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サイコネクトデイズ  作者: 火炎ロダン
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怪獣夢想地帯

巨大怪獣アルカナイカが常に居座り日常と化してしまった奇妙な街、そこでのとある1日をノベルと2DCGで濃厚に描きました!

怪獣とは一体何者なのか?アルカナイカが現れた意味とは?

PDF版ダウンロードは公式サイトからhttps://psychonectdays.wixsite.com/psychonectdays/day1

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「うん。やっぱり、わたし珈琲好きじゃないや。」

賑わう日曜の百貨店の十階フロア。その一角にある喫茶で、アヤトさんは注文したエスプレッソを一口飲むなり顔をしかめてそう言った。昔から苦いものが駄目らしい。抹茶とか、安いティーパックの紅茶とか、そして…珈琲とか。元から珈琲が好きじゃないのが分っているのなら、別の物を頼んだらよかったのに。珈琲の上に浮かんだエスプレッソ特有の泡が甘そうに見えたのだろうか。

僕が何か言いたそうに彼女の顔を見つめていると、彼女はハンカチで口を拭いながらゆっくりと口を開いた。

「珈琲客に扮するなら珈琲を飲むのが一番だと思ったんだけども、そうでもなかったみたいね。喫茶店って、てっきり珈琲を飲む場所だと思ってたから。」

そういうと彼女は両目を右に動かして、僕に周りの客を指し示した。まず目に入ったのは机の上に参考書やらノートやらを広げている大学生ぐらいの男性客。忙しくペンを動かしなにやら数式をノートに書きこんでいる。散らかった彼の机の上にあったのはサンドイッチと小さな紙コップ。紙コップに入っているのはおそらく無料サービスの水だ。珈琲は飲んでいないみたいだ。彼の隣の席に座るスーツを着たサラリーマン風の男性は、ラップトップのパソコンを開いてかなりガッツリとしたチョコバナナパフェを幸せそうに食べている。休日出勤の後の密かなお楽しみなのかもしれない。そのまた隣の騒がしいお姉さまたちのグループは揃いに揃って全員、真っ赤なラズベリーソースがふんだんにかけられたパンケーキをペチャクチャしゃべりながらムシャムシャと口に運んでいる。…僕が飲んでいるのは、甘いミルククリームと酸味の効いた苺シロップが攪拌された美味しいストロベリー・フラペーチーノ。珈琲としては、ギリギリセーフのラインかな。…とにかく、確かに「珈琲を目的に喫茶店に来ている客」は多くはないみたいだ。…そういうズレた着眼点が実にアヤトさんらしい。喫茶…珈琲店。物事を真剣に見つめすぎて、逆にズレてしまっている奇天烈な思考回路。奇妙だと感じたものを追求せずにはいられない真っすぐな性格。「日常なんてものはこの世界に存在しないんだよ。この世界は全部、非日常で出来てるの。」それが彼女の口癖だった。今回も彼女のそんな思考回路と性分が僕たちをこの喫茶に導いた。そう、僕たちも周りの客と同様、ここに珈琲を飲みに来たわけじゃない。とある「奇妙なもの」を観察するためにわざわざ隣町のこの喫茶に足を運んだのだ。この「奇妙なもの」についてのエピソードをここに記そうと思っているのだけれど、その前に僕とアヤトさんという奇妙な同居人との出会いについてもちょっと触れておきたい。僕とアヤトさんとの共同生活が始まったのは今から約半年前の春の事だ。


 僕は元々、私立木葉ヶ丘高校付属中等部に進学して敷地内の男子寮に入居して、そこで新生活を送るはずだった。しかし、なんというか僕の名前、そのせいで大きな手違いが起きた。…僕が実際に入居したのは男子寮じゃなくて、女子寮だったのだ。僕の名前は弼星アイナ。アイナという下の名前の印象だけで女性だと判断され、(いや、容姿にも問題もあったかもしれないが…)とにかく誤って男一人、女子寮に入る羽目になってしまった。最悪なことに寮は二人部屋で、このままだと女子と同じ部屋で寝ることになる。向こうだって嫌がるだろうし、僕自身物凄く嫌だった。…実際は想像とだいぶ違ったのだけれども。あの時はまさかルームメイトとここまで仲良くなって、掛け替えのない友人…になれるなんて思ってもみなかった。

四季野アヤトさん、彼女との初対面は鮮烈に覚えている。部屋中にスモークを焚くとうよくわからないサプライズで僕を驚かせ歓迎してくれた。青白い霧の中に立つアヤトさんのシルエット。あの時の光景が今も頭から離れない。しかし…それ以上に驚ろかされたのは、彼女が、僕が男であることを全く気に留めなかったことだ。彼女は性別とかそういうのを関係なしに、一人の人間として、友人として…僕を受け入れてくれたのだ。当時、自分の女々しい容姿と女性的な名前にコンプレックスを持っていた僕はそのことがすごく嬉しかった。僕を男としてではなく、人間として扱ってくれたのが本当にうれしかった。こうして僕らは意気投合し、僕とアヤトさんの奇妙でまったりとした、でも刺激的な日々が始まったのだった。

 アヤトさんはとても自分に正直で、人に優しく…そして独特の感性の持ち主だった。無意識にそうしているのか、故意にそうしているのか分からなかったが、彼女の思考や完成は常に僕や他の人とは大分ズレた所にあった。それは悪い意味ではなく、僕は彼女の独創的な発想にいつも驚かされ、彼女との生活に飽きることが全くなかった。彼女の独特で鋭い目の付け所に何度も感心されられた。本人によると「目に見えるもの、聞こえるもの…感じるものすべてをそのまま受け止めるようにするのではなく、別の角度からみるようにしている。そうすると見えてこなかった本質が見えて来る」…とか。今日の「喫茶」と「エスプレッソ」の件も世間一般の喫茶のイメージに捕らわれなかった結果の行動なのだろう。僕は彼女が時折見せるこういうちょっとお間抜けな一面にも惹かれていた。


 話を元に戻そう。今日僕たちがこの喫茶にやってきたのは、とある「奇妙なもの」を観察するためだ。それは僕らの座る店舗中央の席から見てコーヒーを楽しみに来たわけではないお客たち、その逆方向に目を動かせば嫌でも目に入る…らしい、アヤトさんに言わせれば。僕にはそれが見えないというわけじゃないけど、僕にとってそれは特別気に留めていなければ特に何も感じることはないようなシロモノなのだ。他の客にとってもそれは同じようだった。誰もそれ見ようとしない。

客の観察に飽きたアヤトさんは目を反対側…左方向に動かして、再び窓の向こうにあるそれをジッと観察し始めた。僕も同じように窓の向こうある、それに目を向けてみる。

挿絵(By みてみん)

…白い三角形とごつごつした壁が窓枠一杯にみえる。

三角形の中央の方に黒っぽい円があって、それがジーっとこっちの方を睨みつけてきている。

そう、これは巨大な目玉。今、このビルの横には50mもの巨大な怪獣が張り付つくかのような至近距離でフワフワと浮遊しているのだ。この喫茶のある十階フロアは、背中を上にして丸くなった怪獣のだらんと垂れた頭の部分、目の高さにあたる場所にある。…この光景を目にして疑問を抱いたり気に留めたりしている人は今、恐らくいないだろう。アヤトさんと僕を除いては。

