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人形転生-カカシから始まる進化の物語-  作者: 藤崎
第二章 大森林のサムライ
39/68

17.そして、彼は答えを見つける(後)

「間に合った……か」


 森を全速力で駆け抜け――今ほど、疲労しない人形の体で良かったと思ったことはない――エルフの里にたどり着くと、そこは既に戦場になっていた。


 だが、全体がというわけじゃない。里の中を走りながら、周囲を観察するが、見た限り死者は出ていないようだ。


 目指すのは、小高い丘の上にある館。


 そこを、さっきの巨人と似た。でも、大きさは3メートルほどと小さな巨人が10体ほどもわらわらと取り囲んでいる。

 恐らく、里のエルフたちは、早いタイミングでそこに避難したのだろう。


 それは簡易的な城というべき代物だった。空堀と塀に囲まれ、今も巨人たちの侵攻を防いでいる。日本でも、昔は寺が簡易的な砦の役割を果たしていた時期がある。

 危険と隣り合わせのエルフの里となれば、領主だか里長の館が同じ役割を果たしても不思議じゃない。日本人が地震慣れしているぐらい、魔物の襲撃にも慣れていることだろうし。


 半分願望混じりの推測だったが、状況からして正しくもあるはず。


 だって、あのエルフたちが、やられっぱなしでいるはずがない。


 掘と壁で小さな巨人たちを阻みながら、内部からは号令とともに矢が雨のように降り注いでいる。そう言えば、莉桜がエルフは弓の名手でもあるって言ってたじゃないか。

 さらに、煮えたぎったお湯や油のような液体も浴びせかけているようだ。おお、城攻めの時の定番だ。異世界なので、魔物によく効く聖水みたいなのを使ってるのかもしれないが。

 こう、今までの付き合いを見ると無謀だろうが吶喊しそうなイメージがあったけれど、もっと合理的に戦っている。ガチだ。


 とにかく、よく守っているようだった。


 それに、一番小さな巨人たちが集まっている正門前では、誰かが表に出てその侵攻を押しとどめているのも大きい。

 

 誰か……っていうか、クルファントさんじゃないか!


 血まみれで、刀も曲がっていた。なんて無茶をと、自分のことは棚に上げて言いそうになる。でも、クルファントさんの奮闘で戦線が維持できていたのも確かなんだろう。

 でなければ、あんな無茶をするはずがない。


 俺は坂道を一気に駆け上がり、行き掛けの駄賃にと小さな巨人のうなじを背後から斬り裂き、魔石を吸収する。

 さっきの黒い巨人に比べたら、なんてことはない。


 これで、【MP】は42。14レベルにレベルアップしたが、気にしている場合じゃない。


「あとは、俺が引き受けます!」

「何者!? 新手かッ!」


 絶望に染まるクルファントさんの相貌。

 大げさだな、俺だよ、俺と……言いかけて、気づく。


 今の俺、マネキンじゃないか。しかも、レベルアップ直後で光ってた。莉桜が言いたかったのって、もしかしてこのことかーー?


 そりゃ、新手の魔物の襲撃かって誤解されるわ。でも、今さら《外見変更》を使うとますますややこしくなるし、長々説明している暇もない。


 だから、無言で小型巨人を斬り裂くことにした。


「WOoooooooNnnnnnnnnnn!」


 そう決意した俺よりも先に、小型の巨人が祈るように両手を組んで、ハンマーのように振り下ろしてくる。

 それを刃で切り払おうとしたが……遅すぎて待っていられなかった。


 とんっと、前へ踏み込み、小型巨人の腕をかいくぐる。


 そして刀を背負った状態で軽くジャンプし、胴の辺りで振り抜いた。


 刃筋を立てる意識は、もう、ほとんどない。ただ、積み重ねた修練が自然と最適な経路で刃を振るわせる。

 そこには、俺という個すら必要なかった。


「???」


 刃が通り過ぎた後、しばらく小型巨人はなにが起こったのか分からないと動きを停止させる。

 しかし、可愛らしく――これがキモカワイイというミームなのかもしれない――小首を傾げてられたのは、ほんの数秒。


「Aaaaaaa?」


 魔石を吸収したことで、俺は小型魔人を倒したことを知った。これで、【MP】は45だ。

 その頃には、俺は次の小型巨人へと移動している。


 しかし、ちょっと目立ちすぎたようだった。


「あの身のこなし、もしや……」


 ……あれ? ばれた?


