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人形転生-カカシから始まる進化の物語-  作者: 藤崎
第二章 大森林のサムライ
43/68

21.そして、彼らは彼らと対峙する(後)

 石垣の陰にいたせいか、“俺”は《存在解放》のダメージをあまり受けていないようだった。


 ――いや、違うか。


 胸の『星紗心機』(スターハート)を見て、認識を改める。既に、全部黒塗りになっている魔石はふたつだけ。

 どうやら《修復》に結構注ぎ込んだようで、“俺”の【MP】は27まで低下していた。


 【MP】が0になったら分身は消滅する。それを恐れていないのか。


 ……いや、依代が動けなることをより恐れているというだけだ。


 これが、妖刀の影響下にある“俺”ということか。


 機械と同じだ。同じスマフォも、使用者によって用途は違い、しばらくすれば基本性能は同じでもアプリなんかは別物になる。

 きっと、そういうことなんだろう。


「二刀とやるのは俺も初めてだろう?」


 俺の沈黙を戦闘スタイルの変化への戸惑いと解釈したのか。

 どことなく得意そうに“俺”が語りかける。


「まあ、そうなるな」


 実際、それが皆無とは言えなかったので、俺は素直にうなずいた。


 二刀流と言えば、やはり宮本武蔵だろう。

 創始した流派である二天一流というその名も、二刀流のイメージを強く印象づける。


 しかし、別に刀を二本使ったほうが強いよねという安直な理由で二天一流を完成させたわけではない。


 宮本武蔵は二刀流を学ぶ理由として、五輪書に「片手にて太刀を振ならわせんため」と記している。

 要するに、二刀流で戦うことが目的ではなく、片手でも刀を十全に扱えるようにするための二刀流なのだと言っているわけだ。


 これは、偶然の一致なのか、それこそ収斂進化なのか分からないが、ファイナさんから教わった紅龍蒼牙の教えと同じ。


「裏を返せば、“俺”が二刀流で戦うことも自然の流れってわけだ」

「付け焼き刃……とは言えないところが、性質が悪いな」

「付け焼き刃だろうと、斬れれば結果は同じだろう?」


 刀は《存在解放》で吹き飛ばされたとはいえ、まだ何本かは残っている。やろうと思えば、《物質礼賛(ナヘマー)》で創り出すことだってできる。


 でも、対抗しようとは思わなかった。


 それは、俺のスタイルじゃない。


「斬るぞ、俺」

「斬るのは俺のほうだ、“俺”」


 でも、実行の前に言葉で意識を切り替えるところは同じだった。やっぱり、俺は“俺”か。


 《存在解放》で更地になったファイナさんの家。そこで、何度目になるか分からないマネキン同士の剣戟が始まった。


 様子を見る気持ちが出てしまったのか。今回も、先手を取ったのは“俺”だった。


 軽く、散歩にでも行くような調子で踏み込み、あっさりと間合いを制す。なるほど。【先制】が高いってのは、こういうことでもあるんだな。


 そんな感心をしてしまうほど、鮮やか動きだった。


「兄さん! しっかりしてください!」


 そこに莉桜の声援――いや、叱咤か――が飛んだ。


 同じタイミングで、赤い刀身が交差するように襲いかかってくる。


 そう来るのか。


 出方を見るというよりは、興味深いと剣筋を観察してしまった。

 慌てて……というほどではないが、それが人形の体に触れる寸前、すっとすり足で回避する。流れる川のような動きをイメージしているが、外からはどう見えることか。


 それはともかく、《冷静な目》を使用するまでもなくふたつの奏血尽羅(そうけつじんら)がよく見えている。

 まだまだ油断はできないが。


 それに、“俺”の攻勢は止まらない。


 攻め疲れというものが存在しないのだ。俺が反撃しないのであれば、“俺”の手番が続くのは必然だろう。

 入れ替わり立ち替わり、真紅の刃が襲いくる。