 ソイツ突然、現れたのはまだ残暑が厳しかった一カ月前の事。どう現れたのかというと、とにかく「突然、現れた。」としか言いようがない。海からザブーンと現れたわけでもなく、地面からドカーンと現れたわけでもなく、空をパリ―ンと割って現れたわけでもなく、気が付いたらそこに居たのだという。当然ソイツが現れた直後、街はパニックに陥り怪獣災害特殊チームである怪獣防衛隊も出撃した。…しかし騒動はなんと、たったの2時間で鎮静化したのだった。

【怪獣災害規模フェーズ0 死者0人 負傷者0人 破壊物件0件】

ある意味、数ある日本の怪獣災害、怪獣事件の中でも驚異の災害データだ。まさにその怪獣はそこにいるだけの存在だったのだ。怪獣は目測身長約50m、生物学的計算によると体重は約2万5千トン。二足歩行の恐竜、爬虫類タイプ。岩にゴツゴツとした茶色及び黒の皮膚を持つ、怪獣としてスタンダートなタイプだ。しかし、今までに現れた怪獣たちと明らかに違ったのは…ソイツの質量が0だったことだ。

科学的に質量0の生物なんて存在しない。普通の生き物だったら細胞の一つ一つに質量が存在しているはずである。つまり目には見えているのにも関わらず、科学的にはそこにはソイツは存在していない事になっているのだ。実際ソイツは町で物理現象を起こさなかった。街を歩いても地面は陥没しなかったし、ビルにぶつかっても倒壊しないどころか3Dゲームのバグみたいにビルの中にめり込んでしまったりした。今も、光が怪獣の体を貫通してしまうため、喫茶に入ってくる日差しには何も問題がない。環境的にホログラムや蜃気楼類の可能性は低く、集団幻覚だという説も上がったが、それにしてはあまりにも規模が大きいうえに実際に怪獣の姿テレビ各局のカメラに収められているため…今のところ一番有力なのが質量の怪獣が現れたという現象が事実だということだ。

そもそも怪獣自体が科学的にあり得ない存在が多い。今回は特にあらゆる点で怪獣学他、科学的に規格外過ぎて学者たちも完全にお手上げだとワイドショーが騒ぎ立てていた。しかし、それはソイツが現れてから2日間だけのこと。今回の事件は不可解で摩訶不思議だが、死傷者ゼロ、被害が全くなかった事件だ。翌日別の場所で別種の怪獣、ツキュラによる災害が起きたということもあり、数日後には新聞もワイドショーもSNSも何もなかったかのように誰もかもがこの事件に対しての関心を失ってしまった、街に怪獣がまだ居座っているのにもかかわらず。・・・誰しも怪獣に興味を示さなくなったのだ。それから、1ヶ月の時が経ったが、今も相変わらず怪獣はこの街にいる。怪獣はもう街の一部になってしまったかのようだ。

挿絵(By みてみん)

「あの子の目が気になるんだよね」

アヤトさんは事件後間もなくから、あの怪獣のことが気になって仕方がないようだった。そこに居るのか居ないのか分からないような、質量が有るのか無いのか分からないようなアンバランスな感じが彼女の感性を擽ったのかもしれない。アヤトさんは勝手に怪獣に「アルカナイカ」なんて名前をつけて、寮の窓から見える隣町の怪獣の姿を観察しては記録、そして日記をつけていた。どうしてもあの怪獣の正体を突き止めたいらしい。アヤトさんらしいなとは思ったのだけど、何故彼女がそこまでその怪獣…・アルカナイカに執着するのかが僕には分からなかった。特に、アヤトさんは怪獣の目に関心があるようで…今日はこうして怪獣の目を間近で観察しに、怪獣の正体を突き止めにわざわざ隣町まで嫌いな珈琲を飲みに来たのだ。


「ねぇ、アイナ君。」

僕が、アルカナイカの「目」を観察することを忘れてボーっと窓の外白三角形を眺めているとアヤトさんが話しかけてきた。

「これ、ガマパゴスの顔に似てない?」

アヤトさんはエスプレッソのタンブラーの飲み口をこっちに向けてニコニコしてる。

「えーっと、なんですか?そのガマパゴスって?」

本気で知らなかったから首を傾げていると、アヤトさんは本気で驚いた顔をして大きな目をパチクリさせた。言われてみれば何かぽかーんと口を開けている顔に見えないこともないけれども、元を知らないから賛同のしようがない。

「有名な映画に出てくる怪獣だよ、タイトルは忘れちゃったけど。海中にある宝石を食べつくしちゃうオソロシイやつなの。最後はミサイルで粉々にされちゃうんだけどね。」

「…全く聞いたことも、見たこともないですね。そんな映画。」

僕の反応を見てアヤトさんはムッと眉間にしわを寄せた。…なんか機嫌を損ねたかもしれない。今度調べて観てみないと…。有名な映画ならレンタルショップにあるだろうか?あらすじを聞いた感じだと、B級の匂いが物凄いけれど。

「そもそもさ、怪獣ってどうして生まれるって思う?」

アヤトさんが突然キリっとした真面目な顔になって言った。話が唐突に切り替わったらしい。眉間のしわも消えた。…良かった。さっきのあの表情は僕が気分を損ねた訳じゃなくて、会話中に何か引っかかることがあったんだ。どうやらこの場合の怪獣は…映画の怪獣の話じゃなくて、実際の怪獣についての話らしい、ややこしいけど。僕はちょっと考えてから彼女の問いに答えた。

「それはやっぱり、環境の変化とか、大気や水質、土壌の汚染で動物が突然変異して怪獣になったりするんじゃないですか?」

テストの模範解答みたいな返答だ。「怪獣はなぜ生まれるか/怪獣は何故出てくるか」。それは小学生の理科の最初の方でも、社会の授業でも習う、必ずといっていいほどテストに良く出題される問題だ。俗にいう一般常識ってやつだ。でも答えた直後に僕は後悔した。きっと彼女の望んでいた回答はそういう普通の回答じゃない…。案の定、ムスっとした顔で見られてしまった。今度は本当にちょっと機嫌を損ねたみたいだ。

「うーん。そういう、見たまんま聞いたままの答えって面白くないなぁ。」

喫茶店をそのまんま珈琲を飲む場所だと思っていた人に言われたくない。

「私ね。あの子、アルカナイカを見てて…思ったの。怪獣って、科学的な現象、物的な現象で生まれるってわけじゃ無いんじゃないかって。」

やっぱり、さっきの眉間のしわでアヤトさんの『論理のスイッチ』が入っていたようだ。『論理のスイッチ』…僕が勝手にそう呼んでいるだけなのだけれど、アヤトさんはあるスイッチが入ると情報から論理を展開する一種の推理モードに脳が入れ替わるらしい。彼女自身は頭の中で情報のパズルをするような感じだと言っていた。そこから弾き出される結論はいつも興味深く、非常に痛快だ。本人もそれが相当気持ちいいみたいなのだけれども、見ているこっちまで気持ちよくなってきてしまう。さて、今日はどんな奇想天外な物語が語られるのだろうか。

