白の章 光の勇者2
家に戻るとフェイは疲れ果て倒れ込む。
「それで、お前さん達はどこかへいく所なのか?」
ジルが訪ねる。
どう答えたらいいものか少し考える。
イシュタルトのことを考えると正体を言うのに迷いが生じる。
が、恩人に嘘をつくのも難しい。
なにより先のことが何一つ決まりそうもない現状だ。
正直に自分が異世界から召喚されたことを伝え、帰る方法を探していることを話す。
『兄ちゃん異世界から来たのか?そういえば、勇者の他にも一人いたって話だったな。あれが兄ちゃんか。」
「はい。自分は巻き込まれただけなので何も勇者の力などは持ってないんですが」
「帰る方法は何か情報は見つかってないんですか?」
レナが心配そうに訪ねる。
「今の所はなにも。一つだけ分かってるのは魔王を倒せば帰れるみたいです」
もしも、自分が倒せばだが。
フェイを除く、皆が顔を見合わせる。
『レナ次第ってことかい」
ファイファが不満そうに呟く。
「なんでもかんでもレナ任せだね。ああ、すまないね。せめてるわけじゃないんだよ。ただね、勇者の加護なんて持って生まれたばっかりに。私達みたいな戦闘狂だったら喜ぶとこだけどさ・・・」
レナが笑顔で微笑む。
「じゃあ、私が頑張ればみんな解決するわけだ。こんな偶然もあるんだね。知ってる人の為なら私も頑張れるかも」
話が勝手に進んでいく。
そうだ、レナは勇者なのだ。
いずれ魔王を倒す為に戦いに赴く。
「レナは魔王t戦うつもりなの?勇者の加護があるっていっても勇者は他に8人もいるでしょ?」
ファイファがため息をつく。
「そうできたらね。私達も止めれるんだけど。このこが一番強いのさ。光の勇者の加護。勇者は光の勇者のために戦うべし、って言われるぐらいで、更に、この子はそれだけの力があるからね」
哀しそうな表情でファイファが語る。
「自分の力でだれかが助かるなら私はうれしいよ。それに自分で決めたから。お姉ちゃんのためにも戦うって」
お姉ちゃん?
姉がいるのか?
薄紫色の瞳をみてクロの言葉を思い出す。
「姉がいるの?」
レナがうれしそうな顔をしている。
「うん。最後にあったのは6歳のときで10年も会ってないけど。とってもやさしいお姉ちゃんだった」
(レナがクロの妹なのだろうか?そんな偶然があるのか?)
だけど、レナの姿は髪を黒く染めたときのクロと瓜二つに見える。
フェイはどう思っているのだろうか。
フェイを見るとレナの膝の上で眠っていた。
首に下げたペンダントを手でいじる。
「おねえちゃんはどこに?」
「わからないんだ。私が6歳の時に奉公に出て、その後、奉公先が変わったらしくて見つからなかったんだ。」
(奉公か。なら違うか。。。いや、娼館に売られたことを幼い妹に言うだろうか?嘘を着いていたなら見つからないようにしただろう。)
「どこにいるかわからないけど、お姉ちゃんが平和に生きていける世界を守る為に私は戦いたいと思ってる。そこに、シンが帰る為も付け加えたげるね」
少女が笑顔で話す。
それ以上の詮索を思いとどまる。
決まったわけではない。
ただ、確かめるのが怖い。
ドアが急いで開かれる。
「レナ様、いらっしゃいますか?」
赤い髪をした鎧を着込んだ女性が駆け込んでくる。
「魔物がでました。お手伝いいただけますか?」
レナはゆっくりとフェイをベッドへ連れてゆき、剣を取る。
「行きましょう」
師匠達も立ち上がり後に続く、
「自分も着いていってもいいですか?」
レナが強いのは想像ができる。
「まあ、この面子なら心配ないだろ。多少は動けるんだろう?剣を持ってこいよ」
自分と勇者の距離、魔王との距離を見てみたいとも思った。
だが、若い少女が、もしかしたら、自分が探すべきだったかも知れない少女が戦いに行く。
待っているのは居心地が悪かった。
クロの残した剣を握りしめ後に続く。
ー
馬車に揺られ村を出る。
向かう先の山では爆発が起こり木が燃え盛っていた。
「恐らく狙いは勇者様です。魔物の群れを率いている魔族がいます。手強そうです」
呼びにきた兵が説明する。
現場には兵士達が数10名待機していた。
足止めに残っていた兵士達は勇者の滞在する村を守る為に選ばれた精鋭のようだ。
誰一人欠けることなく魔物達の足止めに成功していた。
「みなさん、下がってください。」
「レナ様!」
レナがみなの前に進み出る。
師匠達も見ているだけのようだ。
敵の数は多い魔物が30程とそれを率いている鎧をきた大柄な魔族が馬型の魔物に股がっている。
力強く一歩前に踏み込むと魔物の群れへもの凄い勢いで飛び込む。
振り回された大剣が一振りで前方にいた魔物を一掃する。
その動きは止まらず剣が振り回されるたびに魔物の体が切り裂かれ宙に舞う。
数分もしないうちにあれほどいた魔物の群れは殲滅される。
「後はあなただけね」
剣を鎧の魔物向ける。
馬の魔物がレナへと駆ける。
鎧の魔物が電撃を纏った槍斧で地面を抉りながらレナを斬る、が、レナの大剣とぶつかり合った槍斧が砕け散る。
驚き距離を取るが魔法の追撃が魔族を捕らえる。
レナから放たれた光の槍が鎧の魔族と馬の魔族を貫くと光が溢れ敵を飲み込む。
跡形もなく敵は消滅していた。
圧倒的な力で戦闘は一瞬にして終わった。
(これが勇者か。。。)
自分とはかけ離れた力。
自分は見ていることしかできないと悟り、絶望する。
無理難題を投げかけた女神への怒りが渦巻いていた。
(レナはああ言ってたし、黙って、大人しく勇者達の戦いが終わるのを待つべきなのかな。、、レナなら事情を話せば魔王のトドメも譲ってくれそうだし、でも、、)
戦いに勝利した少女の表情は寂しげだった。
それが気がかりだった。
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