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海の街・カリファ


 ぱからぱからと軽快な蹄の音が聞こえる。相変わらず俺は父さんの腿に挟まれて衝撃は感じないで住んでいるから役得だ。なんたってこのおんまさん、むき出しの岩を抉るように走っているんだからな父さん鞍も鐙もない父さんにかかる負担など想像を超えてるだろうよ。


 さて俺が今どこに居るかって? 俺と父さんはあれから約1日半、国境の山脈から飛ばして今や朝靄かかる海辺の道を走っている。切り立った岩肌に設けられた道でまるでヨーロッパの景勝地のようだ。頬をなぜる潮風が心地良い。

 

 時間帯的にはまだ日も昇らぬ早朝だ。少し肌寒い感じもするが東の空はもう青い。まもなく朝日のお目見えだろう。ぼんやりとした薄明かりが世界を包んでいる。ウリムを出てからの五日間で最も美しい夜明けだ。


 なんて殊を思っていたら唐突にオンマさんが……というより父さんが馬をとめた。此処は端っこで人もあんまり通らないとは言え街道またっだ中だ。いったいどうしたことだろう。俺は不思議に思って父さんを見上げると、父さんも俺のことを見下ろしていた。暖かな微笑みを浮かべて。


 「もうすぐだからな」


 そう言ってひらりとおんまさんから降りて俺も抱っこされる。胸にくるまれるように抱きかかえられる俺。気がついていなかったが一時間ばかり馬に揺られている間にずいぶん体が冷えていたようだ。対照的なまでに父の体は火照っている。


 「何がもうすぐなの?」


 しかし返事は無く父さんはただ海のほうを見ている。俺も仕方なくそちら絵目を向けたまさにその瞬間だった。


 「わ、あ!」


 一瞬、はるか遠くで爆発が起きたのかと思うほど強烈な光が奔ったと思うと、その強烈な光は速度と高度をぐんぐん上げ始めた。まさに瞬間的に黒々としていた海は黄金色に染まりついで澄み渡っていく。


 それは同じ方角の空でも起こっていた。すでに紫に縁取られていた白い空だったが瞬く間にその明るさを増していった。柔らかく優しい光だ。心なしか吹いてくる風すら暖かい。あとほんの数分で暁闇は駆逐されることだろう。


 夜明けだった。


 その光は俺たちが居る街道にも迫ってきていた。よく見るとかもめかウミネコも飛んでいるようだ。これが海……


 「ケールは海、初めてだったよな。といってもラークのやつも覚えてないだろうけどな」


 「おにいちゃん?」


 「うん。ラークもあの街……カリファにはいったんだ。といってもまだお前が生まれるより前の話だけどな」


 そう言う父の指差す先には確かに街があった。緩やかな弧を描く海岸線の先に小さな丘があり、その勾配に色鮮やかな屋根が軒を並べている。半ばに見える背の高い塔は大聖堂だろうか。町全体が小さな宝石箱のように色鮮やかに写っている。さらに海にめんした岩肌にも家々が張り付いて洗濯された白いシーツが帆のようにはためいている。


 あれが……ウリムとは全く違う概観の街に俺は漸く外国へ来たのだと実感する。


 いやぁ前世では外国なんてのは海の向こうだったからな……陸続きで異国だなんて実感が湧かないもんだな。


 「よし! じゃあ行くか」


 こうして再び俺たちは朝日の昇り始めた海岸線の岩肌を走り抜けていくのであった。






 海洋貿易で発展した大陸でも指折の景勝地であるカリファだが街の中からも噂に違わぬ風光明媚な景色が堪能できた。なんといっても二つの緩やかな丘にはさまれ、その勾配に立てられた街なのでどこからでもオーシャンビューだ。前世では一度だけ親孝行としてブーツの形した国へ旅行したことがあるがまさにそんな雰囲気がある。


 白亜のアーチを抜けるとそこには熱気が広がっていた。ウリムに比べて全体が狭い感じがするがオール茶色のわがふるさとに対してこちらの家々の壁はすべてチョークで出来ているのか真っ白だ。さらに連なる屋根は淡いパステルカラーが段々に重なり美しい。


