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生み出される者、或いは亡国の王子

〈マンティコア〉が大活躍! 


 学術都市ウリム、この第二の王都と称される街に幾多配列される魔道結社『バビロン』の拠点。そのなかでもかれらが首領〈コカトリス〉より直々に認められた最高幹部〈マンティコア〉率いる『クリュプタ』の研究所の一つ……


 『バビロン』が四大幹部の一人、組織最大の戦力を誇る〈ドラゴン〉は、そこに訪れていた――







 「ねぇ、〈ドラゴン〉またフラスコが増えたみたいよ」


 鈴の音のような笑い声を立て、白く仄かな光を待とう少女が言う。その肌は真鍮のような白さを持ち、また陶磁器のように滑らかでもある。が、しかし同時に人らしさも持ち得なかった。


 そんな人ならざる少女はふよふよと、錨のない船のように頼りなく、存在感をもたず浮いていた。その隣に立つ男の肩に手をかけながら。


 「あぁ……どうせ来る度のことだ……」


 男……赤髪を持つ〈ドラゴン〉は自身に侍る精霊の言をあしらいながら歩を進めた。茫洋とした暗がりの中に〈ドラゴン〉の長靴の音だけが響く。狭い廊下には、大小の大きさを問わず彼女の称したフレスコ――魔物を生むための円柱形のカプセル――がところ狭しと並んでいる。例外なく、中に肉片を浮かばせながら……


 その様子に〈ドラゴン〉は顔を顰めた。そもそもこの施設は〈マーラ〉……オルギオーデが彼の商館をアジトとして提供する以前から使われていたものであり、〈マンティコア〉の使役する人工精霊、嘆きの風シャルバン・リリトゥの生み出された場所でもある。


 なぜ、今や彼をはじめとする幹部たちはおろか『バビロン』の構成員すら足を踏み入れなくなったこの施設に、〈ドラゴン〉は足を踏み入れたのかといえば――


 「来たか……〈ドラゴン〉」


 今や、この施設を実質的に取り仕切る『クリュプタ』の主宰者、〈マンティコア〉に招かれたからであった。


 〈ドラゴン〉は果て知れぬ闇がようやく尽きるころに聞こえたその声に再び眉間を寄せた。紅蓮の双眸が剣呑な光りを帯びる。


 〈マンティコア〉は、この長い廊の突き当たりに居た。その突き当たりはこれまでの廊下よりも一層狭くなり、多くのフラスコやこまごました器具などが並んでいる。


 そして、何より目を引いたのは、壁と一体化するように作られた、巨大なフラスコであった。その大きさはこれまであったどのフラスコより大きく、王都の大聖堂にあるパイプオルガンにも匹敵するほどに思われた。


 「……また、珍妙なものを作ったようだな……」


 〈ドラゴン〉は吐き出すように言葉を、そのフラスコを背にして立つ〈マンティコア〉に、冷たく投げつけた。そのフラスコの中にもやはり、ナニかが入っているのは見て取れる。しかし、何が入っているかはぼんやりとした闇の中では判断がつかなかった。


 〈ドラゴン〉がフラスコに対し目を細めたとき、突然、そのフラスコを照らすように灯りが灯された。突然の閃光に〈ドラゴン〉は不快そうに手をかざしたが、次の瞬間にはその目は大きく見開かれた。


 「ッ……これは……人間!?」


 一瞬、それは人間のような形に見えた。が、しかし〈ドラゴン〉はすぐそれが誤りであることに気がついた。


 「いや……これは……」


 「そう……ただの寄せ集めだ」


 〈マンティコア〉の言うとおり、フラスコの中に踊る人影は、人型に寄せ集められた複数の肉塊だったが、しかし、それらは単純にばらばらにされた人間の体ではなかった……


 右腕は肩口からもがれたようになりながら、その傷口にあたるはずの場所には壮年の男の顔がついている。胸囲部は虫の腹のようであり、そのままつながっている左腕の先は竜首になっている。下腹部や両脚も同じく、『バビロン』により生み出され、魔物と呼ばれているものどもの寄せ集めであった。


 「これらはそれぞれ、独立した魔物だ」


 最も、最初は一つだったのだがな……


 〈マンティコア〉の呟きに〈ドラゴン〉は眉を吊り上げた。


 「どういうことだ?」


 「最初はたしかにヒト……生命を作ろうとした。が、このざまだ、最初は二つに、次は五つにといった具合で分かれていった。不愉快だが、おそらくまだ続くだろうな。この分裂は」


 そういう〈マンティコア〉は暗がりの中に愉悦を感じたような笑みを浮かべる。老獪な最高幹部のその姿を尻目に〈ドラゴン〉は再びフラスコを見上げる。その内に漂う魔物たちのおぞましい表情を見て、そして目をそらした。


 「なーんか、こいつらまるで叫んでるみたいね。助けてくれって」


 〈ドラゴン〉の心境を的確にあらわしたのは、誰よりも〈ドラゴン〉を理解し、また支える共犯者とも言える存在、精霊のハンナだった。


 「ふん……こやつらに感情などはない。なにせ、生命そのものがないのだからな」


 〈マンティコア〉の浮かべた笑みは先ほどとは打って変わり、獰猛であり……そして、自嘲的なものだった。


 その様を〈ドラゴン〉とハンナは不思議に、また不気味にも思いながら見つめた。


 「……そんなことより〈ドラゴン〉……いや、敢えてケトケイの王子とよばせて貰おう」


 そう、〈マンティコア〉が呼びかけた瞬間、実験場内の温度が急上昇した。かつてないほど冷静・・な〈ドラゴン〉の紅蓮の双眸が〈マンティコア〉を、ただ、見据える。


 その〈ドラゴン〉の怒気すら心地よい反応であるが如く、〈マンティコア〉は微笑む。


 「みつかったぞ……貴様の、妹……王女殿下がな……」


最近オリーブが空気なんで、もっとヒロインヒロインさせます

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