1.
自分の中のほのかな恋心に、気がついた日。
わたしは、先輩の姿を思い浮かべながら首をひねった。
なんで、わざわざ、まったく自分の方を見ていない人を好きになったんだろう、わたし。
まさか、この人を好きになるとは思いもしなかったから……。
想像すらしたことがなかったから、自分の気持ちに気がついて、わたしはちょっと混乱していた。
去年、中三の夏。
初めて男の子から告白された。
夏の大会で負けてこれで部活は引退だって……、悔しくて泣いたあの日。
バスケ部の男子から、告白された。
みんなで泣いただけじゃスッキリできなくて、体育館の外の水飲み場で、顔を洗うフリをして、涙を洗い流そうとしていた、あの時。
男バスみんなで応援に来てくれていた、その内の一人。結局、中学三年間で、一度も同じクラスにならなかった、男の子。
同じバスケ部だったから、部活で話すことはあっても、色っぽい雰囲気になんて、一度だって、なったことはなかった。
「残念だったな」
「……うん」
涙を見られたくなかった。
だから、長々と、顔を洗い続けた。
心の中で、早くどっか、行ってよって、ひそかに思いながら。
まさか、この後に、あんな台詞が飛び出すなんて、思ってもいなかった。
流れる水音をBGMに、背中ごしに聞こえた言葉。
「ずっと、好きだった」
その言葉を耳にして、わたしの涙は一瞬で止まった。
「……え?」
いきなりの事態に、言葉をなくすほどに驚いた。
失礼ながら、彼のこと、まったく、そんな目で見ていなくて。
「ずっと、寺本のこと、見てた」
でも、うれしいとか思うよりも、
今、なに言ってんの!?
そんな時じゃないでしょう?
って、そんな風に思ってた。
わたしの頭の中は、負け試合の中身ばかりが、渦巻いていた。
あの時、こうすればよかった、もっと、ああすればよかった……って。
だから、驚いた後に来たのは、嬉しさではなく、失礼ながら鬱陶しさ。
……で、
「ありがとう。でも、ごめん。今は、考えられない」
そう、即答していた。
水に濡れた顔をタオルで拭きながらした、色気のかけらもない答え。
子どもだったなって、思う。
でもあれから、少しだけわたし、女の子になったと思う。
自分が女の子なんだって、あの時から、ようやく意識しはじめた。




