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12年目の恋物語  作者: 真矢すみれ
番外編1 初デート
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4.初デート

 ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 電車に揺られる。

 でも、今度は、特急列車のゆったりした座席。これなら、バスよりも揺れないし、わたしも酔ったりしない。

 隣にはカナがいて、窓の外の景色はさっきより速く流れている。

 でも、窓の外の景色より、カナとつないだ手のぬくもりの方が気になって……。

「……で、何で一人で行こうと思ったの?」

 そう聞かれて、

「高校生にもなって、電車に乗ったことがないなんて、おかしいでしょう?」

 と言ったら笑われた。

「そんなの人それぞれだろ」

 そりゃ、そうなのかも知れないけど……。

 でも、人それぞれって言葉じゃくくれないから『天然記念物』なんだよね?

「それに、何も初めて乗るのに、ひとりで行くことないだろ」

「ん? なんで?」

「オレだって、初めての時は、親と一緒だったって」

「……そういうもの?」

「そう。そういうモノ」

 カナが呆れたように、でも仕方ないなぁというように暖かく笑って、わたしの肩を抱き寄せた。

 カナ。だから、恥ずかしいってば。

 あの告白の日以来、カナは学校でも平気で、わたしの頭をなでたり手をつないだりする。

 でも、わたしはなかなか慣れなくて、そのたびに顔が赤くなってしまってからかわれる。

「親はともかく、なんで、オレ、誘ってくれなかったの?」

 ママ、カナと行くようにって、散々言ってたもんね。

「だって、ハンドクラフト展なんてカナ、つまんないだろうし」

 そう答えると、今度は、カナ、深いため息を吐いた。

「あのね、ハル」

 カナが真顔でわたしを見る。

 わたしもつられて、

「はい」

 と真面目に返した。

「男ってのは、好きな女の子の願いは、何でも叶えてあげたいの」

 分かる? って聞かれても、分かるような分からないような……。

 だってわたしは男じゃないし。

「オレさ、別に動物園も遊園地も映画もそんな好きってわけじゃないし、デートの場所にはこだわらないよ?」

「え?」

 カナの言葉に絶句すると、カナがまたため息を吐いた。

「ハル、付き合ってる男女が休みの日に一緒に出かけるのを、世間ではデートって言うの」

 噛んで含めるように、カナはゆっくりとわたしの目を見て話す。

「わざわざ休みの日に一人で出かけるな」

 カナが拗ねたように言った。

「オレ、学校だけじゃなくて、休みの日にもハルと会いたいよ」

「……ごめんね」

「あやまらないでいいって。でも、」

 とカナはわたしの手を取り、両手で包み込んだ。

「来週からは、ちゃんとオレも誘ってね」

 にっこり笑うカナの笑顔がまぶしかった。

「……ん」

 なんとなく、……なんとなく、そうしても、いいのかなって思って、カナの肩にもたれると、カナはまたとっても嬉しそうに笑った。

「ハル、大好きだよ」

 耳元でささやかれるカナの声。

 大好きな、カナの声。

 わたしも。

 わたしも、カナ、大好き。

 そう言いたいのに、恥ずかしくて言えない。

 なのに、その言葉を想像しただけで、わたしは赤くなってまたうつむいてしまう。

 カナはそんなわたしの気持ちをまるで分かっているかのように、急かすこともなく、また頭をぐりぐりとなでてくれた。



 それから、わたしたちはデパートに行って、カナはわたしのお目当てのハンドクラフト展に付き合ってくれた。

 図書館と同じで、カナはわたしが色んなものを見るのを面白そうに眺めて、たまに、

「ハル、これ、どう?」

 なんて言って、ビスケットやフルーツが山盛りついたスイーツデコの髪飾りを手にとって、わたしの髪に当ててみたり、

「へえ~。あんな風に作るんだ。ハル、知ってた?」

 って、革細工の実演コーナーで立ち止まってみたり。

 なんだ、カナを誘えばよかったんだ。

 カナの手のぬくもりを感じながら、自然とそう思っていた。

 それに、やっぱり、わたしは世間知らずで、駅を降りてどこに行けばいいかも分からず戸惑い、土曜日のデパートの混雑に圧倒され……。カナがいなかったら、もしかして押しつぶされてたんじゃないかって思ったりもした。

 お昼ご飯も、少し早めにってカナが連れて行ってくれて、ご飯を食べながら、すぐにいっぱいになった席を見て、外に列の長さに驚いて、しみじみひとりで来なくてよかったって思っていた。

 カナは得意そうに、

「連れてきて、よかっただろ?」

 と胸を張った。



「そろそろ、帰ろうか?」

 カナがそう言った瞬間、なぜかホッとした。

 ああ、わたし、疲れてたんだ。

「……なんで分かるの?」

 疲れたなって思ってたの、なんで分かるの?

 という言葉を目的語なしで言ったのに、カナは即座に問いの意味を理解して笑って答えてくれる。

「そりゃ、ハルのことが好きだから」

 午後の混雑は、朝来たときよりすごくて、カナはつないだ手をほどいて、

「腕、組もう」

 って肘をとんと、わたしにぶつけた。

 その瞬間にも人は右に左にとすり抜けていく。

 慌ててカナの腕にしがみつくと、カナはゆっくりと歩き出した。



 ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 帰りも、カナが特急電車の切符を買ってくれて、夕焼けにはまだ少し早い明るい日差しの中、わたしたちは並んで電車に揺られた。

 楽しかったなぁ。

「カナ。ありがとう」

「楽しかったな。また、行こうな」

 カナの笑顔が嬉しくて、わたしも思わず顔がほころぶ。

 本当に楽しかったなぁ。

 そんなことをぼんやりと考えている内に、気がついたら、わたしはカナに頭をもたせかけて眠ってしまった。



「ハル。もうすぐ、着くよ」

 カナの声に起こされて、でも、わたしの頭は半分眠っていてろくに働かない。

 カナは、

「ここでお姫様抱っこは、さすがにダメでしょ」

 とつぶやきながら、わたしの身体を支えて立たせ、それからわたしの手をひいた。

 カナに手をひかれて電車を降りて、ゆっくりゆっくり歩いて改札を出ると、迎えの車が来ていた。

「……あれ? なんで?」

 つぶやくと、カナが笑った。

「オレが呼んだからに、決まってるだろ」

 ドアを開けてもらって、乗り込んだところまでは覚えてる。

 次に気がついたら自分の部屋だった。



 ママには、こってりと叱られて、出張から帰ってきたパパが、

「陽菜だって、たまには、ひとりで遊びに行きたいよな」

 って頭をなでてくれた。

 机の上には、

「ハル、楽しかったね。次はどこ行く?」

 と書かれたカナのメモが残されていた。

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