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『バビロン』の危機


 「はい、ご主人様、此方の書類もおねがいします」


 「あいよ」


 リコルから受け取った書類に蝋をたらして、その上からペタンとシーリングスタンプを押し込む。


 この作業、かれこれ続けて1時間ほど、特別に難しいわけではないが、如何せん単調すぎて嫌になってくる


 「なあ~これ、まだやんなくちゃ駄目なのか?」


 次々に繰り出される粗末な封筒や小難しいことの書かれた書類にペタンペタン繰り返してはいるが、いい加減うんざりしてきたので聞いたが。


 「無論だ。我輩たちもあの忌々しい小僧の快進撃の事後処理に追われているのだからな」


 と、隣で俺と同じく封蝋を施しているレオンが声に苦渋を滲ませ答えた。


 あの小僧ねぇ……


 俺は、約2週間前に届いた始めての報告を思い出した。





 「ご主人様、些細な問題ですが一応ご報告いたします」


 しんしんと凍えるような夜、相変わらず固い褥に身をゆだねたときだった。


 いつもより僅かに硬い声色でリコルが『バビロン』に起きた異変と言うものを説明し始めた。と言うのは、どうやらどこかの伯爵領に設置した支部が襲撃を受けて壊滅したらしい。


 これまでも町の住人や役人なんかとの小競り合いはあったが、武力衝突が起こったのは初めてだ。


 「ふぅ……ン、それで、犯人は?」


 俺としてはこの問題をそんなに大きな問題として捉えては居なかったが、『バビロン』の長としては別だ。


 いくら巷で怪しいっと噂されているといったて、攻撃される筋合いは無い。まして、組織といえど『バビロン』はこの俺個人の所有物なのだ。


 勝手に壊滅させられて面白いはずが無いし、今後も舐められないよう、犯人達にはきっちり報復と法的処罰が下されなければならない。


 が、俺が聞いたのは予想の斜め上を行く返答であった。


 「いえ……ソレが、犯人は、1人だけのようなんです」


 はあ!? なんだと?


 「そんな馬鹿なことがあるか! 支部とはいえ、構成員は1千人を超えているんだぞ! 一人で全部やっつけたというのか?」


 ましてや、施設内には魔道、物理の厳重な罠とセキリティが敷かれているはずだ。国王直下の騎士団ならばいざ知れず、まず一個人が看破できるようなものではない。


 「死傷者は1人もなく、捕縛されたようです。ただ、研究資料や結果は悉く破棄された模様です」


 ……っち、これは俺個人のプライドを超えて『バビロン』の信用失墜にもつながる厄介な事柄じゃないか。


 「そこまで調べがついている以上、どこの誰かは勿論わかっているんだろうな?」


 問題の解決は抜本的であることが最も望ましいからな、さっさとソイツを器物破損でも名誉毀損でも痴漢でもいいから罰せなければならないぞ。


 「……伯爵の嫡男、マルス、10歳です……」


 は? はああぁぁぁ!?







 それから約二週間、そのマルス君とやらは、レオンの言うとおり快進撃を行っていた。


 悪の魔道組織『バビロン』支部の解体に始まり隣領の圧制に苦しむ農民を救い、汚職にまみれた教会司祭の逮捕といったりだ。


 たった2週間でこれだけもの事をやってのけたものだから、国民、しかも下層の貧民達からの人気はうなぎのぼりだという。


 まあ、それだけならば、俺も別にこんなに困らないし、師匠と一緒に喜んでやったかも知れない。


 が……!


 なぜかこの坊主、狙い済ましたかのように『バビロン』の関係者ばかりを狙ってくるのだ!


 どいつもこいつも、『バビロン』のパトロンや資料提供者どもばっかりだ。


 もしも偶然そうやっているなら才能か神々に操られているとしか思えない。


 俺は、またもう一度怒りながら垂らした蝋の上にペタンとやった。


 俺が今使っているシーリングスタンプでさえ、2週間前のことで渡されることに成ったのだ。


 そもそもそれ以前の俺は組織の経営などはそういうことに興味のある奴を幹部にしてまかせっきりにしていたのだ、があの時……


 あれは、俺がクラウド師匠のところから帰ってきたときのこと、ベッドで待っていたリコルがいきなり差し出してきたのだ。


 「ご主人様、これを」


 綿が詰まっているだけの蹄で、起用に俺にわたされたのは……


 「これは……指輪?」


 そう、それは形状的に見れば見紛うことなき指輪であった、が、何かがおかしい。


 まず、普通なら宝石や何かが埋め込まれているはずの頭頂部は平べったくつぶれており、その表面には何かの文様が彫られている。


 滑らかな金属面は明らかに安物ではないが、しかし、これは……


 「さよう、指輪シーリングリングです。文様は『バビロン』の大幹部すらももてない『バビロン』で唯一支配者であるご主人様だけの物です」


 ふうむ、なるほど。しかし、この輪の内の刻印、、間違いない。


 「これ、純金に魔術を施してあるだろ」


 「ふむ、さすがご主人だな。その通り、1つは防護の魔術。もう1つは……」


 「なんと成長に合わせて指輪も大きくなるという優れものの魔術です」


 ……いや、そうはいっても。


 「でかいんだけど?」


 ぶかぶかだ。小指などは5歳の俺の細さでは2本纏めて入りそうだ。


 「まあ、最低の大きさどいうのもありますからね、とりあえず、大きくなるまでははこれを使ってください」


 と、いってこれまた器用に渡されたものは繊細な銀の細工鎖だった。ネックレスにしろってことか?






 そう、最初はよかったぞ? ペタンペタンとするのも楽しかったし。


 が、いい加減飽きる! まして、なんだこの書類のないようは!


 〈マルスが怖いので『バビロン』とは縁を切ります〉。だとぉ?!


 許さんわ!!


 ペタン…ペタン…


 

リ「随分あれてましたねえ」

レ「ふむ、仕方が無い事だな」

リ「さて次回はまたまたマルス坊の出番です。乞うご期待」

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