父さんと星空
ケール君の過去が出てきます。本格的に前世と絡ませるのはもう少し先になりますかね、、、
よう、ひさしぶりに登場するケールだ。俺は、今なんと、人生初、ウリムの外に出ている。俺を運んでくれる快速の乗り物はぱから、ぱから、と音を立てるオンマちゃんだ。
いやーお馬なんか、今の人生ではもちろん、前世でもポニーが精々だ。
俺は馬の頭が被って微妙に見えにくい前を向いた。いま走っているのは、北へ続く街道だ。どうやら、街道やなんかはきちんと整備されているようで、おれが想像していた以上にはゆれは無い。
が、なぜか、鞍や鐙は発明されていないようで、バランスをとるのは難しそうだ。え? なんで俺がそんなに他人事なのかって?
「ケール、疲れたか?」
「ちょこっと……」
頭の上から声がかかる。駿馬ならではのスピードの中で身長に振り向くと、俺に声をかけてきた割には、本人のほうが疲れてそうな、表情の父さんがいた。
そう。おれは、父さんの腿にがっちりとホールドされているのだ。
ちゃりんこの二人乗りもびっくりな走法だが、鐙も鞍もない以上、俺のようながきんちょをつれた長距離移動にはこの方法しかないんだそうな。
「……そうだな、そろそろ、降りるか……」
父さんの呟きに空を見上げると、太陽が西に傾き、空は茜色に染まりつつある。太陽なんていうのは、動くのはあっという間で、気がついたときには沈んでしまうものだ。確かに、野営の準備はそろそろだろう。
「森まで我慢できるか?」
再び父さんの言葉に俺は頷いた。目を凝らせばたそがれ行く風景のなか、そう遠くないところに森が見える。
……しかし、ふつう、森の中で野営なんかしたくなるもんなのか? 俺だって、前世の漫画の知識しかないから、なんともいえないが、獣が~とか、盗賊が~とか、あるんじゃないだろうか?
おれは、やや釈然としないながらも、おとなしくおんまさんに揺られるのであった。
その答えは、森についてすぐに出た。父は、森の境で馬を下りると俺を乗せたまま馬を引いた。どうやら案外小さく、人の手もずいぶんと入った森のようだった。
動物もリスやねずみの小動物が大半で、間違ってもクマやなんかの猛獣は現れそうに無かった。
おれが、ひとしきり暮れ行く森の暗がりを見ていると、父さんの足が止まった。同時に止まる馬の歩みのせいで、俺の体は慣性の法則にしたがってつんのめる。
「大丈夫か?」
落っこちることは無かったがびっくりした俺は、こくこくと頷く。そんな俺を見つめて優しく微笑む父さん。実に素敵な笑顔ですね。
俺は、父さんに馬から下ろしてもらうと、改めておんまさんを見上げた。父の背よりも高い。2メートルを越しているといわれても納得できる大きさの青毛馬だ。
父さんの起こした焚き火に濡れ煌く毛並みが美しい。んん? そういえば。俺は前世の知識を引っ張り出した。確か馬って、めちゃくちゃ高いんだよな? それに、維持費もいるし……いったい、どういうことなんだってばよ?
「……今日は疲れたか?」
俺が、ああでもない、こうでもないと脳内討論を開始し始めたとたん。再び父の気遣わしげな声が振ってきた。それによって、解散する俺議会。
「……ちょっと」
おれはこくんと頷いて父さんと見上げる。まあ、はじめての馬旅なのだし、疲れないはずが無い。数時間前、ウリムを出たときのテンションからくらべれば、だいぶ落ち込んでいる。
まあ、内心大喜びしてたからなぁ、俺。藍色にくれていく空を見上げて思った。この世界は、明るすぎる夜というものは無い。たしかに、ウリム規模の街になれば夜半かがり火を焚くことも珍しいことではないらしいが、それでも、眠らない街とまでは行かない。
だが、おれは、灯りなどはこの焚き火一つの、真の夜の中にあるだろう星星をみるのは初めてだ。
遠く、東のほうに一番星が見え始める。あと十数分もしたら宝石をちりばめたような空になるだろう。
そのとき、急に、俺の心は痛んだ。
「ケール! どうした?」
どうやら、無意識に顔に出していたのだろう。となれば盛大なしかめっ面のはずだ。いきなりわが子がそんな顔をしたら親としてはやはり心配するものなのだろうか。
「ううん。なんでも、ない」
俺は首を振ると、もう一度星空を見上げた。どれもこれも知らない星、知らない星座ばかりだ。
ああ、5年だ……おれは、この五年間で初めて、胸に穴の開いたような、強烈な虚無感をかんじた。
生まれ変わってからは、次にどうするか、何をするかで頭がいっぱいだった。だがこうして、なんとなく、余裕ができてしまうと、逆にどうしようもないほど悲しくなってしまった。
と、そんな気持ちで星空を見上げていた俺は気がついたら、父さんの手に掬われ、胸の中に納まっていた。
「え……?」
そんな突然のことに、ビックリして声を上げる俺を、逆にもっと強く、まるで自分の中に押さえつけるように抱きすくめる父さん。って、痛いわ!
「なあ、ケール……」
だが、いかにじたばたしても相手は大人、それもムキムキの男だ。まったく抵抗になっていない。それどころか気にも留められていない。なんか悔しい。
「オレは、お前の父ちゃんだ」
俺は、その言葉に、何をいまさらと思いつつも頷いた。
思えば、俺はいつも、父さんと一緒だった。生まれ変わってからだけでなく、前世にであってもだ。前世は、俺は父子家庭で育った。なんとか大学まで通わせてもらって、就職してからは、毎月仕送りもしていた。
俺が、殺されたのは、そんな生活にも慣れた頃だったんだ……俺は、前世父さんに、返しきれない恩を残してしまった。
なんとなく、そのことが思い返されたのだ。そんなことを、今の父さんの胸の中でぼんやりと思っていた。俺の、みたされなさは、きっとこの公開から来ているんだろう。
そんなことを思っていた俺は、いつの間にか、父さんの胸の中で眠ってしまっていた。
リ「あれ? わたしたち、おいていかれましたか?」
れ「ふうむ、どうやらそのようだな」
リ「こうしちゃ居られません! 『生命の源』の捕獲は急務! 次回はたぶんマルス君です。乞うご期待」