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『貴族派』の少女


 かきいぃぃん、かきいぃぃんと、甲高い鋼の擦れあう音がする。今度は右から短剣がきりかかり、お次はいつの間に詠唱を終えたのか小規模ながら魔力による火の玉が飛んでくる。


 しかもそんなことを身体強化込みでやられるのではっきりいって溜まったもんじゃない。


 よう。絶賛襲われ中のケールだ。相手は花も恥らう13歳。空色のポニーテールがチャームポイントのメリルちゃんだ。しかし、笑顔ならかわいいだろうかんばせも今は鬼のような形相で目の前の敵を殺そうとしている。


 で、目の前に敵は……俺。


 ただ、たしかにメリルちゃんは飛んでもない戦闘センスの持ち主だが、いかんせん体格差がありすぎて、なかなか俺に攻撃が届かない。いや、おれも届かせるつもりはないけどね。とどいたら死んじゃうから。


 しかし……なにがまずいかというと……


 「おいおい、廊下のど真ん中でケンカかよ」


 「あれ? あいつ、伯爵家のメリルじゃねぇ? ほら、13歳で飛び級してきた」


 「あ~『貴族派』の? そういや、昨日も2年の男子にケンカ売ってたなぁ……で、相手のオトコだれ?」


 「わかんね」


 そう。ここは国家最高学府の『学院』の廊下である。当然人通りもあって、いつの間にか俺たちの周りには結構なギャラリーが出来上がってしまっていた。


 ていうか、メリルちゃんと俺の知名度ってそんなに差があったのね……俺のことを知っているはずのオリーブはラーク兄を呼んでくるって言ってどっか行っちゃったし……


 なんて、俺がちょっとショックを受けている間にも、右に左に、上から下に、メリルちゃんの猛攻は続く……が、やはり決定打が与えられないことで消耗してきたのかだんだん攻撃の手は緩んできた。


 ふっふっふ。火燐のオークの息子の名は伊達じゃないぜ。


 と、俺が内心調子に乗った……その瞬間――


 「貰った……――」


 メリルちゃんの静かな声が鼓膜を震わせた。気がついたときにはやや繊細な短剣は俺の胸を正確に抉りにきており、まさに心臓直下――! 心臓ハートを、打ち抜かれる――


 俺が、迫り来る死を本能的に回避しようとヴァナルガンドを握る手に力がこもるが、メリルちゃんの短剣はそれより早く俺の手をすり抜けて、凶刃がまさに刺さろうとしたその瞬間……


 俺たちの間に、白い影が走った。







 「お姉さま……」


 その廊下の端、あつまった学生たちからは丁度影になる位置に彼女たちはいた。事の起こりは4日前、ケールがメリルを監視し始めたと同時に、彼女たちもまたケールを監視しはじめていたのだ。


 その女たちのうち、不安そうに眉を下げる女は隣に立っているはずの姉に声をかける……が――


 お姉さまと呼ばれた女はいつの間にか妹に背を向け廊下にうずくまっていた。その肩は小刻みに震え、まるで嗚咽をこらえているようでもあった。


 「お姉さま!?」


 その光景に目を見開き駆け寄る妹。しかし、姉は差し出された手を振り捨てると、足は震えながらも自らの力で立ち上がった。


 「……カトレア……今後一切あの男……ケールには近づくな。絶対にだ」


 「で、でもケールくんは殿――り、リーフのご学友ですし、それは難しい……」


 カトレアがすべてを言い終わらぬ内に姉は目を剝き、踊りかかるように振り返った。たしなみとして伸ばされた爪が、カトレアの柔な肌に食い込み、小さな悲鳴が上がるが、それでも姉は手を離すことはなかった。


 「見ただろう……! 今、アイツがあの白いぬいぐるみに助けられたところを! あいつはもうだめなんだ……! あのリーフのやつとも友達……! カトレア……だめだわ、わたしたち、踊らされていたのよ!」