「もし、あの子が物理的な要因で誕生したのなら、今、物理的に存在してないのはなんか変だなって思うの。幽霊・・・みたいな体を持たない存在の線も考えてみたんだけど、あの子の目を見て。とても命を失ったモノの目には見えない。」

アヤトさんは怪獣の大きな黒目と目を合わせながら言った。どうやらうまくハマるパズルのピースが見つからないようだ。それはそうだ。怪獣学者でさえ手こずっている相手だ。学生がちょっと頭を捻って簡単に敵うような相手じゃない。しかし、確かに僕にもアヤトさんの言う通り怪獣の目は死んだものの目には見えなかった。時々黒目の瞳孔がキュッ縮んだり広がったり、固そうな瞼でパチクリと瞬きするようすは実に活き活きとしていた。そして、決して優しいとは言えない、睨みつけるような三白眼も、どこか愛嬌があるようにも見える感じがしなくもなかった。ただ…何故か僕にはその目がアヤトさんの言うような生きているものの目には見えなかった。

「それに私、あの子の目を見ていると何故かすごく懐かしいキモチになるんだ…どうしてだろう。」

アヤトさんはうっとりしたような顔で言った。まるで卒業アルバムを見て思い出を回想しているかのようだ。その言葉はこの一カ月何度も聞かされたのだけど、僕はアルカナイカの中に「懐かしさ」を見出すことはできなかった。僕の中にない記憶がアヤトさんの中には眠っているんだろうか。この正三角形とまん丸黒目には何が隠されているというのだろう?

「さて、そろそろ行こうか。」

アヤトさんはお気に入りのディアストーカーを被ると、スッと立ち上がった。正直街中でその帽子はやめてほしい。目だつから。あんなの被った人見たことがない。

「あれ?もういいんですか?」

「うん。ちょっと近づき過ぎちゃったみたいだね。別の角度から見てみようか。」

そういうと、アヤトさんは僕に飲みかけのエスプレッソを突き付けてきた。丁重にお断りすると彼女は「飲んでほしかったのに」とぼやき、鼻をつまんで冷めた珈琲を一気に胃の中に流し込んだ。飲み残しは許せないらしい。申し訳ないけど、僕だって甘くない珈琲は嫌いだ。



 外はまだ暑く僕らは上着を脱いで、帽子をとって歩いた。お気に入りの帽子を被るチャンスがなかなか無いとアヤトさんは愚痴っていたが、僕は帽子を被ってない時の彼女の方が彼女らしくていいと思った。というか、あれを被れるのは正直ハロウィンぐらいなんじゃないだろうか。

僕らが今向かっているのは帰路から少し外れた方面にある高台だ。団地や市営住宅などが並ぶ小高い丘で頂上の方には大きな公園がある。アルカナイカ全体象をゆっくりと拝むには最適そうだ。

丘を登っている途中、レンタサイクルスタンドがあり二人乗りの風変りな自転車があってアヤトさんはそれに乗りたがったんだけど、それで公園までの坂道を上るっていうのはさすがに嫌だったので、これまた丁重に断った。帰りなら大歓迎なのだけれども。暗くて誰も見てないだろうし。

坂を上っている途中、僕らはまた珈琲の話題で盛り上がった。アヤトさんがバニラエッセンスを持ってくれば良かったなんて言い出したのだ。なんでもアヤトさんはミルクティーにバニラエッセンスを数滴垂らして飲むらしい。そうするとバニラの甘い香りで紅茶の味が一層引き立って味に深みが増すのだという。バニラの香りがする珈琲なんて想像ができないけど一度飲んでみたいかもしれない。珈琲なら苦みが緩和されるかもしれないし。さすがに喫茶にバニラエッセンスを持ち込むのはどうかと思うけど。


「さっきも話してた、怪獣が生まれる理由なんだけど…」

公園の入口が坂の上にやっと見え始めた所でアヤトさんが切り出してきた。また細めた目の真ん中にしわを寄せて何やら考え込んでいるみたいだ。

「前にレムリアの記事で見たのをちょっと思い出したのよね。…『心象進化説』。」

「レムリア」というのは…超心理学や超常現象や未来科学などを取り扱う科学雑誌「月刊レムリア」のことだ。まぁ、ハッキリ言うと、あることない事…いや寧ろ無い事の方が多いのかな。とにかく怪しくきな臭いオカルト情報を取り扱っている雑誌だ。アヤトさんはこの胡散臭い雑誌を定期購読していて、家のトイレに立ててあるブックラックにはこの雑誌のバックナンバーがぎっしりと詰まっている。前にアヤトさんは「時々、真実が書かれているかもしれないように、思えるような時が無くもないような記事が掲載されている時もあるかもしれないから買っている」とか言っていたっけ。

 アヤトさんは続けた。

「『心象進化説』は、怪獣は生物が物理的な要因で進化、突然変異して生まれるものなんじゃなくて、心理的な要因で生物が進化、変化するものなんじゃないかってお話なんだって。」

僕もこの話に少し似た話を見たことがあった。たしか。怪獣学の資料集の隅っこに載っていた『PM現象の研究』という小さなコラムだ。コラムには心理的な原因で人間が怪獣化する例が世界中で確認されており、最近学会認められてPM現象と名付けられたというような内容が書かれていたと思う。たしか最近研究が始められたらしい。

「この記事ではそのPM現象を拡大解釈して、その現象、もしくは似たような現象が人間以外の生き物にも起きている可能性があるんじゃないかって可能性を指摘しているの。人間だけにこの現象が起きるのはおかしいってね。もし怪獣の元になる生き物にも人間と同じように怒りや悲しみみたいな感情があるのなら、おかしな話じゃないのかなって…」

新しい学説に無理やりあやかった記事に見えるんだけども…確かに筋が通っているような気がする。でも元々の説自体が僕にはよく理解できない。本当に心理的な要因、つまり感情的なことが原因で人間が怪獣になってしまったりするんだろうか。それに動物が人間と同じような感情を持ち合わせているんだろうか。

「…思ったの。アルカナイカもどっちかっていうと非科学的な存在でしょ?だからイマイチ非科学的な説に当てはめてみたほうがしっくりくるかも。」

 「心象進化説」の話をしているとあっという間に坂を上り切り僕たちは公園の入り口までたどり着いていた。さすが休日の住宅地。公園は多くの家族連れで賑わっていた。駆け回る子供たちの声が一面に響いている。公園は大きな海賊船のアスレチックを中心とした運動公園のようで公園の真ん中に行けば行くほど騒がしくなっているようだ。僕たちは人の多い場所を避けながら目的の場所、公園の隅へ向かった。

 

 公園の隅は予想以上に心地の良い場所だった。公園の一口付近、中心部と違って静かで、涼しい風も吹いていて気持ちがいい。また上着を羽織ったほうがいいかもしれない。肝心のアルカナイカもビルとビルの狭間に埋もれながらも全身がしっかりと見えている。遠からず近からず、ここならよく観察できそうだ。様子はさっきまでとは違い今は地上に降り、二足でドシンっと立っていて、これぞ怪獣と言えるような体勢をしている。全身が見えるせいか、丸まっていた体が伸びているためだろうか。心なしか怪獣の体がさっきより大きく見える。気のせいだろうか。

少し歩いた先に丁度怪獣が良く見えそうな場所にベンチが1つ見えてきた。僕らはそこに腰を掛けることにしたが…ベンチにはどうやら先客がいるようだった。背もたれからはみ出したロマンスグレーがここからでも確認できる。

