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あなたのことは大嫌い

「おい、麗香。お前と結婚してやってもいいぞ」

 久しぶりに会った幼馴染の円蔵は私に向かってそういった。


「は?」

「は?じゃない。この俺がお前と結婚してやってもいいというために直々にお前の家に出向いたんだぞ?もっと喜んだらどうだ」

 いや、だって意味わかんないし。

 寧ろいきなりそんなこと言われて喜ぶ人なんているんですか?

 少なくとも私は喜ばない。

「結構です。というかどうやって入ってきた」

 ここは1LDKのオートロック付きの家だ。鍵がなければ入ってこられない。

「そんなの慎吾から借りたに決まってるだろう」

 兄よ、なぜこんな奴に一人暮らしの妹の家の鍵を渡すんだ。不用心だろ!

「そんなことより、お前と結婚してやってもいいと言っているんだ。喜べ」

「ですから、結構ですって」

「なぜだ。お前は俺のこと好きなんだろう?」

「何言ってるんですか?」

 いきなり家まで来て自分のことが好きだなんてうぬぼれすぎじゃないですか?



「え?」

 え?じゃないですよ。私はこれっぽっちも円蔵のことなんて好きじゃない。

 小さいころから私が一人暮らしを始めるまでずっと私のことをいじめ続けた。

 小学生の頃は、私が男の子と遊ぼうとするといつも邪魔してきた。そのせいで私は男の子の遊びに混ぜてもらえなくなった。

 中学生の頃は、入学式で一目ぼれをした先輩の入っているサッカー部に入部しようと思っていた私の入部届を円蔵は勝手に柔道部に出してしまった。マネージャーがいなかった柔道部員達はとても喜んでいて入部届の取り下げなどできなかった。

 そして、強豪の柔道部に入ってしまった私には先輩にアプローチする暇などなかった。

 それにもともと志望高校は全て共学だったはずなのに、私のお母さんに変なこと吹き込んだせいで私は近所の女子校に通うことになってしまった。別にその高校が嫌だったわけではないが私は彼氏を作って共学高校で青春ライフを送りたいという夢ははかなく消えた。

 高校生の頃は、女子校でも彼氏は作れるよね!と気をとりなおして外部で彼氏づくりにいそしもうと他校の文化祭とか他校との合コンをセッティングしてもらおうと思ったのに、兄と共に妨害しやがった。

 これをいじめと言わず何という!

 彼氏ができそうなチャンスなんて何回もあったのにひたすらに邪魔しやがって!

 おかげで彼氏=年齢ですけど?

 そんなことがあった私は大学に入ってからというものリアルの男は諦めかけていた。

 そんなときに私はマドカに出会った。

 マドカは兄が所属するバンドMilky Wayのドラムを担当する無口なイケメンだ。

 一目見て私はマドカが好きになった。

 全力で演奏をするマドカに惚れた。



 なのになんで円蔵が好きなんて話になるのか意味わかんないんですけど?

「だって、慎吾が麗香は俺のことが好きだって・・・」

「聞き間違えじゃないですか?」

 円蔵のことを私が好きだなんてそんなウソを兄が言うわけないじゃないか。

「いいや、確かに俺は聞いたぞ」

「・・・」

「ウソじゃないぞ。確かに慎吾が俺に言ったんだ!」

 いや、嘘だろ。という気持ちを込めながら円蔵を見る。

「わかった。今から慎吾に電話して聞くといい」

「そうさせてもらいますよ」

 さっそく私は兄に電話を掛けた。

 円蔵も聞くというのでスピーカーモードに設定をした。



「・・・・・・もしもし?」

「もしもし、おにい?ちょっと聞きたいことあるんだけど」

「聞きたいこと?」

「うん。いくつかあるんだけど・・・」

「うん、いいよ」

「なんで円蔵にうちの鍵貸したの?」

「ちょっと待て。今、それ聞く必要あるか?」

「あるに決まってんでしょ!女子大生の家の鍵よ!」

「ああ、言ってなかったっけ?円ちゃんが貸してっていうから貸したんだー」

「聞いてないし、貸すなよ」

「俺は円ちゃん大好きだからさ、断れないよ」

 ああ、そうだった。兄は昔から円蔵が大好きだったんだ。

 そんな兄には何を言っても意味ないだろう。

 仕方ない、鍵の件は諦めて今度会った時になんかおごってもらうことでチャラにしてあげよう。

「円蔵がおにいから私が円蔵のこと好きだって聞いたとか意味わかんないこと言うんだけど」

「うん、言ったよ」

「はぁ?」

「ほらみろ!」

「なんでそんなウソ言ったの?」

 意味わかんないし。半分キレながら兄に聞いた。

「ウソじゃないよ。れいちゃんがこの前言ってたから、円ちゃんに教えてあげただけだよ」

 何を言っているんだ、うちの兄は・・・

「そんなこと言ってないし」

「この前テレビを見ながら言ってたじゃん」

「テレビ?」

「先週の土曜日に放送してた音楽番組」

 確かにそれなら兄と一緒に見てた。

 Milky Wayが、マドカが出てる番組だったから。

「見てたけど円蔵の話なんかおにい、してなかったじゃん」

「俺はしてないけど」

「やっぱしてないんじゃん」

「れいちゃんはしてたよ?」

「は?」

「テレビ見てるときずっと円ちゃんの話してたじゃん。お兄ちゃんも出てたのにさ」

 プンプンと兄が少し機嫌悪そうに言う。

「円蔵の話なんてしてないよ。私はずっとマドカの話を「だから円ちゃんのことでしょ」

「え?」

「何変なこと言ってんの、おにい」

「慎吾は何も変なことは言ってないぞ。マドカは俺だ」

「は?」

「Milky Wayのドラム担当のマドカは俺だ」




「これで分かっただろう?お前が好きなのは俺だと。その俺が結婚してやると言ってるんだから泣いて喜ぶといい」

「いや」

「なんて言った?」

「マドカのことは大好きだけど円蔵のことは大嫌いなの!」



やっと見つけた、大好きな人。

また円蔵に邪魔されてしまった。

だけど、今度こそはいい人見つけてみせるんだから!!




麗香は気合を入れている自分の後ろで落ち込む円蔵ことなんて全く気付かないのであった。


俺様を装うへたれな円蔵と円蔵の気持ちに全く気付かない麗香のお話でした。


読んでいただきありがとうございました。

感想をいただけると嬉しいです。

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