第3話「ネェちゃんの足」
「この軽・・・・何キロくらい出るんだぁ~??」
一樹の背中があまりの急加速で、シートに食い込むほどのGを受けた。
「何キロ出ると思う?」
「150キロ・・・・・・・くらい??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「200???!!!」
「1000キロ・・・・・もっとかな~」
「ふざけんな、科学野郎!じゃ何かい?羽付けたら空飛べるのかよ!!」
「ああ、簡単にな・・・セスナなんか見ろ、空飛んでるじゃねえか。せいぜい500キロだ」
「ああ、そう言われてみればそうだよな~・・・・」
軽は際限なく加速を続けている。メーターは300キロ近い。
「お、おい!!・・・・車もつか、分解しねえか??」
一樹はスピードより車体の強度について不安になった。軽自動車の強度については、営業畑ではあっても研修期間中にそれなりの基礎知識は頭に入れていた。
「鋼鉄のフレーム構造さ・・・モノコックじゃねえんだ。トラックと同じでチョットやソットじゃ、イカレないよ」
真一はなおも加速する・・・・・やがて時速は400キロを超えた。
平日の東名高速道路はガラ空き状態で前方をさえぎる車両は一台もなかった。
途中パトカーが猛スピードの軽を発見、追跡に入ったが、見る見るうちに遠のいてサイレンも聞こえなくなった。
「レシプロ・エンジンなどには追いつけません♪」
真一は鼻歌混じりにそう言った。
「これ、売るのかよ??!!」
一樹は真一に聞いた。
「売れるもんか・・・・・リッター3~4キロしか走らない。それに、重大な欠陥がある。冷却水がな、エンジンの壁から入り込んでおしまいになるのさ。(悪魔の傷痕)ってんだ。20000回転どころか100000回転だって、際限なく回ってしまうんだからな・・・この化け物エンジンは」
「このオイルショックにリッター3キロとか4キロ!!俺は売る自信ないね。じゃ何でこんなテストやってんだ?会社は何考えてるんだよな??」
「会社?・・・・・今日の走行は会社なんか関与してないよ。俺の趣味だ」
車はインターの終点に近づく.。
真一はルームミラーで後方を確認しながらシフト操作で減速を始めた。
「ブレーキが焼けるとまずいからな。4輪ディスクだが、速度が速度だし・・・・」
かなりスピードは落ちたように一樹には感じられたが、メーターは200キロを指していた。
一樹は突然、200キロのスピードで思い出したことがあった。それは、真一の姉に関する面白いエピソードについてである。
(姉ちゃんの足は200ミリ)という作文で真一が市のコンクールで入選したのは中学校3年生。東京オリンピック開催の年1964年のことだった。
当時の足の大きさはcmでもなく(文)という単位が一般的で、mmはさすがに(時計屋の息子らしい緻密さを感じさせる)とその内容の家庭的な円満さが買われての入選だった。
「200mm・・・・かぁ」
一樹は思わずプッと噴き出した。真一は前方の一点を見つめて険しい顔をしていた。見ると、そこには数台のパトカーが、今か今かというようにタテヨコ斜めの封鎖状態に並んで一樹と真一の乗る小さな飛行機の着陸を待ち構えていた。