 ベンチにはお洒落なカーキのコートを羽織った白髪の御老人が一人でちょこんと座っていた。御老人は杖の上で手を組んで真っすぐ正面を見つめている。視線の先には勿論街が広がっていたが‥町の中のある一点をじっと見つめているようだった。…御老人の目は間違えなく怪獣を捉えている。僕たち、いや、アヤトさん以外にもアルカナイカに関心をもつ人がいたのだ。彼の目はとてもうっとりとしていて、まるで自分だけの世界に入ってしまっているようだった。アヤトさんが御老人を驚かせないように、囁くようにそっと声をかけると彼は優しい笑顔で、快く僕たちを迎え入れてくれた。

「今日は暖かくていい天気ですねぇ。君たちもあれを見に来たのですかな?」

話を聞くとやはり僕らみたいな客人は珍しいようだ。御老人は近くの団地に息子さん夫妻と暮らしていて、いつもこの時間になると散歩がてら、この場所に立ち寄って怪獣の観察をしているらしい。ここで足を止めたのは僕らだけだったみたいだ。

アヤトさんはバックからアルカナイカの観察日記を取り出して、御老人と嬉しそうに語り合っている。どうも僕が会話に入る隙は無さそうだ。特に御老人のニコニコした幸せそうな笑顔を見ていると二人の会話を遮ろうなんて思いは出てこなかった。

「私ねぇ、あれを見ているとすごく懐かしいような気分に浸ってしまうのですよ」

御老人のその言葉を聞いて僕はハッとした。懐かしい…いつもアヤトさんが繰り返し言っていた言葉だ。僕が持っていなくてアヤトさんが持っている記憶、それをこの御老人も持っているのだ。僕が不思議そうな顔をして黙り込んでいると、彼は誇らしげに言った。

「実は私、昔ああいうのを撮っていたんですよ。」

その言葉を聞いた瞬間、アヤトさんの顔つきが変わった。きっと彼女の中で何かが引っかかったに違いない。パズルのピースを見つけたのかもしれない。

「おじさん、その話詳しく聞かせてもらえませんか?…いえ、是非聞かせてください!」

突然立ち上がったアヤトさんに御老人は驚いたようだったが、嬉しそうに笑った後若き日の思い出を僕たちに語ってくれた。

「50年ぐらい前ですかね…怪獣映画ってね、怪獣が主役の酷く奇天烈なジャンルの映画があったんですよ。面白いことにこれが世の中で大変うけていたんですよ。木や石膏で作られたミニチュアの街の中で着ぐるみの怪獣が暴れまわる、そんな映画です。あの頃はそんな怪獣映画が年に何本も何本も作られる…今考えたら夢みたいな不思議な時代でした。私は当時撮影所でキャメラマンを務めさせてもらっていて、そう…当時公開された怪獣映画の半分ぐらいは携わらせてもらっているんじゃないかなぁ。あの頃の撮影所活気はすごくて、ある怪獣映画を撮り終えた次の日には次の怪獣映画を撮り始める、監督も脚本家も私のようなスタッフたちも大忙しでしたよ。なにしろあの頃の怪獣は子供達のヒーローでしたからね。それだけ需要があったんですよ。最初はゲテモノなんて馬鹿にされていましたが、私たちにとっても怪獣映画を撮ることは子供の夢を作っているようで本当に誇らしかった。」

正直、僕は全く知らなかった、怪獣がそんなに親しまれていた時代があったなんて。怪獣映画はの存在ぐらいは知っていたけれども見ようとしたこともないし、多分見たことがないと思う。僕にとっては創作上の怪獣と言えばテレビのヒーローもので正義のヒーローに倒される悪者っていうイメージで、怪獣が子供たちのヒーローだった時代があるなんて想像がつかない。そういえば正義のヒーロー自体、テレビで見なくなってしまったような気がする。

「あの頃の怪獣は制作者である私たちから見ても輝かしい存在でした。でも…」

御老人はここで口を噤んでしまった。さっきまでの嬉しそうな顔が嘘みたいに沈んでしまった。その理由は僕にもぼんやりと想像はできたが、具体的な理由は分からなかった。

「実際の怪獣による災害が頻出し始めてしまったんですね?」

アヤトさんが透った張りのある声で沈黙を破った。御老人はハッとして、アヤトさんの真っすぐで曇りのない目を見ると一息ついて再び語り出した。

「…えぇ。そうです。昔は怪獣災害なんて滅多に起きなかったのに、気が付けば年に公開される怪獣映画の数より、現実に起きる怪獣災害の方が多くなっていました。現実の災害に映画なんて嘘っぱちが対抗できるわけがありません。それから私たちは試行錯誤を繰り返し、時代に沿わせて怪獣を様々な姿形に変たりさせながらなんとかやってきました。ターゲットを大人にしてみたり、デザインをリアルにしてみたりしてね。でも現実で嫌なほど怪獣を見させられているのに映画の中まで怪獣を見たいとい客は多くなく…10年前、私が定年退職した年ですね。その年に公開された映画を最後にもうこの国で怪獣映画は作られなくなってしまいました…。」

語り終えると御老人は大きく深呼吸すると、体制を直して再びアルカナイナをうっとりした目で見つめ始めた。

「あれ…あの怪獣を見ると観ていると私はあの頃のことを思い出すのです。輝いていた頃の怪獣映画を。あの憎めない顔つき、親しみやすいシルエット、まさに私たちが作ってきた怪獣の姿そのものではありませんか。」


 その時、耳を劈く轟音が鳴り響いた。地響きがして肌がビリビリと揺れた。それは何かが衝突して砕け散る音と恐ろしく太く長く、そして雄々しい咆哮だった。僕らは思わず立ち上がった。街を見ると僕らがさっきまでいた百貨店のビル…その5階あたりがメシャっと拉げて真っ黒い煙が上がっている。その煙の中をウネウネと巨大な芋虫のようなものが泳いでいた。…あれは、アルカナイカの尻尾だ!ズシン…ズシン…と大地を揺るがす足音がここまで聞こえてくる。煙をかき分け、ビルの間から怪獣アルカナイカが50mの巨大な姿を現した。

「体が…具現化してる!」

挿絵(By みてみん)

アヤトさんが叫び声をあげた。そう、質量0で物理現象を起こせないはずのアルカナイカが尻尾でビルを薙ぎ払い、破壊したのだ。間違いなく今、アルカナイカは他の怪獣、いや他の生物と同じように質量をもち物理現象を起こせるようになっている。日常が…非日常に変わった瞬間だった。

気が付くと周りは破壊音と咆哮を聞きつけた野次馬でいっぱいになっていた。

「どうしちまったんだよぉ…!」

御老人も立ち上がり、さっきまで大人しかったはずのアルカナイカを見つめた。野次馬たちがザワザワと騒ぎ始め、アヤトさんは顔をしかめていた。アヤトさんはこう騒々しい空間を大いに嫌うのだ。僕がアヤトさんを気にかけた次の瞬間、喧騒の声に引き付けられたのかこちらに背を向けていたアルカナイカが僕らの方にゆっくりと体を向けた。あの白三角形が何キロから離れた丘の上の僕たちをギロっと睨みつける。物凄い目力だ。さっきまで騒がしさが嘘かの様に運動公園凍り付き静まりかえった。

グワァアアアアアアアン!ンアアアアアアア…!!

