1話:入学式でも兄弟の茶番
カズの九九×九九の暗記
呂猛のマグロ釣り
そして、竜馬の龍の首の珠
3人はそれぞれの宿題を1人を除きあまり苦労することなく完了して入学式を迎えた―。
4月初旬の亜露覇高校―
今日始めて在校生と出会う新1年生は春の穏やかな桜と違ってかちこちに緊張していた。一部を除いては…。
その一部である呂猛は明らかに周りの緊張感をもろともしていなかった。
「やっと入学かぁー。おっ、あれはカズじゃねぇか!おーいカズ、もちろん宿題できてるよなっ!?」
少し冷やかし気味に呂猛はカズに呼びかけた。
「もちろんやで。自分がこれくらいの暗記くらい休み中にできるで。そっちこそできとんけ?」
呂猛は肩に提げていたクーラーボックスを自慢げにカズに見せつけた。
「ほらよっ。俺の家は裕福だからな!釣りついでにバカンスもしてきわ。にしても、他の奴らも随分と異様だな。」
他の1年生も色々な過酷な宿題で、大きなかばんを持つ者。変な日焼けをしている者。全身あざだらけとバリエーションが豊富(?)だった。
その中に1人、見覚えのある人を呂猛とカズは見た。
2人はその1人の人物に駆け寄って行った。
その人は見るも無残な姿だった。
髪の毛はぼさぼさ、ばんそうこうがたくさん貼ってあり、目のくまも悲惨なものだった―。
呂猛は恐る恐る尋ねた。
「竜馬…だよな?」
「ああ、そうだよ、僕だよ…。」
竜馬だった。
竜馬は明らかに疲れているようだった。
「僕は、やったよ…。これがあれば、かぐや姫と結婚も、可能だよね…。ハハ…普通に無理なはずだよ…。」
全く…ド疲れさんっ!竜馬
入学式前にある程度人前に出れる姿になった竜馬は呂猛らと合流した。
「よしっ♪復活〜。」
竜馬はどうしたのか元気100倍並のパワーアップをしていた。
ただ2人は竜馬の復活に首をかしげるだけだったが、そのうちそんな奴だと割り切った。
入学式により、再び長い先生たちの話の後、ついにクラス発表になった―。
クラス分けの結果、3人は運命とでも言えるのか、同じクラスだった。
カズはボソッと言った。
「結局こうなるんやな。」
「でも一緒になれてよかったじゃん。頑張ってこ?」
竜馬はここぞとばかり反応した。
呂猛も笑い、付け加えるように言った。
「そうだな。なかなか俺たちいいトリオだしな。乗り切っていこうぜ!」
3人が喋っている所に2,3年生が2人やって来た。
「相変わらずだな。呂猛。」
落ち着きのある声の3年生の男が呂猛に言った。
「なんだ呂猛?それがお前の連れか!?中の上くらいな奴と特徴のなさそうな貧相な男か。おもしろいじゃねぇか。」
番長風なムキムキな2年生の男が呂猛を侮辱する感じに言った。
呂猛はそれを反論した。
「王兄貴だって今時番長気取りなのは時代遅れだぜ!?一匹狼なんてダサいぜ全く…。筋肉バカなくせによ。」
それが引き金となって呂猛と男は喧嘩になった。
全く、場所をわきまえて欲しいものである。
そんな2人をよそに、3年生の男が呆気に取られている竜馬とカズに話し掛けた。
「彼らはほっといて構いません。紹介がまだでしたね。私は呂 虎です。そしてあそこで呂猛とドンパチをやっているのが呂 王。私たちは名字の通り、兄弟です。」
呂虎の自己紹介は隣で喧嘩しているにも関わらず、実に落ち着いていた。
竜馬とカズは仰天した。
どういう環境で育ったら一番上の兄と間逆な性格になるのだろうかと…。
もちろん2人は呂虎に挨拶をした。
「呂竜馬です。これから同じ学校の生徒としてお世話になります。宜しくお願いします。」
呂虎は名字の呂に疑問を抱いた。
(まさか呂の名字を持つものが我々以外にいたとは…。これはどういうことなのだ?)
考えていた呂虎の代わりに呂王が口をはさんだ。
「お前も呂の名字を持つのか!?へぇ、珍しいこともあるもんだ。」
「隙あり!」
呂猛は余所見している呂王へ殴った。
が、呂王は顔面ギリギリのところで呂猛の拳をつかみ、力でねじ伏せた。
「甘いな、猛!俺様に勝てると本気で思っているのか?」
呂王は呂猛をあざ笑った。
「うるさい王兄貴!俺は絶対兄貴を越えるからな!」
呂猛は吼えた。
呂虎はいきなり2人の間に介入した。
「2人とも見苦しいぞ。王、お前も自分のクラスが帰っていることくらい見ておいたらどうだ?」
ハッと思い出した呂王を連れて呂虎は去っていった。
「王。お前は無駄に口をはさむな。言っていいことと悪い事がある…。」
呂の名字のことである。
こうして入学式は終わった―。
もちろん宿題も全員合格として終わった。
これから学校生活は始まっていく。
果たして3人の運命はどうなっていくのだろうか…。
別に死ぬわけではないが、今後が気になるところである。
呂虎と呂王が去ってからカズはずっと悲しみに満ちていた―。
(自分って貧相なん…?!ってか、絶対忘れてたよね呂虎さん…。自分の自己紹介してないんですけど!)
そう思うカズであった。
ポーカーフェイスな彼の切実な思い等を理解してくれる人はまだいない―。




