第4話「有里との再会」
笛を口にくわえたヘルメットの警察官が、真一の操縦する飛行機をカモンカモンと両手で滑走路に誘導している。一樹にはそう見えた。淡々としていた。警察官もその周りの風景も。
「速度違反を振り切ったくらいで、大げさだなあ・・・・・・・暇こいてんのか、警察も」
真一はそういうと、誘導とは反対の方向に車を転がし、公衆トイレの前まで行くと、
「ちょっと、小のナニをしてくるから、お前頼む・・・・」
といってトイレに駆け込んで行った。一樹も慣れたもので、シッシッ・・・と真一を手で追いやって
平然とした顔で横から駆け寄る警察官には一瞥もくれずに、前を向いていた。
ノックされ、初めて気づいたように窓を開け30そこそこの警察官に、
「はい??何か??」
「恐れ入りますが・・・運転手さんはどちらへ?」
「今、トイレに」
すると後ろから40後半の警察官がやってきて
「いいから降りろ!」
強い口調で一樹に怒鳴った。
一樹は法学部で司法試験も一次には合格している。
「容疑は?降りろとは私に言っているのか?道交法か?刑法か?なめてんのか?法律の専門家に下手なこと言うと首が絞まるぜ、おっさん警察手帳!!!!」
「貴様に見せる手帳はない!降りろ!」
「警察官であることを認めないんだな、コレは映画のロケと考えていいな??ザ・ガードマンか七人の刑事か、パーマンか??」
そこへもう一人の同じく40後半がやってきた。
「失礼した。ではね、そのままで結構ですから、2、3おうかがいしてもよろしいかな?」
(三段論法的な警察権力行使の典型だ、笑いをこらえるのが苦しいぜ・・・)
「何なりとお聴きください。運転手は、間もなく戻ります。私は東邦工業営業一課の浅田一樹といいます。運転手は同社エンジニアの藤本真一です。後ほど免許証・身分証明を私、藤本共に提示いたします。道路交通法ですか?」
「それも確かにあるのですが・・・・・・詳しいお話は・・・・つまり一度本署に来ていただいて・・・」
「任意ですか?」
「もちろんですが、結局来ていただくことになることは、専門家でいらっしゃるなら、おわかりですよね。任意ではあります、重ねて申し上げておきますが・・・」
一樹は行くしかない・・・と悟った。
程なく真一が戻り、二人の乗った軽自動車はそのまま、10台ほどのパトカーに前後を挟まれて警視庁に誘導された。
警視庁に着くと、その玄関には10人ほどの男女が入り口近くで一樹たちを待ち構えていたが、その中に知った顔は当初いないように思えた。
車を降りて、署内に向かう途中、
「浅田くん・・・・・・一樹くん・・・・・・・」
聞き覚えのあるような女の声がした。
「はい・・・・・?」
一樹はとっさに良い子のお返事をした自分を変だと思った。学校の先生に呼ばれたような気がしたのだ。その声の主を立ち並ぶ約10人の中から探した。
「浅田くん・・・・・・こっちよ・・・・」
声の主は磯貝有里だった。