アルカナイカはその太く長い咆哮で沈黙を盛大に打ち破った。声の塊を直に叩きつけられた野次馬達はキャーキャーワーワーわめきながら逃げ去っていく。…僕は恥ずかしながら、足が竦んで動けなかった。

「大丈夫!?アイナくん!」

アヤトさんは転んでしまった御老人を起こしながらも僕を気にかけてくれている。僕もしっかりしないと。

…その時、再びアルカナイカが吠えた。

その時、僕らは見逃さなかった。

口角がグイっと持ちあがった怪獣の顔を。緩んだ目尻を。

その時、僕たちは確信した。この怪獣には確かに『感情』がある。

怪獣はこちらに背を向けると、西日に光る水平線の方に向かってゆっくりと歩き出した。

 

御老人をご家族の元へ届けると、僕たちは誰もいなくなった運動公園の芝生に転がって休憩した。怪獣が逆方向に向かっているため避難指令は出ず「その場で待機」との放送が流れたのだ。僕らの暮らす木の葉が丘の街も進行方向から外れているようで…不謹慎だが安心してしまった。

アヤトさんは赤く染まり始めた空を横になりながらポーっとした顔で眺めていた。僕は今朝で出かけた時はまさかこんなことになるなんて思っても見なかったため大分ぐったりしていた。もう秋なのに汗ですこしシャツが湿っている。でも、こうして芝生に寝ていると体の重みや疲れが全部地面に吸収されているような感じがして気持ちがいい。背中が少しチクチクするけど。

「ねぇ、アイナ君。さっきのあの子の嬉しそうな顔。見た?」

アヤトさんは首を横に倒して僕をまっすぐ見つめてきた。彼女のくりくりした垂れ目の奥で何かが輝いている。間違えなく何か同意を求めている、そんな目だ。…僕は身を起こして「勿論見ましたよ」と答え少し顔を逸らした。あのまっすぐ過ぎる視線で見られるのは流石にこっぱずかしいからだ。それに僕にはこれからアヤトさんがやろうとしていることがなんとなく分かっていた。

「もう少しで…あの子の謎が解けそうなの。だから…」

「だから、アルカナイカを追いかけたい。…ですよね?」

僕はアヤトさんの言葉を遮って言った。賛同する前にどうしても聞いておかなければいけないことがある。それがハッキリしないと、さすがの僕も納得できない。

「アヤトさんはどうして…。どうして、あの怪獣にそんなに拘るんですか?」

僕は身を起こして言った。彼女が観察日記をつけ始めたころからずっと気になっていた。世間から二日で忘れ去られ、僕もアヤトさんが居なければすぐに忘れていただろう怪獣。どうしてそれに拘るのかずっと分からなかった。

「ごめん。今はハッキリとは言えないの。」

アヤトさんは立ち上がるとくるりと僕に背を向けてしまった。

「…まだ考えがまとまってないし…今結論を言って間違ってたりしたらカッコわるいじゃない?」

正直、はぐらかされたかと思った…が、それが僕の間違えだということがすぐにわかった。いつもしゃんとしてピンと伸びている自信満々な背中が縮こまるように丸まっていて少し震えている。論理が不完全に展開してしまったせいで、肥大化した仮説、疑念が彼女の中で今蠢いているんだ。彼女は大きく行き吸った後、フゥーっと声を出してそれを吐ききった後、何かを決心したかのようにぐるっと振り返って僕の方を向いた。

「えっとね…もしもなんだけど…もしもだよ?あの怪獣が今、私の思っているような存在だとしたら…。」

彼女はうつむきながらボソボソと言った。…こんなアヤトさん見たことがない…。

「私はあの怪獣…アルカナイカとよく似ているのかもしれないって。」

アヤトさんは顔を上げ、しっかりと僕の目を見て言った。

希望と悲しみの間を揺らいでるような切ない目。

彼女の目は真っすぐ僕だけを捉えていて…気を抜いたら吸い込まれてしまいそうだった。

「…一緒に確かめてもらいたいの。二人じゃないと…ダメなの。」

その言葉の意味をこの時の僕は全く理解できていなかった。

アヤトさんが自分があの怪獣に似ているといった意味も、二人じゃないと駄目だった理由も。

ただ決心が着いた。というより、押し切られた。アヤトさんのあの目に。…悔しいけど。

「さっきのあの子の顔を見てちょっとした確信があったの。やっぱりあの雑誌のと…」

「アヤトさん、もういいですから。早く行きましょう、怪獣が遠くに行っちゃいます。」

僕の言葉を聞くなりアヤトさんからいつものフワッとした優しい笑みが零れた。その笑みを見て僕は妙に安心した。…これでいいんだよな。

「・・・ありがとう、アイナ君。…きっと二人で漕げばすぐ追いつくはずよ!」

アヤトさんはそういうとニヤっと笑いながらディアストーカーをポーチから取り出した。

「“二人”で“漕ぐ”?」

僕は訳が分からないまま彼女のあとを着いていった。


 怪獣に追いついたのは公園を出てから1時間後の事だ。アルカナイカはアヤトさんの予測通り海の方向に向かって進行していた。理由を話してはくれたが、僕にはさっぱりわからなかった。「あの子の正体が分かれば、キミにも分かるはずだよ」と言われたのだが…。パズルのピースがすでにどこにあるのかわかっているみたいだ。

こんなに早く追いつけたのは例の二人乗り自転車のおかけだ。アヤトさんが前、僕は後ろに座っている。僕たちは今、アルカナイカに並走して走っている。距離はどのくらい離れているのだろうか…ずっと巨大な怪獣を見ていると遠近感が分からなくなってくる。怪獣が一歩歩くたびにズシン…という衝撃で地面が揺れるのが分かるのでそう離れてはいないのだろう。怪獣の歩く速度はそこまで早くないので頑張って漕いでいれば十分ついていける。でもきっと、明日は乳酸で足がパンパンになっていることだろう。ただ、この先の海岸に向かって道はずっと緩やかな下り坂の遊歩道だったのは僕の運動不足の足にとってかなりの幸運だった。

住民たちはもう避難完了しているようで、街には人っ子一人いないゴーストタウンの様になっていた。空には怪獣防衛隊のヘリが飛び交っている。見つかったら僕たちは保護されるというか…補導されてしまうのだろうか…。

「あの子の目を見て!」

前方の席に座っているアヤトさんが声を上げた。わざわざ僕の方を振り返って必死に訴えかけてくれている。「分かったらちゃんと前を向いて運転してほしい」と頼むと、僕は言われた通り怪獣の顔を見上げた。

挿絵(By みてみん)

そこにはもう、御老人が表現した“憎めない顔つき”はもう無かった。目の周りが大きく窪み込んでいて、真っ黒な影になってしまっている。窪みの中の闇で微かに赤く光って見えるのが目だろう。最早あの少しばかり愛嬌のあった正三角形の目も見る影がない。よく見てみると顎や鼻筋も異常に肥大化しており、ゴツゴツしていた皮膚もどちらかというとヌメヌメしているように見える。首回りも妙に太くなり、妙に厳つい。やはり運動公園で見た時大きくなっているように見えたのは見間違いではなかったんだ。とにかく…それはさっきまでアルカナイカと別人のように…いや別獣のように変わり果ててしまっていた。変な話、さっきよりも現実的(リアル)な姿に変貌していた。

