弐
緩やかな段差のある山あいの新興住宅地。
二百人くらいは住んでいるのだろうか。
家はまばらに建っている。
家が建つ事も無く、更地のまま雑草が生い茂っている処があちこちにある。
私の住んでいる町。
街路樹と街灯が互い違いに歩道を飾っている。
造成はまだ進んでいて、一応、町の外れの古い社まで行うのだそうだ。
「せめてコンビニでも誘致してくれれば助かるのにねぇ」
母は近所の人達とよくそんな話をする、バスで少し行かないとスーパーのあるふもとの街に行けない。
うちには車が無い。
父が無理をして家を建て、自動車まで余裕が無かった。らしい。
「バスがあるからな、暫く車はいいさ。雪が降ったら坂道が大変だし」
他の家でもあまり車を持っていない。
多分うちと事情は似た様なもの。家のローンに学費。割りと私と同年代の子が多い。
自動車はほとんど走っていなくて、バスも数が少ない。
人がもっと増えれば本数も増えるけど、コンビニも他のお店もまだ無いから人も増えない。当然、バスの本数も。
バスがやって来た。先に乗っていた数人の友達に小さく手を振り、一人席に座る。そこしか空いていなかった。
仕方無いので窓を流れる景色を眺める。
景色はいい。
遠景に緑の山。
新しい家がぽつぽつと間を空けて建っている。
新しく造成している土地には、昔からの民家が見える。
昔は村だったそうだ。
その頃の住民はほとんど居なくなっていて、数世帯が住んでいるきり。お爺さんお婆さんが小さな社の近くに残っている。
造成の為にその社まで取り壊すらしい。お爺さんお婆さん達が反対してはいたけれど、結局は押し切られたそうだ。
バスは緩い坂道を下っていき、街へ。
交通量がまるで違う。バスはスピードを弛めた。
じきに私達の通う校舎が見えてくる。
狭い土地。山の麓から直ぐに岩だらけの海岸へ続くので平地が少ない。
海は遊泳禁止だ。海岸は砂浜が無いし、海流が目の前を通っていて泳ぐと流されてしまうと云う。
『次は〇〇高校前、〇〇高校前。〇〇医院ご利用の方はこちらがご便利です』
バスを降りて一息。
潮の香りがここまで届いている。
「おはよう」
「おはよ~」