伍
あの仔は次第に痩せていった…
『悪いことが起きるよ』
日を追う毎に、仔牛の身体にあばらが浮いていく。
赤ん坊の顔は頬がげっそり痩けて、眼は落ち窪み、焦点の合わない瞳で私がいるであろう方向を視ようとしている。
母牛がいないから?
いいえ…
…例えいてもあの仔は乳を飲めない。立ち上がれないあの仔には乳が口に届かない。
目の前に母牛がいても乳が飲めないなら…地獄だろう。
『悪いことが…』
あの仔に蝿がたかっている。
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『牛の首って云うと…牛頭…スサノヲかな?』
「…ヤマタノオロチ?」
『そうそれ。地獄の王様だね。ちょっと調べたんだけど物凄い大昔、津波がその辺りまで来たらしい。その森まで逃げた人達が助かって、目印に社を建てた様だね。海を祀ってるんだ』
「海とスサノヲと何が関係あるの?」
『スサノヲは最初、海原を治めていたけど、嫌になって根の国に行った。根の国も海も異界…ざっくり云うとどちらも地獄だから…』
あの仔にとっては私の夢が…地獄だ。
『…それで?絵は描いたのかな?』
「まだ」
『描いたら夢が終わるかもしれないよ?気に掛かるからまだ夢を視るのかもしれないしね』
多分それは間違っている。
でも描こう…
…あの仔がそれを望んでいるのなら。