黒の章 異世界
異世界を実感したのはいつだったか。
現代とは違う町並み、人々、魔法などいくつかあるがどれが一番と聞かれたらこの瞬間だろう。
目の前に鳥がいる。
大きな鳥だ。
大きさは自分と同じくらい。
見たことのある容姿だ。
日本の即席麺の元祖と呼ばれるあのラーメンのマスコットキャラにそっくりだ。
「これって鳥ですよね?」
あまりのファンシーさに確かめてしまう。
「これっていうな。」
答えたのはクロではなく鳥だった。
鳥がしゃべってる!さすが異世界。
「しゃべれるの?」
「しゃべるくらいできるに決まってんだろ。もう5歳だぞ。ねえクロ、こいつなんなの?また、裸でうるさいことするの?」
5歳のくせに流暢にしゃべる。
「拾ったんだ。食うなよフェイ。」
フェイというらしい。黄色の羽毛にまるまるとした飛べそうもない体。
ヒヨコちゃんって呼びたい。
「信です。よろしく。」
「ふーん、フェイだ。ねえ、何か甘いもの持ってる?」
「甘いもの?えーと、あめ玉ならあるけど。」
城で貰っていたあめ玉を鞄から取り出す。
「ねえ、頂戴頂戴。クロは有名だから街に入れないからさ。めったに甘いものは食べれないんだ。」
差し出された手、というか羽にあめ玉を乗せると悦んで口の中に放り込む。
「お前いいやつだな。友達になってやる。」
座り込むと一段と丸くなる。
気持良さそうだ。
そのまま首を身体の中に押し込み黄色い大きな羽毛ボールがそこにあった。
そこにクロが裸で座り込む。血に濡れた服はいつの間にか脱ぎ捨てている。
「さて、ところで女神の教会へは具体的に何をしに行くんだ?」
体に付いた血をぬれた布で拭いながらクロが言う。裸で。
「あの、服着てくださいよ。せめて隠れてしてください。」
半分諦めながら頼む。
「脱がなきゃふけないだろう。
貴様の体のことは貴様の問題だろうが、どうして私が隠れなきゃいけない。」
「はー。えーと、自分は神託の巫女にあって女神となんとか連絡を取れないか頼みに行こうとしてました。ほかに元の世界に戻る方法に関する情報を訪ねに。とはいえ、王国から暗殺されそうになったとなると紹介状が使い物になるかわかりませんが。」
「なるほどな。まあ、なんとかなるんじゃないか?神託の巫女も殺したい所だがお前の用事が終わるまで待ってやってもいいぞ。」
ぶっそうなことを言う。
「クロさんは何をしに女神の教会に行くんですか?」
「私か?殺したいんだ。女神の教会の神託の巫女と白の司祭というのが居てな。女神との結びつきが他よりも強く過去にはその身体に憑依したこともあるらしい。うまくいけば憑依した女神を殺したりも出来るかも知れんしな。何度か狙っているんだが意外と敵も手強くてな。貴様がいればなにかチャンスがあるかもしれんし、再チャレンジだ。」
思考が理解できない。
「えと、クロさんは女神が嫌いなんですか?」
「貴様はむかつかんのか?私は殺したい。お前なら理解すると思ったんだがな。」
正直分からないでもない。実際つい先ほど加護がないという理由で殺されそうになったのだ。
加護は女神から与えられるもの。
なぜ自分にはくれなかったのか。
「分からないでもないんですけど、クロさんも加護で苦労したんですか?」
微笑みながら彼女は言う、
「苦労?苦労どころか一度殺されたよ私は。まあ、それは私の自業自得の所もあるんだが。
まあ、基をたどれば女神のクソがこの世界を作ってるんだ。殺せるなら殺したいさ。」
瞳の色が一瞬、紅くなった気がした。
もう一度見直すといつもの薄い紫色の目だ。
(気のせいか。)
「クロはねーとーっても苦労したんだよ。ってお母さんが言ってた。口は悪いけど意外とやさしいのに人間はクロを見るとすぐ攻撃してくるしね。」
丸まった羽毛から首をひょこっと出したフェイが手に持った残りのあめ玉を口に放り投げる。
そのうちの一つをクロが奪い口に含む。
「あー僕が貰ったのに。」
「うるさい。ガキはさっさと寝ろ。」
というか、この人ほんとに口悪いな。
まあ、色々あったんだろうけど問題は本当にこの人と一緒に行ってもいいのだろうか?
要はアーノルドにある女神の教会の本部へ戦争を仕掛けに行くということだ。
それに加担すれば本当に犯罪者だ。
「あの、その戦いには自分も参加するのでしょうか?」
恐る恐る確認をする。
「必要ない。足手まといはいらん。ただ、教会に行くまで同行してほしいだけだ。私は少し有名すぎてな。目が不自由で話ができない私の巡礼の旅に付き合ってるとでも言えば教会の近くまで私でもクロすんなりいけるだろう。そこまで協力してくれれば後は好きにしろ。ただ、神託の巫女と話がしたいなら私についてくれば殺す前なら話せると思うがそこは自分で選べ。」
ふむ、つまりクロ一人でアーノルドへ行けばすぐに見つかり教会までたどり着くのが困難。
同行者がいれば安全に教会まで行けるかもしれないってことか。
しかし、それも立派なテロへの協力だ。
女神の教会はこの世界の最大派閥の宗派だ。そのトップの暗殺に協力してしまっていいものか。
しかし。
「協力しないとしたら?」
「好きにしろ。お前が一人で行けるならな。」
そう、ここは森の中だ。
野党や魔物が大量にいるという。
この異世界の中で自分は彼女以外に現在頼れる存在はいない。
「わかりました。途中まではご一緒します。ただ、戦いには関わりたくありません。いいですか?」
「うむ、ではよろしくな。」
身体を拭き終わり緋色から白へと戻った裸体の彼女がそこにいた。
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