助け
よう、絶賛血まみれ中のケールだ。そんな出来損ないの生命ことモンスターたちの血をぺちゃりぺちゃりと踏んで、真っ直ぐ黒騎士……マルスくんが俺のところへやってくる。うん、ピンチだね。
頼みの綱であったローレルはさきほど喉元に切っ先を突きつけられたショックが呆然として俺たちのほうを見ている。なんということだ。今にも倒れそうなほど真っ青じゃないか。
なんて俺が自分のことを棚において考えていると。
「……おい……」
ですよねぇ……いつの間にか俺の目の前にまで来ていた真っ黒の仮面の騎士が俺を見下ろすように立っていた。こうしてみると威圧感がすさまじいな。よくローレルやラーク兄はこんな怪人みたいなやつ――俺のせいなんだけど――と戦えたと思うわ。
「おまえ、あの時……オレを……なんと呼んだ……?」
は? あの時? あいにくだがここ最近黒騎士のことなんか読んだ覚えはない。少なくとも、口に出したことはないはずだ。
うーん……これ、黒騎士の、聞き間違い……とかじゃあないよね?
いや、まてよ……あれは俺じゃあなくて赤毛ちゃん、ことハンナさんだけど……
「――ま、まるす……?」
俺が恐る恐るいつかハンナさんが口にしたその名前を口にした。
――その瞬間。
大猿が……イラがマルスくんの背後に立つと、音もなくその大鎌を首へあてがった。瞬間移動?! 転移魔術か!
「黒騎士ぃ過去の詮索は良くないよぅ? 〈マンティコア〉の旦那が引き上げるってさ……」
見れば、このイラが現れたのだろう魔法円は大きくてその中心は〈マンティコア〉だった。なぜかこちらを意味深長な笑みで見つめてきている。あいつがあんな目をするときはどう考えてもその後にろくなことは起こらない。覚悟しておこう。『ギルド連盟』との戦争くらいは。
「っ……! お、おまえたち……!」
となりでリーフが悔しそうな声を上げた。そういえば、打倒『バビロン』が最終目標か……
しかし、黒騎士もイラも、リーフなど歯牙にかけぬようにいつのまにか、その姿をかき消していた。
俺は、俺の目標は……? この世界で、生まれ変わって錬金術師になったうえで、何を目指して生きればいいんだ?
「っ! そうだ! ローレル!!」
俺が胸をい頭競るようなことを考えて戸は夢にも知らないだろうリーフは思い出したようにうずくまるローレルに駆けていく。
……そうだ! リィエン……は!?
大量のフラスコ郡を振り返れば……居た。未だに何かはわからない溶液に満たされたカプセルの中に、その身を揺らめかしていた。
俺は、そんな彼女を閉じ込める試験管に向かい、破壊の杖を振り上げた。