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暗躍する者達

 あれから、半狂乱になってしまったハンナさんを宥め、めちゃくちゃになってしまった店内を綺麗に掃除するという事でてんやわんやだった。しかし、ハンナさんも見たであろう、黒騎士の仮面の中身……あれは確かにマルスくんだった。あれから10年。〈マンティコア〉によって殺されたとばかり思っていたあの少年!


 「……しかし、ご主人さま! そのお体では!」


 「そうだ! 傷は癒えておらんのだ! ここは我輩たちに任せて……」


 「うるさい! これに関しては俺自身が聞かないと収まらん!」


 俺たちは今、ウリムのメインストリートを歩いていた。午前の大通りは人通りも疎らでたまに通り過ぎる人は俺の事を訝しげに見つめている。


 そう。俺は今仮面をつけている。とは言ってもあのお気に入りのニワトリの仮面ではない。もっと子供がつけるような単純なお面だ。


 あれはフルフェイス仕様でとっても蒸れるのだ。儀礼的な場面以外ではもう被らんと心に決めた。


 こんな顔を隠して押し伸びで向かう先は当然、『バビロン』の本拠地として献上された〈マーラ〉の商館だ。


 程なくしてたどり着くといつかと同じように上品なおじさんが出迎えてくれる。


 「ここは『ギルド連盟』の所有する両替商ですが……ご用件は?」


 どうやらこの商館は両替商の館だったらしい。たしかに前世でもテンプル騎士団とかそれでお金儲けしていたんだったけ。あれは銀行か? そんなことより……


 俺は、いつからだかはもう忘れたが、成長したことで指にはめた、あのシーリングリングをコンシェルジュに見せた。


 印章はもちろん、蛇頭の尾を持つ雄鶏……コカトリスのものだ。


 その印章の意味を理解したのだろう。急におじさんの眼光が鋭くなる。


 「お話は伺っております。お約束の方はすでに奥のお部屋に……」


 すると、やっぱり以前と同じように別の人に引き渡され、明るく豪華な廊下を奥へと進まされる。


 すると、どこからであろう。進めば進むほどピアノであろうか。荘重な音楽がどこからとも無く聞こえてくる。


 やはりそれはあの奥の部屋から聞こえてくるようだ。案内の青年を下がらせた俺は思い切り優美な扉を開けた。どうせこの音色は……


 「……お待ちしておりました。わが君……〈コカトリス〉」


 案の定ピアノを弾いていたのは〈マンティコア〉だった。この奥の部屋も玄関ホールほどではないが繊細な装飾がほどこされており、宮廷のサロンもかくやと言った幹事だ。宮廷なんて行ったことないけどね。


 そんなことよりも……


 「〈マンティコア〉! あの黒騎士は一体どういう事だ!」


 俺は被っていた仮面を床に叩きつけると思わず怒鳴ってしまった。『バビロン』の四大幹部のうち、唯一俺の顔をしる〈マンティコア〉だからこそ出来ることだ。


 そう、この10年、俺はこの外道魔道士から様々なことを教わった。法と倫理を逸脱する吐き気を催すような邪法の数々だ。まさに、俺が最も軽蔑するくず野郎だ。


 だが、魔術の理論や錬金術の説明などは師匠よりも上手というところがたちが悪い。


 「おや! すでにご存知でしたか……わが傑作を」


 しかし〈マンティコア〉は俺の怒りなど知らん顔で酔ったように語りだした。話が長くなるモードだ。


 「ええ……あの日生命に源にて見つけたあの小童ですよ。これまでは自我を消して〈ドラゴン〉のところで剣術を学ばせて起きましたが、つい昨日お披露目をいたしましてね」


 と、かれこれあの黒騎士誕生秘話を1時間弱かたられてしまった。


 「……あの騎士のことについてはわかった……だが、俺は『バビロン』の者が個人で強力な武力を持つことを許可しない……それに、貴様の率いる研究機関、『クリュプタ』もそうだ! あれは一体……――!」


 「もちろん……! あなた様のためでございます……〈コカトリス〉様」


 っ……! こいつ……大儀を、封じてきやがった……!


 この『バビロン』において、建前上は俺、〈コカトリス〉が絶対であり至上。その〈コカトリス〉のためだといわれては、それをやめろという事すら出来なくなる。


 「……あらかじめ逃げ道を用意しておくとは……相変わらず小ざかしいな」


 俺の怒りを代弁するのはレオンだが、〈マンティコア〉はそれすら気にも留めない。


 「そうそう。〈ドラゴン〉で思い出しましたが、『学院』に侵入したがっておりましたよ、〈ドラゴン〉のやつ」


 この老人のなんと話を聞かないことか。


 しかし……『学院』への侵入か……


 「無理ですね」


 今度はリコルに言葉を先取りされてしまった。


 「あそこは腐ってもわが国の最高学府。国から派遣された騎士や憲兵どもが守護をつかさどっています。われわれ『バビロン』が出資していたときでさえ、最低限の人間しか入れなかったのです。今となっては、言うべきもありまんね」


  だよなあ。


 




 結局、あれから〈マンティコア〉にははぐらかされてしまい、不完全燃焼のまま還らされてしまった俺たち。さらにそれから1週間ほど経った……


 ……おかしい。


 昼休み、俺はいつもどおり朝早く起きて自分で作ったお弁当を食べようと中庭までやってきていた。


 あの黒騎士の一件以降、なぜかよく一緒にいるようになったローレルとリーフはまあ許そう。回りから見れば俺たちは仲良しなようだ。


 で、さらにあの一件以降、なぜか心配だからという理由で四六時中俺をストーキングしようとするラーク兄もまぁ許そう。家族だし、度をはずしたら制裁を下すグレイプ兄つきだ。


