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次元災害で異世界へ  作者: 真草康
魔法教育編
10/181

09. 魔法教育 1


 魔法を使い切って具分悪くグッスリと寝たセージは、深夜に起きることも無く、緊張もあって早く起きた。

 そして目覚めても、気怠く、気分は芳しくなかった。


 毎度のことだと無理やりやる気を出して、ベッドから降りて、チョット体を動かすとかなり気分が良くなった。


 トントンと扉がノックされ、失礼します、とヒーナが入ってくる。

「おはようございます」

「おはよう」

「運動をしていたようですが、本調子に戻りましたか」

「うん、そんなところ」


 昨日の昼に偽装パネルを取得してからは、気兼ねなく<看破>を使いながらヒーナやママの魔法を見ている。

 昨夜は睡眠前にはベッドや周辺の物を<鑑定>しまくって眠ったが、起きて確認したがレベル“1”にはなっていなかった。


 今朝もホーリークリーンを見たが魔法の流れがある程度わかるのは昨日と同様で、進展なしだった。

 注意点はやり過ぎて魔法力が枯渇して、気分最悪になることだ。

 気を引き締めていこう。


  ◇ ◇ ◇


「それではこれから魔法のお勉強をはじめまーす」


 朝食後、しばらくして落ち着いて、ママとヒーナが揃ったところで、ママの「まずはヒーナの好きなようにやってごらんなさい」で始まった魔法の勉強会だ。


 目の前のテーブルにはビスケットなどのお菓子に、はママたちには紅茶で、僕にはジュースだ。


「セージ様、魔法の勉強の前にお約束があります。

 まずはそのお約束をしていただきます。いいですか絶対に破っちゃいけないお約束です」

「うん…」

「セージ、“はい”です。教えていただくんですから、先生には敬意をもって接しなさい。

 今は言ってる意味がわからなくとも構いませんが、とにかくヒーナ先生には丁寧な言葉遣いで接すること。特に返事はきちんとしなさい」

「はい、わかりました」


「それではもう一度言いますね。

 魔法の勉強にはお約束があって、そのお約束は勉強中に覚えたことや知ったことは誰にもしゃべっちゃいけませんってことです」

「誰にもしゃべっちゃいけないんだね。ママにも?」

「はい、そうです」

「う、はい。わ、わかりました」

 ママにも? と思ってチラチラとママを見てしまう。

「あっ、何の魔法を覚えたかは、旦那様や奥様にお伝えしてかまいません。ただし、練習中にヒーナの秘密を見ることがあります。そういうことは絶対に秘密です。

 セージ様もママの内緒のことを見ちゃったら、誰かにしゃべっちゃいますか?」

「ううん。誰にもしゃべらないよ。

 わかった。秘密がいっぱいあるんだね。誰にもしゃべりません」

「あと、魔法ができると知られちゃうとチョット大変な事になっちゃうの」

「大変なこと?」

「そう。今度はセージ様に魔法を教えてって来る人がいるの。そんな人に教えてあげられる」

「ううん。教えられない」

「そうよね。それが嫌いな人だったり、ことによったら魔法が全然できない人だったら、ちゃんと教えてって、怒り出すかもしれないでしょう」

「へー。そんなことがあるんだー。だから内緒なんだね。わかりました。誰にもしゃべりません」


 ヒーナが紙を貼って広げる。


 ― 生活魔法 少ない魔法力でつかえる便利な魔法

 ― 火魔法  火を放って攻撃する魔法

 ― 水魔法  水を出せて、飲んだり、洗ったりできる魔法

 ― 土魔法  土をいじって、穴をあけたり固める魔法

 ― 風魔法  びゅー、と風を起こす魔法で、火や水や土を運べる

 ― 光魔法  明るい光や、傷を治してくれる魔法

 ― 闇魔法  チョット難しいことができる魔法(もっとお勉強してから覚えよう)

 ― 時空魔法 物を内緒にしまえる魔法

 ― 身体魔法 体が強くなる魔法

 ― 錬金魔法 いろんなものを作れる魔法

 ― 付与魔法 物を強くする魔法

 ― 補助魔法 友だちを強くする魔法


 魔法の一覧表だ。


「読めない字はありますか」


 えっ、まずはそこからか。

 個人情報に書かれてる文字ばっかりだから大丈夫なんだけど、何か質問した方がいいのかな?

