雄鶏と蛇の狂乱
よう、これから『バビロン』の調査報告というやつではらはらどきどきなケールだ。
目の前には真剣な顔をしているスイカ。俺は相変わらず赤毛ちゃんに抱っこされているので、彼女の顔はわからないが、彼女から伝わる雰囲気は、平時のものとは大きく異なっている。
ふふ……
やはり、気になるか……
そしてその隣には師匠、反対側にはマルス君と言う構図だ。マルス君に至っては、かわいそうに、口をきゅっと真一門に引き結んで真剣そのものの表情だ。その、きれいで純粋すぎる瞳は机に並べられた書類に集中している。
そう、この、高価な紙の束が、この学術都市ウリムに配属された兵士の中でも、指折りの男、スイカに、国王の調印をもってして命じられた調査報告の集大成……
俺は、自然自分の目が細まっていくのを感じた。俺が、この世界に生まれ変わったときから持っている、言語を解する能力が研ぎ澄まされていく。
え? 何でわざわざそんなことをするかって? 俺は普通に字が読めないんだよ!
と、俺は、内心の憤りをおくびにも出さず、もう一度、書類を見下ろした。どうやら異国語なのだろう。このイスリア国絵は見ない言葉もある。
さてさて、内容は……と。
ん……? んんん!?
「師匠、それに、マルス君。この『バビロン』の長と呼ばれる存在について何か知っているかい?」
と、俺が驚愕の渦に巻き込まれた瞬間、スイカが、静かに口を開いた。相変わらず冷静に、真剣に、その瞳は書類を見つめている。
スイカの言葉に、マルス君は驚いたように首を振ったもちろん、横にだ。
「どういうことですか!? 『バビロン』を統括するのは〈四大幹部〉だけのはずじゃあ!?」
うん。そうなのだ。いや、そうでないと困るのだ。
と言うのも、これは俺が意図的にリークした情報だ。マルス君が驚くのは無理が無い。俺の頭の上で、息を呑む声が聞こえたところを視ると、どうやら赤毛ちゃんも知らなかったのだろう。
だが、一人だけ、師匠だけが頷いていた。なるほど、むしろスイカにこの情報を与えたのは師匠と見るべきかも知れない。
「……確かに、〈四大幹部〉は、精霊と契約している〈ドラゴン〉と始めとして、強力な魔術師が大勢いる……だが、そんな4人を相手に、さらに強大な魔力をもってして組織を統べる長がいるらしいんだ……」
そこまでスイカがいったと思ったら、急にマルス君が息を呑んだ。
「たしかに……ウリムに来るまでの道中、噂として聞きました……確か、名前は……」
「〈コカトリス〉……」
そこで、唐突に口を開いたのは師匠だった。今まで見たことも無いほどの重々しい目つきで、卓上の書類を見つめている。
俺は、今は肌着のしたにあるシーリングリングを硬く握った。ふうむ、王国兵士の癖に、俺の存在までたどり着くとは……
俺ははやる鼓動を抑えて、師匠の顔を見上げた。相変わらず硬い。視ているだけで歯が欠けそうだ。
「これも聞いた話だが、『バビロン』内において、その姿を見たものは無いらしい……」
そこまでいってしまうと、口を閉ざす師匠。そこまあで思って俺は日に疑念が湧いた。
ん? 何で師匠はそんなことまで知っているんだ? それこそ〈四大幹部〉くらいじゃないと、確かめようも無い子じゃないか、それって。
俺は、改めて、師匠の顔を見上げた。……いったい、どこまで知っている?
「ところで、次は〈ドラゴン〉のことなんだが……」
そこまで言ってスイカが俺のことをちらっと見た。ははん。たとえ子供と言えども、俺には話せないってことかい。大方〈コカトリス〉のことに関しては噂が広がることを期待しているな。
だが、俺は動かん!うごかんぞぉぉぉ!
と、俺が無駄に意固地になっていると、なんと、隣、師匠からの言葉が聞こえてきた。
「……スイカよ、この子なら大丈夫だ。誰かに話すような子ではない」
……うん、師匠信頼はあり難いし、俺はたしかに誰かに話すようなことは無いんだけど……
おれ、組織のボスの〈コカトリス〉っすよ……
だが師匠の言葉は重いのか、スイカさんは、ため息だけついて許してしまった。おそらくさっきのマルス君の件もあったのだろう。ずいぶんあっさり許してしまったものだ。
「……師匠、それにマルス君。今度こそ、驚かずに聞いてくれ……」
ただであえ重かった空気をさらに悪くするかのように、スイカが口を開いた。おいこら、まて。〈コカトリス〉の件よりも大事なのか!
「……〈ドラゴン〉は、おそらく……ケトケイ王国の生き残りだ……」
な、なんだってぇぇぇぇぇぇ!!??
れ「次回こそ、我輩と、ご主人さまの家族の回である! 乞うご期待」