参
また夢のなかにいた。
あの仔が笑いかける。
『描いたかい?描いたかい?』
(まだよ…まだ描いていない)
私は声が出ない。
でもあの仔には伝わったのが解った。
『悪いことが起きるよ』
何が起きるのだろう?
あの仔の顔は心無しかやつれて見えた。
赤ん坊の瞳に、狂気と僅かな憂いの色がある。
『牛が居ない。僕も居ない』
私の町には牛なんて確かに居ない。
でもそれがなんだというの?
『悪いことが起きるよ』
────────
『牛が居ない…ねぇ』
太った人の良さそうな顔がモニターの向こうで首を捻る。
『あれかな?件は牛から産まれてくるって話があるから。牛が居ないイコール自分が姿を現せられない…とか?』
「牛から産まれるの?」
『そういう話もあるね…産まれてこれないから、ハッキリとした予言が出来ないのかな?…そんな風に取れるね』
この人は私の話に付き合ってくれる。
真面目に向き合ってくれているのか、単に気を引きたいだけなのかは判らない。
『君の夢にどういう意味があるのか?それは僕には解らないけど、描いて欲しいって云うなら描いてみたらどう?』
「絵、下手なんだよね」
途中まで描いて、止めた。
リアルに描こうとすればするほど、あの仔の姿がぼやけてしまう。記憶が薄れていく。
ファンシーなキャラなら描けるけど、これは違うと思って消した。
『どんな悪いことなのか判らないけど、君が視ている夢は一種の予知夢なのかもしれないね。動物は災害を予知するって云うだろ?』
「…人間ですけど一応?」
『人間だって動物だよ。だからひょっとしたら災害の前兆を、君は知らずに感知してるのかもしれないね』