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炎竜と精霊


 それは、幸せな夢だった。幼い日……近所の友人たちとサッカーをしていた。小さな地方都市で、自然が豊かな町で……オレは、ただ漠然と、大人になってももの町で過ごすんだろうな、と思っていた。


 一緒にボールを蹴り合っていた友達が、オレの名前を呼んでいる――オレの、名前――?


 「ッ……――ローレルっ!」


 体が揺さぶられる感覚にオレは目を覚ました。夜の冷気が不意にやってきて、オレの目の周りが濡れていることを教えてくれる。


 もう見ないと思ってたんだけどな。前世の夢……


 「ローレル……――泣いてるの……?」


 「その声は……カトレアか? どうしたんだよ、こんな夜中に」


 電気もガスもないこの世界の夜は本当に暗い。灯りがなければ自分の手の先すら見えない。そんな暗闇のなかから聞こえたのは、オレの、この世界で出来た初めての友達の声だった。


 「……殿下が……殿下が危ないの……!」


 殿下――リーフが!?


 「どういうことだ……!?」


 「……『バビロン』の者が、殿下の命を狙っているの……!」


 『バビロン』が……?!


 オレは、寝台の上から跳ね起きた。なんでカトレアがそんなことを知っているか、一体それはだれから聞いたのか、気になることはあったけど、どうやらそんなことを言ってる暇はないらしい。


 「……カトレアは、このことを学院長へ伝えてくれ……」


オレは、寝巻きの上にそのまま剣を帯びて、リーフの部屋へ向かった。


 ちぃ……! カトレアの言っていたことは嘘じゃあないみちだな……魔力を扱えない俺でも感じ取れるほどの、強い気配がしやがる……!


 しかもそれは、カトレアの言ったことを裏付けるように、リーフの部屋のほうへ向かうほど強くなっていく。


 できれば間違いであってほしかったんだけどなっ……


 幸い、オレとリーフは同じ寮だから、たどり着くまでにそんなに時間はかからなかった。なぜか、リーフの部屋の周りだけが仄かに明るくなっている。


 ……っまさか!


 そこに居たのは、美しい女だった。この世の者とは思われぬほど光かがやく真珠色の肌を持っていて、まさに、その麗しの肢体からこの廊下を照らす明かりを放っているnだった。


 しかし、その女は細くなまめかしい体のすべてをさらけ出し、まるで宙を泳ぐように浮いていた。髪はまるで揺らめく炎のようにうねいで、紅く煌いていた。あの光のすべては、まさに炎の結晶のような少女だった。彼女は人の形をした炎だった。


 そして、その隣に男がいた。


 「てめぇ……! なにもんだ……!」


 オレは自分でも知らないうちに体が震えていることに気がついた。こいつには死の気配が付きまとっている……!


 オレじゃあ……勝てない……


 オレの言葉に反応したのは宙に浮く、炎の少女のほうだった。


 「……あら? お客さんみたいよ、〈ドラゴン〉」


 「ああ……どうやら丁寧に教えてやった礼を仇で返されたらしいな」


 オレはこっちを振り返った男の顔を見て息が詰まった。あまりにも膨大な魔力だ。でも、あの時の黒騎士のように決して邪悪ではなかった。オレは……こんなやつが、『バビロン』なんかに居るかもしれないということが信じられなかった。


 「お前は……何者なんだ……? なんで『バビロン』なんかに……!」


 オレの言葉に赤目赤髪の男はゆっくりと口を開いた。


 「『バビロン』は、オレの目的を達成するための手段に過ぎない……」


 そういうと、〈ドラゴン〉はゆっくりと剣に手をかけた。


 ッく……オレの力で、一体何秒、こいつを止められる……?


 「てめえの目的って言うのは、リーフを……この国の王子を殺すことなのかよ?」


 「違うな。それはあくまでオレの内通者の願望に過ぎない。俺をここへ侵入させるための条件の一つだ」


 が、〈ドラゴン〉はそれだけ言ってしまうと、自嘲的な笑みを浮かべ、剣から手を離した。


 「あら? 〈ドラゴン〉、やめちゃうの?」


 「ふん……こいつに見つかった以上、オレの目的を達成するのは不可能だからな……王子を殺してあの女にだけ良い思いをさせるのがバカらしくなっただけど」


 それだけを、どこか諦めるように吐き捨てると〈ドラゴン〉はオレに背を向けてしまった。


 ッ――


 「おい……! 〈ドラゴン〉……! お前の目的ってなんなんだよ! それがかなえばお前は『バビロン』を抜けるのか……!?」


 夜の廊下に、オレの声は呑みこまれるように響いた。その甲斐があったのだろうか。〈ドラゴン〉は足を止めた。


 「……人探しだ……23年前に滅んだ、ケトケイ国の王女……オレの、妹のな……――」


 


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