 俺もただやられっぱなしってわけじゃない。

 使用条件は分からないが、あの分裂する剣に注意を払っているのだ。他にも隠し球があるかもしれないしな。


 だから、手を出さない分、口を出す。


「付け焼き刃じゃ、やっぱ、斬れないんじゃないか?」

「焦るなよ、俺」


 さらに、“俺”が動きを加速させた。


 あっちも様子見のつもりだったのか、明らかにさっきよりも速い。二刀に合わせて《最適化》が終わったということのようだ。


 まるで暴風。


 斜め右、斜め左。左胴、右足。切り上げて脇から肩、『星紗心機』(スターハート)を狙った突き。


 多種多彩。息も吐かせぬ連続攻撃。

 赤い刀身が光を引き、美しい軌道を見せる。


 一方、俺だって呼吸の必要もなければ疲労も感じない。


 そのすべてを、刀で受けることなく回避し続ける。隙があれば、反撃へと移れるように。


 しかし、その隙が見当たらない。


 右から左、左から右。間断なく続く攻撃は、隙を生じぬ無限の輪廻。


 少しずつ少しずつ。

 だが、確実に追い込まれていった。


「意外と厄介だな、二刀流」

「吐かせ」


 俺が追い込まれているのと同じように、追い詰めながら決定だが放てない“俺”も焦れていた。

 それはそうだ。俺だけが一方的に不利ってわけじゃない。


 なおも二刀で絶え間なく続く攻撃を、俺は回避し続ける……が。ファイナさんの状態も心配だ。あんまり長引かせるわけにもいかない。


「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれってな」


 “俺”の左手の攻撃を回避すると、右が来るまでのわずかな時間差を縫って俺は前に出た。刀は振らない。ただ、肩からぶつかっていく。


「無謀な賭けだな、俺ぇ!」

「勝算はあるさッ」


 その俺目がけて、“俺”が右の妖刀を振り下ろした。多少態勢が崩れても関係ない。それは、我ながらほれぼれするような軌道を描き――


「ぐぅっ」


 ――俺の左腕を斬り落とした。ぐるぐると回転して、明後日へと飛んでいく。だが、それに構ってなんかいられない。


 腕の一本ぐらい、修業で何度もなくなってるんだよ!


「強きは脆き。完全なる物は即ち崩壊を待つのみ――《永劫不定(リリト)》」


 同時に俺は『概念能力』(クリファ)を発動させる。

 片腕を斬り落とした右の妖刀が、紫色の靄のような物に包まれる。これで、奏血尽羅(そうけつじんら)が無防備な状態になった。


 まずは一本。


 刀をおおきく振りかぶって強振。憎しみを込めて、妖刀を破壊する。


「分かっていたよ、それは」


 当たり前だ、“俺”は俺なんだから。


 それでも……ッ。


 ――刹那。


「重ね咲け、奏血尽羅(そうけつじんら)


 紫色の靄に包まれた奏血尽羅(そうけつじんら)が消えた。


 消えた? いや違う。妖刀がひとつに戻ったのだ。器用な!


 俺が回避した後、フリーな状態にあった左の妖刀。その赤い刀身の輝きが弥増し俺の首へと迫る。


 この体も、首を落とされたら活動停止――死ぬのか。それとも、【HP】が残っている限りは動けるのか。とても試す気にはなれなかった。


 ファイナさんじゃないんだからな。


「《パーツ――」


 回避の切り札を使おうとして、俺は猛烈に嫌な予感に襲われた。


 これを“俺”が想定していないはずがない。避けられるのは当然で、次の手がある。そうだ。さっきの分裂させる技をなぜ使わなかった。


 でも、使わなければやられるだけ。


 ――詰んだッ。


「兄さん!」


 その瞬間、俺も“俺”も予想外のことが起こった。


 周囲に護衛の鉄球――『ヴァグランツ』を従えた莉桜が、俺たちの間に割って入ったのだ。一本に戻った奏血尽羅(そうけつじんら)は、『ヴァグランツ』が展開した不可視の障壁に阻まれていた。


