0.8話:龍の首の珠(前編)2人の少女との出会い
これは竜馬の宿題の後日談です。
登場人物の関係上2話以降に読むことをお薦めします。
竜馬の宿題―。
【龍の首の珠】
竜馬は一生懸命に家の中の書物をあさった。
しかし、龍の首の珠に関する記述のある本は無かった。
(ここの家の書庫は大抵なんでもあるのに…本当に存在しない物なのかも)
竜馬の脳裏には不安を覚えた。
春休みも残す所約4分の1。そろそろ取りに行きたいところである。
瀬戸は久しぶりに家に帰ってきた。
竜馬の登校日の少し前に仕事で出張に行って以来しばらく家にいなかったのだ。
帰ってきた瀬戸は竜馬の様子を見てなにか一大事なことがあるとすぐに察した。
「竜馬、その慌てよう、どうしたんですか?」
悩んでいた竜馬ははっと我にかえった。
「あ。兄上、お帰りなさい。実は宿題なんだけど、龍の首の珠のことが書いてある本って無いかな?」
「そんなものが宿題なんですか?!」
瀬戸は随分と驚いた。
「それだったら、もう1つの書庫にありますね。」
「もう1つの書庫?」
家には1つしか書庫はない。竜馬は2つもあるとは全く思ってなかったのである。
「すいませんね竜馬。もっと早くに帰ってこれればよかったものの。」
「いいんだよ兄上。それより早く早く!」
瀬戸は家から出ると数分後帰ってきて竜馬に1冊の古びた本を手渡した。
その本は見るからに年季物である。
瀬戸は本を渡すとニコッっと笑った。
竜馬は本を開いた。そこには当時(竹取物語が作られた時)のことが事細かに書かれていた。
「どうです竜馬?私たち呂一族の宝の一つは。」
「ありがとう、兄上。これで僕は頑張れるよ!」
そう言って竜馬は2階の自分の部屋にこもって読みふけった。
ついに準備は整った。
竜馬は古びた本に書いてあった龍の首の珠の在り処を知り、翌日朝早く旅立とうとしていた。
そんな竜馬に瀬戸はあるものを渡した―。
それはもう1つの書庫にある料理レシピの本に書いてある料理の1つ「黍団子」である。
「竜馬、これは桃太郎にも出てくるきびだんごを模した黍団子です。あの物語ほど素晴らしいものではありませんが、きっとあなたの役に立つでしょう。」
実はこれ、瀬戸が徹夜で作ったものである。
「何から何までありがとう兄上。出発前に涙が出そうだよ…。(感動)」
気を取り直して―。
「では、行って参ります兄上。」
そう言って竜馬は家を後にした。
ここは日本アルプス、飛騨山脈―。
竜馬がたどり着いたのはここだ。
眼前には大きな大きな山が見える。
その山に竜馬の目指す龍の首の珠は存在する。
山に入る前に竜馬は食欲が出てきたので昼ごはんにした。
そして、食後は瀬戸から渡された黍団子だ。
竜馬は黍団子を2つ食べた。
「これは…、う、うまい、美味すぎる!兄上、感謝します。」
黍団子は口がとろけそうなほど甘く、また、体の疲れが一気に吹っ飛び体力全回復〜!だった。
これが黍団子の力なのだろうか…。
食べ終わったところで竜馬は山へ向かった。
麓には小さな村があった。
今の時代には似合わない家ばかりである。
山へ入ろうとした竜馬に中世を彷彿させる紫色の服装の独りの少女が声をかけた。
「あなたはこの山へ入るのですか?」
「うん、そうだけど。」
「なぜ入るのですか?ここは危険な場所。何も知らずに上るような山はこの辺りにありません…。」
「そうは言っても、僕は龍の首の珠を取ってこなくちゃいけないんだ。」
竜馬は宿題なので引き下がるわけにはいかなかった。
その様子を感じ取った少女は話し合った結果ついに折れた。
「分かりました…。危険を承知で山に入るなら私たちも加えてください。あらゆる面で貴方を助けられると思います。」
竜馬は質問した。
「私たち?」
「はい…、私には姉がいます。ついてきてくれませんか?」
そういうと少女は自分の家に向かったので竜馬はついていった。
この少女の家も周りと同じく、時代に取り残された家であった。
家に少女が入っていったので竜馬も入った。
「お姉ちゃん、彼が山に入るようです。」
「僕の名前は呂竜馬です。山に入らせてくれませんか?」
家の中には同じ年、同じ感じの服装の少女がいた。服の色は赤色だ。
その少女は笑った。
「相変わらず暗いわよ?」
そして竜馬の方へ顔を向けて言った。
「貴方が山に入る人ね。あたしはフレア。そしてその子はあたしの双子の妹トスーゴ。妹を説得できる人だから心配はいらないでしょ。では、少し待って下さいねっ。直ぐに準備をするから。」
そういって2人の少女は身支度を始めた。
竜馬は少女たちを見ながら物語の中に入ったのではないかと不思議な感覚を覚えた。まぁ、普通だろう。
準備が整ったので3人でついに山に入った。
まるで竜馬は少女たちの兄のようである…。
トスーゴは真面目で黙々と山を登り続けた。
反対にフレアは散々はしゃぎまくり、竜馬になんで山に入ったの?年はいくつ?彼女はいるの?など色々なことを尋ねたりした。
竜馬もフレアに尋ねた。
「トスーゴちゃんはなにかあったの?」
ストーゴの性格に疑問を持っていた竜馬はフレアに小声で尋ねた。
