中に戦闘でバトンを振るミリア姉ともう一人が魔霊石の付いたステッキ――僕が魔法展覧部会で購入・使用――で花火を上げる。

 拍手喝采だ。


 ロビンちゃんのクラスもリコーダーを中心にしたパレードだ。

 ただし演奏部と先頭のダンス部に分かれていて衣装が違う。

 ロビンちゃんの入ったダンス部が魔霊石の付いたステッキを持っていてやはりイリュージョンの花火を上げている。

 こちらも拍手喝采だ。


  ◇ ◇ ◇


 夕食を食べてリエッタさんに送ってもらって急いで神社に到着。

<ホーリークリーン>で汚れを落とす。

 ちょうど空のお神輿がオケアノス神社から出ていく。オケアノス神のお迎え用だ。


「今年は可愛らしい魔法学校の生徒さんですね。お名前は」

「セージスタ、セージスタ・ノルンバックです」

 は、ハズイ。

 巫女さんに、直垂(ひたたれ)も着替えさせてもらう。

 オーラン上級学校の最優秀生徒と一緒だ。


 祝詞(のりと)でお祓いをしてから、神主さんや巫女さんと一緒に海岸(海水浴場)に向かう。

「なあ、オマエって一年生か二年生か?」

 上級学校の最優秀生徒が問いかけてきた。

「一年生だよ」

「それが最優秀生徒っておかしいだろう」

「どういう訳かそうなっちゃいました」

「魔法学校大丈夫か?」

「大丈夫じゃないですかねー」


「まあまあ、オーラン魔法学校から正式に紹介されたことだし、魔法展覧部会でも大活躍したセージスタ君ですしね」

 ニコニコと話しに割り込んできたのは、ふくよかで白髭の神主さんだ。


「え、見に来たんですか」

「毎年、呼ばれるんですよ。見ると安心できますしね。

 でもおどろきましたよ。あんなに高度な魔法を使いこなす一年生がいるなんて、挙句の果てに“テレポートⅦ”ですからね」

「アハハハ…」

 神主さんがいい人でよかった。


「え、テレポートⅦって何ですか」

「ま、セージスタ君が優秀ってことですよ」

 なんだか、あちらこちらで有名になっていってるような…。

「そ、そうなんですか」

 上級学校の最優秀生徒が不思議そうに首をかしげる。


「ソータイン君も優秀な生徒だって聞いているよ。二人ともよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