 想定外の事態に、“俺”が思わずと言った調子で呻き声を上げる。


「莉桜……」

「兄さん以外に、名前で呼ばれる筋合いはありません」


 冷酷で非情で明確な拒絶。


 それでも、俺は“俺”なんだ。莉桜が割り込んできて、完全にいつも通りとはいかない。

 父さんと母さんも名前で呼んで良い範囲に含めてあげなさいと、あとで注意しなきゃな。そう心にメモしながら、俺は莉桜を背後から抱きしめた。


「無茶するなよ」

「その無茶も、たった今、報われました」


 まるで反省していなかった。後悔は、元々してなんかいなかったんだろう。

 仕方がない。

 ブローチを渡す時、一緒にお小言だ。


「強きは脆き。完全なる物は即ち崩壊を待つのみ」


 障壁が解除され、奏血尽羅(そうけつじんら)が虚空を斬り裂く。


 莉桜が作ってくれた間隙。俺が《パーツ分裂》で回避するだろうと信じ切っていた“俺”は、次の行動に移るまで本当に少しだけ時間がかかった。


 だが、それで充分。


「――《永劫不定(リリト)》!」


 もう一度『概念能力』(クリファ)が発動し、赤い刀身の妖刀が紫音の靄のような物に包まれる。大盤振る舞いにもほどがある。【MP】残しといて良かったぜ。


 間髪入れずに、俺は残った腕で刀を振り下ろした。


「《強打》!」


 この時ばかりはファイナさんの教えも修行の成果も忘れる。

 刃筋も、刀の特性も、なにもかも関係ない。


 ただ、この妖刀を。奏血尽羅(そうけつじんら)なんて大層な名前の刀をぶち壊す。


 それだけの人形に俺はなる。


 なにを隠そう、俺は鈍器を使って長いんだよ!


「だあぁっっ!」


 手応えはあった。


 しかし破壊には至らない。靄の向こうで妖刀がヒビだらけになっているのが分かるが、一発じゃ壊れてくれなかった。


 だが、続ければ……きっとッ!


