表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/68

03.そして、彼は確認する

 女王を文字通り粉砕した俺は、莉桜とファイナさんが待つ大木の陰へと戻る。

 二人も、姿を現して俺を迎え入れてくれた。


「いやはや、これほどまでとは思わなかったでござるな」

「魔石を魔素(マナ)へ変換する効率との関連は分かりませんが……従来の速度だったら、とんでもないことになっていましたね」


 ファイナさんと莉桜が、二者二様の言葉で賞賛してくれる。

 しかし、ファイナさんの言葉には若干、白々しさを感じずにいられなかった。


「ファイナさん。こうなると分かって、俺をけしかけたんですね?」

「こうならなければ、修行が必要と思っていたのは事実でござるが」


 予想の範囲内だが、その上限ではあったと。

 まあ、期待に応えられたのであれば、それに越したことはない。


 それに、修行免除も勝ち取れたらしい。正直、それが一番嬉しかった。


 いや、嫌というわけじゃない。


 わけじゃないんだが……やらないなら、それに越したことはないよね?


「さて、死ねば等しく食材でござる」

「私は食べませんからね。絶対に」

「それはもったいない。では、里に狼煙で知らせるでござるかな」

「……伝わります?」


 蟻を食べることの是非はともかく、里からは、かなり離れていると思うんだけど。


「なに。支族の集落もあれば、森に入っている者もおるでござろう」


 それでも、伝わらなければそのとき。飢えているわけではないし、あくまでも嗜好品という位置づけらしい。エルフが回収できなければ、他の動物や魔物の胃袋に収まるだけ。


 俺が言うのもなんだが、シビアだ。


「そういえば、この外骨格とか使って鎧を作ったり」

「……できぬことはなかろうが、時間も金もかかるでござろうなあ」

「顔や体を隠せる鎧が欲しいのであれば、《唯物礼賛(ナヘマー)》で作る手もありますが……」


 莉桜が、語尾を濁して真意を伝える。


 戦闘で壊れる可能性や、アクシデントで鎧の中身を見られる危険性。それに、常時全身鎧で過ごす異常性を考慮すると、《外見変更》で通したほうがコストパフォーマンスはいいのではないかと。


「なに、せっかくのいい男なのに鎧などで隠してはもったいないでござるよ」

「同感ですね」


 珍しく意見が一致したことに苦笑を零したファイナさんが、狼煙を上げるため燃料を探しに行く。


「では、兄さん。私たち兄妹は、兄妹の秘め事と参りましょう」

「『鳴鏡』でレベルアップの確認だな。分かってるぞ」

「ところで、『私たち兄妹』って、いいフレーズですね。秘め事まで付属すると、快感すら憶えるフレーズです」


 俺のツッコミを完全スルーして、ついでに、姿を消したファイナさんの存在を亡き者にして、莉桜が陶然とつぶやいた。


 相変わらず、ぶれない。


「さて、莉桜。『鳴鏡』を出してくれ」

「むぅ。兄さん、愛が足りないのではないですか?」

「愛が足りないと嘆くより、進んで愛を注ぎましょう……って冗談だ。失言だった」


 だから、獲物を狙うような目で近づかないでくれ。

 全滅した鎧鋏蟻が見たら失望するだろう狼狽えっぷりで、俺は諸手を上げて降参する。


「貸しひとつ、ということにしましょう」

「寛大な処置に圧倒的感謝」


 よし! 問題を先送りにできたぞ!

 莉桜の機嫌も良くなったし、いいこと尽くめだ!


 ……と思わないと、自分の迂闊さに死を選びかねない。


「いい機会です。せっかくですから、既存の能力も含めて確認をしていきましょうか」


 せっかく、二人きりの時間ですからね……と、莉桜が微笑んだ。まるで、初夜を迎えるかのような恥じらいとともに。


●戦闘値

【命中】118(↑4)、【回避】117(↑2)、【魔導】73(↑4)、【抗魔】78(↑1)、【先制】116(↑3)

【攻撃】252(↑12)、【物理防御】-(105/↑5)、【魔法防御】145(↑8)、【HP】-(1620/↑170)


 戦闘値に関しては言うことなしというか、相手にもよるがかなり暴力的だ。もう、攻撃を外すことも食らうこともないんじゃないかという気がしてくる。


 いや、それはさすがに慢心だけど、【HP】なんか順調に上がってるけど恩恵があんまり感じられないんだよな……。


 まあ、【物理防御】や【魔法防御】なんかも含め、お世話にならないのが一番なんだけど。


「では、特技を確認していきましょう」


 莉桜の言葉に続いて、だだだっと、特技が表示される。


●保有特技


・《存在解放》

取得レベル:1

 代 償 :1~∞MP

 効 果 :存在そのものを解放し、周囲に超強力な魔力波を放つ特技。

      使用者は、即座に活動停止状態となり、持続している効果も終了する。

      また、以降八時間は進化階梯の外見に応じた姿に退化する。


・《強打》

取得レベル:1

 代 償 :1MP

 効 果 :強力な白兵(物理)攻撃を繰り出す特技。

      