「…お願いします」

 上級学校の最優秀生徒はソータインさんっていうんだ。イケメンです。

 それにしてもふくよかで白髭の神主さん、ニコニコと優しい。


 夜の海岸に簡易的に作られた桟橋には飾り付けられた大きな漁船が泊まっている。

 少し離れた場所ではステージがこうこうと明るく照らされ、歌で盛り上がっている。

 そこにお神輿と一緒に乗り込む。


 チョット雲があるけど大きな月のルーナが真ん丸の満月だ。

 小さな月のアルテも空に浮かんでいる。


 湾の中央に出る。

 御幣(ごへい)を持った神主さんに合わせて二礼二拍手一拝をする。

 神主さんが御幣(ごへい)でお神輿を再度清めて、扉を開ける。


「かしこみかし込み申し候。

 高天(たかま)の宮に住まわれる……」


 祝詞をあげ終え、二礼二拍手一拝をして扉を閉める。

 オケアノス神の海渡りに御霊入(みたまい)れ。

 オケアノス神がこのお神輿に宿ったということだ。


「今回の生徒さんたちは、オケアノス神に愛されているようじゃ。

 お神輿が輝いておる」


 ニコヤカのそんなことを言われると、照れるし対処に困るんだけど。


 これで海岸に戻って神社まで歩けば今日の役目は完了だ。


「海魔獣侵入!」

 警備艇がサイレンを鳴らす。


 小形亀魔獣のデミアーケロンに、魚類型魔獣のイクチオドン四匹だ。


 デミアーケロンは亀形といっても泳ぐ速度はいたって早く、イクチオドンより早いくらいだ。


 僕がアイテムボックスからショートスピアの黒銀槍を取り出すと、

「その格好で血を受けてはなりません」

 ふくよかで白髭の神主さんに言われてしまった。

「返り血を受けなければいいんですか」

「まあ、そうじゃな」

「バカ、やめろ! 警備兵に任せるんだ!」

 ソータインさんも大声で止めてくる。

「まあまあ、セージスタ君が何とかしてくれるだろうから、見守ていましょう」

「え、いいんですか」


 ショートスピアをアイテムボックスにしまい、片鉄菱の腰袋を取り出す。

 片鉄菱は、高周波ブレード化をした鉄菱(ひし)だと持てないので、両方尖っていた鉄菱(ひし)の尖りを片側だけにした物だ。


「…アイテムボックス…」

 ソータインさん、顎が外れそうですよ。


 あ、イクチオドンを網でつかまえて、一匹撃破した。


 もう一匹も。


<ハイパーストリーム>

 包囲を抜けてきたデミアーケロンに魔法力を流した鉄菱五個を投げつける。

 カタパルトとハイスピードフローコントロールの複合個人魔法で加速と誘導を行う。

 これでお投げるのを練習したんだ。

 高速で海中に突き刺さっていく。


 レーダーでデミアーケロンに命中したことを確認すると、痛みからか浮かび上がってきた。


<ハイパーストリーム>

 今度も片鉄菱五個だだ。


 甲羅を突き破って体内に突き刺さる。

 強さも“42”とたいしたことない。

 仕留めたことをレーダーで確認する。


<ハイパーストリーム>

 向かってくるイクチオドンにも片鉄菱を投げつけて仕留める。


 ちょうど警備艇も最後の一匹を倒したようだ。


 周囲が唖然とする中、

「神社に向かってくだされー!」

 神主さんの大きな掛け声で、みんなが動き出す。

 神主さんも慣れたもんだ。


 僕はレーダーで再確認をすると、残った鉄菱から魔法力を『解除』してアイテムボックスに放り込む。


「やっぱ、アイテムボックスだよね」

「うん、そうですね」

「あの魔法は何だったの…」

「個人魔法だから説明は難しいですね」

「こ・じ・ん・ま・ほ・う…」

 愕然としてしまったソータインさんが、更にその先、魂が飛んだようになってしまった。


 海岸に到着すると、神主さんと一緒に海岸に降りる。

 呆然としたソータインさんの手を僕が持って船を降りた。成すがままだ。

 担ぎ手がお祓いを受けた後に、漁船に乗り込んでお神輿を海岸に降ろす。


 神主さんの短い祝詞の後に、神主さんや僕たちを先頭にお神輿でオケアノス大通りを練り歩く。

 照れくさいけどちょっと偉くなった気分だ。

 ソータインさんもやっと、正気を取り戻して、自分で歩いてくれている。


 途中休憩を取りながら、参道を通ってオケアノス神社に到着したお神輿は、歓迎の舞を振舞われると、休憩となって僕とソータインさんのお役目はいったん終了だ。

 お土産にお弁当に果物をもらって、僕はお迎えのエルガさんとリエッタさんと一緒に帰宅した。


 神事は続き。

 真夜中の一二時に、オーラン市の発展を祈願して、屠蘇(とそ)の酌み交わしが行われる。


 深夜の二時ごろから、歓待の薪能(たきぎのう)のような、面をつけた神の劇が行われる。

 創世神話で、神がこの世界(惑星)、バルハライドに舞い降り、寿(ことほ)ぎ、人々が生まれ、反映していくという物語だ。


  ◇ ◇ ◇


 七月一四日青曜日の夜明け前。

 リエッタさんに送られオケアノス神社に集合。

「セージスタ君は眠くなーい?」

「うん、全然眠くないよ」

「今日も頑張ってね」

 巫女さんに直垂(ひたたれ)に着替えさてもらって、祝詞(のりと)にお祓いだ。


 日の出とともにオケアノス神社を出るお神輿の前を歩く。

 海へのお見送りから、海渡り、そして海に帰っていくということになっている。


 途中休憩を取りながら、八時ごろ海岸(海水浴場)に到着。

 ゆっくりと歩くのは名残惜しさを表しているとのことだ。


 漁船に乗って二礼二拍手一拝で、お神輿の扉を開けて、祝詞を上げて御霊出しを行う。

 海岸に戻って船を降りれば大役は完了だ。


 お神輿は空神輿として担ぎ手に任せて、僕とソータインさんは神主さんと一緒にオケアノス神社に戻ると本当にお役御免となる。が、そこは厄落としとして、かなり遅い朝食をいただいて、金一封を押し頂いて本当のお役御免となった。

 食事中にソータインさんには何かと訊ねられたけど、適当にはぐらかすのに苦労した。


  ◇ ◇ ◇


 パパやママにはお見送りが終わった後、一A一のボランティアにテレポートで合流するから迎えはいいよ、と断っている。

 それじゃあってことでテレポートで飛ぼうとしたんだけど、……あれっ。


<テレポート>

<大粘着弾>

 御用だ。

 またもスリだ。

 粘着弾で掏り取った財布を処分できずにいるから証拠隠滅も不可能、現行犯逮捕だ。

 境内で警備兵に引き渡したんだけど、何か感覚に引っかかるものがある。


『浮遊眼』

<テレポート>

<大粘着弾>

 御用だ。と思ったら仲間だろう。近くの奴がナイフで突きかかってきた。

<大粘着弾>

 ここにも、そしてあっちにもスリがいたってことで、結局神社の敷地内で六人を捕縛した。昨日からすると合計一一人だ。


<テレポート>

 今度は本当にボランティアに合流した。


 海岸でも又もする退治。

 結局スリは全員で一五人捕縛した。

 僕だけボランティアの内容が変だよね。


 あとで聞いたことだけど、スリの集団がオーラン市に稼ぎに来ていたそうだ。

 そのほとんどをボクが捕縛しちゃったんだって。

 それらも捕縛したスリの供述から残ったスリ集団はわずかで、それらも捕縛したそうだ。


 いいのかこれで。


  ◇ ◇ ◇


 僕は困っていた。

 強くなることが行き詰っていた。

 それはミクちゃんにミリア姉とロビンちゃんなども一緒で、ララ草原では限界ってことだろう。


 レバルアップできるのは、属性魔法のレベルと、魔法の保持量だけだ。

 強い魔獣との遭遇がないまま、秋の魔法学院文化祭など、学校生活は楽しんでいた。


 オーラン市の復興は進み、平穏な日々が送れていた。

 ポチットムービーは相変わらず売れているし、マジックキャンディーもそれなりだ。


 エルガさんのレベルをもう一回上げ、電増魔石が作成できるようになった。

 そしてラーダルットさんとアランさんも電増魔石が作成できるようになって、小型近距離電話(ミニミニフォン)の量産体制が整い本格的な販売が開始された。


 ホイポイ・マスターⅡの設置も七沢滝ダンジョンで三機追加して管理体制も強化されたが、ボティス密林内のダンジョン管理は難しんだそうだ。


 ただし、地震は毎日だったり、しばらく空きがあったりと相変わらずだった。


 N・W魔研にも新魔導砲の開発依頼が来たけど、それに関しては進捗は芳しくなかった。


 オケアノス暦三〇六一年。

 年が明け、僕とミクちゃんは二年生になった。


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