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弟思いの兄貴たち


 ケールはオレがまだ物心がつく前に生まれた弟だったから、気がつけば常にそばにいる存在だった。小さい頃はまるで女の子みたいな見た目をしていて、オレやグレイプと違って余り外に出るようなタイプでもなく色白だったから余計にそうおもえた。


 そんな、ケールが5つのときにこのウリムに住む元宮廷魔道士とかいうおっさんに錬金術や魔術の教えを請い始めた。理由は当時7歳だったオレにはわかるはずは無かったけど、ケールがすることならそれは良いことだ、くらいには考えていた。


 それからケールは見る見る賢くなっていった。週に何度も早起きしては錬金術とやらを学びに言っていた。それはケールが入学するまでの10年間、決して途絶えることは無かった。


 オレが知らないうちに、オレの知らない知識を覚えていくケールはオレにとってとても誇らしい弟だった。誰よりも正確に文字の読み書きが出来たし、体を動かすのは苦手とはいえ、それでも座学はさすが10年の功といった感じで、入試では満点を取って主席だったと聞いた。


 でも、だからこそオレは、ケールに友達が出来ないことを心配していた。


 オレが知るなかではケールの友達はあのぬいぐるみだけだったようなきがする。


 そしていつからだろうか、そのぬいぐるみたちはまるで生命を持っているかのように動き出し、ケールの忠実な家来になっていた。


 それからというもの、ケールはますます人との関わりを持たなくなり、たまにふらりとどこかへ行くかと思えば、またいつの間にか帰ってきている……そんなことがこの数年繰り返されていた。


ケールの師匠であるクラウドさんから聞いた話ではあのぬいぐるみたち……レオンとリコルのように精巧な魔道生物は元宮廷魔道士の腕をもってしても難しいという。それは確かにケールが優秀であることの証なのかもしれない。


 だが、『学院』にはいるまでのオレになら、ケールに対して多少の心配はしながらもその優秀さを誉れに思っていたことだろう。だけど最近、そのケールの優秀さも、俺は素直に喜ぶことは出来なくなっていた。


 すべては、3年前、『大聖堂』で明かされた事実のためだ。


 あの日、オレはグレイプとともに、父さんとプラムさんに連れられ『大聖堂』へ詣でていた。その時、奨学金を貰うと同時に話されたのが、23年前の戦争のことだった。あの、フツクエ国がカテン国により滅ぼされたという酷い戦争の話は前々から知ってはいたが、それを詳しく聞く機会というのははじめて与えられた。


 そして、その戦争のときから父さんは教会組織……特に、当時プルシエ教会の司祭であった、今の大司教と強いつながりを持つことになった、という話だ。


 きっと、他に父さんや大司教たちが隠していること、話していないことはたくさんある。が、今は何よりも……


 「まてぇぇぇぇい!」


 突然、オレの内心の思考を打ち破るような大声が聞こえてきたかと思うと、一陣の風のように奔る見知った影が正面から現れた。


 「あ! ご主人、あいつら窓を飛び降りたぞ!」


 「はっはっはー! そっちにはもうリコルが先回りしている! 今日こそあいつらの正体を暴いて反省房送りにしてやる!」


 オレの真横をライオンのぬいぐるみを方に乗っけた、小柄な少年が走り去っていく。一応廊下を走るのは校則違反なんだけどな……まあ、風紀委員特権ってやつだろうか。


 「よかったな、ケールのやつ友達できたみたいで」


 オレが走り去っていった弟のほうをずっと見ていたら、いつの間にかすぐ隣に立っていた親友に胸中をずばり言い当てられてしまった。


 まぁ、あれが友達って呼べる間柄ならなんだけどな……


 「ああ……まあな」


 オレは、ケールが走り去った後の廊下を眺めながら、自分でもびっくりするような生返事をグレイプに返した。


 そのあと、お互い何も言わず、オレもただぼんやりケールの去った廊下を眺めていただけだった。


 そんなオレの内心がよっぽど顔に出ていたんだろうか。ついにグレイプにこんなことを言われてしまった。


 「『バビロン』、のことだろ。今お前が考えてるの」


 オレはまたまたオレの心を読んだような親友の言葉に思わず顔がこわばった。


 「ラークはすぐに顔に出るからな……まぁケールが心配だって気持ちはもちろんわかるし、オレだってあいつを護ってやりたいって思ってる。でもだからこそあんま一人で考え込むなよな」


 ――最近は『バビロン』の連中もおとなしいしな。


 と、空色の瞳を窓に映しながら言うグレイプ。多分、オレのことを安心させてくれようとしているんだろう。


 ……でも。


 「ケールにはかかわらせたくない。『バビロン』のことも『大聖堂』のことも……危ない

ことには、全部」


 2年前、『大聖堂』で聞かされたあの話のショックは今でもオレたちから抜けきっっていない。でも、そのおかげでオレたち兄弟は『大聖堂』の後ろ盾を得ることが出来たし、ケールの盾にはオレが成ればそれで良い。


 むこうがオレたちを利用しようというなら、オレたちだって、最大限あいつらを利用してやるつもりだ。


 「ま、そのためにオレたち兄貴がいるんだしな……ケールのことは絶対に護るさ。『バビロン』からも、『大聖堂』からも、な」


 

 オレは、ようやく友達が出来て、楽しそうに学び舎をかけている弟の無邪気な姿をずっとまもってやる。友の言葉に改めてそう心に誓った。


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