 その目は赤く充血し、今にも涙がこぼれようとしていた。その姉の姿を見てカトレアは息を呑む。


 その姿は……10年前、彼女たちが『バビロン』に入るきっかけとなった、あの瞬間に、あまりにも似ていたからだった。


 「で……でも、ゴーレム遣いはどこにでもいるわ! どうしてケールくんにだけ……」


 「とにかくダメなんだ! 絶対……近づかないで……もう、わたしの前から居なくならないで……」


 その言葉を最後に姉はカトレアから手を離し、うずくまってしまう。そして、カトレアがそれと気がつくころには、生まれて初めて聞く姉の嗚咽だけが暗がりに聞こえた。いつのまにか先ほどの瞬間は消えている。


 「……どこへも行かないわ……リカステ姉さま……」


 カトレアは、静かに、姉の肩を包み込んだ。






 よう、なんと危機一髪のところを白き一角獣ことリコルに助けてもらったケールだ。いやあ、助かってから死ぬかとおもったことを実感してしばらく腰がぬけたね。生きてるってほんとうすばらしい。


 で、いま俺達・・がどこにいるかというと……


 「で、伯爵家の令嬢がなんだってウチの弟なんか襲おうとしたんだ?」


 学院でミーティングなどに使う小会議室に居る。普段は一般学生はつかえないが、まあそこは風紀委員。多少はね。権力ってほんとうすばらしい。


 で、そんな小会議室にいる俺以外のメンバーはというと……


 「そいつが、わたしのお兄ちゃんを……伯爵家の、正統な跡継ぎを……殺したからよ!!」


 びっしィィィと言わんばかりに指を突き立てているメリルちゃんに。


 「ケールがそんなことするわけないじゃない!」


 シャウトするオリーブ。


 「僕も……――」


 「王子殿下は黙っていてください」


 メリルちゃんに発言をさえぎられるリーフ。


 そして……


 「はぁ……わるいけど、オレもオリーブの意見に賛成だな……たしかに四六時中一緒ってわけじゃないけど、家族だし、ケールに人なんかころせねーよ」


 我等がヒーロー! ラーク兄ィィィィイ!!!!


 そう、あのボーイミーツぬいぐるみの直後、オリーブに呼ばれてリーフとともに助けに来てくれたのだ。まさに! 白馬の王子様!


 ……傍らの白馬プラスワンのぬいぐるみから者言いたげな視線を感じるが、まあ気のせいだろう。


 ちなみにローレルは補修でつかまらなかったらしい。ばかだなぁ。


 「……一体、何だってケールがお前のお兄さんを殺しただなんておもったんだ?」


 と聞くのはラーク兄。それに頷く三者。そんな俺達の視線w受けてメリルちゃんは不満気に鼻を鳴らしつつも答えてくれた。


 「オルギオーデが……そう言ってたのよ。白銀の狼の杖、鳶色の髪、男にしては低身長……それが『バビロン』を牛耳る魔王、〈コカトリス〉の正体だってね!」


 そういって強い眼光をこちらへ向けるメリルちゃん。


 ……もしも、ここで笑い飛ばすことができたら、どんなに良かっただろう。俺を指差し〈コカトリス〉だといったその瞬間、おれの頭の中で、すべてが符号した。


 「はぁ? だれよ、そいつ?」


 呆れたような、戸惑うような、そんな声でメリルちゃんに尋ねるオリーブ。ラーク兄も怪訝な顔をしているようだがリーフだけは違ったようで驚きに顔を染める。


 ああ……なんで気がつかなかったんだろう……兄を亡くした伯爵家……空色の髪と瞳……


 「オルギオーデって……あの『ギルド連盟』の盟主の!?」


 「ええ、そうよ。わたしたち『貴族派』の、最大の出資者パトロンでもあるわね」


 なんで、なんでそんな悲しげな顔でこっちを見るんだよ……リコル!


 そうだ……この子は……メリルちゃんは、黒騎士の……マルスくんの妹だ……――


 おれが、殺した……マルスくんの……――


一番ヒロインしてたのはケールだった。次回! オルギオーデと直接対決!? ついに明かされる『貴族派』誕生の秘話(たぶん) さあて、次回もサービス、サービスゥ♪

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