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俺が錬金術師になるために

ケールくんが錬金術師になる決意を固めます


 「おい坊主! 何べん言ったらわかる!? 金属と魔力の比は絶対に6:4だ! 魔力のほうが多すぎだ! ばかたれ!」


 「ぐすっ……ゴメンなさい」


 よ、よう……あれから、5年と半年経過したケールだ。オレが今なにをしているかと言うと……


 「ああっ! 鍋を火に掛け過ぎだ! 抽出作業の準備もまともにできんのか!」



 ……怒られている。






 事の起こりは1年前、俺が5歳になった日の事だった。








 そう……あれは、雪のふる酷く寒い日の夜だった。俺は熱を出して寝込んでいた。


 そりゃあ酷い熱だった。子供は風邪を引きやすいとは言うが、生死をさまよっているんじゃないかと本気で思った。


 まず、熱で頭が朦朧とした。ぐあんぐあんとやまない頭痛に視界がぐにゃぐにゃと歪む。


 あ……なんか、きもちぃ……


 まあ、この時の俺は相当まいっていたんだと思う。


 心配してくれるラークくんや母さんの声もどこか遠くに聞こえて――


 俺の意識は一瞬、現実の世界を離れていた……





 それは、あまりに眩しい月のひかりだった。


 満月を10個も集めたような眩しさに俺が目を細めていた。


 手には装飾のついた杖を握って、まるで宙に浮いているように、地面を見下ろしていた。


 地面ははるか数十メートルも下で、高所恐怖症ぎみの俺は悲鳴を上げたが声がまるで出なかった。


 夢の中、俺の濃紺のローブがはためいて、被っていたフードが風にさらわれて、素顔が現された。


 そこに居たのは俺であったけれど、俺ではなかった。


 まるで、この世界に興味のかけらも無いような冷徹な目。何千年も生きた老練な魔術師を思わせる尊大さ……


 何もかもが今の俺とは違った。何もかもが似ても似つかなかった。


 そして何より、そいつ、その俺は……大人、だった。


 歳は……高校生くらいだろうか? 今と比べてもにゅっっと、大きくなり、長い金色混じりの茶髪が風に靡いていた。


 そして、漸く気がついた。


 ああ……これ、夢だな。


 大きく成長して、そして裁判官のように厳格な顔つき眼差しをみて、そう思った。


 いや、だって、俺にはあんな顔できないでしょ。


 そう思った俺は早く夢が冷めることを心待ちにしながら目の前の光景っをぼうっと見ていた。


 すると、大きくなった俺の横に、二匹の獣が姿を現した。雪の様に白い毛並み、銀糸を思わせるたてがみがら光の粉がきらきらと舞い落ちている。雄雄しくそびえる角と、空をかける蹄鉄は黄金の煌めきを持っていた。


 それは、まさに正しく、一角獣。白金の筋肉を震わせて俺に従うように頭をたれた。


 もう一頭は鋼の様な筋肉に、焼けた黄金の毛皮を纏った、まさに太古の神話に登場するかのような気高く巨大な獅子だった。


 俺はこの2頭の獣を見たとき直感的にレオンとリコルだということに気がついた。


 ……が、いかんせん、この二匹、あまりに目つきが悪すぎる。俺の知る、情けなさと愛らしさは微塵にも無かった。


 「英雄どもよ……『バビロン』を潰しただけでいい気になってくれるなよ」


 夢の中の成長したおれが静かに、冷徹な、しかし明らかな怒気を忍ばせた声で話し出した。


 前世の都会では決して見られない満天の星々をその背に戴いて権威高に叫んだ。


 「既に『生命の源』へといたる扉は開けられた。儀式は始まっている。お前らにとめる術などありはしない」


 しかし、ソレを語る俺の眼は、口で語る言葉よりもずっと雄弁に真実を語っていた。


 こいつ、もしかして“とめて”ほしいのか? その、儀式とか言うやつを。


 俺の頭に疑問が浮かんだのはほんの一瞬だった。


 地面、はるか下で虚空を広げる暗闇から、それ自体が強烈な輝きを放つ何かから、激情の篭った叫びが聞こえたかと思ったその瞬間……


 俺の意識は途切れ、そして覚醒した。






 ――「と、いう夢をみたんだが、これはやっぱりあれだよな、予知夢」


 「ご主人、残念だが……」


 「ありえません」


 目を覚ましてから、以上の顛末を忠実なるぬいぐるみたちに話したのだが、悲しきかな、一蹴された。


 「なんでだよ!」


 そうだ、俺が怒ることにだってわけない。あれはどう考えても予知夢でしかなかった。


 あれはどこからどうみても、十中八九成長した俺だろう。


 ソレにしては目つきが悪かったが、まああれだけ成長していれば10年は必ずたっているだろう。それだけ経過すれば人間、考え方だって変わるかも知れない。


 と、ぬるい考えをしていたのだがそんな事すらも許してもらえそうに無かった。


 なにやらリコルがやたら生ぬるい目で見てくる。ぬいぐるみ読心検定があれば準一級はかたいだろうと自負している俺だ。リコルのこの眼差しにどんな感情が込められているかはたやすく読み取ることが出来る。


 ど……同情!? い、いったい何だというのだ、この可愛そうな子供を見る目はぁぁ!?


 「いいですか、ご主人さま。予知夢、というものは『精霊』と契約した者でしかみることは出来ないのです」


 うん。


 「そして、『精霊』と契約するためにはある程度の魔力が必要なのです」


 ……う、ん。


 「そしてご主人さまにはその必要なだけの魔力が……その、ないのです」



 うん。予想はできたよ、なんとなく。大体そんなもんなんだろうな、くらいのことは考えていたよ。


 でもよ、でも。


 それはあんまりだよおおお!!


 「お、おいあんまり落ち込むな。ご主人だってまるで魔法の関係が扱えないわけではないぞ!」


 内心あれくるって泣きじゃくる寸前だった俺に救いの言葉がレオンよりよせられた。


 「なに!?」


 「確かに……ご主人さまにも、極々々々、微弱ながら魔力はあります……ぎりぎり、最低ライン」


 いちいち傷口に塩をぬりこくヤツだな!


 「い、一体、どんなヤツなんだ?」


 もう、この際なら超初期のファイアーボールとかでも何でも良い! 別に元々魔法が使いたかったわけではけっしてない。でも、いざそんな才能の有無で決められると、惜しくなるものなのだ。


 だから、つかえるなら何でも良い! たとえ、どんなに役に立たなくっても!


 しかし、リコルからつきつけられたのは、それ以上の現実だった。


 「……いや、あの~――」


 「それ以前の問題だな……」


 





こうして俺は『錬金術師』として最低の一歩を歩み始めたのだった。


 

リ「う~む、ご主人さまも変なもの観るものです。しかし、無視もできません」

レ「む、リコル『英雄』の魂を持った者に動きがあったようだぞ」

リ「なんですって?! では次回はそいつの監視をすると同時に、ご主人さまの成長も見届けねば!乞うご期待」

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