0話:始まりは受験
時は東暦2007年3月―。
ついにこの日、多くの受験生がこれの為に闘ってきた、受験の日がやってきた。
ここは亜露覇高校。っま、簡単に説明すれば競争率3.0倍の超難関校である。
たくさんの受験生がいる中、1人の男がいた…。
その男の名は「呂 竜馬」母は幼い時に死に、父も2年前に亡くなり、今は兄と2人で生活し、悲しい人生を送っている…はずである。
竜馬は筆箱の中の家族写真を取り出し呼びかけるように言った。
「父上、母上、兄上、僕は今日までたくさんの努力をしてきました。今日、その身につけた力を存分に発揮して、かならず受かってみせる!」
とまぁ、最終的には自分に対する気合注入の独り言みたいなことになったが、本人は気にしなかった。
テスト開始数分前、廊下にドタバタと走る音がして、それは徐々に近づいてきた。そして、竜馬のいる教室へ勢いよく男が1人入ってきた。髪型は短髪気味のオールバック、そこそこの筋肉質な男だった。
「おっと!あぶねぇあぶねぇ。ぎりぎりセーフだな。…おい、そこ俺の席だぞ!」
男は竜馬の席にやって来てはいきなり竜馬を怒り出した。
「いや、あの、ここ僕の席だから…。君の席は前だよ…。」
竜馬は呆れて言った。
「お!ワリィな。同じ名字だからって勘違いしてしまったぜ。呂竜馬か…。まさか俺と同じ名字がこの世にいるなんてな…。」
竜馬は言っている意味がわからずポカンとしていた。その男は変な空気になりそうだったので、すぐに話を切り替えた。
「さっ、さぁて、今日の受験、同じ呂同士頑張ろうぜっ!ちなみに俺の名は呂 猛だ。よろしくな竜馬。」
「ああ、よろしく頼むよ。猛君。(いきなり呼び捨てかぁ…)」
猛は竜馬に君付けされたことを笑いながら言った。
「おいおい、君はないぜ?俺のことはフルネームでよんでくれ。その方が落ち着くしな。」
「わかったよ、呂猛…でいいんだろ?」
こうして2人はテスト前ながらも打ち解けあった。この出会いから2人はよきパートナーとして学校生活を共にしていくのである。
テスト開始のチャイムと同時に校内放送が流れ出した。
「受験生の諸君〜。私はこの亜露覇高校校長の無窮じゃ〜。今からテストを開始するわい。最初のテストはこの高校から出ることじゃ。無事にこの高校の外に出られたものが2次試験に行けるのじゃ〜!では、よ〜いどんっ!」
と言って校内放送は終わった。最初は誰もが理解不能なテストが始まった事に頭が混乱していた。受験生たちが黙って考えていると呂猛がその沈黙を破って言った。
「ってことは、さっさと学校に出ればいいんだな?竜馬、行こうぜ!」
「ちょ、ちょっと押すなよ!自分で教室くらい出れるから。」
呂猛は竜馬の背中をバンバン叩き押しながら教室を出て行った。
と、同時に受験生が我先に外を目指して走り出した―。
ついに受験が始まった。果たして、この最初のらくちんな試練に全員が何秒で終わるのだろうか…
竜馬と呂猛は廊下を走っていた。
しばらく走っているうちに竜馬は気付き口を開いた。
「呂猛君。ずっと同じところ走ってない?」
そう、2人はずっと同じ道をぐるぐる走っていただけだったのだ。
呂猛は先に気付いた事を言った。
「君付けすんなよ!」
呂猛は続いて驚いて竜馬に言った。
「え!?それやばくないか?もう他のやつら先に言って…」
「いや、どうやらみんなも同じ所走ってるみたいだよ。」
竜馬は呂猛の声をさえぎって言った。
「きっとどこかに脱出経路があるはずだよ。それを探そう。」
そうして2人は道を探し始めた。
他の受験生も早々と状況を察知して道を探し始めた。(超難関校だけあって学力以外の力もなかなかもっているようだ)
それから数分後―
竜馬は廊下の角においてある水槽でこそこそしている男をみつけた。竜馬はその男に尋ねた。
「その水槽どうかしたの?」
男は慌てて言った。
「いやここには何も無いで。だだ、ちょっとぼうっとしてただけやで。」
男は少し関西弁だった。