 そうだよな。


「はい、いっぱいあります」


「それでは、ヒーナ先生と一緒に読んでみましょう」


 ヒーナが指さしながら一度読んで、再度僕と一緒に読む。

 それを三度繰り返した。


「意味がわからない言葉はありますか」

「時空と、錬金と、付与と、補助とかあるけど、隣に書いてることでしょう。そうするとなんとなくわかるから無いと思う、…います」

「(クスッ)それは何よりです。途中わからなくなったらいつでも聞いてくださいね」

「はい」


「魔法ってこの一二種類が全部です。いっぱいあるでしょう」

「はい」


「セージ様は知ってる魔法はどんなものがありますか」


「えーと、デスクライトでしょう。バブリッシュでしょう。マッチでしょう。

 ヒーナ先生が使うホーリークリーン、ライト、ハイヒーリングにハイキュアに、ファイアーだったけ。

 あとは魔導砲の魔法」


 全部がママとヒーナの使った魔法だ。 


「いっぱい知ってますね」


 ヒーナは僕の言った魔法が、どの属性なのか、どういった魔法なのかを一つづつ、できれば実演付きで説明する。

 その実演もセージが絶賛するものだから、ヒーナも気合が入って二度も三度もアンコールをするしまつだ。

 そのほかにもいくつか魔法名称を例として、属性と機能を説明した。もちろん実演可能な魔法は実演付きだ。

 僕のお願いに、最後にはママも実演してくれた。

 そして一覧表にその魔法名や、チョットしたことを赤鉛筆なようなもので書き込んでいく。

 最初は黒い文字だけだったのが、赤文字が随分と多くなった。


 僕は内緒でスキルの練習もしていた。

 看破の経験を積むには最適だった。ただし魔法力不足で、枯渇しないように気を付けていた。わずかづつだが、起きていても回復することがわかったことは貴重だ。

 あとで個人情報を見るのが楽しみだ。


「今日はここまでです。何か質問はありますか」


「えー、もっと勉強したいです」


「ありがとうございます。うれしいですが、他のお勉強もしましょう。それと昨日のように面白いからと言って頑張り過ぎるのもダメですからね」


 体調不良は別の理由だから。

「はい。わかりました」

 自分の不始末だから致し方ないか。


「とても素晴らしいお勉強会です。

 きっかけがどうであれ、セージがこんなにも勉強が好きだったと知れたことも、素敵な発見でした。

 それと、ミリアにいいところを見せたいのもわかりますが、セージはあまり無理をしないことです。本当のお勉強とは一生するものです。いっぱいできるのですから。よろしいですね」


「はい、わかりました。でも魔法ができるようになるかと思うとどうしてもやりたくなっちゃいます。魔法の本とかあれば絶対見てみたいです」


「セージ様、魔法の本はいつも読んでいる絵本とは違って文字ばっかりですよ」


「へー、そうなんだ。でも見てみたいです」


「それでは、午後の文字のお勉強は、魔法の本でやってみましょうか。

 ただし、飽きた、つまらないと言うようでしたら、今までのご本にしますよ。

 奥様、勉強はやる気が大切と申します。よろしいでしょうか」


「セージ、よろしいですか。文字だけの本は思ったよりも手ごわく、慣れないと大変ですよ」

「はい、やってみたいです。男に二言はありません」

「よく言いました。ただし、歴史の勉強や算数といった、まだセージが知らない世界がたくさん存在します。

 そのような勉強の時には魔法の本は使えないことを覚えておきなさい」

 僕の言葉に、ママから厳しい言葉が発せられた。


 おっしゃー! 望むところだ。

 魔力量の増加ができないことは残念だけど、魔法の本が見られるんなら大歓迎だ。


「はい。ほかにもたくさん面白いことがあって、それが書かれたご本があるってことですよね。楽しみです」


「それではお茶、あらまあ、もうこのような時間ですか。お茶にしてしまったらお昼が食べられなくなりそうですね」


 それでもママは、喉が乾きました、とモルガの用意した紅茶で口を潤し寛いだ。

 僕とヒーナはもちろんお菓子も食べました。そして、カードゲーム――ババ抜きのようなもの――をして楽しんだ。これって数字の勉強じゃないかというのはさておき、ヒーナに他のゲームもあるのって聞いたら、船に持ち込んでいないがボードゲームもあるそうだ。

 それも、将棋やチェスのようなものから、モノポリーのようなものまでと幾種類もだ。

 魔法教材と言えなくもないゲームを見たことがあるそうだが、さすがに属性や適性がある魔法に関しては売れなかったそうだ。対象が子供ということもあって、ニッチ過ぎたことを考えてれば当然のことだろう。


