二人の舞台裏の胎動
今回のサブタイトルは中々のおしゃれ感がでてますね、その通りにスポットはあの二匹に当たります。そんな事よりも、そろそろケールくんには歳をとってもらうつもりです、あと2,3話は幼児のままで居て貰おうかな。
よう、早速、プルシエ教会で洗礼を受けてきてその上怪しい話を聞いてしまったケールだ。
そして今はその帰り道。オレは相変わらず父の胸の中に抱きかかえられている。
親子はゆっくり、ゆっくりとまた我が家のほうに和やかにむかっていって居る。
母の抱っこから降りたラークくんは手をひかれながらも、時々飛んでくる虫やなんかを指差して夫婦に明るい顔をさせていた。
しかし、そんな朗らか4人親子の中で釈然としなさそうな顔がひとり……まあオレなんだけどね。
そう、いまやオレはトンボみたいな虫をゆびさすラークくんもその虫のことを得意げに話しだす父もまったく意識の範疇に置いて居なかった。
心の中には先ほど教会で父と司祭様によって語られた話に占められていた。
しかし、あれこれ考えてみたところで、全く答えは浮かんでこなかった。まあ、これだけで答えが分かるようなら誰だって苦労なんかしないだろう。
と、心の中で嘆息してこの思考に終止符を打とうとしたが、中々簡単には離れてはくれなかった。
なんとなあく、もやもやした気持ちの中、家に到着した俺。そこで俺を待ち受けていたのは……!?
「お~」
「うふふ、やっぱり、いつもと違うと分かるのかしらね。どうケール。気に入ってくれるかしら?」
うおお! いいよ、これ! この生まれてからの軽い衝撃の連続の中でも最大級の衝撃だよ! うん! 良い! いいよ、これ!
と、大興奮の俺。そこに居たのは、なんと。
「リコル君の腕、この前パパが壊しちゃったからね、あと角も……」
そうなのだ。今俺の横たわるベビーベッドで俺のことを出迎えたのは、なんとなくちょっと気持ち凛々しくなったリコルだった。
何より目覚しい変化は角に会った。この前までふにゃふにゃして萎んでいたあの角が、ちゃんと中身を詰め込まれたのか、しゃんと立っているのだ。なかなか感動的な光景だ。
俺が一頻り感動していると母達はいつの間にか別のお部屋に行ってしまったようで気がつけば俺は一人ぼっちになっていた。
なんかさぁ、まあ俺の居た世界が過保護すぎただけってのもあるかも知れないよ? でもちょっとばかり放任が過ぎると思うんだよね、いやでも、国によっては添い寝は子供に悪影響だからしないって国もあったものな。
う~ん。我が家が特別なのかそれとも俺の考えが異端なのか……謎だ。
まあ、でも、俺としては……
「因みにご主人様の方が異端ですね。一々添い寝なんてする家庭なんかないですよ、少なくともこの国では」
こいつらと話しやすいからいいんだけどね。
とおもった瞬間に真っ向から意見をぶった切られたよ。悲しくって泣きそうだ。
と、またまた思った瞬間。
「そんな事よりもご主人。“組織”を作らないか」
は……?
どうやら組織云々の話はレオンとリコルが留守を守っている時に始まったものらしい。と言うのも、この2匹、見た目こそファンシーその物の癖に妙に現実的な答えを返してくれた。
「つまり、ご主人は今『光の者』の行動をなんとしても阻止しなければならないわけだ」
うん。と俺が心の中で頷いた。と、言うかこの二人に言われるまで俺もすっかりそんな事忘れていた。でもなあ、俺、人殺し何て絶対ごめんだもんね。
俺が憂鬱気に心中で嘆息すると、ソレを受けたのは、真っ白い鬣と生まれ変わった角を振るうリコルだった。
「つまり、そのための組織なのですよ、ご主人様。目や耳は多くあるのに越したことはありませんからね」
う~ん、しかし、ソレがいったい何故組織の話につながったのかわからん。
俺がなおもベッドの上で首をひねっていると、今度はレオンがちょこっとぼうぼうの鬣をなでつけながら、俺に説明してくれた。
「ふむ、ご主人。この『学術都市・ウリム』には一体どれだけの組織があるかご存知か?」
まあ勿論知るわけが無い。俺は首を横にふった。
「その数、大きな『魔道機関』だけでも十数を軽く数えます。勿論『ギルド』やなんかは別ですけどね」
おい、ちょっと待て、ナチュラルに知らない単語を出すのやめてくれるか?!
「ああ、そうだ。因みに『魔道機関』と言うのはその名の通り、魔の道を究める組織の事だ。研究内容は組織によって違い、多岐にわたり、民衆の為のものや、個人の理想や欲望を突き詰めたものなどだ。まあ、胡散臭いこと間違いなしだな」
どこか投げやりに言い放つレオン。つまり俺はその胡散臭いこと間違いなしのものを作らなくてはならないのかね?
「『光の者』達というのはそもそもご主人様も知っての通り、運命を乱す存在を排斥する様に出来ています。つまり、調和のために働く存在を見つけやすくする目的もあるのです。それに……」
と、俺は此処で赤ん坊特有の耐え難い強烈な睡魔に襲われた。
これ以上この二人の話を聞いている気分に成れず、あとは丸投げして夢の中に入らせてもらった。
「あ~あ。結局、言わぜず仕舞いでしたね」
と、眠る幼児の傍らに置かれた一角獣のぬいぐるみが呟いた。発声器官はどこだよ、なんて深いことは考えてはいけない。
「うむ……しかし、今はまだ話さないほうが良かろう。生まれてすぐに、そんな話を聞いたら、下手したら発狂しかねん」
一角獣のぬいぐるみの呟きに対して、その隣に置かれたライオンのぬいぐるみが重々しそうに呟いた。ファンシーな見た目にあわないナイスミドルなバリトンボイスだ。
「ええ、確かに。いずれ貴方も『光の者』に消されるかも知れないから、身を守る為の組織ですと言われればねえ」
ふぅ……と、一体布と綿以外に中身の無い体でどうやってため息をつくのか、一角獣のぬいぐるみは憂い気に呟いた。此処で人間であったなら表情筋が仕事をしたであろうがぬいぐるみは眉一本動かさない。非常に無情である。
「ああ、それに『光の者』の行動を随時邪魔しなければまた徒に命が奪われるとあってわな……」
此方も、まるで眉一本動かさず語るライオン。しかし、此方のぬいぐるみは製作者の意図か元々なんとなく情けない感じの顔なので一角獣ほどのミスマッチ感は感じられない。
「今のご主人様の命は薄氷の上でコサックダンスしてるようなものですからね……だからこそ、2重の目的で組織の構成は急がなくてはならない」
今度こそ、と決意を込めたように立ち上がる一角獣にライオンも同時に立ち上がる。
「1つは『光の者』からご主人を護り、監視するため。もう1つはあの大いなる存在からの魂の供給なくしてご主人が生きていけるように……だな」
と、決意も新たにベビーベッドの柵に手をかけるレオンとリコル。
しかし……
「で、出られん」
「まさか、こんなところに大きな落とし穴があるとは……!?」
二人は、小さく、そして馬鹿であった。
リ「やっとの思いで柵から脱出できました、どうやって組織を構成しましょう」
レ「まあぬいぐるみの話をまともに聞くような奴は頭がまともじゃあないな」
リ「そんな事いったらご主人様なんかどうなるんですか。さて次回はご主人さまの初めての誕生日と組織の登場です。こうご期待。