「グオオオオッッ」


 心の奥底から放ったかのような叫び声。

 それは、“俺”の声か。それとも、奏血尽羅(そうけつじんら)のものか。


 分からない。


 分からないが、次に“俺”が取った行動は戦闘に身を置く今の俺ですら、ぽかんと見逃してしまうほど。


「こうなれば、魔物でも、エルフの里でも――」


 なんと、“俺”は脱兎の如く逃げ出したのだ。


「この期に及んで、それはないでござろう?」


 しかし、それを阻む褐色の剣士が一人。


 着物はボロボロで、傷だらけ血だらけほこりだらけ。それでも、しっかりと両足で大地を踏みしめ経っている。


「ファイナさん!」


 俺の声に、ファイナさんはにやりと笑う。


 そして、予め突き立てていた刀の生き残りを手にすると、俺の足を盛大に刈り取った。足払いという意味じゃない。

 両足の膝から下を切り取られ、その場に崩れ落ち地面を抉るように滑っていった。


 ファイナさんは、死んだふりをして……いた? いや、それはない。それは弱者の戦法。ファイナさんが採用するはずがない。

 ということは、ギリギリまで本当に倒れていたんだろう。

 このタイミングで復活するのは、さすがファイナさんって感じだけど。


「勝手ではござるが、もう、消えてもらうでござるよ」

「おのれぇぇ……」


 やはり、“俺”なのか、奏血尽羅(そうけつじんら)なのか分からない呻き声。


 だが、両者に共通するものがある。


 それは、俺を鍛え、妖刀を封じ続けたことによる――ファイナさんへの根源的な恐怖。


 理性ではどうにもならない感情に支配され、“俺”は足を切り離された状態でその瞬間を待つことしかできないでいた。


「紅龍蒼牙――《焔禅一如(えんぜんいちにょ)》」


 焔を纏った一撃。


 それに耐えきれず刀にヒビが入る物の、効果は絶大。


 “俺”は炎にまかれ、爆発に巻き込まれ、一刀で“俺”が消し飛んだ。

 文字通りの意味で。


 爆炎が晴れると、そこには黒い焦げ跡しか残っていない。


 そして、紫色の靄に包まれた奏血尽羅(そうけつじんら)は虚空を飛ぶ。


「マサキ殿、任せたでござるよ!」


 それだけ言うと、ファイナさんは地面に倒れ込んでしまった。


 最後は、俺の仕事だ。


「《連撃》」


 妖刀が落下するのに合わせて、俺は再び渾身の力を込めて刀を打ち付ける。

 残った片腕による連打は、確かな破壊音をもたらした。


「《強打》」


 妖刀の刃と言わず、柄までひび割れが広がる。

 もう一押しだ!


「《強打》!」


 さらなる一撃を受け、妖刀は粉々に砕け散った。


 しかし、まだ終わりではない。


 粉々に砕け――妖刀自体が十、いや数十に分裂したのだ。

 どれが本物か、悟らせないように。あるいは、誰か一振りでも生き延びようとしているかのように。


 だが、まだ誰の血も吸ってはいないのだ。無茶をしているのは確実。


 それを証拠に、この場から飛び去ろうとする。


 悪手だろ、それは!


「自己保存に走ったことが敗因だ!」


 攻撃に出ていれば、万が一の勝機を掴めたかもしれない。

 でも、こいつは――妖刀・奏血尽羅(そうけつじんら)は保身を選んだ。


 その時点で、俺の勝ちは決まっていたんだ。


「我、観念を否定す。真の実在は認識に在り――《唯物礼賛(ナヘマー)》」


 お返し……というわけじゃないが、奏血尽羅(そうけつじんら)たちの直上に、石垣が出現した。それは、この世界にも存在するだろう万有引力の法則により、落下。

 分裂――あるいは増殖――した妖刀たちを、ひとつ残らず踏みつぶす。


 耳をつんざく轟音。


「オオオオオオオッッッッッッ」


 土煙が舞い上がり、妖刀の断末魔が聞こえた。


 やったか!?


 そう思ったのも束の間。石垣が爆発するかのように破壊され、そこから妖刀・奏血尽羅(そうけつじんら)が一振りだけ姿を現した。

 他の妖刀は、押しつぶされたか脱出に力を使い果たしたかしたのだろう。


 宙に浮かんでいるもののふらふらとして、見るからに瀕死の状態。


 けれど、未だ完全破壊には至らない。

 このままじゃ、《永劫不定(リリト)》の持続が……。


 壊せ……ない……のか?


「なら!」


 追い込んではいるんだ。

 後一歩、踏み込んでやる。


 俺は怯懦を振り払い、刀も捨て、『星紗心機』(スターハート)に手を触れた。


「残さず余さず、その身を捧げよ。我が糧となれ――《暴食行動(アドラメレク)》」


 初めて使用する『概念能力』(クリファ)

 だが、スペックは把握している。


 対象は気絶もしくは瀕死の状態でなくてはならない。そして、この『概念能力』(クリファ)を使用した後、炎に包まれ完全に死亡する。


 つまり、瀕死の相手を確実に殺せるってことだ!


 真紅の刀身に、それよりもさらに深い赤の炎が斑に点る。

 それが燎原の火のように広がり――刀身を覆った。


 燃えるはずのない妖刀が炎に包まれ――最後に軽い爆発音を残して消え去った。そう、燃える物がなくなれば火が消えるのは当たり前のこと。


 残ったのは、赤い光の粒。 


 その残滓が、『星紗心機』(スターハート)へと吸い込まれていった。


 静寂。


 もう、なにも起こらない。

 

 終わった……。


 本来疲労を感じない俺も、精神的な疲労とは無縁じゃない。緊張感から解放され、その場にへたり込みそうになる。


「兄さん!?」

「マサキ殿、大丈夫でござるか?」


 え? なんで二人ともそんなに焦ってるの?


