メリル
あれからたまたま騒動を聞きつけたグレイプ兄と、補修を終わらせたローレルも現れて、5人がかりでメリルちゃんを説得してくれた。そのおかげか、どうやら俺が『バビロン』の〈コカトリス〉であるというのは誤解であるということをわかってもらえた。
……俺はその光景を霞みかがったような視界でみていた……ような気がする。なんがか、必死に俺のことを庇ってくれるみんながとても遠くに感じたのだ。そして、失礼なことをしたと、頭を下げてくれるメリルちゃんにも……
俺は、叫びたかった。メリルちゃんが行っていることは本当のことで、彼女の兄、マルス君を奪ったのは自分だし、それ以外にもたくさんの無辜の命を刈り取ってきた。そうした奪った命の上に俺の生命は成り立っているんだと、言ってしまいたかった。
言って、楽になりたかった……
「しかし……そうなると、オルギオーデってやつに問い詰めねーとな」
と、顎に手を当てて考えるラーク兄。まるで探偵みたいだ。
「でも相手は大陸一の金持ち……アポイントメントなしで会うなんて不可能に近いですよ」
今度は腕組しながら難しそうな顔をするリーフ。さすがは王子。この中できっとメリルちゃんについでそのオルギオーデさんなる人物に詳しいようだ。
「あ! じゃあよ、手紙だけでもどうだ? もうケールのことを〈コカトリス〉みたく言うのやめてくださいって!」
さもいい考え、といわんばかりに手を打ち合わせたのはローレルだが……それは……
「ローレル……あんた、バカ? そんな手紙みてもらえるかわかんないじゃない」
やれやれといわんばかりに呆れた声を出すオリーブ。その言葉に対し、いい考えだとおもったんだけどな。と、ローレルはしょげてしまう。
「ああ。それに、必ずしもオルギオーデってやつの言ってることが嘘とも言い切れないからな」
やっぱり一度話しをできればいいんだけど……と、再び眉根を寄せるラーク兄。
ああ……この人達は、みんな、俺の無実を信じてくれている。だれもが、俺に疑いの行かないようにしてくれている。
……もし、本当に俺が〈コカトリス〉でないならば、どれだけこの光景は力強いものだっただろう。でも、俺は今、生きているだけでみんなを裏切っている……
そんな、俺の為にざわついた小会議室に、一石が投じられた。
「――あの」
その、控えめだが凛とすんだ声に、オレも含めて全員の視界が吸い寄せられる。その中心に居たのは先ほどまで俺とともに議題の中心に居た少女……
俺が、今尚裏切り続けている少女……メリルちゃんだった。
「……わたしは、今日、オルギオーデと約束をしているけど……人数の制限は……なかった、はず」
ほんの僅か、頬を赤らめながら言うその姿は齢相応の少女に見えた。そんなメリルちゃんに詰め寄るローレルたち。
あれよあれよと言う間にいつのまにか、授業後にオルギオーデさんの商館に行くことになってしまった
というわけで授業後一体どこから聞きつけたのか、リィエンまで来ると言い出してしまって、結構な大所帯だ。
……王族に伯爵家令嬢も居るとはいえ、俺たちは所詮学生だ。対して相手はいわば大企業の社長さん……ああ、俺も社会人だったからわかる。ぜったい迷惑だぞ。これ。
そんな俺たちが居るのはいわゆるギルドホールというやつだ。なんでもオルギオーデさんは為替業で一財産なした人らしい。それに応じてか、ウリムのメインストリートの突き当たり、トロム広場にそのギルドホールは立っていた。ザ・一等地だな。
中に入ればそこはまるで美術館のようだった。なんだかどこかで見たことあるなと思ったが、よく考えれば〈マーラ〉の寄進した『バビロン』の本部扱いになっている商館だったな。
商館なんていうのはどこもおんなじなんだろうか。
そういえば〈マーラ〉もたしか『ギルド連盟』に所属しているって行ってたし、もしかしたらオルギオーデさんの部下かも知れない。
俺たちがギルドホールの玄関に通されてから約10分、ようやくオルギオーデさんとの面会が可能になった。まあ、元々会う約束はしてあったとは言え、急に人数が増えたんじゃ、そりゃあ時間も食うよな。
通されたのは商館のなかでも玄関からちかい場所で、執務室ではなくきちんとした応接室だった。
そして、オルギオーデさんはすでに、その部屋に、いた――