衝撃の真実! 括弧2個!
ついに、『バビロン』との直接対決です。
俺たちの目の前に、巨大な扉がぽっかりとその口を開いている。天然の洞窟の中に明らかに不釣合いな荘重な人工物だ。大きさは優に父の身の丈の2倍はあり、何もかもを飲み込むような暗闇が中を満たしている。
観音開きにされた扉の内と外には隙間なく装飾が施されている。全体を占めるのはぜんまいを巻いたような唐草の模様だった。そのところどころに、鳥や獣にも見えなくない不思議な文様の数々もある。それらが完全な左右対称を描いて、ありえざる虚空を俺たちの目の前に突きつけている。
「……とうちゃ、これ、なに……?」
思わず紡いだ言葉は震えていた。それは、この扉から感じられる圧倒的な存在感におびえる自分の心を如実に反映することと成った。
今にも霞み、消えそうだと、自分の存在に思うほど、この存在するはずの無い扉は確固たる物であった。世界に求められている存在。まさにそういったものなのだろう。
「……オレにも、わからん。この道は何年も通っているが……こんなものを見るのは初めてだ」
おそるおそる見上げた父の顔にはまたも冷や汗が浮かんでいる。何度もみた父の張り詰めたその表情は、しかし、今までに無いほど硬いものだった。父は間違いなく、歴戦の勇士だ。『バビロン』の中でも、いわば危険視さえされている。
そんな父がこれ以上あるのかというほど、険しい顔をしている。つまり、生まれてからたった五年の俺には感じ取れない、なにか強烈なプレッシャーが、今父を苛んでいるのだろう。俺が、そう思い、息を呑んだ、その瞬間……
「驚いた。我々以外に、こんな所へ来るものが居るとはな……」
今度こそ、よく知った、聞き覚えのある声が背後から聞こえ、俺たちが振り向こうとしたその瞬間……!
「眠れ……」
魔術を帯びた低い声が俺の鼓膜を貫いた。どんな自然の音よりも、負荷をかけず耳孔に吸い込まれたその音が脳髄に達した瞬間、俺の意識は瞬間的に混濁した。視界は泥のように歪み、前世で味わったのと同じような強烈な酩酊感が襲う。地面が急に柔らかくなった錯覚に襲われた瞬間、足は意味をなくし……俺たちは、全員扉の前に崩れ落ちた。
一体、どの位そうしていたのだろう。俺の朦朧とした意識は、未だ夢心地のままだった。徐々に浮上し、五感が世界を認め始め、最初に理解したのは、師匠の怒鳴り声だった。
「ッ! そうか、その声! 〈マンティコア〉! キサマ! レイン!」
生まれたばかりの聴覚を揺るがしたのは、これまで聞いたこと無いほどの、激昂した声だった。初老に差し掛かった年齢とは信じられないほどの師匠の怒号が鼓膜を震わす。
一瞬、開くことさえ億劫だった目だが、俄かで張り付いたように重いまぶたを俺は開いた。一瞬、ぼんやりと焦点の合わない視界で、あたりを見渡した。そして、ピントがはっきりと合うまでもなく、俺は気がついた。
ここ、さっきまでの岩室じゃない……
俺は、縛られているわけでもないのに、なぜか動かない身を漸くよじって、先ほど
師匠の怒声が聞こえたほうを振り返った。
「家を継がず、国を滅ぼした上で、まだこんなことをやっているのか!」
変わらず師匠の怒号が響いた。視界にまたがる360度の岩盤が師匠の声を反響させる。響き、返った音たちが最初口から放たれたときの数倍に跳ね上がり、レインと呼ばれた〈マンティコア〉に襲い掛かった。
しかし、莫大な音の塊を食らったであろう〈マンティコア〉は、それでも涼しそうな顔をして師匠へ言葉を返した。
「本来、家を継ぐべきなのは、兄上のはずで合ったのに、それをわたしに押し付けた上でよくのたまえたものですね。それにケトケイとて、滅んだ原因など一つではない……」
対し、聞こえた返事は、明らかなあざけりを含んだ、〈マンティコア〉の声だった。
〈マンティコア〉……? なぜやつがここに?! いや、愚問だな……
俺は、一瞬、逡巡したが、結論は最初から明らかだった。〈マンティコア〉による、独断だ。
だが、話を聞く限り、クラウド師匠と〈マンティコア〉……レインは知り合いの様である……いや、それどこか。
「黙れ愚弟! 貴様が、ガニアン司教としての立場を利用して、カテン国と、ケトケイ国の民衆を煽りさえしなければ、あの国が……ケールの祖国が滅ぶことは無かった!!」
兄弟……!?
――って、……えええぇぇぇーーーーーーー!?!?
リ「なんと、ご主人様の故郷がかの亡国とは! 驚きです!」
レ「しかも、クラウドと〈マンティコア〉が兄弟とはな」
リ「次回! 〈ドラゴン〉の魔の手が仲間に迫る!? さらに明かされる衝撃の真実! 乞うご期待!」