その男を脅すようにあとからやって来た呂猛は詰め寄った。
「おい、そこになにがあるんだ?ちょっとみせてくれや。」
呂猛は少し乱暴のようにも見えたが、
「服にゴミついてるぜ?」
とまぁ、優しさもアピール(?)した。
竜馬と呂猛は水槽に無数の金魚が泳いでいるのを見た。男は2人に言った。
「ここに泳いでいる金魚の数を数えろって壁に書いてあるからずっと数えてるんやけどなかなかできんのや。」
「んなら俺に任せろって!これくらい楽勝だぜ。1匹2匹、3匹…」
呂猛は数え始めた。
数えている呂猛をよそに竜馬は男に尋ねた。
「自己紹介まだだね。僕の名前は呂竜馬。今数えている彼は呂猛。君の名前は?」
「自分の名前はトモナイ カズやで。よろしく〜でいいけ?」
「うん、よろしくカズ君。」
すると壁にあるスピーカーから声がした。
「今何時デスカ?0960番サン」
0960番とは呂猛の受験番号だ。
「あん?えっと、たしかぁ…って何匹数えたか忘れたじゃねぇかぁ!畜生。」
呂猛が悪態をついているのを見て思い出したようにカズは言った。
「ああ、ワリィ、忘れてたけど数え終わる直前にいきなりスピーカーから声がしていっつもミスるんやってなぁ〜。忠告してるの忘れたわ〜はは」
カズは笑いながら呂猛に言った。
「コノヤロー!ふざけんなよー!」
カズは逃げ、呂猛はカズを追いまわした。
取り残された竜馬は1人金魚の数を数え始めた。
そして終盤またスピーカーから声がした。
「今日ハ何月何曜日?0961番サン答エテクダサイ」
「51」
「違イマスヨ0961番サン。シッカリ答エヲイッテクダサイ」
「57!やった、57匹だ。」
竜馬は散々スピーカーの声を無視し、数えきった。するといきなり水槽が2つに割れ、隠されていた廊下が現れた。竜馬は未だにじゃれあっている(少なくても竜馬にはそう見える)2人を呼んだ。
「2人とも〜。置いてくよ?」
2人は本来の目的を思い出しすぐに竜馬の後を追っていった。
3人ともその廊下へ入ると開いていた壁が閉じた。
「どうやら他にも既にここに来ている人がいるみたいやで?でも、みんななんで気絶しとんやろ…」
カズは率直にこの廊下の疑問を口にした。
「きにしてもしょうがないさ、もうすぐ玄関だと思うし先を急ごうよ。」
竜馬はそう言って無視して先に進んだ。戸惑っているカズに呂猛は馬鹿にして言った。
「気絶してるやつに話し掛けるやつはアホだぜ?」
結局3人は玄関まで直行した。
玄関―
ここに3人の男の受験の補助員がいた。
肉体派とのっぽ、あとオタクな3人であった。
肉体派の男がいった。
「よくここまでたどり着いたな。ここが最後の関門だ。我々と勝負し、勝った者のみが外へ行ける。さぁ、誰から勝負するか?」
「よし、俺が最初に行く!」
言ったのは呂猛だ。勢いよく飛び出した。肉体派の男は自信気に言った。
「よかろう、貴様からか。私と格闘し、勝てばいいのだ。分かりやすいだろう?」
こうして呂猛と肉体派の男の戦いが始まった。
5分ほど激しい攻防戦を繰り広げた。
「呂猛、勝てるかなぁ?相手はなかなかの肉体美やで?」
カズは不安げに竜馬にすがるように尋ねた。
竜馬は、
「戦いは、肉体美だけじゃ勝てないさ。僕はきっと呂猛が勝つって信じてるよ。」
肉体派の男の重いパンチが呂猛のわき腹に入り、呂猛派下駄箱に吹っ飛ばされ、下駄箱がぐしゃぐしゃになり、呂猛は埋もれて見えなくなった。
肉体派は勝利を確信して近づいていき見えない呂猛に言った。
「貴様は今のところ今回の受験生の中ではトップクラスの強さだな。だが、所詮私には勝てんのだよ。さて、次は誰が私の相手をするのだ?」
すると、肉体派の足元が突然震え出した。
「なんだ?一体何が…」
喋り終わる前に1人の男が下から飛び出し、そのまま肉体派のあごにクリーンヒット!ああ、これは痛い。
肉体派は一気にノックアウトした。虫の息の肉体派は気力を振り絞り呂猛に尋ねた。
「き、貴様の名は!?…」
「呂猛だ」
