青年
とっても短いです
結局、父親はその日のうちに帰ってこなかった。母は、何か察したのであろう、不安そうにしながらも、何もいうことはなかった。
俺がこの世界に生まれてから5年……だが、この、数日間で大きな動きが重なりすぎている。
『バビロン』の〈四大幹部〉の台頭、『英雄』と思われる、少年、マルスの活躍。そして、今回の、教会から、父オークへの接触。
なんらかの大きな力が働いているように思えてしまう。
最初に頭に思い浮かんだのは、あの牢獄の帝王『キューブ』の主だった、が、それは、ありえないはずだ。そんな力があるのならば、わざわざ俺を、生まれ変わらせたりする必要はないはずだ。
そうなると、動き出したのは『運命の歯車』とでも言うべきかも知れないな。
「はあ」
ウリムの中央、学園より、やや外れた場所に置かれた、国の兵士の勤め場。その、小さな小屋の中に辛気臭いため息が、響いた。
その声の主はようやく17、8になったような青年であった。筋骨隆々とした兵役たちの中に比べるに、比較的細く、背も低いほうであった。
凡庸な茶色い髪の毛を指でかきあげ、額をいたそうに押さえている。憂いがちに再びため息をついた。
「『バビロン』の調査報告か」
再び、疲れたように口を閉ざした青年の手に持っていたのは、彼のつぶやいた言葉と丸々、同じ言葉が書かれている一束の書類であった。
そう、彼は、この数年間の間に急速に力を伸ばし始めた魔道組織についての、調査を国王の調印をもって命ずられていたのだ。
だが……
「情報が少なすぎる」
彼は再び青息を吐くのであった。