「やっぱり、そうだったんだ。そうだったんだよ!」

アヤトさんは大いに興奮していた。顔は見えないけど、その嬉しそうな声と、その自信に満ちた背中から分かる。遂にパズルのピースを見つけたんだ!アヤトさんの頭の中からパチパチとパズルが嵌る音が聞こえてきそうだ。

「アヤトくん、全部わかったよ。あの子、アルカナイカは『怪獣』が『怪獣化』したものだったの!」

「えぇ?」

僕は素っ頓狂な声を上げてしまった…勿論、何を言っているのか全く意味が分からなかったからだ。「怪獣が怪獣化した」…表現があまりにも飛躍すぎていて僕にはついていけなかった。というか、これじゃあ…誰もついてはいけないだろう。

「だから…「心象進化説」はあっていたんだけど…間違ってもいたの!」

僕がわけわからず黙っていると、しびれを切らしたのか、アヤトさんはまたしても飛躍しすぎてズレた表現で僕を更に混乱させた。

「まったく意味が分かりません!…お願いですから一から説明してください!」

僕がそう言った時、アヤトさんが急にブレーキをかけた。キキキキキ…!と甲高い金属音がなって体に衝撃が走る。思わず悲鳴が出そうになった。顔を上げてみると、行く先が倒れた鉄塔で塞がれていた。火花がバチバチ散っていて見るからにヤバそうだ…この遊歩道はもう当分使えなそうもないだろう。

「…これじゃ仕方ないね。あっちの道、使おうか」

アヤトさんは右にハンドルを切った。大きな住宅地の脇道みたいだ。そこには歩道を3分割して階段、スロープ、階段となっている明らかに「自転車を押して登り下がりする用」の狭い通リがあった。下をよく見るとこの通路を下ると海岸の方にそのまま繋がっているようだ。…まさか、アヤトさんはこのままこの急な坂を下ろうというのだろうか。「転んだらただじゃすまない!危険すぎます!」僕がそう言おうと口を開いたその時だった。

「アルカナイカについて、一からだったよね?ちょっと長くなるから…ささっといっちゃおうか。」

アヤトさんはハンドルの方向を真っすぐに調整しながらいった。やっぱり、このまま下る気だ!後ろのハンドルにはブレーキは付いていない。つまり走る速度もハンドル操作もアヤトさんにかかっている。

「準備はいい?」

僕はその準備というのがアルカナイカの件についてなのか、坂を下ることとについてのことなのか尋ねようとしたが、時はもう遅かった。ペダルが大きく踏み込まれ体が前にガクンと傾いた次の瞬間、自転車の2つの車輪とアヤトさんの口が勢いよく回り出した。僕はジェットコースターのような感覚に叫びそうになったがハンドルを握りしめ、目を閉じ歯を食いしばって悲鳴を飲みアヤトさんの声だけに集中した。

「まず、結論から言うわ。アルカナイカはさっき言った通り、『怪獣』が『怪獣化』したものなの!あのおじいさんの言葉がほぼほぼ答えになっていたわね。あの子は、かつて多く作られていた怪獣映画に登場して創作物の『怪獣』、その概念、存在そのものが怪獣化した姿だったの。きっと『怪獣』っていう存在は日本人の持つ価値観や文化に染みついていたのね。きっとそれが付喪神みたいに生き物として意思を持ってしまったの。このことから、私があの子の目を見て懐かしいと思ったのは、私が昔の怪獣映画を知っていたからだってわかったわ。でも、あの子が怪獣化してこの世界に現れた理由と方法が不明確だった。原因も大体わかっていたの。でも、決め手になる確証がなかったの。無生物が、そもそも物理的な存在でもない概念が、怪獣になる理由も方法も分からない。だからこうして…」

 

 その時、奇妙な轟音が響き、アヤトさんの話を遮った。僕が恐る恐る目を開けると、あたり一面影に包まれていた。音は上から聞こえていた。規則的にバサッ、バサッと大きな旗がはためいているような音だ。それに加えてボーーーッという妙な機械音のようなものが聞こえる。僕は坂を猛スピードで疾走する自転車から巨大な影、その持ち主を見上げた。

大きなトカゲのようなものが蛾のような翼を生やしゆったりと飛んでいる。なんとも不格好で奇妙奇天烈な光景だった。…あの頭の形、恐るべきことにそれはアルカナイカだ。ソイツは僕らなんて気にせずに海の方へ一直線に目指して飛んでいるようだった。ヤツが僕らの上を通り過ぎた後に僕はもう一つ奇怪な事に気づいた。並走しているときには気づかなかったのだが…怪獣の顔は左右非対称だったのだ。さっきまで見えていたのは右半分の現実的(リアル)で厳つい顔。…その反対側の顔も右半分に負けないぐらい異質なものだった。やはり正三角形のどこか愛嬌のある目は消え失せ、代わりに生きているという感じが全くしない丸い目付いていて眼下の街を見下ろしていた。その顔は無表情だが不気味に笑っているようにも見えた。この世界そのものを嘲笑しているかのような冷たい笑いだ。その恐ろしさに僕は思わず息を飲み身震いした。

「アヤトさん!一体あれは!?」

「…そうね」

アヤトさんはブレーキを少し欠けながら今度はゆっくりと話してくれた。

「アルカナイカは…現在進行形で今まさに『心象進化』をしてるの。」

ここでその言葉が出てくると思わなかった。あの怪しい雑誌レムリアの、あのきな臭い記事の学説だ。

「さっき言った通り、この『心象進化』には大きく間違っている点があるの。『心象進化説』は、怪獣は“生物”が物理的な要因で進化、突然変異して生まれるものなんじゃなくて、心理的な要因で“生物”が進化、変化するものなんじゃないかってお話。…そう、“生物”じゃなくてもこの説、『心象進化』は起きる現象だったの。たとえそれが実体のない思想的な存在だとしても。感情さえ持っていれば、この説は成立する。」

僕は聴いていて頭がクラクラしてきた。この世界には怪獣という存在がいる。それは現実にこの世界で暴れまわり街を排したりする、実際に存在する生物だ。でも、この世界にはそれとは別に創作物として作られた怪獣っていう存在もいる。その創作物の怪獣が本物の怪獣になってしまったってこと?…ただでさえ、『心象進化説』は1つの説を拡大解釈したようなものなのに、それをさらに拡大解釈したようなものだ。もう何もかもが説に当てはまって、何もかもが怪獣化してしまいそうな気がする。…そんな僕の安直な考えを突くかのようにアヤトさんは続けた。

「この説で大事なのは、生物にしろ、無生物にしろ、それが「感情」を持っているかどうかなの。生物じゃないものを生物的な観点から調べたって意味がないわ。だから、あの子の正体は今まで誰にも分らなかった。それに怪獣映画は「日常」としてこの50年間に私たちの生活に溶け込んでいた、だからこそ気づけなかったの。…運動公園であの子が笑ったのを見たでしょ?私はあの時分かったの、アルカナイカには感情がある。そこから『心象進化説』とアルカナイカを結びつけることが出来ればすべて謎が解けるって!」