・《人形の体》

取得レベル:1

 代 償 :なし

 効 果 :あなたは生物でありながら、その制限を一部超越している。

      あなたは飲み物や食べ物を摂取することができない。また、活動のために呼吸も必要がない。

      その代わり、一日に『魔素』を1ポイント消費する。消費できない場合は、『魔素』が回復するまで活動停止状態となる。


・《武器の手》

取得レベル:2

 代 償 :なし

 効 果 :武器の扱い方を習得した。武器を使用した際、命中にボーナスを得る。

      また、構造的に武器が持てない手であっても操ることができ、身体構造もそれにあわせて変化する。


・《疾走》

取得レベル:3

 代 償 :1MP

 効 果 :外見からは想像のできない速度で走り抜ける特技。

      5秒間移動速度が倍になり、移動自体も妨害されない。


・《骨格強化》

取得レベル:4

 代 償 :なし

 効 果 :ベースとなる身体構造が強化・硬化する特技。

      【物理防御】に+[進化階梯+1]×5する。


・《冷静な目》

取得レベル:6

 代 償 :1MP

 効 果 :機械のような知覚力で、攻撃を回避する特技。

      【回避】に+10する。


・《環境適応》

取得レベル:7

 代 償 :なし

 効 果 :周囲の環境に左右されることなく、行動できる特技。

      地形によるペナルティやトラップの効果を受けない。

      また、魔法以外の要因で燃えたり、凍ったり、腐食したりしなくなる。


・《修復》

取得レベル:8

 代 償 :1MP

 効 果 :魔素を回復力に転換する特技。

      HPを[進化階梯+1]×100点回復する。


・《連撃》

取得レベル:9

 代 償 :2MP

 効 果 :人形ならではの動きで、連続攻撃を放つ特技。

      一体に対して二回攻撃をする。もしくは、二体を攻撃の対象にできる。


・《飲食可能》

取得レベル:11

 代 償 :なし

 効 果 :本来は無機物であるあなただが、進化に伴い飲食物を楽しむことができるようになった。

      ポーションなど、摂取しなければ効果の出ないアイテムの効果を受けられる。


・《外見変更》

取得レベル:11

 代 償 :1MP/一日

 効 果 :周囲に認識阻害の魔力を展開し、任意に見た目を変更する特技。

      あなたの外見を変更する。ただし、変わるのは見た目のみで、体の大きさなどは変わらない。

      代償を支払う度に、外見を別の物に変更することも可能。


・《蛇腹の腕》

取得レベル:12

 代 償 :2MP

 効 果 :人間ではありえない複雑な関節の動きで、予想外の方向から攻撃する特技。

      命中に+[進化階梯+1]×10する。

      また、この攻撃に対する【回避】は-10される。


・《物品共感》

取得レベル:13

 代 償 :2MP

 効 果 :物品の声を聞き、情報を収集する特技。

      対象の器物が知性を持っているかのように、見聞きした情報を得る。

      また、その器物を使用した判定にボーナスを得ることもできる。


・《最適化》

取得レベル:14

 代 償 :2MP

 効 果 :周囲の環境に合わせ、自分自身の形をリアルタイムに変化させていく特技。

      あなたが行うあらゆる行動の成功率を上昇させる。


・《パーツ分裂》

取得レベル:16

 代 償 :5MP

 効 果 :あなたを構成するパーツを一時的に分裂させ、攻撃を回避する特技。

      一回の攻撃を完全に回避する。


 こうして見ると、随分と増えたもんだなぁ。


 でも、代償を払わない常時可動型の特技は普段あんまり意識する必要がない。なので、極論すれば忘れてしまっても構わない。

 そして、《強打》や《連撃》。それに、《パーツ分裂》辺りは印象が強いので忘れることはない。


 自分の能力を忘れてピンチに陥るなんてことになったら、目も当てられないからな。刃羅を手に入れて、素の能力が上がったとしても、油断はできない。


「大丈夫です。兄さんのことは、私がしっかりと万遍なく万全に把握しておりますので」

「……それは頼もしい」


 性能(スペック)性能(スペック)的な意味でだよな!?


・《隠し腕》

取得レベル:17

 代 償 :2MP

 効 果 :腹や背中などから第三の腕を生やし、不意打ちをする特技。

      この攻撃に対し、【回避】を行うことはできない。


 でもって、新しい特技は《隠し腕》。俺のこの体のどこに、三本目の腕が有ると言うんだろうか?

 いや、生やすって事は、特技を使うと生えるのか。生えた後、どうなるんだろう?


