〈マンティコア〉
僕の言葉にオークはほうけたように首をかしげた。まるで何を言っているかわからないという表情だ。
確かに、僕も言葉が足りなかったかもしれない。だが、異尼はそんなことを考えている場合ではなかった。
「オーク……あなたも、僕の魔法の腕は認めてくれていると思う。だからこそ、僕の聴覚も同じ評価をくれているだろう?」
僕の言葉に、オークは訝しげに、おずおずと頷いた。いまさら何を、という表情なのか、それとも本当に何を言っているのかわからないのだろうか。
……もしかしたら本当にそうかも知れない。
僕は思わずあたまを抱えてため息を吐いてしまった。僕のそんな態度に気分を悪くしたのか、オークが眉をよせた。
だが、僕はオークを見くびっていたようだ。確かに、オークは僕よりも5年ばかり長く生きている。しかも、その5年間は、僕をもってしても、平たい道ではないというほか無い、波乱に満ちたものだったはずだ。
そんな、僕とオークの決定的な五年が、彼に冷静な思考を持たせているんだ。
「どういうことなんだ?」
僕は、僅かに眉を顰めながらも、話を聞いてくれようとするオークの姿勢に感謝をした。
「……第一に、僕の聞いた、なぞの声だ」
オークは黙って頷いた。僕はまだ彼にそのことについて話してはいないがこの際だ。
「まず、あの時、ケール君は、僕に、ひとりしかいなかった。しゃべっていたのはリコルだ、といったんだ」
その言葉にオークは、よくあることだとつぶやいていた。やはり、僕の言葉を信じたくないらしい……いや、信じたくないのは、自分でも思いついた、その仮説なのだろう……
だが、僕はオークの言葉をあえて聴かない振りをして、さらに言葉をつづけた。
「だけど、オーク……さっきも言っただろうけど、僕は二人の声を聞いたんだ。あれは、確かに、ケール君の声じゃなく、別の誰かのものだった!」
だが、ついに、この僕の言葉に、オークは我慢ができなくなったようだ。
「じゃあ何だよ! ケールが……オレの息子が『バビロン』の連中に狙われてるって言うのかよ!」
僕は、オークの言葉に、胸が痛んだ。だが、僕は
うなずくしか、無かった。
「〈ドラゴン〉か……?」
薄暗い研究室にしわがれた声がこだました。その声の主は、一人、うずくまり、ビーカーや試験管とにらめっこしている、老人だった。
「ああ……〈マンティコア〉。アンタに、一つ聞きたいことがある」
〈マンティコア〉にドラゴンと呼ばれた青年が、聞く。
「〈コカトリス〉の正体を、アンタは知っているか?」