 だ、が……なんで、なんで……


 「お前までいるんだ。オリーブ……」


 入学してから1ヶ月間の間は殆ど俺一人しか居なかった中庭がなんと今では6人の大所帯だ。さらば平穏なるぼっち飯よ。


 「なんでって……あんたたちのお弁当を作ってきてあげたからに決まってるじゃない」


 「俺……もう自分の分があるんだが……」


 前世では一人暮らし生活も短くなかったから料理には自信があるのだ。今回は緑黄色野菜をふんだんに使った芋のにっころがしです。


 「いや……ケール。お前のはまだましなほうだぞ」


 と、俺の肩を叩くのはローレルだ。


 「見てみろよ、オレのやつ。真っ黒だぜ」


 「ぼくのは何だろう……お肉……かな? これ」


 そういってローレルとリーフはあんたらの分、とあてがわれたお弁当を見せてくれる。なるほど。まっくろだ。


 ちなみにラーク兄たちに至ってはない。居ると思わなかったそうだ。


 「って、言うかさぁ……これ、比較的上手く行ったところをケールによりわけただけなんじゃ……」


 と、グレイプ兄が言った瞬間……


 「きゃあ! 大変! 先輩の顔に蜂が!」


 というオリーブの棒読みと同時に回し蹴りがグレイプ兄の華のかんばせに炸裂さた。


 「グレイプーーー!?」


 と、結構な距離吹き飛ばされたグレイプ兄へラーク兄駆け寄ったとき、ちょうど、学院長が俺たちのことを廊下の窓から見下ろしているのが見えた。あそこはちょうど、学院長室のあたりだろう。


 「……手招き、してる?」


 そう。学院長は俺と目が合った瞬間、手招きをしだしたのだ。


 ……これは、チャンスかも知れない!


 俺は、隣に居合わせたリーフに耳打ちをした。


 「……学院長が手招きしてる」


 「……! 本当だ!」


 「……オリーブを振り切るなら……今しかない!」


 と、まさに伝言ゲームのように今度はリーフからローレルへと情報は移った瞬間。俺たちの行動は早かった。


 「すまん! オリーブ! 学院長が俺たちに用があるらしい!」


 「というわけでお前の弁当は食べられそうにないな!」


 「だから是非先輩たちにさしあげて!」


 俺たちは三者三様の分かれの口上を述べると、一目散に駆け出した。後に残ったのはぽかんとしたオリーブと失神したグレイプの名を呼ぶわが実兄のみだった――







 「お呼びですか? 学院長先生!」


 「……べつに風紀委員の君だけでよかったのだけどね」


 俺たち三人が始めて出会ったともいえる学院長室へ行くと、出迎えてくれたのは呆れ顔の学院長だった。


 む。せっかく来てあげたのに。


 「……まあ良い。奨学生二人に、――一応、貴族が一人だし、良い感じにばらけているしな」


 と、気になる前置きをする学院長。


 「こんど、新しい講師を迎えることにした」


 俺はその言葉を聴いた瞬間血の気が猿のを感じたね。まさか……


 「もちろん王室からの紹介状つきの、身元のはっきりした人だ。安心してくれ」


 ……さすがに、如何に『バビロン』でも王室からの紹介状を作るのは不可能だが……〈ドラゴン〉ではないのか?


 「へぇ~何を教える先生なんですか?」


 「イスリア史だ。元は王宮勤めをしていた女性らしくてね。陛下直々に紹介文を下さったよ」


 「父うッ……陛下が、ですか……?」


 なんと、国王陛下が直々に文書く女性とは。絶対〈ドラゴン〉じゃない。ばんざーい。しかし、そうなると不思議なのが……


 「陛下直々とは言え、なんでこんな時期になんですか?」


 もうじき夏が本格化するだろうこんな変な時期に紹介してくれなくても良いだろうに。


 「……それは、わたしが『バビロン』からの入金を打ち切ったからだろうな」


 ん?


 「今やこの『学院』には『貴族派』も『バビロン』も強い影響力がもてない状況だからな『王党派』も出資は出来なくとも教員を送り込むことで一定のイニシアチブを執りたいんだろうな」


 なるほど。思ったよりも政治的な理由がありそうだ。


 「まぁ、「学問」について優秀な人材ならいつ如何なるときでも新しく雇いいれるさ……そんなことより、君たちを呼んだのは他でもない。今日はその新任講師の妹君が来ていてね。彼女に学院を案内してほしいんだ」


 なんで本人じゃなく妹が下見に来るんだ?


 と、疑問には思ったが、話はすぐに次へ移ってしまった。


 「よし。はいってきていいぞ!」


 と、学院長が言うが早いが、俺たちが入ってきた入り口とは別のドアが開いた。奥の間というやつだろう。そこから姿を現したのは、如何にも貴族的な気品ある女性だった。


 ふんわりとウェーブを作る栗毛色の髪に、あじさいのような淡い紫色の瞳だ。うむ。美人。この人のお姉さんならザ・大人の女性といった感じだろう。


 俺は、その女性の挨拶を待ったが、彼女の第一声は……――


 「ひさしぶりだね。ローレル」


 儚げな微笑を添えたその視線は……


 「……カト……レア?」


 ローレルへと、注がれていた。


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