 謎だ。


「兄さん、こう考えましょう。愛する人を抱く腕が一本増えてラッキーだって」

「その前向きさ、次世代エネルギーに使えたりしないかなぁ」

「ある意味、永久機関だとは思うのですが」


 それはともかく。

 実際に使って確かめるわけにも行かないので、続けて、『概念能力』(クリファ)へ目を向ける。


『概念能力』(クリファ)


・《唯物礼賛(ナヘマー)

取得レベル:1

 代 償 :1~

 効 果 :使用者がイメージ可能なあらゆる物質や物品を創造する『概念能力』。

      その物質や物品により代償は変化する。ただし、魔石は創造できない。


・《永劫不定(リリト)

取得レベル:5

 代 償 :10MP

 効 果 :肉体や、物質。あるいは精神に陥穽を作り、崩壊させる『概念能力』。

      《永劫不定》を使用した直後の攻撃は対象の【物理防御】、【魔法防御】を無視してダメージを与える。

      また、対人交渉や性的な誘惑には絶対成功する。


・《暴食行動(アドラメレク)

取得レベル:10

代 償 :10MP

効 果 :対象を吸収し、その能力を我が物とする『概念能力』。

     対象の持つ能力ひとつ(任意)を習得することができる。

     対象は気絶もしくは瀕死の状態である必要があり、

     この『概念能力』を使用した後、炎に包まれ完全に死亡する。

     その際、魔石に『星粋晶』は充填されない。

     また、死者には使用することができない。


・《増殖天授(バアル)

取得レベル:15

代 償 :1~10MP

効 果 :生命の種を創り出し、子を作る『概念能力』。

     対象に触れ、魔素を注ぎ込むことで子を授けることができる。

     効果は代償により異なるが、《増殖天授(バアル)》自体、月に進化段階回しか使用できない。

     1MPを消費した場合は、生命の種を母体に埋め込まなければならない。

     母体と同じ種族の子供が生まれる。妊娠期間なども、種族の標準に準じる。

     5MPを消費した場合は、そのときの使用者の進化階梯と同じ外見の子供が生まれる。

     能力値は、使用者の三分の一以下で、当然『星沙心機』も有さない。

     これは、数分で誕生し、同じ時間経過すると消滅する。

     10MPを消費した場合、使用者と同じ能力を持つクローンが生まれる。

     特殊な分身ともいえるだろうが、『星沙心機』を用いて魔石の吸収はできない。

     これは即座に誕生し、その後、蓄えた魔素がなくなると消滅する。


 ……やっぱ、《増殖天授(バアル)》がヤバイな。ぶっちぎりでヤバイ。《永劫不定(リリト)》も社会的に結構ヤバイ。


 この辺は、知られちゃいけないよなぁ。まあ、ファイナさんたちエルフとしか交流したことがない時点で、余計な心配かもしれないけど。


 とりあえず、『概念能力』(クリファ)は切り札だ。常に、有効活用できるように意識しなければならない。


 そう自分の中で結論を出し、『鳴鏡』から顔を上げると、いつの間にか空に狼煙が上がっていた。


 なにか、エルフ秘伝の顔料でも使っているのか、その煙は普通よりも白い。たぶん、この色が獲物がいるという合図なのだろう。


 実用性で決められたであろう色。


 にもかかわらず、それはまるで葬送の煙のようだった。





 鎧鋏蟻の巣を壊滅させてから、二日。


 当初の予定よりも一日遅れで、辺境の町ムファードに到着した。


 町といっても、日本から来た俺からすると村レベル。というか、規模としてはエルフの里と大差ない。


 建物は、さすがに木造だけでなくレンガや石造りがメイン。だが、ちょっと寂れた観光地になぜか存在するドイツ村とかオランダ村とか。そんな印象だ。

 

 冒険者という魔物退治の専門家がいるのだから、大げさな防衛設備は不要ということなのか。良く言えば開放感のある、そのまんま表現すると無防備な町だった。


 特にとがめられることもなく、ムファードの町へ足を踏み入れる。《外見変更》は、偉大だ。


「思えば、ここが異世界で初めて訪れる街になるなぁ」

「うちの里は、どうなるでござるか?」


 あそこは修羅の集う土地なので別カウントです。


 しかし、そういう意味では、このムファードも例外となるのかもしれない。


 体格のいい、チェインメイルに身を固めた厳つい大男。

 魔法使いなのだろうか。ローブを身に纏い杖を手にした妙齢の女性。

 立派な髭を生やした、背の低い樽みたいな体型の戦士。


 統一感のない。しかし、すれ違うだけで一般人ではないと分かる冒険者たちが行き交っている。こんな町は、そうそうあるわけではないだろう。


 やはり、ここは冒険者が集う町だ。


 異国情緒。いや、異世界情緒に、思わず感動してしまう。


 ――のだが。


「ひっ」

「ひぃっ」


 体格のいい、チェインメイルに身を固めた厳つい大男も。

 魔法使いなのだろうか。ローブを身に纏い杖を手にした妙齢の女性も。

 立派な髭を生やした、背の低い樽みたいな体型の戦士も。


 俺たちを一目見た瞬間、悲鳴を上げて逃げ出していった。


 莉桜は気づいていない――というより、俺以外の他人に興味がないので理解の外だ――し、ファイナさんは気にしていない。

 だから、分かっていない様子だったのだが。


 間違いない。


 あの厳つい冒険者たちは、ファイナさんの顔を見た瞬間、捕食者に出くわした草食動物のように逃げ出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