 訳が分からず、俺は言葉を返せない。そして、これは最悪の反応だった。


「まさか、マサキ殿まで飲み込まれようとは……」

「兄さん……。莉桜です、私のことが分かりますか?」

「リオ殿、危険にござる。ここは拙者が、責任を持って処分するでござる。なぁに、その後、拙者も腹を切って後を追うでござるよ」


 あ、吸収して逆に乗っ取られたと思われてる?


 気付いた瞬間、俺は一気に蒼冷めた。


 顔色じゃなく、魂が。


「わー。わー。大丈夫です。正気です。だから斬らないで!」


 俺も、腹も。


 慌てて両手――無理だ、片手しかない――を挙げ、降伏……じゃなくて無害をアピール。


「本当にござるか」

「莉桜なら分かってくれるよな?」

「……そうですね。どうやら混じりっけのない兄さんだったようです」


 油みたいな評価だったが、莉桜の目は確かだった。


「リオ殿が申すのであれば、問題あるまい」


 そう言って、ファイナさんが表情を緩めた。


 ファイナさんも、莉桜の見解に全幅の信頼を置いている。

 それはいいことなのだが、謎の信頼性を持つに至った妹の未来はどこに行き着くのか。


 怖い想像を振り払い、俺は、ファイナさんの目を正面から覗き込んだ。


「終わりましたよ、ファイナさん」

「……そうでござるな」


 終わってみればあっけないというか、

 たぶん、あんまり活躍出来なかったのが不満なんだろう。


「本当に世話になり申した。二人には、何度礼を言ったものか分からんでござる」

「いや、まあ、家も畑も結構あれですから……」


 そう言えば、黒い巨人――オークのなれの果てのなれの果て――も“俺’”の《存在解放》で吹っ飛んでいたようだ。

 あいつ唯一の善行だなぁ。


 そう俺たちがまたしても「ありがとう」「とんでもない」の応酬を繰り広げていると、そこに莉桜が割り込んでくる。

 まるで、兄さんとくっつきすぎですと言わんばかりに。


「それで兄さん。吸収した奏血尽羅(そうけつじんら)はどんな塩梅です?」


 塩梅とか言っちゃう、うちの妹かわいいなぁ。


 などという感情はおくびにも出さず、そうするのが正しいという確信とともに、俺は妖刀に命を下した。


「出ろ、『奏血尽羅(そうけつじんら)』」


 俺の指が伸び、赤い刃へと姿を変える。その間、1秒もかかっていない。まあ、実戦で使うんならこのくらいじゃないと使い物にならないだろう。


「それは刀というか、なんというか……。扱えるでござるか?」

「ふむ……」


 それは確かに。

 まあ、妖刀を亡き物にするのが目的であって使えなくても別に良いんだけど……。


 一応確認のため、俺は軽く奏血尽羅(そうけつじんら)を振るった。


 グンッ。


 それと同時に刃から赤い衝撃波が飛び出し、石垣――妖刀を押しつぶした辺り――に着弾。残った石垣を木端微塵に粉砕した。

 もし奏血尽羅(そうけつじんら)の一部が残っていたとしても、今ので全滅だろう。


 結論から言うと、問題はなかった。


「《武器の手》のお陰かな?」

「はい。その補正は考えられます」


 使えるのなら問題なし。実戦での応用は、追々考えていけば良いだろう。


 しかし、奏血尽羅(そうけつじんら)なんて、名前は立派すぎるな。もう、俺に吸収された妖刀の残滓みたいな物なんだし。


「お前は、これからただの『刃羅(じんら)』だ」


 そう宣言すると、赤い刃がわずかに震えた気がした。まるで、抗議をするかのように。


 しかし、そんな反抗は許さない。


 そもそも、なんだよ血を奏でるって。わけが分かんねえよ。『羅』だって意味不明だけど、まあ、さすがに『刃』だけだと固有名詞とは言えないから許してやろう。


 とにかく。


 俺の物なんだからな。もう、人様に迷惑はかけさせないぞ。


 改めてそう告げると、『刃羅(じんら)』の震えは収まった。

 諦めたかのようにではない。俺に服従したかのようにだ。

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