表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/111

夜の闇の中の独白

 暗闇に覆われた森の中に薪のはぜる音だけが聞こえる。この森はまだ傭兵時代に何度も野営したからよく知っている。この小さな森にはもう夜に旅人を襲うような獣の類は存在しない。もっぱら、この夜の森は虫の王国となってことも。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   


 オレはかたあぐらの傍らで、静かに吐息をたて眠るケールを眺めた。幼児特有の、ふっくらした白い肌が、焚き火に照らされて眠っている。


 一体、いつの間に持ってきていたのだろう、メイプルの作ったライオンぬいぐるみを枕にしている。


 オレは自分の顔に笑みがこぼれるのを感じた。橙色の光に照らされた幼児はいかにも頼りなく小さく光っている。まだ薄い唇が寝言でも言うように空中を食むたびに、胸に鈍痛が広がる。


 これが、この子が、オレの息子だ……! オレ自身の手で取り上げた……!


 あの時……オレは、初めて、人を殺す目的以外で、自分の手を血で染め上げた。


 そんな、見慣れた血溜まりの中から頼りない産声を上げて生まれてきたのは、この世で二つとない、命だった。


 オレは、ラークが生まれた時に、メイプルのそばに居てやれなかった。その当時は、国内での情勢が不安定で、オレのような殺しを生業にしてきた人間が引っ張りだこだったからだ。


 おかげでそのときに蓄えはできた。けれど、赤ん坊のラークを省みてやることはできなかった。本来、この国の慣習に従えば、乳離れしたラークの面倒はオレが見なければ成らなかったのに……!


 結局、オレがラークのそばに居てやれるようになったのは、4歳を過ぎた頃からだった。軒先で木刀をふるうオレの真似をしてラークも一緒に素振りを始めた。


 4年間、触れ合うことの無かった息子に対して、寄り添ってくれたのはその息子のほうだった。


 だからこそオレは誓った。当時、2歳だったケールとラークを、この手で必ず守ってみせると……!







 髪や目の色はオレとメイプルの血を半分ずつ受け継いでいることがよくわかる。髪の毛はこの国では珍しい、金色に近い茶髪だ。隣のプラムの奥さんも、似たような色だった。そして目は俺譲りの鳶色だ。


 そして、時々、ぬいぐるみに話しかける、ケールの姿を見るたび、俺は胸が痛んだ。ケールに、同年代の友達は居ない。もちろん、ウリムの中に、同年代の子供が居ないはずが無い。


 だが、どうしても、オレは目を離すのが怖いんだ。もしも、あの時のように、目の前で、すべてが奪われてしまうんじゃないかと思うと、怖くなってしまう。


 だからこそ……


 オレは焚き火の中に積もる灰を掻き分けた。


 だからこそ、オレは、絶対にケールを、ラークを、護って見せる……


 絶対に『バビロン』なんかに、手出しはさせない……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