フレアはストーゴの耳に入っても構わないらしく注意を払うことなく竜馬に言った。
「ストーゴは人見知りなの。あたしたちの村は元々人なんてほとんどいないし、全く人はやってこないから。それに…」
何かを言いかけて言うのを止めた。
竜馬はそれを追求しようとはしなかった。
しばらく歩き続け、日も暮れてきた。
目的地は意外と遠いようである。
しばらく森の中を歩いていたがやがて大きな湖に出た。
「ねぇ竜馬!今日はここで野宿しようよっ。」
フレアは竜馬にねだった。
「そうだね、今日はここで寝泊りしようか。トスーゴちゃんもおいで、晩御飯にしようよ。」
竜馬は夜も歩くわけにはいかないので野宿する事を決めた。
晩御飯を済ませた。
するとフレアはいきなり服を脱ぎだした。
竜馬はあまりにもいきなりの出来事だったのでだいぶ驚き、赤面した。
「ちょ、フレアちゃん、いきなり何を…?」
フレアはにやりとして竜馬に言った。
「あれ?竜馬どうしたの?そんなに赤くなっちゃって〜。美少女の体がそんなに珍しい?」
「自分で美少女って言うんだ…。」
「もう!トスーゴうるさいわよ!」
トスーゴの突っ込みにフレアは怒った。
竜馬はそれが面白かったので笑った。
顔はそむけたままフレアに言った。
「とりあえず服を…」
「今から泳ぐの!ねぇ、いいでしょ竜馬ぁ?」
「わかったよ、だからちょっとこっちこないでっ。」
「焦った焦ったぁ〜。じゃあ行ってきま〜す。」
フレアはそう言って湖の中に入っていった。
竜馬はトスーゴも入らないのか聞いた。
「私はいいです。」
拒否られた…。
竜馬は泳ぎはしゃいでいるフレアを横目にトスーゴに名前について聞いてみた。
「トスーゴちゃん、なんで君とフレアちゃんは少し変わった名前なの?」
トスーゴはいきなり質問され、こっちを見られたので照れてうつむいて答えた。
「私たちは、元々、名前が無かったんです。だから、村にいる数少ない人たちに、名前を…。」
湖の方からフレアの声がする。
「ねぇ!竜馬ぁ!一緒に泳ごうよぉ!」
「えっと、また今度ね。」
竜馬は曖昧な返事をしておいた。
「なんだよう。竜馬のケチィ!フンだ。」
フレアはそう言ってまた湖の中に消えた。
竜馬はトスーゴと話を続けた。
「でもねぇ…。なんでそんな特殊な名前なんて付けたんだろう…?」
「それは私たちの能力が…」
―バッサーン!!
トスーゴが言い終わる前になにか大きな湖から音がした。
とても大きな魚であ…る?か、怪物だ!これは一見魚にも見えるが、モンスターだ!
そして1人が湖から出てきた。
「ワァン!竜馬〜、トスーゴ〜助けて〜!」
フレアだ。
「えぇ!?」
竜馬は状況が読めなかった。
そりゃあ普通いきなりモンスター現れないしな…。
トスーゴは竜馬に告げた。
「ここは危険な山ですから。」
ホント、危険極まりないな…。
「フ、フレアちゃんを助けないと。」
竜馬はフレアを助けに行こうとした。
だがそれをトスーゴは止めた。
「大丈夫です、今から私が何とかしますから。」
そう言うとトス―ゴは呪文らしきものを唱え始めた。
すると竜馬の眼前に人の形をした幻影が現れた。
幻影はモンスターの方へ向かって行き、モンスターは生身の人間と思って幻影を襲った。
そうしている間にフレアは戻ってきた。
息が上がっている。
フレアは疲れを気にせずトスーゴに言った。
「トスーゴ、モンスターを陸に揚げて!」
「わかった、お姉ちゃん。」
すると幻影はモンスターを陸に追い出した。
そこをすかさずフレアが呪文を唱え、モンスターの体が一気に燃え上がった。
モンスターの凄まじい雄叫びがしばらく広がったが、やがてその雄叫びは消えていった…。
しばらく竜馬は唖然としていた。
トスーゴは竜馬に言った。
「私たちの能力で名前を決めたんです。私はゴースト(幽霊=幻影)。お姉ちゃんはフレア(火)。」
その時!
モンスターが最後の抵抗をし、トスーゴに飛び掛った!
「トスーゴ危ない!」
フレアは火の玉をモンスターに飛ばした。
命中!しかしモンスターは尚も向かってくる!
終わりか!?
しかし、ここが見せ場とばかりに竜馬が立ちはだかった。
モンスターが目の前に来た。
竜馬は瞬時に飛び上がりモンスターの急所にライダーキィィック!ってな感じで蹴り飛ばした。
モンスターは吹っ飛び、湖に沈んでいった…。
「ふぅ〜。なんとか生き延びたね。」
竜馬は安堵のため息をついた。
「竜馬、強いじゃん!すごいよキック1つで倒すなんて。」
フレアは竜馬の才に感動した。
そして、トスーゴも照れて頬を赤らめながらも竜馬に感謝した。
「ありがとう。竜馬さん。おかげで助かりました。」
「うん。まぁ、あそこが唯一の見せ場だったしね。」
竜馬は笑って答えた。
「どうだった?あたしの活躍は。」
フレアが竜馬に尋ねた。
「う、うん良かったよ。本当に凄い呪文で…。」
「ねぇ!こっち見てよ。」
フレアは竜馬が顔をそむけて言うので怒った。
竜馬は焦ってフレアに言った。
「フレアちゃん、まず服着てくれないかな?」
3人の旅はあと少し続く。