 そして何より街中が楽しそうに湧きかえっている。街の門から真っ直ぐに伸びるメインストリートには踊り狂う人がわんさか居て花びらや紙ふぶき、ビラが舞い、道の脇には屋台や露天商が列を作っていた。


 え……まさかこの状態がこの街の平常じゃあないですよね? 嫌だぜ俺は、こんな年中リオのカーニバルみたいなことしてる街。


 「あー……しまったな。今日は祭りだったのか……」


 と俺を乗せた馬を引きながら人波を縫うように歩く父さんがぼやいた。なるほど祭りか。ソレを聞いて安心した。


 そのお祭りが原因かどうかは知らないが街中からさわやかな香りがする。どうも柑橘系のにおいだ。そんな風に運ばれるかぐわしい香りに鼻をひくつかせながら父さんと俺を乗せたおんまさんは漸くカリファに数多くある宿の一つへとたどり着くのであった。





 「はあ!? 部屋がないだと!」


 「そうなのよねぇ。あたしもオークさんを泊めたい気持ちは山々なんだけど、時期が時期だしねぇ」


 右に左に縦横無尽にあふれかえる人の波を漸く抜けてその末にたどり着いた宿で言い放たれたのが上の言葉である。


 「たのむよ女将! オレ一人ならともかく今回はケールもいるんだ。屋根裏でも使用人部屋なんなら馬小屋でもいい! 屋根のあるところを貸してくれ!」


 「そんな頼みをするやつばっかだから馬の水桶にシーツをかぶせる羽目になるのさ!」


 どうやら本当に部屋どころか雨風をしのげるところは大体埋まってしまっているようだ。というか、この現状は大体俺のせいじゃないか……? いたたまれない。


 「それにオークさんには悪いけど、どこの宿もウチと似たようなもんだと思うよ」


 その言葉に肩を落として女将に背を向ける父。その瞬間女将が寂しそうに顔をゆがめたのを俺は見逃さなかった。この顔面チートめ!






 相変わらず俺を馬鹿でかい馬に乗せて人のごった返す道を歩く父さん。その姿はどこと無くしょんぼりとしているように見える。よくよく考えたら父さんがここに居るのは俺の杖を買いにきたからであって……ますますいたたまれない。


 なんてことを考えていたら突然とうさんが大きなため息を吐いた。


 「はぁー……この手だけは使いたくなかったけど……背に腹は代えられないからな、ケール、行くぞ」


 とまたもや毅然と立ち直った父は真っ直ぐ街道を進みだした。さっきからあちこちの露天商が声をかけてくるが父さんは全部無視を決め込んでいる。


 ほほう、手を使わずにカーテンを開け閉めできる棒か。便利だな。あ、あっちのフランクフルトみたいなのおいしそう。あのザ・ジャンクフード感がたまらんな。


 父さんとは実に対照的に俺のほうはあっちへ目移りこっちへ目移りだ。うむ。実に落ち着きが無い。が、俺だって馬鹿じゃあない。段々人が増えていることには気がついている。つまり今父さんは町の中心へと歩を進めているということだ。


 あ、あの踊り子けしからん格好をしているな。……男を連れてな! 


 「ケール、ついたぞ!」


 その言葉に網膜に焼きついたけしからん踊り子の姿は霧散した。そして、仰天した。


 「え……とうちゃ、ここ?」


 そこにはどうにも見覚えのある建物があった。ウリムにも同じ建物はあるが、その建築様式は全く似ていない。どこと無くオリエンタルな雰囲気のある背の高い建物だ。そうこの街の何よりも背の高い……


 「ああ、今日は仕方が無いからな。この大聖堂で泊まるぞ」


 そこには壮麗荘重な、街の心臓が建っていた。


り「ふうむ、カリファですか。楽しそうですね」

れ「登場はしてないが吾輩はついていってるぞ」

り「そんなことより、次回はヒロイン候補がでるかもですよ。乞うご期待」

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