 知識チートで稼ぐことは無理とは言わないが、かなり難しそうだ。

 ヤッパリ転生者がいるとしか考えられない。今回の転生が五年間なだけで、周り中転生者だらけだったりして……。

 だから転生が秘密なのか? 疑いたくなってきた。


  ◇ ◇ ◇


 昼食をみんなで過ごした。

 今日は港に入るので、その準備でパパはいつものように船長のところ、艦橋に行くそうだが、その前にママと一緒に、乗客の三家族の様子見に訪問中だ。


「本当にこのような本でいいのですか」

 ヒーナが持ってきたのは“ヴェネチアン高等魔法学院初等科教科書初級魔法一覧”、“土魔法魔法陣一覧詳細辞典”、〝高等聖魔法応用・活用術”の三冊だ。

「はい、見てみたいです。ありがとうございます」


 土魔法を練習しているのか、土魔法の初級がある。想定と違うがそれはそれでOKだろう。


「セージ様が読まれるのなら、この中でしたらヒーナが通っていた学校の教科書のヴェネチアン高等魔法学院初等科教科書初級魔法一覧が一番いいでしょう。

 初級と書いてありますが、それでも難しい言葉だらけですよ」


 ヒーナの通っていた学校はヴェネチアン高等魔法学院だと判明した。

 出身はヤッパリこれから向かう伯父様の住む国だ。


「はい、楽しみです」

「わかりました。文字のお勉強なので最初から一緒に読んでみましょう。

 それとも一人で読んでみますか?」

「はい」

「そうですか。難しかったら言ってくださいね」

「はい、わかりました。頑張ってみます」


 ヒーナが開いた先頭ページは、本の学習範囲が書かれている。

 午前中に学んだ内容に近いからなんだか読めそうだ。


“ヴェネチアン高等魔法学院は、歴史があり、高度な魔法を習得する上で適した環境を与えることに心血を注いできました。

 この本は魔法を体系化して、基礎を理解を深め、魔法属性に共通する内容を学習しやすくしたものです。”

 から始まる序文三ページが、隣に座るヒーナの十回チョットの補助で何とか読めてしまった。


 ヒーナ先生も驚いている。そして、隅で見守るモルガも驚愕に目を見張っている。

 そりゃあそうだろう。読めて理解できる単語数が一気に増えたんだから…って。

 あちゃー、やっちゃったか?

 待ちに待った本だからって、がんばって読んじゃったよ。

 まあ、やらかしたものは致し方ない。棚上げと、なんでか読めちゃいましたー、でごまかすしかない。否、ヒーナ先生の教えてきたことで読めちゃいましたー、にするしかないだろう。

 突っ込まれても、なんでか読めちゃった。言い訳や説明は無しだろうな。


 序文の内容からすると、以下のような内容になる。


 魔素の存在は古くは火・水・土・風・無の五種類で魔法属性と一致していた。ただし無魔素は生活魔法としてだ。

 それに光・闇・時空・錬金・付与&補助の五種類の魔素が発生、追加されて全一〇種類。

 魔法属性的には無属性魔素を使用する身体魔法に付与と補助が別属性とされて、生活・火・水・土・風・光・闇・時空・身体・錬金・付与・補助魔法の全一二種類に大別されてる。

 魔素を操って物事に作用するのが魔法であって、個人個人に魔法属性の適性がある。


 一章として、魔法核や魔法回路の基本と生活魔法を学ぶ。

 二章として、一〇種の魔素の特性を学ぶ。

 三章として、火・水・土・風・光・闇の六属性とその魔素を中心に魔法の基礎、そして習得方法や操作方法を学ぶ。

 四章として、魔法核や魔法回路、属性魔法に影響されやすい無属性魔素も学び、魔法の発動方法を学ぶ。

 五章として時空、身体、錬金、付与、補助属性などの習得が難しい属性の特性や、知識と知恵に関係するスキルに、魔素を操ったり、影響を受けるものがあり、それらを総合して学ぶ。


