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人形転生-カカシから始まる進化の物語-  作者: 藤崎
第一章 カカシの冒険
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エピローグ:そして、彼は大地に立つ

2話更新して第一章終了と言ったな。

あれは、嘘だ。


えー。長くなりすぎたので分割したため、本日3話更新となっております。

更新チェックから来られた場合は、二話前からお読みください。

「おめでとうさん」

「心……ちゃん」


 ええと……。いや、大丈夫。自爆はしてない。それは間違いない。


 じゃあ、どうして、俺はまた白い空間に?


「主様、初進化おめでとうさん」

「……進化? レベルアップじゃなくて?」

「そうや。たった一日で全部の魔石に魔素(マナ)をため込んでしまうやなんて。さっすが、心が見込んだ主様やわぁ」


 ころころと無邪気に笑う心ちゃんから、自分の左胸に視線を移す。しかし、そこに『星紗心機』(スターハート)は存在していなかった。

 そうか。ここだと、俺は元の姿だったっけ。


 元って言うか、これが俺なんだけどな。


 ……整理しよう。


 俺は、クラウド・ホエールダンジョンのボスを倒したはず。これは、間違いない。そして、その魔素(マナ)ってのを吸収して……。


 ああ、そうか。レベルアップしたのか。上限まで。


 実際には見ていないが、『星紗心機』(スターハート)の周囲に設置された魔石が、十個すべて黒くなっている光景を思い浮かべる。


 だから、ここに呼ばれたわけだ。


 外がどうなっているのかは分からないけど、危険な状況なら、莉桜だけでなく俺も危ないわけで。心ちゃんの目的からして、恐らく大丈夫なのだろう。


「それで、進化って具体的にはどうなるんだ?」

「もう、いらちやわ」


 そう言いつつも、笑顔で話を先に進める心ちゃん。

 状況が状況だっただけに、俺が焦っていることも分かっているようだ。


「主様の前には、ふたつの道が拓かれたんよ」

「ええとつまり、カカシから次の段階に進むに当たって、方向性を選べって?」

「聡いお人」


 以前も受けた賛辞で、心ちゃんが愉快そうに俺を持ち上げる。


「でも、厳密には一寸(ちょっと)違うてますわ」

「具体的にいこう」

「カカシのまま強うなるか、カカシから別の姿に変化するか。その二者択一やさかい」


 カカシから次の段階というか、俺、自己進化人形アンドレアスとして、どう進むかという問題か。


「ちなみに、カカシとはもうひとつの別の姿って?」

「…………」


 心ちゃんは、愛らしい笑顔を浮かべたままなにも言わない。

 不都合があるのか、その選択も含めて、俺の決断を楽しもうというのか。


 後者だな。圧倒的に後者。


 どうしたものか……。


 情報が少ないので、カカシのままでも良いような気がしてきた。いろいろと不便な点はあるけど、正直、慣れてきたというのもあるし。


 抱いて眠るぐらいだから、莉桜も気に入っているはず。


「それは、どんな姿でも、そうすると思うえ」

「…………」


 黙殺。


「今のところは、カカシのままでも、問題ないと言えばないんだよなぁ……」


 リスクを負って姿を変える必要があるかというと、微妙なところではある。急いては事をし損じるとなっては、目も当てられない。


 そこまで考え――


「待て、それもまずいか」


 ――それが、あまりにも近視眼的な考えだと言うことに気づく。


 中核(コア)であるホエールドラゴンは倒した。つまり、ダンジョンから解放されたわけだ。

 そうなると、この異世界で、どこかの街へ行くこともあるだろう。


 異世界だけにどんな常識なのかは分からないが、まさか、カカシが一般的な姿というはずはあるまい。


 ……ないよな?