 アヤトさんがそこまで話し終えた時、僕たちは浜辺の公園、その海岸にある小さな入り江までたどり着いていた。海に落ちないようフェンスが建っていて、もうここから先は進めない。僕たちはそこに寄り掛かって怪獣を待つことにした。

日は沈みかかっていて、真っ赤な夕日が海面を照らしている。アルカナイカは僕らの目の前の入り江を飛び越え、対岸の工業地帯に着陸した。その姿は更なる変貌を遂げていた。頭部は頭頂部から首の付け根にかけて縦にパックリと引き裂け、もはやそれぞれ別の首として独立していた。同様に尻尾も2つにさけていて別の生物かのごとく、舞い上がる粉塵の中を犇めいている。2つの首は争うかのように絡み合い紫色の毒々しい怪光線を吐きあったりしている。実に悍ましい光景だ。

挿絵(By みてみん)

「なんでこんなことに…」

思わず口にしてしまった。正直最初は怪獣、アルカナイカには興味なんて湧かなかった…理由は分からない。今日一日アヤトさんと彼を観察してきて情が沸いたってわけでもないけど、知っているものがこんな無残な姿になってしまうのを見ているのは辛かった。

「あの子はね、まだ進化の途中なの。」

アヤトさんが僕に答えるように語り始めた。…とても優しい語り口調だ。

「運動公園でアルカナイカが笑ったのはなんでだと思う?あれはね、自分の叫び声に反応して野次馬たちが逃げてくれたから。あの子は…ずっと寂しい思いをしてたんだと思う。怪獣映画が衰退して…作られなくるのをずっと…一番近くで見ていたの。それから10年、なんとか人々の記憶の中で生きていたんだけど、段々と怪獣を知らない世代も現れてきた」

アヤトさんが横目で僕を見たのでちょっとギクッとした。…たしかに僕は怪獣映画、その存在は知っていても見たことは一度もない。僕たちの次の世代の子供たちは怪獣映画の怪獣を知らないかもしれない。

「昔の子供たちにとって、怪獣は…特別な存在だったんですね…」

僕はそっと言った。…正直に言うとそんな深いことは考えていなかった。

「ううん、それは違うと思うよ。…きっと逆。子供たちにとって怪獣は特別じゃない、当たり前の“日常”だったんじゃないかな。怪獣はいつも子供たちの隣にいたの。それは怪獣にとっても同じ。子供たちはいつも怪獣の隣にいた。」

アヤトさんは続けた。

「…でも、子供たちはあの子の前から居なくなってしまった。」

ここで僕はハッとした。なんとなく話が見えてきたような気がする。アルカナイカは『心象進化』で怪獣化した。そして、現在もなお進化を続けている。…その答えは。

「わたしがアルカナイカが『心象進化』してるって確証を掴んだのが変わってしまったあの子の目を見た時。あの子は“日常”を取り戻すために“非日常”を選んだの。昔のままの姿じゃ、だれも見向きもしてくれなかった。見てくれたとしても一瞬だった。だからあの子は進化することを選んだ。『寂しさ』の感情を武器に進化したの。」

僕はその言葉を聞きながら、夕日に燃える怪獣のシルエットを眺めた。気付けば報道の物と思われるヘリがブンブンといくつも飛んでいる。今夜のトップニュースは間違えなくアルカナイカだろう。彼が…望んだことは本当にこんなことなんだろうか?

その時、背後からヘリコプターの爆音が近く鳴り響き、僕たちは風に押し流された。アヤトさんは必死にお気に入りの帽子を押さえている。

『只今より、怪獣掃討作戦を開始する!民間機は退避せよ!』

怪獣防衛隊の戦闘機が飛行してきたのだ。詳しくは良くわからないけど受験の時事問題対策とかで習った殺獣レーザーだかがついた最新型の奴に違いない。報道ヘリが散り散りなって逃げていく。…僕たちも逃げないとさすがにまずい。甲高いサイレンがわんわんと激しく鳴り響いている。

間違えなく、アルカナイカはここで殺される…・。

僕は呆然と立ち尽くすアヤトさんの手首を掴み、陸の方に走り出した。攻撃に巻き込まれたら一たまりもない。…しかしアヤトさんは頑なに動こうとしなかった。

「アヤトさん!」

「お願い…ここに居させて!」

アヤトさんはフェンスの手すりをしっかりと掴んでいて離そうとしない。僕には分からない。どうして彼女がここまであの怪獣にこだわるのか…。

その時、アヤトさんと目が合った。

またあの時と同じような目をしている。

希望と悲しみの間を揺らぐ切ない目。

絶対に拒絶できないような…純粋で真っすぐな瞳だ。

今、気づいた。このアヤトさんの純粋な目は、今朝あの喫茶で見たあのアルカナイカの大きな目とそっくりだった。

『私はあの怪獣…アルカナイカとよく似ているのかもしれないって。』

運動公園で聞いた…言葉が僕の脳裏にこだまする。もしかすると、アヤトさんもアルカナイカと同じで何か伝えたいことがあるのかもしれない、それも…僕に。

「あの子の最期を見届けたいの…キミと一緒に」

アヤトさんは僕を畳みかけてきた。…吸い込まれそうな卑怯な目で。

「アヤトさん!もうわかったから…そのきらっきらした目はやめてください!」

その時、耳を劈くような咆哮が響いた。あれはアルカナイカの声。どうやら攻撃が始まったみたいだ。ポーとかビィーとか普段効かないような奇妙な音が夜空に木霊する。レーザーの音だ。僕らはフェンスにしがみつくようにして対岸を覗き込んだ。どうやら今、アルカナイカは羽を閉じ蹲っているようで、建物に隠れてよく見えない。その上を3機の戦闘機が旋回し、緑色の光弾を無慈悲に撃ち付けている。建物の後ろではアルカナイカがもがいているのかガタガタと揺れているのが分かる。僕たちはあまりの迫力のあまり固まって動けない。

しばらくして、工場の後ろから悲痛なまるで金属の擦れる音のような声が上がった。

…それが断末魔だと思ったのだろうか。3機の戦闘機は陸の方に旋回を始めた。その時、工場の後ろが青白くスパークした。真っ白な煙が立ち上り、その中から真っ黒な影がヌゥウっと立ち上がってくる。…さらに巨大化をしたアルカナイカだ。逆光でよく見えないがあの分だと100m…いや140mぐらいはありそうだ。翼がさらに肥大化し、なんと首がもう一つ増えている。…その姿はまるでこの星を滅ぼすためにやってきた文明の破壊者だった。


戦闘機が旋回し終えるのを待つことなく、アルカナイカはその巨大な体を大蛇の様にくねらせながら、暗くなった大空へ舞い上がった。アルカナイカはそのまま猛スピードで3機の戦闘機に突っ込んで行き、交錯した瞬間1機はアルカナイカの翼から発される衝撃波(ソニックブーム)によって海面にたたき落とされた。アルカナイカは更なる空の高見まで昇り、甲高い狂気の叫び声をあげた。

