黒の章 出会い
だれも動かなかった。
いや、動けなかった。
真夜中の森の中に突然現れた怪しい女。
細身の男の剣は未だに突きつけられたままだが、全員の意識は既に女の集中している。
いや違う。目が離せない。
威圧感。
発言と噛み合ない笑顔に合わさって放たれる威圧感。
城でみた剣の勇者アーク・ラッドリア、彼の放っていた圧と同等。
いや、この女から感じる不気味さの方が怖い。
「黙ってないで何か言えないのか?迷惑をかけたらごめんなさいだろ?」
口元に笑みを浮かべたまま女は語る。
「そこの男を殺すんだろ?早くしたらどうだ。その次に貴様らも殺してやるよ。近頃、殺してなかったしな。いい声を聞かせてくれ。」
4人の顔が青ざめている。目の前に居る細男の全身から冷や汗が溢れてるのがわかる。
「殺さないのか?」
その時、女の一番近くに居たネルが動いた。
手に持っていた剣に魔法の炎を灯し女に切り掛かる。
女が剣で受け止め嫌な金属音が響き渡る。
「ん?もう死にたいのか?」
次の瞬間、男は股下から頭にかけて綺麗に両断されていた。
「ネル!?」
カツが叫びながら雷の魔法を放つが雷は黒い壁に遮られ女に届かない。
「次は嬲るか。」
すると女はカツに切り掛かる。
まずは右耳を落とし、次に指。
魔法を放とうとした右手から指だけを綺麗に切り落とし、そのまま流れるように左足を切断する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ。」
男の叫び声が森に響き渡る。
倒れそうになるカツの腹を女が殴りつけたかと思うとその手は男の腹を突き破った。
そのまま引き抜かれた手
には男の内蔵が握られていた。
「顔は不細工なくせに腹の中は綺麗だな。」
真っ赤な内蔵を握りつぶしながら女は微笑む。
「黒の歌姫・・・なぜここにいる?加護無しの同類を助けにでもきたのか?」
「加護無し?その男、加護無しなのか?ははは。可哀想に加護がなく、おまけに殺されそうになっていたのか?まさか加護無しが原因か?ほんとうにお前らは馬鹿だな。」
「貴様のような狂ったものを女神は許しはせんのだ。その種になりうるものを排除するのは当然だろう。」
『私が狂ってるね。まあ、そうだろう。でも、お前らも狂ってるだろ。狂ってるが故に理解はできんのだろうが。」
「ザク、2人でかかるぞ。」
「了解、マイク。」
細身の男はマイク、髭顔の男はザクと言う名前のようだ。
(自分にいってた名前は偽名か。)
それよりも、自分からは完全に注意は離れてる。
この隙に逃げるべきか。
でも、2対1の状況で逃げていいものか。
彼女なら心配ない気がするけどこの2人もかなりの手だれのはずだ。
考えているうちに2人が動き出す。
風と氷の魔法をそれぞれ放ち合わせ女を狙い撃つ。
かなり大規模な攻撃魔法だ。女の周囲全体半径10m超の範囲を氷の槍と風の刃が駆け巡る。
が、その攻撃は女の剣の一振りで薙ぎ払われた。
女の振りかざした剣から放たれた光線。魔力を帯びた一閃が魔法を消し飛ばす。
「グラビティフォール!ザク!やれ。」
間を開けずに魔法が繰り出される。
すると女の周辺の景色が一瞬歪む。
重力魔法。
「死ね魔女め。フレイムタン!」
突如現れた巨大な炎の剣が上空から女に振り落とされる。
女が動く様子はない。動けないのか?
次の瞬間、炎は霧散し、ザクの体は地面から現れた無数の針の様な黒い刃に貫かれている。
「化け物め。ここはひとまず・・・」
「逃げれんぞ?」
何かの魔法を使おうとしていたのだろうが、マイクの首が地面に落ちていた。
返り血で彼女の全身は赤く染まっていた。
着ていた服は真っ赤に染まり、辺りに血の匂いがむせ死体も転がっている。
明るくないのは幸いだったのかも知れない。
それでも、月明かりで見える彼女は綺麗だった。
その姿から目を離せなかった。