 クルファントさんのつぶやきを耳にし、ちょっと焦る。


 だけど、当たり前だが、敵は待ってくれなかった。


「WOooooo!」

「WOooooo!」

「WOooooo!」


 小型巨人たちが一斉に咆哮をあげる。まさに、耳をつんざく大音声。

 それは威嚇ではなく合図だったようだ。


 またしても、巨人たちがコールタールのように液状化していく。そして、巨人たちが混じり合い、下手なCGみたいにひとつになろうとしていた。館の周囲の掘に流れ込み黒い泥が埋め尽くす。


 まだ、辛うじてそれぞれの頭部は残っていたが、それも時間の問題だろう。


 やっぱり、黒い巨人はゼラチナス・キューブみたいに合体してたのか。あの時と違って、魔石が個別になっていたのはよく分からないが……。


 そんなことはどうでもいいし、合体を見逃すつもりもない。


 俺はためらうことなく、掘の中に飛び込んだ。《環境適応》の効果により足の裏が変化し、コールタール状の肉体の上を……うわぁ、肉の上を走ってるのかよ。


 ええい、斬るのも走るのも変わらない!


 まずは、手近な頭に走りながら斬りつける。


「《強打》」


 青白い光が刃を包み、掘から突き出た首筋に食い込んだ。

 そして、そのまま抵抗を受けることなく刃は反対側へ。さすがに首がすぽーんと飛ぶなんてことはないが、ずずっと肉のコールタールへと落下し、魔石が吸収される。


 据え物斬りと同じだ。


 巻藁を斬ったとき、ファイナさんから「マサキ殿は、鈍器を使って長いでござるか?」なんて言われたのを思い出す。あのときはなんて圧迫面接だと思ったけど、今にしてみると的確な表現だったな。


