7 8月6日
「あ、おはよう。大和!」
「おはっす、やま兄!」
「……」
当然のように。
当然のように居間に座し、葵の用意した朝食を食べる人物を前に、大和は朝の挨拶も忘れ、その場に固まった。
「ちょうどよかった。今起こしにいこうと思ってたの」
「起きるの遅いぞ、やま兄ー」
エプロンを外しながら、葵は「どーぞどーぞ」と席を勧めてくる。
いや、待て。
ちょーっと待てい。
なに普通に空気に溶け込んでるんだ、こいつ。
昨日、『やま兄のバーカバーカ! 俺たちのこと忘れるなんて、ひでえよ! バーカバーカ!』って泣きながら帰っていかなかったか。
罪悪感とか、申し訳ない気持ちとか、色々複雑におセンチになった気持ちにさせておいて、平然と朝飯を食うとは何事か。
「どうしたんだ? やま兄。そこでぼけーっと突っ立って」
「……おま……いや、いい。なんか、いいや」
口からついて出てきそうになった言葉を飲み込み、大和は空笑いと共に腰を下ろす。
「―――やっぱ、お前らつきあってるだろ」
「っ、!?」
味噌汁を飲み込もうとした拓海が、大和の一言で激しく動揺し、むせる。
あ、少しすっきりした。
げほ、げほ、と涙目で咳を繰り返した拓海は、落ち着きを取り戻したあとで大和へ真っ赤な顔を向ける。
「昨日から、やま兄そういうことばっかりだ!」
「……そうか?」
「拓海はね、いつも朝ご飯食べにくるの。でも、だからって付き合ってないから」
「―――」
平然と答える葵に、涙目のまま拓海は大人しくなってしまった。
どうやら、葵の父―――正治さんは、明け方早くに出かけてしまうらしい。
また拓海の父は警察官であり、勤務体制が夜勤であるため、朝食をとる時間にズレが出てしまう。
じゃあ家も近いし、一緒に朝飯たべようか―――と、自然な成り行きで朝食をとるようになり、そのまま一緒に学校へ向かい、一緒に下校し、どちらかの家で夕食をとる、という生活を送っているようだ。
葵から説明を受けた大和は、ご飯を啄みながら思った。
(……それって、半同棲というんじゃなかろうか)
なんだか、二人が付き合うのも時間の問題な気がする。
とすれば、自分はとてつもなくお邪魔虫なのではなかろうか。
そんな思いを味噌汁をすすって誤魔化し、大和は生気のない死んだような目で、ふたりを見つめた。
*
「そうだ、大和ってなにか予定あるの? 折角帰ってきたんだし、どこか行きたい場所とかある?」
朝食を終え、後片付けも済んだ葵が嬉々として大和に話しかける。
食後の茶を楽しんでいた大和は、葵の言葉に「えっ」と目を丸くさせた。
「あ、あー……いや、そうだな……」
予定は、ない。
無計画にもほどがあると思われるだろうが、計画表は真っ白だ。
だが、これはいい機会かもしれない。
過去の記憶で抜け落ちていること、忘れてしまっていることを確認できる。
「思い出巡り」というやつだ。
「じゃあさ、俺神社に―――……」
「やま兄、今日は俺と一緒に居よう」
力強く言い放たれた拓海の言葉に、場が凍り付く。
「……」
「……」
葵と共に無言で拓海を見るが、いたって真剣。
そこに冗談を乗せた様子もなく、真顔で大和を一心に見つめ返してくる。
「だ、だめだよ! 大和は私と一緒に過ごすんだもん!」
「いや! 今日のやま兄の時間は、俺がもらうっ!」
なになになに。なに言ってんのこの子ら。
言い争いをはじめた傍らで、なにやら恐怖を抱いた大和はそっとその場から離れようとする―――が。
「やま兄!」
「え」
拓海の呼び声と共に腕を掴まれ、そのまま玄関へと引っ張られる。
後を追いかける葵。
振り切る拓海。
状況を把握できず混乱する大和は、抵抗もできぬまま拓海に連れ去られてしまった。