 これだけでも含蓄のある内容だ。

 疑問のいくつかに、回答やヒントを貰った気がする。


「セージ様は読まれた内容がわかりますか?」

「う…はい」

 読んだ内容の整理で、ボーッとしていた。

 思わず“うん”と答えそうになってしまった。ママがいなくても、約束事は守らなくっちゃ。

 いないからって適当にやってるといつかボロが出ちゃうもんだ。


「ねえ、変なことを聞くようだけど、海の中で誰かと会わなかった? それとも声が聞こえたとか?」

「海の中で…」

「そう」

「そういえば……」

「うんうん」

「船員のおじさんの声が聞こえて目が覚めた」

「セージ様、わざとですか。また意地悪ですか」

「えっ、そ、そんなことはないよ。だって、本当に聞こえたのは船員のおじさんの呼びかける声だけだったんだもん」

 顔を間近にして探るような表情が一気に崩壊して、ほっぺをプクリとふくらますヒーナに、タジタジとなってしまう。

 だって声を聴いたのは、生まれる前だもん。それと禁止事項でしゃべれないから。


「それでは落ちた拍子に知識系のスキルが突然繋がったとかでしょうか……」

 探るような視線は相変わらずだが、ヒーナがあごに手を当て、ブツブツと考えだす。


「これヒーナ、セージ様の勉学の時間ですよ」

「あっ、失礼しました」

 言葉は優しいが厳格なモルガの声には威厳がある。

 ヒーナの背筋がピンと張る。

 僕も威厳に気圧されて“モルガさん”と呼んじゃうが、そのたびに“モルガでかまいません”とおしかりを受けてしまう。本当にいい人だけどチョット苦手だ。


「本日予定していたところを、もう読まれてしまいましたが、支えた個所もあったのでもう一度大きな声で読んでみましょう。

 本は一度ではなく、二度、三度と読むと理解力が上がりますので、セージ様ももう一度よくわかろう、理解しようと思って読んでください」

「はい」


 今度は一度も支えずにスラスラと読めた。

 読んでると楽しいしかった。何度かワザと支えることも頭に浮かんだが、結局読み切ってしまった。


「ファンタースティーック。完璧です。さすがセージ様は天才です」

 瞠目するヒーナが叫びながら抱きしめてくる。おお、柔らかい。

 モルガがまたも目を見張っている。

 うわっ苦しい。

 これ以上は二つの意味で危険だ。

 ヒーナの腕をパンパンとタップする。

「あっ、申し訳ありません」

 プハー。


 これってきっと記憶強化のスキルの恩恵だよな。それと、ことによったらだけど速読のスキルも発動してるかもしれない。

 速読で読んだことは記憶に良く残るって言われてたし。

 そういえば読んでる最中、目が先へ先へって文章を見ていたような。そしてだんだんと文章が全体が目に飛び込んできた。ヤッパ速読か?

 地味に強力だけど、気を付けた方がよさそうだ。


「今日の勉強はここまでにしましょう。お散歩に行きましょう。それともゲームをやりましょうか」

「うーん。甲板は気持ちがいいから散歩だね」

「それでは少し休んでからお散歩にしましょう」

「ヒーナ先生、休んでる間、もうちょっと本を読んでもいいですか」

 読まない方がいいに決まってるけど、ヤッパリ読みたかった。

「セージ様、やり過ぎは体に負担がかかって良くないことは申し上げてますよ」

「はい、そうでした。ごめんなさい」

 こちらでしたらいいですよ、と絵本を勧めてくるヒーナは、さっさと魔法の本を持って自室に引き上げてしまう。


「セージ様」

「はい」

 背筋が伸びる。

「人は好きなことばかりをやっていると、やり過ぎや無理がたたり、体を壊しますし、視野も狭くなります。

 視野と言ってわかりますか? そのお顔でしたらお分かりですね」

 思わず大きく頷いてしまう。

「勉強がお好きなら、ほかにも学ぶことは沢山ございます。それを探すのも楽しゅうございます」

「うん。そうだね。きっとそうだ。ありがとうモルガ」

「差し出がましいことを申し上げました」


  ◇ ◇ ◇


 ヒーナと一緒に入港を甲板で眺めた後、忙しいてパパを抜かしいた四人(ママ、僕、モルガ、ヒーナ)で豪華な夕食を食べに船を降りた。

 出航が明日の昼頃とゆとりがあるからだ。


 船は北に進んできて涼しくなってきた。そしてこの辺の木々が日本を感じさせる温帯の木々だ。

 どうやら自宅のある交易自由都市オーランは亜熱帯にあるみたいだ。

 異世界の地へ初めての一歩を下ろした感慨もそこここに、用意された馬車でレストランへと観光もへったくれもなかった。もっと、もうちょっとでもいいから観察してたかったのに。