「そうか…どうりで…」
肉体派は気を失った。
「死んだんけ?!」
いや、だから気絶だカズよ。
勝利した呂猛は2人が勝つことを確信でもしているのか普通に去って行った。
「なにも言わねぇが、わかってるよな?んじゃ先に待ってるぜ。」
それは暗に勝って来いと言っているようだった。
オタクの男が喋りだした。
「君は合格だね外に出ていいよ。さて、次は誰が僕ちんの相手をするのかな?」
カズはその口調に引いていた。すると竜馬が前に出て言った。
「では僕が相手をします。一気に勝たせてもらいますよ?」
するとオタクは目を丸くして言った。
「何言ってんの?僕ちんとの勝負はフィギュア作り対決だよ?2分で多くのフィギュアを作ったほうが勝者だよん♪」
カズは吐き気を覚えそうだ…。竜馬はそれを了解し、早速フィギュア作り対決に入った。
世のオタク達が好むフィギュアを2人は作っていった。
2分が経った。どうやらカズには長い長い2分だったようだが…。
終了すると今まで無言だったオタクは喋った。
「はい終了〜♪僕ちんは240完成させたよん。君は…ん!君はたった1つ、しかもまだ少ししか出来ていない!君は僕ちんを冷やかしに来たのかい!?」
オタクは激怒した。
カズはオタクの怒りようの凄さに竜馬に謝ることを薦めた。
「竜馬、謝ったほうがいいで?さすがにこれは失礼だと思うで?」
しかし竜馬は首を横に振り怒り狂っているオタクに逆に怒った(つまり逆ギレだ)
「あなたが一番謝るべき人だ!」
驚いたオタクは竜馬に尋ねた。
「なぜだ!?僕ちんは君に謝る理由が無いよん!」
「違う。フィギュアにだよ。あなたは確かに作る速さは一級品です。でも、速さが大事じゃない!フィギュアの1つ1つのパーツに思いを込めて作るのが大切なはずです。」
その言葉にオタクは心を打たれた。 「そうか。僕ちんは間違っていたんだ…。ありがとう君。僕は頭がどうかしてたよ。君の勝ちだ。外に行ってもいいよん。」
おかしい。明らかになにか違うことになっている。カズはそう思った。でも、その時のカズもまた、2人のやり取りに感動し、突っ込む事を忘れてしまった。
最後の1人、のっぽが口を開いた。
「最後に残った君と僕だね。では最後の勝負を…と、君まだいたのか?もう行ってもいいだぞ?」
まだいたのは竜馬だ。
「いさせて下さい。最後を見て、一緒にゴールしたいんです。」
のっぽはその気持ちを察して竜馬の居残りを許した。
「そうか、わかった。では、最後の勝負はジャンケンだ。」
「え?…」
竜馬とカズは混乱した。
カズはのっぽに聞いた。
「ホントですか?もっと激しい物とおもったんやけど、それですか?」
だが返事は「ああそうだ。」「僕はこんな時に嘘はつかない。」と帰ってくるだけだった。
「だが、ひとつやる前にヒントをやろう。僕はグーを出す。君はパーを出せば勝てるぞ?」
竜馬は罠だ!と感じ、全く気付いていないカズに叫んだ。
「カズ!それは罠だ!間違ってもパーを出したら負けるぞ!」
しかし、非情にも決着はついていた。
カズは勝っていた。カズはチョキを出していた。のっぽはパーだった―。
「いえぃ♪勝った勝った〜♪行こうぜ〜竜馬。」
カズは大喜びして竜馬と共に外へ向かった。
去っていくカズにのっぽは愕然としながら言った。
「バ、バカな!?ヤツは裏をかいてグーを出すと思ったのに…。なぜ僕の作戦がわかったんだい?教えてくれないかな?」
カズは自分なりにカッコよく言って高校から出た。
「智者は智に溺れるのさっ(笑)」
外では呂猛が待っていた。
「意外と早かったんだな。らくしょうだったのか?」
竜馬は苦笑いしながらも答えた。
「そんなところかな?詳しくはカズにきいておいてよ。」
「のっぽがべちゃくちゃ喋ってたけどボーっとしてたらなんか勝ってたって!」
カズの返事はこれだ。
(?)
呂猛の頭の中はただ?マークが出ているだけであった―。
次回は受験後のお話。
合格者の登校日(3月下旬)だったり〜