 うん。ないはずだ。


 このままでは、いけない。変な騒ぎになってしまう。


 となると、もうひとつの道。別の姿へ進化というのが、妥当な判断に思われるのだが……。


 そっちもそっちで、どんな姿になるのか分からないという情報不足が問題になる。


 人形なぁ。


 さすがに、着せ替え人形とかこけしみたいなのは、進化とは言えないよな? 見た目はなんとか人間っぽくなるよな? あんだけ苦労して、民芸品になったら泣くに泣けない。


 可能なら、やっぱり、足は二本欲しい。


 いや、卑屈すぎる。最低でも、蝋人形ぐらいのクオリティは……。


 というかだ。


「それ、今すぐ選ばなくちゃ駄目なもの?」


 俺の疑問に、心ちゃんがいたずらっ子の笑顔で答える。


「あとで、ええよ」


 くっ。分かって黙ってたな。


「……それは良かった」

「やから、心を満足させてな」


 飽きさせないから、お願い事までレベルアップしていた。


 まあ、莉桜もそうだけど、心ちゃんとも一蓮托生だ。まずは、先延ばしできたと、サービスに感謝しよう。


「ああ。できる限り努力するよ」

「ほな。あんじょう、頑張ってな」


 コケティッシュな笑顔で激励され、またしても、俺の意識が瞬間的に断絶する。


「おっ、おおおおーーわわわわわわーーーっっ」


 現実に戻った瞬間、俺は身も世もなく悲鳴を上げていた。


 だって、仕方ない。地面へ落下する。その真っ最中だったんだから。


 空気自身が壁になって、カカシの体がみしみしと揺れる。落下しているのに、上へ持ち上げられているような不思議な感覚。


 眼下は地平線の向こうまで、見渡す限り森だ。木しかない。異世界かどうか判断つかねえな、これ。


「兄さん、やりました。クラウド・ホエールが退散していきますよ」

「いや、ごめん。見えない」


 当たり前のように隣にいた莉桜が、案外平気そうな態度で上を指さす。しかし、この体では、そこまで首が上がらないのだ。


「ダンジョンの中核(コア)は破壊しましたが、クラウド・ホエール自身を倒すには至りませんでした。しかし、ダメージは甚大だったのでしょう。体の下半分がなくなって、どこかへ逃げ去っています」

「そっか」


 それは良かった。


 で、俺たちはどうなるのかな!?


 そんな、俺の不安が伝わったのだろう。莉桜が俺を背後から抱きしめ、ささやいた。


「兄さん、どこに落ちたいですか?」

「安全な場所! 安全な場所に!」

「もう、堅実なんですから。そこは、平和を祈り流れ星になろうぐらいのことは、言って欲しいです」


 ですが、二人の将来のためには、堅実的なのも良いことかもしれませんね。


 そう言って、妹は笑った。

 見えないけれど、確信している。


 もの凄く、なにを言っても莉桜を喜ばせる感があった。なんだよそれ、俺は妹を喜ばせるだけの兄かよ。最高か。


 不意に、体が上に引っ張られた。


 ブレーキが、かかった?


 少ない可動域を全開にして背後を見ようとすると、莉桜が体を乗り出して俺と視線を合わせてきた。


 キスでもするみたいに。


「『ヴァグランツ』で制動をかけました。導器魔法(デバイス・マジック)の《フェザー・フォール》という呪文と同じ状態になっています」

「大丈夫……で、良いんだよな?」

「ええ。ゆっくり落ちる状態になっていますので」


 それは良かった。

 ホエールドラゴンや『異世界タワー』からぽんぽん飛び下りていた俺だが、戦闘中のテンションがおかしかっただけ。

 心ちゃんや莉桜と言葉を交わし、正気に戻った今は、とてもあんなことできない。


 普通に死ぬしな。


「ただ……」


 え? なにかあるの?


「《フェザー・フォール》は、落下がゆっくりになるだけなのです」

「……なにか不都合が?」

「とある冒険者が落とし穴の罠にはまった際の話なのですが」


 冒険者……遺跡発掘する考古学者かなにかか?


「仲間の魔術師が咄嗟に《フェザー・フォール》の呪文を使用したところ……」

「助かったんじゃないのか?」

「実は落とし穴には槍衾の罠が仕掛けられていて、ゆっくり刺さるという悲劇的な事件があったそうです」


 怖い怖い怖い。

 拷問かよ。


「まあ、今回は大丈夫です。ちゃんと、森の中の開けている一角に軌道を修正してから使いましたから」

「まったく。俺を怖がらせても、誰も得しないぞ」

「まさか、私得です」


 私得? 日本語が乱れてるな。


 そんな風に頭の悪い老人みたいなことを考えている間にも、地面は確実に近づいてくる。


 莉桜が言う通り、森の中の開けた場所へと落ちていく。


 そう。


 森の中にも住民がいるんだろう。誰かが開墾したらしい、畑に向かって。


「って、このままだと、畑に被害が」


 地面に人型の穴が開きかねない。マンガかよ。


 慌てて、体の向きを縦に変える。


「きゃっ」


 可愛らしい悲鳴を上げて、背中にいた莉桜がさらに強く抱きついてくるが、それを気にする余裕も、咎める暇もない。


 空気の抵抗が少ない形になったため、そのまま減速せずに落下。


「着地するぞッ」


 辺りに、轟音が鳴り響き、土煙がもうもうと立ちこめる。


 周囲の状況は分からない。


 だが、落下の衝撃で全身が痺れた以外、特に痛みや不調は感じなかった。


 大丈夫……かな?


「兄さんとスカイダイビングしてしまいました」


 余裕のある莉桜の声。

 ……まあ、無事ならそれで良い。


 一息ついた、その時。 


「わ、我が家の畑が凄いことになっているでござるよ!?」


 恐らく――というか、確実に――この畑の所有者なのだろう。ちょっと、おかしな語尾の女性の声が聞こえてきた。


 なんと謝ったものかな……。


 ダンジョンから脱出しても、問題は山積だ。


 けれど。


 とにかく、俺は異世界の大地に立った。


 ――カカシと、して。

これにて、第一章終了です。

感想・評価などいただけましたら幸いです。


再開時期は未定ですが、活動報告やツイッター(https://twitter.com/fujisaki_Lv99)でお知らせします。

もちろん、ブックマークに追加していただくのもよろしいかと思います(笑)。

それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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