 ちなみに御者はオーラン・ノルンバック船運社になじみの冒険者で、護衛でもある。

 ヒーナもいつものメイド姿ではなく佩剣(はいけん)した冒険者姿だ。似合っている気もするが、チョット頼りない気がしないでもない。

 治安は良いそうなので、示威行為のような気がする。


 良かったのは木造建築のレストランはどことなく懐かしく、それとヒポダンテという湿地帯に住む魔獣のハンバーグステーキがおいしかったことだ。

 それと震度一程度の地震があって、なんだか本当に日本に帰ってきたような気がして、チョット可笑しかった。

 まあ、建物は日本というより、どちらかというと中華を強く感じてしまう。


 パパは船長と一緒で、寄港するたびに、いつもの商談だ。

 商談としては小さいらしいが、小国家が多く、友好関係を築くのも商談の内らしい。

 最初の寄港では二泊して夫婦でおもむいたことを考えると、二回目と今回の都市との関係は軽いもののような気がする。


 あと三日というより二日半だそうで、明日の昼前に出航、二晩航海して翌昼頃に、目的地の外航貿易国家ヴェネチアンのヴェーネスに到着するそうだ。


 バルハ大陸とアーノルド大陸、それに二つの大陸をつなぐ陸橋の三方に囲まれた内海のようなオケアノス海は、西隣に大きな中央洋がある。

 大洋(中央洋)に接している向きは逆だがカリブ海と大西洋のような感じだ。

 オケアノス海には、中央洋の北半球側の中央北海流(時計回りの海流)が流れ込んでくるために、時計回りと逆回りになる。

 交易自由都市オーランからヴェーネスまで、直線距離で八六〇キロメル――船の散歩中に長さの単位を確認したがメートルをメルと呼ぶだけでほぼ一緒だった――ほどだが、オーランとエルドリッジは南と北でどちらもオケアノス海の入り口近くにある。

 オケアノス海内の航海は海流に乗って、反時計回りに航海することが多い。それとエルドリッジからオーランに向かって強風が吹くことが多いことも大きく迂回する要因の一つだそうだ。

 今回もグルリと海流に乗って回るそれで、直線距離の二.五倍強の距離になる。


 ヴェーネスからオーランに向かうには、海流に乗るために中央洋側に出て大回りになって、三日半から四日の航海となる。

 洋上には島も点在するが、海魔獣の脅威もあって、いくつかの大きな島にしか人は住んではいない。今回は停泊の予定はない。


 オケアノス暦三〇四七年と三〇五〇年。

 今から一一年前と八年前の大激震と呼ばれる巨大地震後にいろいろな国が乱れ、流通なども混乱した。

 その後も小規模な地震が続き、魔獣の活性化もあるが、激震もあってその混乱に乗じたクーデターが外航貿易国家ヴェネチアンで発生したのが六年前。


「お義兄(伯父)様ご家族を救出して、わたくしたちが亡命した時にはエルドリッジから一旦、行く先がばれないように中央洋の荒波に乗り出しました。

 内海のオケアノス海は天気が良ければ穏やかな海ですが、中央海は天候が良くとも波が高く荒ぶっています。強風が吹くのも海が荒れる原因の一つでしょう」


「荒い海に耐えながら、かなり大回りをして自由共和国マリオンのオーランを目指しました」


「前もって連絡してましたのですが、追っ手にバレないように大回りしたのです」


「途中、魔力切れで魔石への蓄魔で動けなくなった時もありまして、一六日と予定より随分かかってたどり着きました」


「エルドリッジからある程度の財産は持ち出しましたが身着のまま、魔石をかき集めて、従業員の皆さんにも大変な思いをさせて、それはもう大変でしたよ」と最後はチョット恥ずかしそうに教えてくれたママの顔が、チョット遠くを懐かしそうに見ていた気がした。


「モルガには随分と世話になりっぱなしでした」

 ママに感謝されたモルガが、恐縮しながらも照れていた。


 身元がばれるのを恐れ、家名をフォアノルンからノルンバックに改名したのもその時で、ノルンバック家が生まれた。

 ノルンバック家で、オケアノス海を渡り歩き貿易のかたわら何かと伯父様に協力した。主に金銭面でだ。

 伯父様は家族と一緒に一旦避難したものの、すぐにヴェネチアンに帰り、クーデターを失敗へと活躍した。

 伯父様が復権後も、貿易で家名が売れたのもあっては家名はノルンバックのまま現在に至る。

 お爺様とお婆様は政変に巻き込まれ、亡くなってしまったそうだ。

 妹(叔母さん)もいるそうだが、政変前に他国に嫁いで、伯父様はたまに会うそうだが、パパはずっと会ってない。現在は手紙のやり取りだけだそうだ。

 そしてオーランに残って、会社と家を守ってくれているのがリンドバーグ叔父さんだ。叔父さんも貴族を捨てたが、姓はフォアノルンを名乗っている。


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