「あの子…苦しんでる」

アヤトさんが悲しそうな声でつぶやいた。彼女自身見ていて苦しそうだ。お気に入りのディアストーカーを脱いで胸の前でぐしゃっとなるぐらい強く握りしめている。怪獣は急速な進化に体が付いていけていない…そういう訳ではない。きっと今、彼の中で何かが戦っているんだ。夜空に蠢く三つ首龍を見て僕は思った。

残存した2機の戦闘機がアルカナイカの後を追って大空を昇っていく。アルカナイカは背びれを青白くスパークさせると3本の首からそれぞれ、怪光線を吐き出した。放たれた三つの稲妻状が空一面に舞い乱れ、2機の戦闘機は宙を踊る。このままでは怪獣に近づけなそうだ。

 その時、アルカナイカの体が橙色に輝き始めた。怪獣の胸の辺りが丸く‥赤く光っていて、そこから中心に光が発されているようだ。その光を見ていると、さっきまでの戦闘が嘘かの様に落ち着いた気分になってくる。2機の戦闘機も、繊維を失ったかの様に怪獣の下をグルグルと旋回し始めた。。

「見て。アイナ君…。あれが最後の進化。あの子の選んだ道だよ。」

アルカナイカはだらんと垂らしていた真ん中の首をゆっくりと擡げた。暗くて見えなかった顔の様子が橙の光でよく見える。

…そこにあったのは、懐かしいあの正三角形の目だった。真ん中の首は頭を傾け、眼下の僕たちをギロリと睨みつけた。しかし、その目に攻撃的な物はない。

寧ろ僕らに何かを求めているような…そう、とにかく真っすぐで純粋で吸い込まれそうな、あの目をしていた。

 アルカナイカは羽を閉じ、一息つくと

グワァアアアアアアァアアアアアアアン!ンアアアアアアァアアアアアアア…!!

と吠えた。聞いたこともない長い、長い咆哮だった。

その咆哮をきっかけに、彼の体はポロポロと崩壊し始めた。細かく分解された光輝く怪獣のカケラ、光の粒が星の様に夜空に散らばっていく。今一つの時代が終わりを告げようとしているんだ。

アヤトさんが言う。

「日常なんてものはこの世界に存在しない。この世界は全部、非日常で出来てる。」

 怪獣という奇妙な生き物を夢想し、物語の上に生み出してしまったこの国。怪獣が隣にいる“非日常”が当たり前の“日常”だったのだ。そんな『怪獣夢想地帯』の非日常、そして日常が、今完全に終焉を向かえる。

 アルカナイカの体はもう巨大な光の塊と化していた。何万何千匹もの蛍が空を飛び回っているようだった。海風に吹かれた光の粒は、陸地の方へ、海の方へゆっくりと流され流れていった。彼らは何処へ向かうのだろう。

「あの子はね、エッセンスになったの。それも極上のエッセンス。一滴垂らせば…どんなものでも引き立つ魔法のエッセンス。」

僕の疑問に答えるかのようにアヤトさんが言った。

挿絵(By みてみん)

「これであの子はもっと多くの人、色んな人の隣に居れるようになった。ただ…『怪獣』では無くなっちゃったけどね。アルカナイカは色んな物の中で生き続けるんだわ。最高のエッセンスとして。」

アルカナイカは…自分の存在を知らしめるため、自分が生きていたという証を刻み付けるために創作上の『怪獣』から実際に存在する『怪獣』へ進化した。しかし、それでも彼が望むかつての日常は取り戻せなかった。だから、彼は『怪獣』であることを捨ててどんな形でもいいから、人々の隣に居たかったのだ。

「最後にアルカナイカ見せてくれたあの目は…あいつの本当の姿、本当はこうありたいって姿なんですね」

「…きっと、そう。私には分かるような気がするんだ。…だから、私たちだけで忘れないで、覚えといてあげよう。あの子の本当の姿を。」

この時の、明りに照らされたアヤトさんのなんとも言えない、嬉しそうなような…悲しいような…切ないような、表情を僕は忘れることができない。…こうして、無限の可能性をこの世界に残した夢幻の存在が起こしたムゲン怪獣の事件は幕を閉じたのだ。…きっと事実を知っているのはアヤトさんと僕…二人だけだ。


 早いものであのアルカナイカ事件から1年以上がたった。僕はあることを切っ掛けにこの事件をこうして追想することにしたのだ。

それはアヤトさんの遺品を整理していた日の事だ。僕は引き出しの奥から懐かしのアルカナイカの観察日記を見つけ出した。遺品は全てアヤトさんの故郷に送り届けるつもりだったのだけれど、この日記だけはこっそりと頂いてしまったのだ。日記には事細かに怪獣の目測の身長や世間の反応や、綺麗なスケッチ、それに様々な考察などが記録されていた。それらに加えて一緒に記録されていた意外なものがある。それは…36度台の体温と薬の分量、食事量、そしてごく普通の日常を綴った日記だ。怪獣の記録と同じページに、それらが毎日記入されていたのだ。

『私はあの怪獣…アルカナイカとよく似ているのかもしれないって。』

アヤトさんは確かにアルカナイカに自分を重ねていたみたいだ。だから怪獣の記録をあえて自身のものと一緒に記録していたのだ。

アヤトさんがかの満ノ島怪獣災害に巻き込まれ、命を落とす少し前にアヤトさんが僕に教えてくれたことがある。実は自分は不治の病でいつ死んでもおかしくない状態なんだって。この話を聞いて僕は心底不安になった。でも、アヤトさんはいつも明るかった。いつも『普通じゃない事は素敵なこと』なんていいながら…奇妙奇天烈な言動で僕を驚かしてくれた。でも…僕の知っているそんなアヤトさんが本当のアヤトさんだったのか分からない。

もしアヤトさんがアルカナイカと同じ気持ちだったのなら…彼女も自分の存在を誰かに知ってもらいたくて、自分が生きた証を刻み付けたかったのかもしれない。

そうなると彼女の独創的な発想や大胆な行動がここからくるものだと思うと少し胸が痛かった。

でも、二人でアルカナイカの事件を追っている中でアヤトさんが僕に見せてくれた、あのひたすら真っすぐで純粋な目。

希望と悲しみの間を揺らいでいるような切ない目。

…あれだけは本当のアヤトさんだったのだと信じている。アヤトさんは僕にだけは、本当の姿を見せてくれたんだ。それだけでも嬉しい。僕は知らない面があろうとも、いつものアヤトさんも本当のアヤトさんも大好きだ。もちろん人として。

アヤトさんが日記を残しているのは、怪獣が現れてから事件の前日までだった。なぜそこで書くのをやめてしまったのだろうか?日記になんてつけなくても僕の中にあの日の記憶は鮮明に残っている。きっとアヤトさんはあの日生きた証を僕に直接刻み付けてくれたんだ。だけど、ここに現物の日記が残っているのに記録が完成していないのは寂しいと思った。そういうわけでこうして記録を残している。日記にしては長すぎるような気もするけど。

これから先の未来、僕は何気ない日常を…いや、何気ない非日常を毎日一日一日しっかりと生きていきたい。

…アヤトさんとあの怪獣のようにまっすぐで、正直に。

                                               弼星アイナ


最後まで読んでくださって誠にありがとうございます!

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次回の更新は2月3日土曜日を予定しています。

少女二人が魔女怪獣に立ち向かうファンタジー?遍です。

ご期待ください。

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