 ……なんてことを思いつつ、残りの首を落としに行く。


 小型巨人たちは合体中でほとんど手出しできず。できたとしても、里の人たちが矢や油でアシストしてくれて俺へは抵抗が及ばない。さすがエルフ。


 そのアシストもあって、確実に倒すために《強打》は使ったものの、すべての首を落としきるまで然程時間はかからなかった。


 魔石もきっちり吸収し、差し引き合計で【MP】は61。またレベルアップし、俺の全身が光り出す。

 光るクビキリ人形のフォークロアが生まれそうな勢いだ。


「助かった」

「…………」


 そこに、館の門の前からクルファントさんが声をかけてきた。


 ああ……。どう答えたもんかな。


「こちらは、もう大丈夫だ。死者も出ていない!」


 ありがとう、戻って良いと、言外に告げる。


 俺は頭を下げ、なにも言わずにその場から立ち去った。


 こんな姿でも、受け入れてくれる人がいた。

 その事実に、少しだけ暖かい気持ちになりながら。





「兄さん!」

「戻ったでござるか」

「大丈夫です。みんな無事ですよ」


 莉桜とファイナさんが待つ庵に戻ると、二人が出迎えてくれた。

 俺を待っていたというのもあるだろうし、あの黒い巨人の始末をどうしようか考えていたというのもあるのだろう。


 いやほんと、どうしようかね。ダンジョンみたいに、消えてくれると楽なんだけど……。


「しかし、案の定リオ殿の心配は的中したようでござるな」


 俺の姿を見て、ファイナさんがにやりと微笑む。

 どうやら、発作のような症状はなくなったみたいだ。


 それに安心し、思わず軽口がついて出る。


「いやいや。里には被害がなくて、こっそり見て帰ってきただけかもしれないじゃないですか」

「兄さん、レベルアップしている時点で、半ばバレていますよ」


 うっ。

 言われてみれば、俺の魔石は、6個目まで真っ黒に埋まっている。


 それでもまだ、エルフの里とは別件で戦闘になったと抗弁もできるけど……それならそうと最初から言えばいいだけのこと。

 この二人を相手に口先で勝負しようなんて、土台無理な話だったわけだ。


「まあ、クルファントさんが察してくれて、騒ぎにはなりませんでしたけど」

「その様子からすると、里の被害は大したことでないようでござるな」

「たぶん、負傷者は出たと思いますが……。死者はなかったようです」

「そうでござるか」


 ほっとしたように、ファイナさんが息を吐く。


「ありがたく存ずる」


 そして、深々と頭を下げた。


 いやいやいやいや。そんなにお礼を言われるようなことをしていない。でも、お礼を受け取らないってのもあれだ。


「あー。まあ、修業のお礼ってことで、お互い様ですよ。それより莉桜、『鳴鏡』でステータスを確認しよう」

「分かりました、兄さん」


 莉桜も、俺の微妙な気持ちを感じていたんだろう。

 庵へ走って『鳴鏡』を取りに行き、胸に抱いてぱたぱたと戻ってきた。


●戦闘値

【命中】114(↑11)、【回避】115(↑9)、【魔導】69(↑4)、【抗魔】77(↑7)、【先制】113(↑15)

【攻撃】240(↑36)、【物理防御】-(100/↑15)、【魔法防御】137(↑24)、【HP】-(1450/↑450)


 ううむ。【命中】と【回避】が良い勝負してる。

 それと、魔法が使えないまま【魔導】がちょこちょこと上がり続けているんだが、そのうち役に立つのだろうか?


 次に特技に目を走らせる。

 そういえば、今までの流れだと『概念能力』(クリファ)


・《最適化》

取得レベル:14

 代 償 :2MP

 効 果 :周囲の環境に合わせ、自分自身の形をリアルタイムに変化させていく特技。

      あなたが行うあらゆる行動の成功率を上昇させる。


《増殖天授(バアル)

取得レベル:15

代 償 :1~10MP

効 果 :生命の種を創り出し、子を作る『概念能力』。

     対象に触れ、魔素を注ぎ込むことで子を授けることができる。

     効果は代償により異なるが、《増殖天授(バアル)》自体、月に進化段階回しか使用できない。

     1MPを消費した場合は、生命の種を母体に埋め込まなければならない。

     母体と同じ種族の子供が生まれる。妊娠期間なども、種族の標準に準じる。

     5MPを消費した場合は、そのときの使用者の進化階梯と同じ外見の子供が生まれる。

     能力値は、使用者の三分の一以下で、当然『星沙心機』も有さない。

     これは、数分で誕生し、同じ時間経過すると消滅する。

     10MPを消費した場合、使用者と同じ能力を持つクローンが生まれる。

     特殊な分身ともいえるだろうが、『星沙心機』を用いて魔石の吸収はできない。

     これは即座に誕生し、その後、蓄えた魔素がなくなると消滅する。


・《パーツ分裂》

取得レベル:16

 代 償 :5MP

 効 果 :あなたを構成するパーツを一時的に分裂させ、攻撃を回避する特技。

      一回の攻撃を完全に回避する。


「これは……」


 俺の目は、《増殖天授(バアル)》に釘付けだった。

 行ける。これなら、行けるんじゃないか?


「莉桜」


 意見を求めて、俺は妹の目を覗き込んだ。


「分かりました、兄さんがそこまで望むのであれば……」


 リスクがあることは承知。

 それでも俺の意を汲んで、莉桜はうなずいてくれた。


 本気の瞳だった。


「私は、兄さんの子を産みます」

「は……?」

「そして、立派に育て上げます」

「あ、うん……」


 違う、違う。そうじゃない。そうじゃない。


「はははははは。使用回数も余っているようでござるし、拙者も立候補するでござるかな」


 そういって、また、「うわっはっは」と豪快に笑う。


 まあ、ファイナさんが元気になってくれたんなら、別に良いけど……。


 どうやって、莉桜の誤解を解こうかな、これ。

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